HOME > 研究所情報 > 情報45号


「研究所情報」第45号 2008年5月30日

 ここでは、「研究所情報」の一部を掲載しています。「研究所情報」の全文は、PDFファイルで提供しています。
 PDFファイルを閲覧するには、Adobe Acrobat Readerをダウンロードする必要があります。


08年度総会が開催される
新事業計画・後期(08年・09年)を論議

―5月17日(土)、人権研究所第5回総会が長崎県人権教育・啓発センターで開催されました。今年度から新事業計画・後期のスタートです―
 総会では、県人権・同和対策課の斉藤誠氏に来賓としてご挨拶をいただいた後、山下信哉氏が議長に選出され、07年度事業報告・決算報告、08年度事業計画・予算案の審議が行われました。事業報告では、調査・研究事業、機関誌・「情報」の発行、学習会やセミナーの開催、研修会等(フィールドワーク)への講師派遣状況等が報告され、このうち、研修会は14回(県内10)、フィールドワークは26回(県外18)行われたとの報告でした。また、セミナー「企業と人権」が佐世保市と長崎市で開催等、多彩な活動が報告されました。決算報告では、引き続き厳しい財政状況の中で経費の縮小に努力していることが報告されました。
 後期計画の初年度に当たり、次年度の事業計画では、出版物について、従来通りの機関誌の刊行を見直し、教育や啓発に役立つ書籍や史料集を発行してはとの意見もありましたが、今後議論を重ねることになりました。また、研究部門では、長崎の部落史「近代編」の準備を行うこと、対馬の貿易関係資料を史料集として整理すること等が新たに提案されました。予算は、さらに縮小した案が提示され、事業収入の拡大や会員の増加を図ること等論議されました(現在、正会員41名、賛助会員74名、団体会員11)。
 また、総会終了後、研修会が行われました。

 コラム
 「taspo(タスポ)」なるものが導入され、自販機はすべて対応する成人識別たばこ自動販売機となった。未成年者の喫煙を防止することが目的とされる。申込用紙に20歳以上であることを証明する免許証等のコピーと顔写真を貼付し、 (社)日本たばこ協会に送付する。すると、2週間程度でカードが送られてくるそうだ。嫌煙運動の追い風を受けてか、これに批判的な意見はあまり聞かない。しかし、この制度は果たして、未成年者の喫煙を防止することが目的だろうか。少年が、喫煙しようとすれば、抜け道はいくらでもある。結果的に、喫煙者が顔写真を含めて住所、年齢等個人情報を登録することになる。医療費の増大に耐えかねて、政府は、「後期高齢者」医療制度を発足させた。煙草は癌の発病率が高いそうだ。癌になっても、「taspo」への登録者には、自己責任において医療費が制限されるかも知れない。メタボ対策のために、ケーキ屋さんには、腹部測定器が設置されることになるかも? (喫煙者)

◆〈採用に当たって企業は?〉〜長崎県の具体例〜
講師:傳 均(長崎県人権教育研究協議会)

 研究所第5回総会の終了後、研修会が行われた。テーマは企業の採用に係わる問題である。
 4月17日付「長崎新聞」には、「就職差別のない質問を」と題する長崎労働局職業安定課の提供する記事が掲載されていた。そこには、就職差別につながると見なされる質問等が提示されていた。@本籍、出生地 A家族状況、身体的特徴 B宗教、支持政党、尊敬する人物 C購読新聞、愛読書 D自宅付近の地図の提出など である。長崎県では、「進路保障に関する協議会」が労働局・長崎県・長崎県人教等で構成され、企業の採用選考に関わって情報交換が行われている。そこで、長崎県はどのような状況にあるのか県人教の傳均氏にお話を伺った。
 傳氏は、04年度〜06年度の九州各県の「違反事例数」の表を示し、長崎県では違反事例数が少ないことに注意を促した。例えば、05年を見ると、福岡で81社、熊本で24社、鹿児島で68社などに比べ、長崎県は0件である。佐賀県は、延べ質問数で659件が数えられ、この中には長崎県内の企業が含まれていた。このことは、長崎県では、例え違反事例があっても、報告が行われていないことを物語っている。関係者の努力で、06年度長崎県でも9社報告されているが、それでも、他県に比べると、極端に少ない。長崎県でも、過去に企業等の違反事例が少ないながらも報告されていた。この経験が果たして、いまに活かされているのだろうか?
 次の質問は、傳氏から考える素材として提起されたものである。

従業員10人ほどの印刷会社で、入社試験の担当をしている人から質問されました。
「数年前に厚生労働省から、採用に当たっては、『色覚に異常があるかないか』を条件に入れてはいけないという通達がありましたが、印刷会社としては『どうしてなの???』という疑問を持っています。『色覚に異常がないこと』という条件を付けたいのですが、駄目なんでしょうか。」

 これは、実際の質問です。さて、あなたはどのように答えますか?
 会場からは、色覚障害でないとわからない感覚がある、等意見があった。
 この問題について、4月佐賀県である高校が職員採用に当たって、「セックスに興味は?との質問を行い、「セクハラ」だったと陳謝したことが、新聞紙上で記事になり、さらに、「家族の職業」も質問されていたことがわかった。
 長崎県では、はたして、このような事例が本当にないのだろうか。疑問が残る。

