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「研究所情報」第42号 2007年08月31日

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フィールドワーク事業を充実したものに

 人権研究所への移行から、3年が経過した。研究所の活動は次第に啓発・教育に重点が置かれるようになった。フィールドワーク事業はその中心である。一昨年・昨年と約30団体を県内外から受け入れ、本年度は、若干数は減りはしたがそれでも10団体、9月から10月にかけても依頼を受けている。現在は3・4人で案内をこなしているが、やはり、多人数での依頼の場合これでは数が足りない。指導者の養成、これがひとつの課題だ。そして今ひとつは、案内人の研修が望まれる。全体のコース及び案内する史跡は決まっているが、そこで何を参加者に伝えるかは案内人次第だ。深く豊かな内容を伝えるには、普段の学習が必要となってくる。したがって今ひとつの課題は、指導者同士の研修を深めることだ。
 研究所では、長崎県内に6つのコースを用意している。長崎市以外に、西彼杵半島をめぐるコース(@遠藤周作・井上光晴の文学を訪ねて)、平戸(A海路でたどる長崎開港の歴史)、大村(Bキリシタン大名と放虎原殉教地)、島原(C島原の子守歌とキリシタン)、これらのコースは、例えばAでは船をチャーターするので費用もかさむ。しかし人数を集め切れれば個人の負担は少なくてすむ。@Cは1〜2日の日程である。もちろん自在にコースを変更することもある。
 これらコースは余り知られていないので、現在紹介したチラシを作成中である。希望者には、いずれ配布させていただきたい。
 当面は、5月に引き続き自主企画として、10月20日(土)に、A海路でたどる長崎開港の歴史を企画している。参加されたい方はぜひご連絡をいただきたい!

 コラム
 このごろ、毎年のように異常気象だね、という言葉が聞かれる。もはや、異常ではなく、この暑さが普通のことになってしまったようだ。夏は毎年こうなんだと認めるより他にない。この灼熱の中をこれも、毎年のように日中フィールドワークがおこなわれる。夏は研修の季節なのだ。今年は例年に比べて依頼がそう多くなかった。参院選の時にふと、選挙のせいかもと思い当たった。奇しくも選挙が終わったら、ぼちぼち依頼があるようになった。それだけ、皆さん選挙を大切にされていると言うことだろう。一票の行使で政治が変わることに思い至った今夏である。したがって、8月・9月は何度か市内のAコース・Bコースを案内する。8月おわりには、九州地区の公民館研究大会が長崎で行われた。60名弱の人が2班に分かれて浦上の平和や人権に係わる史跡を尋ねた。長崎に観光で訪れる人は多い。しかし、実は長崎は、観光地を歩くことで、部落の歴史にも触れ得るのである。(あ)

◆模擬授業「長崎の町のできかた」

 8月28日、毎年恒例の長崎市人権教育研究会主催夏期研修会が長崎市で開催された。午前中の研修で模擬授業が行われ、この日の参加者100名のうち30名が児童役となった。授業者は西海市立西海北小学校の西川操さん。昨年度長崎人権研究所の阿南重幸氏と共に6年生に行った部落問題に関する授業を再現したものだ。その授業は「長崎の町のできかた」と題して長崎開港から始まる長崎の町建てについての学習であり、そこから長崎の部落へ光を当てていく実践である。まず、1630年代の長崎の地図に記されている町を、地名を表す町名、職業を表す町名、位置を表す町名、その他の4つに班で話し合いながら分類していった。地図を色分けしながら、長崎の町のできかたを推測していくもので、参加者は意見交換しながら作業を進めていく。体験活動が取り入れられており、実際の授業でも子どもたちは楽しみながら学習を進めただろう。長崎の町のできかたに興味津々となったところで授業者は皮屋町に焦点を当てていった。社会的分業の中でつくられた皮屋町には「ことなる身分の人々」がくらし、皮で履き物をつくって生活していたことを雪駄作りの資料を配って丁寧に説明し、この授業を閉じた。この1時間の中に、考える場面、話し合う場面、活動する場面が設定されるなど、町のできかたについて学ぶ様々な工夫が施されていた。「教科書に沿って簡単に説明して終わるだけの授業になりがちな内容に比べ、はるかに多くの学びがあると思う。」「町の名前を分類することで、当時の人々のくらしを想像することができたし、身分制度が自分たちの町でも行われていたということを知ることができ、意義のあるものであった。」などの感想が参加者から寄せられた。多くのことが提起された意義深い模擬授業でした。(馬場務)

