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「研究所情報」第35号 2005年10月31日

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《身分と身形》テーマに研究集会
130名で島原開催

 第24回全九州部落解放史研究集会が、8月22・23の両日島原市で開催されました。テーマは「身分と身形」、全体講演では静岡大学の黒川みどり氏(写真)が「つくりかえられる徴」として、近代社会において差別の徴がつくりかえられ、広い意味での人種主義が今日まで存続していることを、詳細且つ分かりやすくお話しいただきました。続いて各県報告に移り、佐賀・宮崎・大分・熊本・長崎から、翌日は福岡から二本そして、全国の事例報告がありました。このうち、長崎報告では、阿南重幸氏が大村藩・島原藩・対馬藩・長崎領の事例を紹介し、特に対馬藩では履物産業育成のため「かわた」が招致され、それまで「差別」の慣行がなかった地で、まさに百姓や町人との「交わり」をさせないための「印」として「身形」の規制が始まり、差別政策が行われたことが明らかにされました。身形に関する規制は二つに大別されることがわかります。一つは、奢侈・華美の禁止という側面で、今一つが、差別の標識としての身分規制です。前者は武士・町人・百姓他すべての人々がその対象になるわけですが、とりわけ、「えた」身分・非人身分の人々には百姓・町人よりも粗末でなければならないように、後者は交際の禁止を目的に「それとわかる」身形が強制されます。ただし、規制は安永年間以降顕著となります。これらの事例の詳細な分析が課題となりました。(何れも、「もやい50号」参照)

 コラム
 秋は野に山にというが、当方はフィールドワーク真っ盛り。10/11月で14件、厳しい夏が去ってもまだまだ続くウオーキング。少々バテ気味の身体に活を入れ、案内。島根県からはるばるお出でいただいた「べっぴんの会」その名の通り元気者の集まり。上は云十から小学生まで、なんと朝5時30分にバスで出発したそうだ。延々6時間ほどかけて、長崎到着後休みも取らず、3時間のウオーキング。当方バテてるとは到底言えない。夜は9時まで交流(ホテルでも〜)、翌朝9時から3時間またウオーキング。長崎の隅から隅まで歩き通して帰られた。それでも物足りなかった様子。原爆資料館の前での別れ際、そんな雰囲気をひたひたと感じた。「べっぴんの会」様、元気をいただいてありがとうございました。(あ)

セミナー<企業と人権>
 長崎県・長崎市・諫早市・大村市主催、人権研究所が企画・運営をしたセミナー「企業と人権」が、9月28日(水)、長崎市の長崎ビューホテルで開催されました。
 今日、地域や企業の内外で人権を大事にする活動に積極的に取り組む企業が多くなってきています。反面、同和問題やセクシュアル・ハラスメントなど人権無視や人権侵害の事象が身近なところで起こっています。社員一人ひとりがお互いの人権を尊重し合い、社内の人間関係の向上に努めることは、差別のない明るい社会を築いていくことにつながるだけでなく、会社自身の発展に大きく寄与するものです。セミナー「企業と人権」はこのような考えのもとに、企業が効果的な人権啓発活動に取り組めるようなプログラムを考え、開催しています。
 一昨年は長崎市で前期・後期日程の2日間で、昨年は長崎市・佐世保市でそれぞれ前期・後期日程の2日間で開催され、今年は長崎市で一日日程、諫早市で前期(10月14日)・後期日程(11月9日)で開催されました。ここでは、9月28日(水)に開催された長崎会場での概略を紹介します。
 まず、学び@として、日本IBMから総務省CIO補佐官に就任したという異色の経歴を持つ大塚寿昭氏より、「ITの進展に伴う情報セキュリティの脅威」というテーマで昨今の情報セキュリティ全般について話していただきました。
 現在、コンピューター利用の一般化、インターネットの普及により、行政機関や民間企業の多くの活動において、インターネットに接続された情報システムの利用は急激に拡大しています。また、家庭からのインターネット利用も増加しており、社会活動と国民生活などの情報システムとインターネットに依存する割合は増加の一途を辿っています。
 その一方で、情報システムや組織体におけるセキュリティ対策の不備に起因する様々な問題も生じています。このようなセキュリティインシデントは、個人情報の漏洩による人権侵害、企業の機密情報の漏洩による経済的損害や情報システム全体のダウンといった被害をもたらし、経済社会に与える影響は深刻なものとなりつつあります。
 こうした現状を踏まえ、大塚氏は、情報システムや組織体における情報セキュリティ対策の不備に起因する様々な問題、情報犯罪の現在、情報がデジタル化されることによるリスク等について具体的な事例をあげ、最後に、「紙の最高機密はデジタルでも最高機密だが、最近はデジタル情報を守るために紙の扱いが乱雑になるケースも多い」と述べ、単に個別の事象に対応する形ではなく、情報全体を体系的に守るためのセキュリティの整備が必要だと訴えました。
 学びAでは、西日本新聞記者の馬場周一郎氏より、「今、企業に求められるもの〜新聞記者の視点から」というテーマで、政治やスポーツなど多岐にわたる身近で具体的な体験をもとに、新しい企業の社会的責任(CSR)とは、@経済的役割を果たす(従来言われてきた企業の社会的責任の主要な役割、即ち社員の生活安定、商品やサービスの提供、株主の配当、法令遵守など)に加えて、A社会責任を果たす(企業は社会の一員、即ち企業市民として社内外の全ての利害関係者(ステークホルダー)に対して企業活動の全てのプロセスの中で「人権、環境に配慮して、企業倫理、情報開示、経営の透明性、説明責任、危機管理そして社会貢献すること)ことが今日強く求められている、これを無視して不祥事などを起こすと、企業の解体(雪印、日本ハムなど)も余儀なくされる時代となったと提起していただきました。
 学びBでは、近畿大学人権問題研究所教授の奥田均氏より、「企業と人権−「否定型」の課題から「建設型」の発想へ」というテーマで、企業と人権の歩み、就職差別問題が問いかけたもの、就職差別撤廃から雇用を通じた社会貢献へどのように取り組まれてきたか具体的事例をもとに、「〜してはいけない」という否定型の目標からは達成感は得られない、差別問題や人権課題に「建設型」の姿勢を持つべきであると、話していただきました。