●報告「長崎における解放子ども会の新しい取り組み」
部落解放同盟長崎県連 宮崎懐良

人権社会確立第28回全九州研究集会が、5月10、11日の両日、熊本市体育館を主会場に開催され、4800人が参加した。名称の変更とともに、日程も2日間に短縮された。初日の記念講演では、反差別国際運動日本委員会理事長の武者小路公秀さんが、世界人権宣言60周年の今年、日本におけるマイノリティの人権がまだまだ不充分であると訴えた。2日目の分科会では、第3分科会「子育て・人権教育の現状と課題」が新しく設けられ、長崎県連の宮崎書記長が「長崎における解放子ども会の新しい取り組み」を報告。地域の子どもたちも巻き込んでおこなっている現状について、熊本をはじめ多くの人から質問や激励の意見をいただいた。
 なお、第4分科会「部落の歴史と現在」では当研究所の梅崎純司氏が司会をおこなった。

●08年度第1回部落解放学習会

 今年度最初となる第1回部落解放学習会が、5月27日(火)銭座アパート集会室でおこなわれた。「全国水平社創立と長崎水平社の歩み」をテーマに、長崎人権研究所の阿南重幸・事務局長に講師をお願いし、「解放令」以降の解放運動について学習した。
 はじめに、4月16日のNHK番組「その時歴史が動いた」で放送された「人間は尊敬すべきものだ〜全国水平社・差別との闘い〜」のビデオを鑑賞。日本初の人権宣言といわれる水平社宣言の起草者・西光万吉にスポットを当てた内容で、差別の厳しさ・愚かさも伝わってくるものとなっている。
 ビデオ後の学習会では、解放令から水平社創立に至る時代の流れを詳しく見ていった。解放令によって四民平等となっても260年間続いた差別の習慣はすぐに消えるものではなかった。解決策として部落の改善運動が起こってくる。差別の原因を、被差別部落の劣悪な環境・貧困さ・不就学といったことに求め、これらを改善することで差別をなくそうとするものだ。しかし、このやり方は差別の原因を部落内だけに求めたもので、加差別の側に対して啓発的なことはされていなかった。差別に対して被差別部落の人たちが声をあげていくようになったのは、労働運動や女性解放運動が盛んになる大正デモクラシーの時代。新聞による差別事件がきっかけで、加差別側に対して差別の不当性の理解を求める糾弾闘争が起こっていく。こうして、1922年(大正11)全国水平社が誕生する。
 長崎県水平社が結成されるのはそれから6年後。改善運動では行政からの助成は受けず、道路などの環境整備・学校の建設など町内の資金でおこなった。女性部や青年部の結成の必要性を町内で話し合い、人が集まる施設として真宗青年会館や武徳場の建設、またこの施設を町内以外の人とも共有していた。町の中心産業である製靴業も活発で、海外や国内に多くの人を送り出してもいた。
 昭和という戦争の時代。戦時下で、人や物を取り上げられ浦上町の貧困化は急激に進んだ。解放運動をすることさえ出来なかったこの時代を知る中尾貫・県連顧問は、「いま、こんなに大勢の人と運動が出来ていることを嬉しく思う」と最後に思いを語った。この日の参加者は28人。(宮崎懐良・記)

第27回九州地区部落解放史研究集会
テーマ 近世被差別民の「生業」について
期日 8月23日(土)・24日(日)
場所 宮崎県小林市中央公民館

 江戸時代、被差別民とされた人びとはどのような暮らしをしていたのでしょうか?
 一般的にいう「仕事」は、二つに分けられます。一つは「役」と呼ばれるものです。今ひとつが暮らしを支えた「生業」です。今回は後者の生業に焦点を当てました。

各県報告(予定)
・近世被差別民の生業について(黒木健二・宮崎)
・非人の生業 (阿南重幸・長崎)
・佐賀藩における非人の暮らし(中村久子・佐賀)
・福岡藩における被差別民の農業従事(竹森健二郎・福岡)

 最近の受入図書(●は寄贈)
○『水辺と都市 別冊都市研究』(伊藤毅・吉田伸之編,山川出版社,05.7)
○『夏の残像 ナガサキの八月九日』(西岡由香,凱風社,08.3)
○『ハートで挑戦 自己解放への道』(川口泰司,解放出版社,06.12)
○『幕藩体制下の被差別部落 肥前唐津藩を中心に』(松下志朗,明石書店,08.1)
○『身分制社会と被差別民』(大阪人権博物館,07.3)
○『近代日本社会と被差別部落』(大阪人権博物館,06.10.4)
○『水平運動と融和運動』(大阪人権博物館,07.12)
●『京都の被差別部落と仕事』(京都部落問題研究資料センター,08.3)
●『部落史観は転換したか』(下之庄歴史研究会,07.9)
●『佐久市五郎兵衛記念館 古文書調査報告書』(佐久市教育委員会,08.3)

(定期刊行物)−(一部)
●『部落解放研究』第181号(社 部落解放・人権研究所)
●『ひょうご部落解放』第128号(社 ひょうご部落解放・人権研究所)
●『部落解放』第596号〜599号(解放出版社)
○『ヒューマンライツ』第240号〜242号(社 部落解放・人権研究所)
○『こぺる』NO181号〜183号(こぺる刊行会)
○『ウィンズ』第54号(福岡県人権・同和教育研究協議会)
●『リベラシオン』第129号(社 福岡県人権研究所)
●『部落問題研究』第183号〜184号(社 部落問題研究所)
●『部落解放研究くまもと』第55号(熊本県部落解放研究会)
●『人権問題研究所紀要』第22号(近畿大学人権問題研究所)
●『GLOBE』第53号(財 世界人権問題研究センター)
●『関西大学人権問題研究室紀要』第55号(関西大学人権問題研究室)
●『滋賀の部落』416号〜417号(財 滋賀県同和問題研究所)
●『信州農村開発史研究所報』第100号〜103号(信州農村開発史研究所)




HOME > 研究所情報 > 情報45号