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「人権教育のための国連10年」長崎市行動計画



はじめに

 平成6年(1994年)の第49回国連総会で、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とすることが決議され、世界各国で積極的に取り組まれています。
 本市では、平成元年(1989年)に制定した「長崎市民平和憲章」や平成11年(1999年)に宣言した「ながさき男女共同参画都市宣言」の趣旨を生かし、お互いの人権を尊重し、差別のない思いやりにあふれた明るい街づくりに努めるとともに、世界の人々に恒久平和の尊さを発信してきました。
 しかし、社会の複雑化、国際化、情報化、高齢化、個人の権利意識の高揚、価値観の多様化などに伴い、社会の基本的なルールである人権の確立や様々な人権に関する課題の解決は、ますます肝要となっています。
 《平和の希求と人権の尊重》を基本構想の基本理念の一つに掲げる本市の人権問題に関わる姿勢を明らかにし、具体的な施策の方向性を示すものとして、このたび、「人権教育のための国連10年」長崎市行動計画を策定しました。
 今後は、この計画を指針として、市民一人ひとりが「人権の世紀」を真に幸せで豊かに生きることができる社会の実現に向けて努めてまいりますので、一層のご理解、ご協力をいただきますようお願い申し上げます。
 また、この行動計画の策定に当たり、長崎市人権教育推進懇話会の委員の皆様をはじめ、多くの皆様に貴重なご意見をいただきましたことを厚くお礼申し上げます。

  平成13年(2001年)3月

「人権教育のための国連10年」長崎市推進本部
本部長 長崎市長   伊 藤 一 長


目次

T 行動計画の策定に当たって
 1 行動計画策定の背景
  (1) 国際的な動向
  (2) 国の動向
  (3) 長崎県の動向
 2 長崎市の取り組み
  (1) 目標
  (2) 基本方針
  (3) 性格
  (4) 体系図
U 人権問題の現状
 1 女性に関する問題
 2 子どもに関する問題
 3 高齢者に関する問題
 4 障害者に関する問題
 5 同和問題
 6 外国人に関する問題
 7 感染症患者等に関する問題
 8 様々な人権問題
V 人権と平和
 1 人権尊重と平和
 2 被爆都市としての取り組み
W 人権教育の推進
 1 あらゆる場における人権教育の推進
  (1) 学校等における人権教育
  (2) 社会教育における人権教育
  (3) 団体・企業等における人権教育
 2 特定職業従事者に対する人権教育
  (1) 市職員に対する人権教育
  (2) 教職員に対する人権教育
  (3) 消防職員等に対する人権教育
  (4) 医療関係者に対する人権教育
  (5) 福祉保健関係者に対する人権教育
 3 メディアを活用した情報の提供
 4 国、県及び関係団体との連携
 5 国際協力の推進
X 行動計画の推進
 1 計画の推進
 2 計画の期間
 3 計画の見直し


資料
1 長崎市民平和憲章
2 ながさき男女共同参画都市宣言
3 「人権教育のための国連10年」長崎市推進本部設置要綱
4 長崎市人権教育推進懇話会設置要綱
5 人権問題に関する公的相談窓口一覧表


T 行動計画の策定に当たって

1 行動計画策定の背景
(1) 国際的な動向
 人類は20世紀に二度の世界的な戦争を体験し、そこで戦争がいかに人権を侵害するものか、また、平和がいかに大切かを学び、その反省と平和を願う世界各国の取り組みにより、昭和20年(1945年)に国際連合(国連)が結成されました。さらに昭和23年(1948年)には、人権を守っていくために、すべての人とすべての国とが達成すべき共通の課題として、「世界人権宣言」を採択しました。しかしながら、世界の各地では、宗教的な対立や民族の違いなど、様々な理由で地域紛争が続いています。
 そのような中で、平成5年(1993年)にウィーンにおいて、これまでの人権活動の成果を検証し、人権社会を確立するため、世界人権会議が開催されました。この会議では、人権が国際社会の指導原理であり、様々な問題の解決には、人権意識の徹底と人権教育が不可欠であることを確認し、国連に対し人権高等弁務官の設置と、人権教育の取り組みを求めることを提唱しました。
 このような流れを受け、平成6年(1994年)12月の第49回国連総会において、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を、「人権教育のための国連10年」とすることが決議され、世界各国に対して、人権教育を積極的に推進するよう求めました。

