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「研究所情報」第50号 2009年08月31日

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第15回全国部落史研究大会
自由民権の地-高知で開催

 8月1日・2日、高知市にある自由民権記念館において第15回全国部落史研究大会が開催された。初日は前近代・近現代の分科会がそれぞれ行われ、前近代分科会では、中尾健次氏が「『非人』研究の現状と課題」を「非人=貧人」論は正当化?等の問題提起を行い、「紀州非人身分の諸相」(藤井寿一)・「近世大坂市中における垣外番について」(小野田一幸)・「『長吏の組織』の探索活動」、近現代分科会では、渡辺俊雄氏が「近現代分科会の趣旨説明」を行い、「戦後初期高知県の部落解放運動」(吉田文茂)・「戦後初期広島県の部落解放運動」(割石忠典)の報告があった。
 二日目は、当記念館の筒井秀一氏の「土佐の自由民権と部落問題」をテーマに講演があった。「1881年以降、県下各地に演説会・懇親会・夜学校が広がり、土佐の自由民権運動は全盛期を迎え」被差別部落の一部にも運動が届いたとして、西谷平等会の設立を報じる『土陽新聞』の記事も紹介された。
 大会終了後、特別企画として「自由民権と高知県水平社発祥の地を訪ねて」をテーマに記念館の見学と午後からは市内の被差別部落のフィールドワークが行われた。
 また、研究大会に先立ち全国部落史研究会第二回総会が行われ、来年度の大会を8月7日・8日に奈良市で行うこと等が決定された。

 コラム
▼お盆過ぎ、対馬に渡った。研究所で手掛けている対馬藩の朝鮮貿易関係史料を翻刻したものと付き合わせるためである。写真撮影をしているが、やはり読めない(疑わしい)字があるとのことで、Nさんは、三日間資料館にこもりっぱなしだった。九月には、再度訪れることになっている。
▼ずっとお天気が悪かったのに、と幾度も言われた。幸い当日は晴れ上がり、私には、もう一つの目的があった。『神聖喜劇』という大西巨人の小説がある。戦前対馬にあった陸軍の聯隊を舞台にしたもので、部落出身の兵士が登場する。兵舎は、現在美津島町にある鶏知中学校である(上記写真参照)。
▼たまたま学校の先生が居られたので、この話をしてみると、校門のそばに門柱が立っていることを教えていただいた。ただし、他に当時を偲ばせるものはないという。『神聖喜劇』(漫画版)も手に入れたが、これも、なかなか読み進めないでいる。(あ)

◆第28回九州地区部落解放史研究集会に参加して!
7月28日~29日、鹿児島市(教職員互助組合会館)

