09年 セミナー〈企業と人権〉
人権啓発推進指導者養成講座が開催される
企業の人権啓発活動を支援するセミナー「企業と人権」が、長崎・諫早・佐世保の三会場で開催された。
10月13日の長崎会場(セントヒル長崎)、14日の諫早会場(諫早商工会議所)では、人権教育啓発推進センターの竹村毅さんが「SR(企業等の社会的責任)と人権・同和問題」と題して企業における人権および企業の社会的責任(CSR)を取り巻く状況について、次に、関西大学の松井修視さんが「『インターネットと人権』を考える」と題してインターネット社会における人権の現状と課題についての講演を行った。
また、10月27日の佐世保会場(アルカスSASEBO)では、JFEスチールの竹内良さんが「会社を元気にする人権」と題して人権啓発に取り組む意味・意義について、次に、本研究所の副理事長でもある全国人権教育研究協議会の石村榮一さんが「人権研修で大切にしたいこと」と題して人権研修を進める上で大切にしたい4点について、自らの体験などに基づいて講演を行った。
本年度最終日程の11月17日には、再び長崎会場(セントヒル長崎)で県人権・同和対策課の傳均さんがファシリテーターとして、ワークショップ(参加型学習)を行った。
長崎県・長崎県人権啓発推進企業連絡会等が主催し、その企画・運営を本研究所に委託して2003年度から開催されてきた本セミナーも、今年度で終了。
なお、セミナーはこの7年間で25会場で開催され、約1110人の参加者があった。
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■ コラム
▼五島市で長崎県や同市主催の人権フェスティバルが開かれた。福江少年少女合唱団の公演、曲は「紅葉」など五曲、美しいハーモニーが奏でられた後、主催を代表して五島市長等の挨拶があった。▼講演を依頼されていた筆者は、三つのことを話そうと用意していた。一つは、『被差別民の長崎・学』編集の由来、二番目に、被差別部落の「起源」をめぐる話、三番目に、県内各地のフィールドワークの紹介である。ところが、九十分を一番目の話だけで終えてしまった。会場にお集まりいただいた皆さんには、物足りなさが残ったとお詫びしたい。▼部落の起源について、古今様々な俗説が流された。いずれも、差別の理由付けである。明治政府が部落改善に取り組んだ頃は、異民族起源が主流であった。ちなみに、ご当地の五嶋盛光公は内務省で水平社研究に先覚を志したと、『五島編年史』にあった。(あ)
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▼ながさき人権フェスティバル
期日:12月12日(土)10時~16時30分
場所:島原文化会館
第10回ながさき人権フェスティバルが島原市開催されます。長崎人権研究所は、当日2回にわって、「しまばら人権・さるく」を行います。
テーマは、「近代医学の源流、キリシタンと『かゆきさん』を訪ねる」です。島原城に展示される「体解剖図」、江戸時代末期(天保15年)島原で市素朴等が実際行った人体解剖をもとに、上田平内『臓腑脈絡真写の図』を描きました。
日本の人体解剖の歴史は、京都で山脇東洋が初て「観臟」を行ったことに始まると言われていますその後、長州萩の栗山孝庵等がやはり「観臟」をい、1759年(宝暦9)には初めて女性の解剖も行われ、「報告書」がつくられていす。1771年(明和8)東京の小塚原では、杉田玄白や前野良沢が『解体新書』を訳したことが『蘭学事始』に記されています。この時、腑分け(解剖)を行った「やかなる老者」とは、被差別民であったことは有名です。
このように、日本で解剖が行われた当初は、医者は観臟するだけで、実際解剖あたるのは、被差別民であったことがわかります。いつの頃かははっきりしませが、その後、医者自身が解剖に手を染めるようになり、島原では、今村刑場で藩であった市川素朴等が刑死者の解剖を行っています。市川は医術向上のためには体解剖が重要なことと説き、江戸遊学中に解剖実施に参加したと述べ、万人の命救うために許可を願う「解体願書の覚」を残している。
また、今村刑場跡では、ナワロ神父を初め多くのキリシタンが処刑されたとこでもあり、万治元年(1658)大村で発覚した「郡崩れ」で捕らえられたキリシタン5人もこの地で処刑されました。
理性院太子堂は、岡山県出身の廣田言証師が開山し、天如塔の玉垣には明治の2年代、石炭輸出の繁栄の陰で貧しいがために身売りされた「からゆきさん」の魂刻まれています。