 国連の「人権教育のための国連10年」で示されている人権教育とは、「教育、研修、宣伝、情報提供を通じて、知識や技能を伝え、態度を育むことにより、※人権文化を世界中に築く取り組み」とされ、次のことを目指しています。
@ 基本的人権の尊重を一層強化すること。
A 個性を全面的に開花させ、人間の尊厳を大切にする心を十分に育てること。
B すべての国家、国民、先住民、及び人種、民族、種族、宗教及び言語集団間の相互理解と寛容、ジェンダーの平等及び友好を促進すること。
C すべての個人が自由な社会に効果的に参加できるようにすること。
D 平和を守るための国連の活動を促進すること。
 また、「人権教育のための国連10年行動計画」では、人権教育を推進するうえで特に重点をおくべき対象者として、女性、子ども、高齢者、少数者、難民、先住民、極貧の人々、HIV感染者など、社会的に弱い立場に置かれる人々あげています。
 さらに、公務員や教職員など、人権尊重の社会の実現に影響を与える立場にある人の研修についても、特別な注意を払うべきであるとしています。

※人権文化
  日常生活の中に人権が定着し、守られている状態をいいます。

(2) 国の動向
 我が国の憲法は、すべての国民に、生命・自由及び幸福追求などを現在だけでなく、将来にわたって保障されるべき権利と見なし、基本的人権の尊重と擁護を図るための諸施策が推進されてきました。
 このような中、第49回国連総会の決議を受け、政府は平成7年(1995年)12月、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年」推進本部を設置し、平成9年(1997年)7月、国内行動計画を策定・公表しました。
 この行動計画の中で、我が国は、国際社会の重要な一員として、枢要な責務を負っていかなければならないこと。さらに、国内的には国際化やボーダレス化(国境のない社会)が進む中で、多様性を容認していくことなど、新たな視野にたった教育・啓発が必要であるとし、学校教育、社会教育などあらゆる機会をとおして、人権教育の推進を図るとしています。また、特定の職業に従事する者に対する人権教育も推進するとしています。さらに、人権教育の推進に当たっては、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人など、重要課題に積極的に取り組むとしています。
 国は、この国内行動計画に掲げられた諸施策を通じて、人権教育の積極的な推進を図り、国際的視野に立って一人一人の人権が尊重される真に豊かで、ゆとりのある人権国家の実現を期するものとしています。
 また、平成9年(1997年)3月に「人権擁護施策推進法」が施行され、同法に基づき設置された「人権擁護推進審議会」から、平成11年(1999年)7月に、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」の答申が出されるとともに、現在「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について」の審議が、平成13年(2001年)夏の最終答申に向けて進められています。
 さらに、人権尊重の認識の高まりや社会的身分、門地、人種、性別等による不当な差別をなくし、人権擁護に資するため「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が平成12年(2000年)12月施行されました。

(3) 長崎県の動向
 国内行動計画に示された人権教育の基本的な考え方に沿って、人権教育を「県民一人一人が人権に関する人権に関する正しい知識を習得し、自分で考え判断し話し合って問題を解決する技術・技能を培い、これを日常の態度として身につけるための教育、また、すべての県民がその生涯にわたって参加できるよう、あらゆる場・あらゆる機会をとらえて行われるものである。」とし、国際的潮流や国内行動計画の推進と協調して積極的に推進するため、県知事を本部長とする「人権教育のための国連10年」長崎県推進本部を平成10年(1998年)1月設置し、平成11年(1999年)5月長崎県行動計画が策定・公表されました。
 この行動計画の中で、県民一人一人が心のなかに人権の尊さを常に思い、人権が十分に認められていない人の痛みを見過ごさない姿勢などを学び、「温もりと心の豊かさが実感できる社会の実現」を目指して、市町村、関係機関、県民と一体となって、この行動計画を推進していくとしています。

2 長崎市の取り組み
 本市は、平成11年(1999年)12月に市長を本部長とする「人権教育のための国連10年」長崎市推進本部を設置し、人権教育・啓発を総合的かつ効果的に推進するために長崎県行動計画を策定することにしました。
 行動計画の策定に当たっては国連・国・県の行動計画等で示されたように、