● 第13回全国部落史研究交流会 於:神戸(報告)

 昨年長崎市で開催された全国部落史研究交流会が、およそ100名程の出席者を得て、本年は8月3・4両日に渡って神戸市でおこなわれました。3日は前近代、近現代の両分科会、4日は全体講演「兵庫における部落史史料の収集50年の足跡」と題してご当地ひょうご部落解放・人権研究所所長の安達五男先生からご講演をいただきました。
 分科会T前近代史では、「近世被差別民と宗教」をテーマに、和田幸司(兵庫県上郡町立山野里小学校)さんが「近世初期における部落寺院本末の異動をめぐる政治史的考察−播磨国部落寺院の本末異動を手がかりにしてー」とする報告、藤原豊(神戸国際中学校・高等学校)さんが「近世後期本願寺派部落寺院の動向について」とする広告がおこなわれました。分科会U近現代史では、渡辺俊雄(大阪の部落史委員会企画委員)さんの「戦後部落解放史研究の現状と課題」、竹森健二郎(福岡県人権研究所)さんが「戦後福岡における部落解放委員会の活動」と題した報告がおこなわれました。詳細は、ひょうご部落解放・人権研究所が発行する機関誌に掲載されます(08年3月刊行予定)。

◆ 今月(9月)の主な日程

▼ 9月8日(土) 07年度第2回理事会(教育啓発センター) 
▼ 9月12日(水) フィールドワークB(佐賀市立日新公民館)
▼ 9月15日(土)・16日(日) 研修会・フィールドワークB(福岡県算数数学実践研究協議会)
▼ 9月18日(火)・19日(水) 企業と人権 佐世保会場・長崎会場(長崎県他)
▼ 9月20日(木) 人権教育講座「長崎人権学」(長崎市教育委員会生涯学習課)

● 第26回九州地区部落解放史研究集会に参加して
   8月27日〜28日、佐賀市(佐賀県教育会館)

 研究からほど遠いところに位置しているのにもかかわらず、司会として研究者のすぐ隣に座らされ、超難度の報告に至近距離で打ちのめされ、それに加えてA氏から本紙への寄稿(感想文)まで命じられた上に、その3日後には督促され、追いつめられてしまいました。こんなときには「どんだけー」「いかほどー」を使ってもいいでしょうか?それはさておき、研究報告について箇条書きにしてまとめてみました。
■小正路淑泰さん(福岡)「独立系水平運動と堺利彦農民運動学校」
 @自治正義団は、1926年に豊前京都郡で結成された融和運動の団体。創立には田原春次・吉川兼光兄弟が関わった。二人は後に代議士となる。
 A自治正義団は、水平社ではない独自の運動だが、大筋において水平運動を承認し、天皇制擁護の立場だった。その活動は、内務省・福岡県の融和政策に対しては一定の批判勢力となっていた。
 B部落解放運動は京築地方で農民組合運動の形をとり、全農京築委員会は部落差別に対する糾弾闘争を運動課題の一つに取り上げていた。
■森知見さん(佐賀)「近世の宗教政策と浄土真宗」
 @門徒の創意によって創立した村民共同経営の「惣道場」が被差別部落寺院には多い。
 A江戸幕府は本山と本寺の地位を公認し、末寺を統制する権限を与えることによって、全国の寺院と僧侶を支配した。江戸所在や各国の各宗有力寺院は「触頭」として幕府や上位の寺からの命令・伝達または下寺からの申請の手続きに当たっていた。
■奥本武裕さん(奈良県立同和問題関係史料センター)「浄土真宗と部落問題−奈良県の事例から−」
 @被差別部落の宗派は真宗だけでない。
 A大和の「えた」村寺院は村ごとにあり、2か寺以上存在する村も複数存在する。
 B「えた」村寺院の上寺は大和では多様であり、上寺の多くは百姓村寺院も下寺に持つ有力寺院である。
 C教説からでは迫ることのできない門徒民衆の信仰のありようを伝承から探ることができる。〔例〕吉光尼伝承(親鸞の母)
 D最初の全国的部落改善運動団体の「大和同志会」は、差別撤廃とともに本願寺教団の改革を主張した。
 E中村諦梁やその師・中尾靖軒には部落内外に分厚いネットワークが存在した。中尾靖軒が交流した人物には、大村藩の楠本正隆(東京府知事)、渡辺昇(大坂府知事)などがいる。
 以上、3名の研究者の報告・講演の中で一番印象に残ったのは「分厚いネットワーク」の存在です。報告に登場する人びとの人的交流や人脈の広さに驚かされました。部落史研究は人と人のネットワークを反差別の観点から解き明かし、人と人との関係を紡いでいく実践的な課題に取り組む学問なのだと改めて感じました。冒頭で愚痴めいたことを書いてしまいましたが、優れた研究者や実践者との出会いと学びの機会を与えてくれたA氏に感謝しなければならないようです。(山下信哉)