当日は、バスで、これらの地を廻ることになっています。ぜひご参加下さい。
お申込は、℡095-847-8690 Fax 095-847-8696 までお願いします。
しまばら人権・さるく
時間: ①11時~12時30分 ②15時15分~16時45分
コース 島原文化会館→島原城→今村刑場跡→理性院太子堂→島原文化会館
※参加費無料
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◆新聞記事に見るネットパトロールの現状
携帯電話やパソコンによるインターネットの利用が広まり、子ども同士の交が活発になっている。インターネットで、個人の悪口を書き込むなどして嫌がせをすることを「ネットいじめ」という。自己紹介するためのプロフィルサイ(プロフ:ネット上で自己紹介を作成・公開するサービス)や学校の生徒同士つくる「裏サイト」でネットいじめが問題になり、警察の乗り出す事件になっものもある。文部科学省が06年度に行った調査では、いじめのやり方として「帯電話やパソコンのネット上で悪口を言われたりしていじめを受けた」と答えのは小学生0.8%、中学生5.2%。高校生は13.8%に上っている。養護学校などを含め合計で883件が見つかっている。ネットを使う上での問題は「いじめ」だけではない。掲載された住所電話番号などの個人情報や写真がネット上に残って悪用されたり、出会い系サイトなどを利用して害にあうこともある。
ネットいじめ対策がいろいろと考えられているが、その1つが「ネットパトロール」である。長県では、児童買春やいじめの温床となっている携帯電話サイトなどの有害環境から子どもたちを守うと、「長崎っ子のためのメディア環境協議会」(PTAや携帯電話会社などの関係団体・関係業で構成)が交流サイトや学校裏サイトなどを監視するネットパトロールを9月1日から始めた(09/10/16付読売新聞「買春、いじめ抑止へ県や携帯会社が開始」)
学校裏サイトの監視委託は、07年頃から一部の私立中高で始まったといわれているが、今年にって、その監視を民間業者に委託する自治体が相次いでいる。東京都、北海道、三重県、岡山県、本県、秋田県、札幌市、宇都宮市、北九州市、東京都江東区など。
□ネットで24時間監視 来月から県教委、全公立671校対象に /岡山(09/09/25 毎日新聞)
□熊本県教委 学校裏サイト調査開始 265校対象 削除など業者に委託(09/09/09 西日本新聞)
□ネットいじめから子どもを守れ 宇都宮市教委がパトロール・相談事業を開始(09/08/26 下野新聞)
□ネットいじめ監視、民間に委託…秋田県教委(09/08/01 読売新聞)
□「学校裏サイト」県教委が監視 三重の全公立中高(09/07/05 朝日新聞)
□裏サイト監視を企業に委託/東京・江東区や三重県教委(09/04/07 西日本新聞)
業者委託に否定的な自治体もある。石川県教委は4月から、金沢市内の県教育センターにパソコと携帯を2台ずつ設置。教員8人を含む対策チームで監視活動を始めた。
また、和歌山県では、携帯電話とパソコンで、ブログやプロフなどのパトロールは、NPO法人委託。犯罪情報は県警が捜査し、悪質な有害情報は学校や県の人権担当部局が生徒指導や情報の削依頼など解決を図る。3機関が連携してネットの有害情報対策に取り組む。
□ネットパトロール:「学校裏サイト」など監視 県と県教委、県警が連携 /和歌山(09/06/02 毎日新聞)
教育委員会が有害ネット対策に担当職員を配置して取り組むのが宮城県と埼玉県など。宮城県教は国の緊急雇用創出事業で専従職員を採用、埼玉県は非常勤職員「ネット上の見守り担当員」を雇用。
□ネットパトロールで悪質サイト監視へ/茅ケ崎市(09/08/27 神奈川新聞)
□学校裏サイト監視強化 専従職員2人採用へ 宮城(09/04/28 河北新報)
□学校裏サイト監視へ臨時職員雇用 埼玉県(09/03/04 産経新聞)
群馬県高崎、京都、広島の3市の教育委員会と保護者が5月から、誹謗中傷の書き込みなど問題あるサイトを探し出し共通のデータベースに登録する事業を開始するといった複数の自治体が連携情報共有を図る取り組みも見られる。
□有害サイト探しで連携 京都など3市、共通DBに登録(09/04/02 西日本新聞)
■学校裏サイトとは?…学校が管理していないが、学校の在校生や卒業生などが利用する目的で運されているサイト。掲示板の形式で設置され、利用されることが多い。単なる情報交換に使われてれば問題はないが、誹謗中傷の書き込みがなされたり、他生徒の画像を勝手に貼り付けたりと、「ットいじめ」に発展するケースもある。(池田芳信)