 記録的な豪雨は各地に甚大な被害をもたらし、九州自動車道では26日に土砂崩れが発生し、福岡IC太宰府IC間が不通になりました。その翌日、長崎から九州地区部落解放史研究集会に参加するために自家用車に乗り合わせて移動しましたが、災害現場とは逆方向の鹿児島行きであったのにもかかわらず、鳥栖JCT手前で渋滞し、全ての車両がJCTで一度出口から降ろされてしまいました。昨今、夏になると異常気象が話題に上りますが、今年は豪雨と日照不足の夏となってしまいました。
 開催地である鹿児島は、九州北部とは異なり、梅雨の期間の降水量は平年の半分程度で、すでに2週間前に梅雨は明けていました。しかし、当日は曇りがちで南国にしては気温はさほど高くはありませんでした。
 さて、2日間にわたる研究集会の会場は、ほとんど席が埋まり、参加者は報告者の発表に熱心に耳を傾けていました。
 報告は、阿南重幸さん(長崎)の総論「部落史の再考~貧困史観の克服~」から始まりました。総論において江戸時代に関する部落史学習の指導の際のポイントとして、身分呼称、「役」と生業、身分と階層の3点が示されました。その中で、高校の日本史の教科書(山川出版『詳説日本史』)では、「えた」という呼称が「蔑称」と明記されていると指摘がありました。
 次に、研究者の立場から、中村久子さん(佐賀)が「近世の食について~肉食の普及~」、竹森健二郎さん(福岡)が「被差別部落民衆のくらし~江戸時代後期の古文書より」と題して、肉食にいそしむ民衆の姿や身分を越えた人びとの交際・交流の様子を報告されました。また、教育者の立場から松本英将さん(佐賀)が「部落史を学ぶと差別が見えてくる」の題で部落問題学習と仲間作りをつなげた教育実践を報告されました。
 以上、4本の報告と報告に対する質疑や意見で1日目が終了しましたが、小学校教師の松本さんが使用した教材のうち「佐賀県水平社創立新聞記事」の取り扱いに関して疑問が呈されました。松本さんは、地元・佐賀にも水平社が創立されたことを子どもたちに知らせたいという思いで当時の記事を使用しているのですが、「特殊部落民」や「エタ」の箇所を塗りつぶしています。「蔑称」の取り扱いについて、1日目終了後も報告者に多数意見が寄せられていたようです。私も、旧字旧かなの史料を子どもたちに読み込ませる時間が確保できない状態で教材として利用するには無理があるのではないかと意見を申し上げておきました。
 2日目は、ミュージアム知覧学芸員の坂元恒太さんが「仲覚兵衛と鹿児島の牛馬骨粉業」の題で興味深い報告をされました。仲覚兵衛は、肥料としての牛馬骨に注目し、薩摩藩の農業革命を主導した知覧の海運商人です。この牛馬骨を入手したのが、全国最大の皮革の集散地だった摂津国渡辺村からでした。「皮は渡辺村、骨は薩摩へ」という皮革・牛馬骨の流通を読み解くことは、部落史(日本史)の理解に寄与すると思われますので、今回配布された資料を丁寧に読み込んでみたいと考えています。
 なお、牛馬骨の流通に関して、対馬からの「浜出し」の事例があります。5年前、熊本で開催された同研究集会で紹介した史料ですが、その記事を紹介して、課せられた任務を終わります。
 対馬の村むらには死牛馬の骨を(粉にして)田畠の肥料にする習慣はないが、九州本土の方ではそれを収集して肥料製造の原料にする所がある。そういうことで、1814(文化11)年には、町人の植松屋善次郎なる者が、対馬島内にある死牛馬の骨を集荷して、百石積みの船壱船につき銀三百匁の運上銀を上納するという条件で浜出しの許可願いを提出している。これに付けられた担当の役所からの添え書も一緒に受理した。別に支障になることはないようなので、願の通り許可することにした。翌1815年(文化12)には2回にわたって願書が提出され、いずれも許可されている。
(山下信哉)

浦上四番崩れの跡を訪ねて

 7月9日・10日両日、山口県で第34回部落解放・人権西日本夏期講座が開催された。
 1日目の全体講演は、ジャーナリストの斎藤貴男氏が「格差拡大社会がもたらしたものー人権の視点から考えるー」の講演、また「猿まわし復活にかけた思い」と題して、村﨑太郎氏が『太郎が恋をする頃までには・・・』(栗原美和子著)、そして自ら執筆した『ボロを着た王子様』(2009年、ポプラ社)刊行を通して出会った部落問題の理不尽さを語った。また猿まわしの実演を披露、会場から大きな拍手が送られた。2日目は、パネルディスカッション「部落問題は今~若者からのメッセージ」で解放同盟長崎県連の宮崎懐良氏がパネラーとして発言した。同日、萩市のフィールドワークも行われバスで、腑分けが行われた刑場跡(大谷刑場跡)、吉田松陰ゆかりの地、浦上四番崩れで配流されたキリシタン殉教公園(旧岩国屋敷跡)等を廻った。大谷刑場跡では、女性屍体観臓報告書にある「穢子をして徐々に刀を奏(すす)ましむ」との記載が紹介された。
 フィールドワーク終了後、筆者は、萩の殉教公園を再び訪れ、翌日は島根県の津和野に向かった。萩には、約300人の浦上信徒が流され、40数名が亡くなっている。この公園には、「奉教致死之信士於天主之尊前」と碑文が刻まれた記念碑が建てられ(1891年)、脇には、「肥前国彼杵郡浦上村百姓」と刻まれた墓石が配されている。また、江戸時代初頭棄教を拒んで、殉教した毛利藩家臣等の碑もある。
 萩から、バスで1時間半揺られ津和野は観光客で賑わっていた。JR津和野駅の背面が「乙女峠」で、ここにはマリア聖堂がある。駅から徒歩で15分程行くと谷あいを険しい坂道が続く。津和野には、150数名の信徒が流され、30数名が過酷な弾圧で死亡、この地に6年間収容された高木仙右衛門は当時の様子を記録した「覚書」を残している。また、当地の教会には、四番崩れ関係の資料が展示されている。(あ)