 最近の受入図書(●は寄贈)
●『被差別民たちの大阪』(のびしょうじ,解放出版社,07.6)
●『明治維新と被差別民』(北崎豊二編,解放出版社,07.9)
○『身分としての百姓、職業としての百姓』(石瀧豊美,イシタキ人権学研究所,07.6)
○『薩摩のかくれ念仏』(かくれ念仏研究会編,法蔵館,02.6)
●『信教の自由と政教分離』(日本カトリック司教協議会社会司教委員会,07.3)
●『人権歴史マップ』(社 部落解放・人権研究所,05.9)
●『京都の被差別部落と教育』(京都部落問題研究資料センター,07.3)
●『大和国葛上郡関係史料』(奈良県立同和問題関係史料センター)

(定期刊行物)−(一部)
●『部落解放研究』第176・7号(社 部落解放・人権研究所)
●『ひょうご部落解放』第125号(社 ひょうご部落解放・人権研究所)
●『部落解放』第583号〜587号(解放出版社)
●『解放教育』第473号〜477号(解放教育研究会)
○『ヒューマンライツ』第231〜233号(社 部落解放・人権研究所)
○『こぺる』NO170号〜174号(こぺる刊行会)
●『リベラシオン』第126号(社 福岡県人権研究所)
●『部落問題研究』第180号(社 部落問題研究所)
●『明日を拓く』第68号(東日本部落解放研究所)
●『研究紀要』第12号(財 世界人権問題研究センター)
●『GLOBE』第50号(財 世界人権問題研究センター)
●『解放研究しが』第17号(社 反差別国際連帯研究所しが)
●『滋賀の部落』405〜408号(財 滋賀県同和問題研究所)
●『研究紀要』第13号(奈良県立同和問題関係史料センター)
●『水と村の歴史』第22号(財 信州農村開発史研究所)
●『佐賀部落解放研究所紀要』第24号(佐賀部落解放研究所)
●『東京大学史料編纂所研究紀要』(07.3)
●『人権問題研究』(大阪市立大学人権問題研究会)

セミナー「企業と人権」
人権啓発推進指導者養成講座ー2007

▽ 佐世保会場
アルカスSASEBOスピカ(会議室)
第1回 9月18日(火)
 講師:奥田 均(近畿大学)
 時間:13時30分〜15時00分
 講師:脇田五典(NEC九州日本電気株式会社)
 時間:15時10分〜16時40分
第2回 10月25日(木)
 講師:岡田耕治(大阪・峰町教育委員会)
 時間:13時30分〜15時00分
 講師:高木 寛(インターネットプライバシー研究所)
 時間:15時10分〜16時40分

▽ 長崎会場
セントヒル長崎(会議室)
第1回 9月19日(水)
 講師:奥田 均(近畿大学)
 時間:13時30分〜15時00分
 講師:脇田五典(NEC九州日本電気株式会社)
 時間:15時10分〜16時40分
第2回 10月26日(金)
 講師:岡田耕治(大阪・峰町教育委員会)
 時間:13時30分〜15時00分
 講師:高木 寛(インターネットプライバシー研究所)
 時間:15時10分〜16時40分

 いずれも入場無料です。

主催 長崎県・長崎県人権啓発推進企業連絡会・長崎市・佐世保市
後援 長崎労働局・長崎県商工会議所連合会

お問い合わせ:長崎県民生活部人権・同和対策課(095−826−2585)




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