@  「世界人権宣言」の〈自由・尊厳と権利の平等〉や「日本国憲法」の〈基本的人権の尊重〉及び、「人権教育のための国連10年」の〈人権教育〉の意義や価値について、理解を深めることを基本に取り組みます。

 また、本市が人権問題やそれらに関連する諸問題の中で、重要課題として取り組んでいる次の3項目を基本に加え、「人権教育のための国連10年」を推進していきます。

A  本市の歴史の中で培われてきたい文化との共生性を生かした国際交流と国際協力の取り組み。
B  被爆の教訓から「人権の尊重こそ平和の礎」の認識にたった恒久平和への取り組み。
C  「長崎市民平和憲章」や「ながさき男女共同参画都市宣言」の趣旨を生かした街づくりの取り組み。

(1) 目標
 人権については、「日本国憲法」や「世界人権宣言」などで表明され、その普及には、各方面から様々な取り組みがなされています。
 人権が尊重されなければならないということは、誰も異論のないところですが、私たちの日常生活の中では、まだ十分に認識され、守られているとは言えない状況にあります。
 本市は、基本構想(平成13年度から平成22年度まで)の基本理念の一つとして、〈平和の希求と人権の尊重〉を掲げています。
 この『人権』と『平和』は、先人たちが長い歴史の中で、幾多の困難を乗り越えて、私たちに手渡してくれたものです。このかけがえのない『人権』と『平和』を、私たちの社会にしっかり根付かせ、後世の人たちに「文化」という形にして残していけるように立派に育てていくことが必要です。
 とりわけ、「人権教育のための国連10年」の取り組みでは、すべての人々が人権問題を正しく理解し、認識を深めることで社会全体の人権意識の高揚を図り、日常生活の中で、人権尊重の態度を習慣として身に付けて実行していける社会の実現を目指します。

(2) 基本方針

@  人権問題を生涯学習のテーマとして家庭、地域、学校、職場などあらゆる場で、市民が身近な問題として取り組むことができるような機会の提供に努めます。
A  人権問題を自らの問題としてとらえ、人権感覚を持って行動する態度を身に付けるような研修・啓発に努めます。
B  様々な人権問題について、個別に理解するとともに、人権全般にわたる総合的、体系的視点で対応できる研修・啓発に努めます。
C  市民と行政の連携のもとに効果的な人権教育を推進します。
D  未来を担う子どもたちの人権尊重の心と態度を育成し、社会全体で子どもたちを健やかに育む人権教育を推進します。
E  豊かな国際感覚と人権意識の高い人材の育成を図り、共生社会の形成に努めます。

(3) 性格

@  この行動計画は、「人権教育のための国連10年」国連行動計画、国内行動計画及び長崎県行動計画を踏まえ、本市が今後実施すべき人権教育について、具体的施策の方向性を示すものである。
A  この行動計画は、長崎市基本構想の基本理念の一つである〈平和の希求と人権の尊重〉と併せて、本市が実施する諸施策に対する人権分野の基本計画です。
B  今後は、この行動計画の趣旨を踏まえ、すべての部局が連携して諸施策の点検を行い、また、施策の推進に当たっては、人権の視点に十分配慮しながら取り組みます。
C  この行動計画は、市職員や教職員などはもとより、市民一人ひとりが人権尊重の精神を培うため、団体、企業、関係機関等に対し、この行動計画の趣旨に沿った、自主的な取り組みができるよう求めていきます。
D  この行動計画の目標年次は、平成16年(2004年)とし、人権教育を広く普及させる取り組みをしていきます。

(4) 体系図(省略)

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U 人権問題の現状

 「長崎市民平和憲章」の中で、「私たちは、お互いの人権を尊重し、差別のない思いやりにあふれた明るい社会づくりに努めます。」とし、人権の尊重と差別の解消をうたっています。
 人権を侵害されてきた人々の心の痛みを理解し、その思いに近づくことができるような豊かな感性を培い、人権をさらに身近なものとしてとらえ、差別のない心豊かな社会を築いていくことが求められています。
 私たちの周囲には、日本固有の人権問題である同和問題をはじめ、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人等の人権問題があります。
 21世紀を〈人権の世紀〉とするためには、速やかにこれらの問題の解消に努めなければなりません。