活動の記録 09/6~09/8

6月

1 フィールドワークA(田隈校区人権尊重推進協議会)
6 第2回拡大運営委員会(啓発センター)
8 人権フェスティバル第1回連絡会(啓発センター)
13 部落解放同盟長崎県連定期大会(銭座第2集会室)
15 フィールドワークA
16 フィールドワークB
20 フィールドワークA(嘉麻市同和教育研究会)
25 第3回運営委員会(銭座集会所)
26 横浜市職員人権啓発県外研修
31 県北部落史第79回定例研究会(中津下毛教育会館)

7月

4 フィールドワーク「西海路」(部落解放共闘長崎県民会議)
9~10 部落解放・人権西日本夏期講座(山口市)
14 第4回運営委員会(銭座集会所)
15 人権に関わる各種機関相談員研修会(啓発センター)
22 第2回部落解放学習会(長崎県教育文化会館)
24 島原市フィールドワーク調査
27~29 第28回九州地区部落解放史研究集会(鹿児島市)
31~1 第15回全国部落史研究大会(高知市)

8月

5~6 第34回長崎県人権教育研究大会(大村市)
9 被爆64周年原爆犠牲者追悼法要
10 フィールドワークB(福知山市)
11 第5回運営委員会(銭座集会所)
18~19 対馬史料調査(対馬歴史民俗資料館)
24 長崎市教育委員会初任者研修(長崎市民会館)
25 フィールドワークA(長崎市教育委員会新任研修)
26 壱岐市人権教育研究会研修会(石田町農業改善センター)
27 人権・同和教育指導者養成セミナー(啓発センター)
29 フィールドワークB(大阪市立大学部落問題研究会)

 最近の受入図書(●は寄贈)
○『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』(高瀬毅,平凡社,09.7)
●『部落史研究からの発信 第1巻~3巻』(解放出版社,09.4)
○『対馬国志』(永留久恵,同刊行委員会,09.7)
○『悲田院長吏文書』(同研究会編,解放出版社,08.5)
●『近現代部落史』(黒川みどり・藤野豊編,有志社,09.5)

定期刊行物(一部)
●『部落解放研究』第186号(社 部落解放・人権研究所)
●『部落解放』第615号~619号(解放出版社)
○『ヒューマンライツ』第255~257号(社 部落解放・人権研究所)
●『リベラシオン』第134号(社 福岡県人権研究所)
●『研究紀要』第15号(社 ひょうご部落解放・人権研究所)
●『ひょうご部落解放』第133号(社 ひょうご部落解放・人権研究所)
●『GLOBE』第58号(財 世界人権問題研究センター)
●『解放研究』第22号(東日本部落解放研究所)
●『佐賀部落解放研究所紀要』第26号(同 研究所)
●『鳥取県部落史研究会のあゆみ Ⅷ』(鳥取県部落史研究会)
●『関西大学人権問題研究室紀要』第57号(関西大学人権問題研究室)
●『紀要』第3号(社 和歌山県人権研究所)
●『RILIANNS』第19号(社 反差別国際連帯解放研究所しが)
●『どろお』第14号(社 反差別国際連帯解放研究所しが)
●『研究紀要』第15号(奈良県立同和問題関係資料センター)
●『研究紀要』第14号(財 世界人権問題研究センター)
●『語り伝える地区の生活』(さいたま市教育委員会他)




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