<参加者の声>
*個人情報の漏洩が企業の信用を失うことになり、個人情報保護の体制づくりが今後ますます重要になると感じました。ITが進み便利になってきたものの、セキュリティの面を考えると、企業としてどこまでできるのかと不安になる部分もありました。
*大変聞きやすく、身近なことを話題として話されていて、「企業と人権」セミナーで固苦しい講演では?と思っていたが、また、聞いてみたいと思う。
*学びBの企業と人権の歩みは初めて聞くことでした。建設型の発想は事例でわかりやすかったです。

子どもたちの進路を保障する取り組み
 かつて、出身地、家の資産、家族構成や親の職業で、子どもたちの就職採用が決まるというとんでもない現実がありました。長崎県でも、長男・長女・末っ子・一人っ子・血液型・身長等々が、就職採用の選考項目に入れられていたことがあります。
 私たちは、「受験生本人の能力や適性」以外の条件で採用が決まるのは、受験生の人権侵害に当たる、ひいては企業にとっても大いなる損失であり、社会の活力や発展を阻害することだという観点から、「公平・公正なる採用」を促す取り組みを進めてきました。 長崎県でも学校・行政・県人教・県連などの関係機関団体などが、「進路保障に関する協議会(進保協)」を組織し、就労保障・進路保障の課題に取り組んできました。
 昨年度は、就職時の面接において、九州で、70件(福岡)・30件(熊本)等、違反質問などがあったと報告されています。ところが本県では3件しか報告されていません。私たちの取り組みの成果でしょうか? 実態を言えば、本県の高校生と同じ会社を受験した他県の高校生から違反事例を指摘され、急いで追跡調査をした結果、「そうであった」と報告が上がったり、高校生自身が「そういえば、私にとって不愉快な質問でした」と、改めて問題性を実感するというケースが跡を絶たないのです。このことから考えると、長崎県の高校生は泣き寝入りをさせられている状況だと言えそうです。また、入試の面接で、「傷つけられた中学生・高校生」のケースもあります。
 これらの実例は、基本的には子どももオトナも「人権」についての学習が不足しているからだと言えるのではないでしょうか。人権感覚も人権の基本的理解も共に磨かれないままで眠っているからではないでしょうか。本人が責任をとることができないような外的条件によって、子どもを勝手に評価し切り捨てる社会を克服できずにいる、そんな長崎県の状況を表しているように思います。
 折しも今、長崎県は、新たに「長崎県人権教育・啓発基本計画」を策定中です。私たち一人ひとりの声を届けることによって、「人権の世紀」にふさわしい社会の実現をめざしていきたいものです。(文責 石村・傳ー長崎県人教)

2005年度第3回部落解放学習会

講師:宮内礼治さん(部落解放同盟鹿児島県連合会青年部)
演題:「自分自身の解放をめざして」〜太鼓づくりと私の生い立ち〜

日時:12月13日(火) 18:30〜
場所:銭座第2AP集会室
  太鼓づくりの実演もあります!

○お問い合わせ先
 部落解放同盟長崎支部(п@095-845-4145)

主催 長崎市人権教育研究会・長崎人権研究所・部落解放同盟長崎支部

 最近の受入図書(●は寄贈)
○『水平記』(高山文彦,新潮社,05.5)
○『大阪の部落史 第1巻史料編』(大阪の部落史委員会,部落解放・人権研究所,05.1)
○『地域史のなかの部落問題』(黒川みどり,部落解放・人権研究所,03.3)
○『瀬戸内の被差別部落』(沖浦和光,解放出版店,01.12)
●『被差別部落の生活』(斎藤洋一,同成社,05.10)
○『朝鮮通信使』(日韓共通歴史教材制作チーム,明石書店,05.4)
●『「いのち」を考える授業プラン48』(安達昇他,小学館,00.4)
●『人と人を結び、思いやる心を育てる授業』(安達昇,小学館,05.3)
●『まちひとくらし 2004』(大阪府人権教育研究協議会,04.11)
●『まちひとくらし21』(大阪府人権教育研究協議会,00.11)

(定期刊行物)−(一部)
●『部落解放史ふくおか』第118号(福岡県人権研究所,05.6)
●『明日を拓く』第61号(東日本部落解放研究所,05.7)
●『部落解放研究』第165〜166号(部落解放人権研究所,05.8,10)
○『部落問題研究』第073号(部落問題研究所,05.8)
●『ひょうご部落解放』第118号(ひょうご部落解放・人権研究所,05.9)
●『部落解放』第553号〜557号(解放出版社,05.8.9.10.11)
○『人権と部落問題』第734〜738号(部落問題研究所,05.8.9.10.11)
○『解放教育』第453〜455号(解放教育研究会,05.8.9.10.11)
○『ヒューマンライツ』第209〜212号(部落解放人権研究所,05.8.9.10.11)
○『こぺる』第149〜152号(こぺる刊行会,05.8.9.10.11)
○『グローブ』第42〜43号(世界人権問題研究センター,05.夏・秋)
●『関西大学人権問題研究室紀要』第51号(関西大学人権問題研究室,05.9)




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