1 女性に関する問題
(1) 経過
 昭和50年(1975年)、国際連合が提唱した「国際婦人年」に、女性の地位向上のための行動を促す「世界行動計画」が策定され、その後、昭和54年(1979年)には、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」が採択されました。
 平成7年(1995年)、北京の世界女性会議で採択された「行動綱領」は、「女性のエンパワーメント(力をつけて周囲に影響をあたえること)に関するアジェンダ(予定表)」と位置付けられ、「女性の権利は人権である」と宣言されました。
 また、平成12年(2000年)6月、ニューヨークで開催された国連特別総会「女性2000年会議」においては、女性の人権をどう守るかが協議され、21世紀に向けて取り組むべき政策指針及び具体策の中で、特に「女性への暴力の根絶」は、各国の最優先課題として位置付けられました。
 国内では、昭和50年(1975年)、「世界行動計画」をうけて、「婦人問題企画推進本部」が設置され、昭和52年(1997年)には、今後10年間の女性問題解決のための施策である「国内行動計画」が策定されました。
 このような取り組みは、国連を中心とした〈平等・開発・平和〉という目標達成と歩調を合わせて進められました。
 さらに、父母両系血統主義を取り入れた「国籍法」の改正や「男女雇用機会均等法」の制定など国内法が整備され、昭和60年(1985年)には、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」を批准しました。また、北京会議の「行動綱領」の実施に向け、平成8年(1996年)には「男女共同参画2000年プラン」を策定し、21世紀初頭に向けての政策の方向性を明らかにしました。
 本市においては、昭和60年(1985年)に、女性の地位向上と福祉の増進を図るための施策について広く意見を聴取するため、「婦人問題懇話会」を設置しました。そして、女性の社会進出が一段と進む中で、高齢化社会の到来や産業構造の変化に伴い、家庭・職場・地域など社会のあらゆる分野に女性と男性が平等に参画し、男女がともに支え合える社会システムの構築が求められる中、平成6年(1994年)には「あじさい男女平等推進プラン」を策定し、これを、男女共同参画社会の実現を目指すための「行動計画」と位置付け推進に努めてきました。

(2) 現状と課題
 平成5年(1993年)12月に国連総会で採択された「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」では、「女性がすべての人権及び基本的自由の平等な享受と保護を受ける権利」を有することが定められ、従来の、〈男女平等〉や〈女性差別の撤廃〉をめざして取り組まれてきた運動論の強調点が、差別撤廃から個人の尊重へと移行してきました。
 女性の人権を侵害するものとして、ドメスティック・バイオレンス(夫や親密な関係にあるパートナーからの暴力)やセクシャル・ハラスメント(性的な嫌がらせ)などが、大きな社会問題となっています。
 また、長い歴史の中で、深く根付いている男女の固定的役割分担意識や社会制度・慣行が女性の活動の場の選択に影響を及ぼしています。
 平成11年(1999年)6月に施行された「男女共同参画社会基本法」では、男女の人権が尊重され差別的取扱いを受けない男女共同参画社会の形成が緊要な課題とされています。

(3) 具体的施策の方向
 本市においては、人権尊重の理念を社会に深く根付かせ、真の男女平等社会の達成を目指して、平成11年(1999年)9月に「ながさき男女共同参画都市宣言」を行うとともに、平成13年(2001年)には、現在の「あじさい男女平等推進プラン」を改定する予定にしています。
 この新しいプランには、

@  女性に対するあらゆる暴力の根絶
A  メディアにおける女性の人権の尊重
B  生涯を通じた健康支援
C  家庭・地域・学校における※ジェンダーフリー教育の推進

などを軸に、あらゆる女性の人権が推進・擁護される社会の形成に向けての施策を盛り込んでいく予定です。
 男女共同参画計画の究極の目的は、男女の人権が尊重され、かつ、社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会の実現です。
 そのために、男女が社会の対等な構成員として、自らの意志によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が保障され、男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を等しく享受でき、かつ、共に責任を担うべき社会の実現を目指していきます。

2 子どもに関する問題
(1) 経過
 平成元年(1989年)、国連において「児童の権利に関する条約」が採択され、我が国も平成6年(1994年)に批准しました。この条約は、18歳未満のすべての児童について、その福祉に必要な保護及び養護を確保し、子どもが一人の人間としての尊厳をもって生きていくための権利を総合的に保障したものです。