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◆書評
『被差別民の長崎・学ー貿易とキリシタンと被差別部落』
(阿南重幸編著、長崎人権研究所)
福岡県人権研究所 竹森健太郎
本書は、長崎県人権研究所がこれまで刊行してきた『論集 長崎の部落史』『論集 長崎の部落史と部落問題』という二つの論集につづいて刊行されたものであり、サブタイトルが示すように、貿易とキリシタンのそれぞれにどのように被差別民が関わっていたのかを明らかにしようとする。
貿易とは、前近代における海外貿易の中でも皮革に注目したものであり、前近代の皮革といえばこれまでは国内の生産・流通を考察するものがほとんどであり、海外貿易という視点はこれまで未知の分野であっただけに、その成果が期待される。キリシタンとは、幕末の「浦上四番崩れ」などのように、被差別民はこれまでは弾圧する側として描かれてきていたが、近世初頭には、彼ら自身がキリシタンであったことを明らかにし、あわせて全国のいくつかの藩領で確認される、被差別民のキリスト教の受容についても言及している。
本書は、以上のテーマに着目し、長崎における被差別民との関わりを考察するものであり、その課題は長崎ならではの問題意識に基づいたものであろう。
では、内容を概観してみることにしよう。
「Ⅰ 貿易都市長崎と『かわた』集団」は、長崎の都市建築にともない、「皮屋町」「皮多町」を確認することができ、おもに雪駄などの履き物業に関与したとしている。つぎに、輸入皮革であるが、オランダ・中国貿易などの記録から、輸入皮革を抜き出し、それに関わる「皮屋」商人、皮革の種類、同じくその量、そして輸入皮革の国内流通にまで言及する。輸入皮革は享保期以降には途絶えてしまうが、阿南氏は「このことが国内の牛皮の供給を活発化させ、大坂渡辺村皮商人が西日本一帯で活躍する状況を促した」と評価している。では、大坂渡辺村皮商人の活躍は如何なものであったのか。それは「Ⅱ 江戸期―皮流通と大坂渡辺村商人―豊後・豊前・筑前・大坂」で検討されることとなる。
「江戸期……」では、各藩の先行研究・史料集から大坂皮商人との関係を抽出し、北部九州各藩における大坂皮商人との関係、つまり数多くの商人たちの入り込みや、大坂皮商人仲間の有力者層のネットワークの存在などを明らかにしている。とくに豊後地方については、それまで未発表であった「府内藩記録」などの史料を使いながら、大坂との関係を明らかにしている。阿南氏には、同じテーマで肥後熊本藩についての論考があり(「江戸期―皮流通と大坂渡辺村商人―長崎・肥後に係わって」(『部落解放研究くまもと』第45号所収、2003年3月、熊本部落解放研究会)、あわせて、北部九州を鳥瞰することができる。
「Ⅲ 近世初期かわた(皮屋)・長吏集団のキリスト教受容」は、17世紀初頭の宣教師などの記録から、長崎「皮屋町」住人がキリシタンであることを論じ、長崎以外にも各藩に記録されているキリシタン類族の「穢多」身分を明らかにした。
「Ⅳ 非人と呼ばれた人びと」は、、長崎の犯罪記録を綴った『犯科帳』から窺うことができる長崎の非人集団を明らかにする。この『犯科帳』は全国的にみても希な史料であり、これも長崎の特徴のひとつといえよう。検討される課題は「非人集団の形成」「非人の犯罪」「非人の仕事」などであり、『犯科帳』の記録を中心として、長崎における非人集団の実相を描き出している。
「Ⅴ 浦上四番崩れと被差別部落」は、『部落解放』(2004年10月)に掲載された論考で、「浦上四番崩れ」に関する概説的なものと仕上がっている。
最初に記したように、本書は海外貿易とキリシタンに焦点を絞り論述されており、長崎の全体像を論じているものではなく、課題も多いと思われる。たとえば、「刊行にあたって」にある「対馬藩の貿易関係史料」の発行などもその課題のひとつであろう。今後の活動に期待したい。
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◆村崎兄弟
長崎市人権教育研究会 馬場 務
09年秋の夕暮れ。アパートの集会室で、次から次に流れ落ちる額の汗をかきかき、新米の落語家が新作を演じている。よほどなれないのか、どこまでが台本にあり、どこからが間違いなのかわからないほど混乱した一席だ。落語家の名は村崎太郎。彼の名を知らない者はいないほど、日本で一番有名な猿まわしだ。その彼がなぜ落語を?彼にはぜひ日本中の人に伝えたいことがあるのだ。