(2) 現状と課題
 家庭や社会の協力体制に起因する子育てと仕事の両立の困難さや晩婚化、結婚しても子どもを必要としない若い世代の増加など、多岐にわたる要因により少子化の進行は顕著となり、高齢化とともに大きな社会問題となっています。また、核家族化、地域の都市化が進む中で、家庭や地域社会の教育力も低下し、子どもと家庭を取り巻く環境は大きく変化しています。
 こうした中で、過保護、過干渉といった問題が生じる一方で、保護者による育児放棄、子育て不安からくる子どもへの虐待など、過去には見られなかったような新たな問題も発生しています。
 このような状況下にあって、「児童福祉法」は50年ぶりの大幅改正がなされました。改正法は平成10年(1998年)4月から施行され、平成12年(2000年)11月には、「児童虐待の防止等に関する法律」が施行されました。
 また、市内の小・中学校においてのいじめは、平成7年(1995年)をピークに減少傾向にありますが、不登校は平成6年(1994年)の調査開始から、いったんは減少したもののその後は増加傾向にあります。
 このほか、買春行為や覚せい剤等の薬物の提供などの大人の行為が、子どもたちの心身をむしばむといった社会現象も生じています。

(3) 具体的施策の方向
 本市では、平成10年(1998年)に「長崎市子育て支援計画」を策定し、行政、企業、地域社会など社会全体で総合的に、子どもが心身ともに健やかに育つ社会づくりを目指しています。その実施に当たっては、「児童の権利に関する条約」の趣旨に沿って、子どもの最善の利益を考慮し、子どもの人権に十分配慮しながら施策を推進しています。
 地域の子育ての拠点としての保育所(幼稚園)の事業拡大に努め、保育所(幼稚園)の乳幼児やその保護者のみならず、家庭で子育てをしている保護者に対しても施設開放、体験学習、子育てカウンセリング等をとおし、子どもの人権についての啓発に努めていきます。
 「保育所保育指針」の目標に掲げる「人権を大切にする心を育てる保育」をさらに推進するため、一人ひとりの子どもの特性や発達、家庭や地域の実情に応じた適切な保育を実施することにより、自主性、協調性、社会性の芽生えを培うとともに、人に対する愛情と信頼感、人権を大切にする心を育てる保育を実施していきます。
 また、人権を大切にする心を育てる保育を適正に行うため、あらゆる機会を通じて、保育士等の職員が人権問題について正しく理解し、認識を深めるための研修に努めるとともに、児童福祉課に設置している家庭児童相談室と県の児童相談所をはじめ、 保健、医療、教育等の関係機関とも連携を密にし、相談指導業務の充実を図っていきます。
 幼稚園や学校においては、すべての子どもたちが安心して登校し、教育を受ける権利が保障されるようにすることとあわせ、〈明るい学校づくりを目指す対話集会〉や〈子ども議会の実施〉などを通じて、「児童の権利に関する条約」の趣旨の啓発に努めます。
 また、幼稚園・学校教育においては、学校生活全般の中で指導・啓発を行うとともに、専門相談機能等の充実・強化を図っていくためスクールカウンセラー、心の相談員を配置しています。
 このほか、各学校現場や市少年センターにおける教育相談業務も引き続き行うなど、人権意識の高揚と人権教育の推進に努めていきます。

3 高齢者に関する問題
(1) 経過
 我が国は、世界に例を見ない速さで高齢化が進行しており、今後も出生率の低下や平均寿命の伸長によって高齢化率は更に上昇し、平成12年(2000年)に世界の最高水準(17%台)となり、21世紀初頭には世界のどの国もこれまで経験したことのない、本格的な高齢社会が到来するものと予測されています。
 本市は、全国平均を上回る形で高齢化が進行しており、平成12年(2000年)に18.9%となり、今後も国の高齢化率を上回る水準で推移すると予想しています。
 この人口の高齢化を高齢者だけの問題としてとらえるのではなく、すべての市民が高齢社会を自己の問題として理解し、認識を持つことが必要です。
 このため、これまでの保健・医療・福祉を中心とした施策から、教育・経済・雇用・住宅等を含めた幅広い視野にたった対応をしていくために、平成3年(1991年)3月、「市民一人ひとりが長寿を喜び合い、心豊かなふれあいに満たされ、いきいきとした人生を築いていくことのできる生活の場“長崎”をめざして」を目標に、総合的に各種施策を推進するための指針として「長崎市長寿社会対策指針」を策定し、推進を図ってきました。
 平成5年度(1993年度)には、平成11年度(1999年度)までを計画期間とする「長崎市老人保健福祉計画」を策定し、いつでも、どこでも、だれでも必要な保健福祉サービスを利用できるようなサービスの供給体制の整備を推進してきました。