太郎は九州巡りの途中に浦上の町に立ち寄った。会場にはお年寄りから小さな子どもたちまで50名ほどが所狭しと座り、太郎と次郎の登場を今か今かと待っていた。そこに登場したのが村崎太郎ただひとり。しかも、浴衣姿だ。いつもと違う様子。いつもと違うのはその出で立ちばかりではない。表情もいつもテレビで映る感じと違って、いくぶん堅く見える。そして始めたのがいきなりの落語。しかも、その話はといえば、落語ではあまり聞き慣れない内容で、江戸時代の身分制度を取り上げ、理不尽な差別について噺が進んだ。
そう、彼が日本中の人に伝えたくなったことは、部落差別のこと。彼は自分のこととして、この差別について語っていきたいと思っている。まだまだ不慣れな落語だが、ここ浦上のお客はあたたかい笑顔でうなづきながら耳を傾けている。
そうはいっても、お客さんたちは正直である。落語が終わり、再び猿の次郎を連れて太郎が現れると、拍手喝采。次から次と繰り広げられる、太郎と次郎の息のあった演技にやんやの声援を送った。
その様子を会場の袖でそっと見守る一人の男性がいた。お弟子さんだと思っていたが、実は太郎さんのお兄さん。彼も猿まわしを生業としている。太郎次郎のように売れっ子ではないが、面白い人生を歩んできた人物だ。太郎に同行することは今までなかったそうだが、今回は太郎に誘われたらしい。太郎は、この兄に見守っていてほしかったのだろうか。
太郎の横顔に、門出の決意を見た。
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■活動の記録 09/9~09/11
9月
3 ながさき人権フェスティバル参加団体連絡会(啓発センター)
4 フィールドワークB(社会人権・同和教育筑後ブロック)
5 フィールドワークA(部落解放同盟福岡市協議会)
7 フィールドワークB(城山小学校)
10 長崎人権学(長崎市民会館)
25~26 対馬史料調査(対馬歴史民俗資料館)
26 第2回理事会(啓発センター)
10月
1 フィールドワークA(長崎市教育委員会)
第3回部落解放学習会(銭座集会所)
4 フィールドワークB(福岡県人権研究所)
13 企業と人権(セントヒル長崎)
14 企業と人権(諫早商工会議所)
17 フィールドワークB(立花町人権・同和政策課)
27 企業と人権(アルカスSASEBO スピカ)
31 第91回史料解読会(銭座集会所)
11月
5 フィールドワーク島原(筑後地区人権・同和対策推進協議会)
9 人権問題を考える・2009(佐賀市文化会館)
14 いのち・愛・人権長崎市民の集い(かもめ広場)
17 企業と人権(セントヒル長崎)
19 フィールドワークB(別府市人権を擁護する審議会)
24 フィールドワークB(部落解放同盟香川県連青年部)
25 人権社会確立全九州研究集会準備会(啓発センター)
26 フィールドワーク島原半島(伊万里市)
28 フィールドワークA(NTT労組被爆者二世協議会)
29 五島市人権フェスティバル(福江総合福祉保健センター)
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■ 最近の受入図書(●は寄贈)
○『復元!江戸時代の長崎』(布袋 厚,長崎文献社,09.8)
●『皮革の歴史と民俗』(のびしょうじ,解放出版社,09.11)
○『差別のカラクリ』(奥田均,解放出版社,09.10)
○『全国のあいつぐ差別事件』(解放出版社,09.11)
○『差別と日本人』(野中広務・辛淑玉,角川書店,09.7)
○『同和と銀行』(森 功,講談社、09.10)
定期刊行物(一部)
●『部落解放研究』第187号(社 部落解放・人権研究所)
●『部落解放』第620号~622号(解放出版社)
○『ヒューマンライツ』第258~260号(社 部落解放・人権研究所)
●『リベラシオン』第135号(社 福岡県人権研究所)
●『ひょうご部落解放』第134号(社 ひょうご部落解放・人権研究所)
●『GLOBE』第59号(財 世界人権問題研究センター)
●『関西大学人権問題研究室紀要』第58号(関西大学人権問題研究室)
●『マイノリティー研究』第2号(関西大学マイノリティー研究センター)
●『明日を拓く』第77・78号(東日本部落解放研究所)
●『水と村の歴史』第24号(財 信州農村開発史研究所)
●『キリシタン文化』第133号(キリシタン文化研究会)
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