(2) 現状と課題
 現在、本市では65歳以上の高齢者のいる世帯のうち、約半数が高齢者単身世帯や高齢者夫婦のみの世帯であり、また、高齢者のうち、特に75歳以上の後期高齢者の伸びが大きくなることが予測されており、今後、寝たきりや痴呆老人の増加と相まって、家族で支えきれない要介護(援護)高齢者が増加していくことが予測されております。
 このようなことから、介護を社会全体で支えることなどを目的に、平成12年度(2000年度)から介護保健制度が導入されましたが、この制度は、介護サービスを契約によって利用する制度であるため、自分で利用することのできない高齢者、例えば、痴呆性高齢者の方々の介護を受ける権利をどのようにして援護していくのか、という問題が指摘されています。
 さらに、高齢者の財産管理や遺産相続に絡むトラブルや、老人虐待などの人権侵害の問題も発生しており、高齢者の人間としての尊厳の確保、プライバシーの保護など制度上の課題も生じております。
 国においては、これらに対応するため、平成12年(2000年)に民法の改正を行い、痴呆性の高齢者に対しても本人の自己決定権を尊重しつつ、保護の充実を図ることを目的として、成年後見制度を拡充しました。
 これを受けて、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等に対して、福祉サービスの利用援助等を行う地域福祉権利擁護事業が、平成12年度(2000年度)から長崎市社会福祉協議会で実施されています。

(3) 具体的施策の方向
 平成12年度(2000年度)から介護保健制度が新たに導入されたこと、また、現行の「長崎市老人保健福祉計画」が平成11年度(1999年度)までの計画であることから、老人保健福祉計画と介護保健制度の事業計画との整合性を図るため、平成12年度(2000年度)を初年度とする、「長崎市老人福祉計画・介護保健事業計画」を策定しました。この計画は平成11年(1999年)、国連で決議された「国際高齢者年」での「すべての世代のための社会を目指して」を基本において、高齢者の〈自立〉〈参加〉〈ケア〉〈自己実現〉〈尊厳〉の五原則を基本理念として次の施策を推進することにしました。

@  自立
 介護保健サービスやその他の保健・医療・福祉サービスの利用の促進に努め、可能な限り支度において、私立下生活を送れるよう支援します。
A  参加
 高齢者の豊富な経験と知識は、社会の貴重な財産であり、その積極的な活用を図るため、元気な高齢者が主体的に社会参加できるような環境の整備に努めます。
B  ケア
 自己の意思に基づいて、介護保健制度を含む保健・医療・福祉サービスを利用できる機会を提供します。
C  自己実現
 自己の可能性を発展させ、社会の教育的・文化的・精神的資源を利用できるよう推進します。
D  尊厳
 いかなる場合も公平に扱われ尊重される社会を目指します。

4 障害者に関する問題
(1) 経過
 障害者(身体障害者、知的障害者、精神障害者)の人権について、平成5年(1993年)に制定された「障害者基本法」では、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」とともに、「社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるもの」と規定されています。
 国においては、平成5年(1993年)3月に「障害者対策に関する長期行動計画」を決定し、「ライフステージのすべての段階において全人
間的復権(権利の回復、獲得)を目指す〈※リハビリテーション〉と、「障害者が障害のないものと同等に生活し、活動する社会を目指す〈※ノーマライゼーション〉」の理念の下、すべての人の参加によるすべての人のための平等な社会づくりを推進していくこととしており、さらに、その重点施策実施計画として、平成7年(1995年)に「障害者プラン」を策定し、7つの視点から総合的、横断的に取り組み、関係省庁が連携協力して施策を効果的に推進していくこととしています。
 長崎県では、平成7年(1995年)3月に「長崎県障害者福祉に関する新長期行動計画」を策定し、その重点施策実施計画として、平成9年(1997年)3月に「長崎県障害者プラン」を策定しました。
 本市においても、こうした国、県の動きを受けて、平成8年(1996年)4月に「長崎市障害者福祉に関する新長期行動計画」を策定し、さらに、本市独自の施策等について数値目標を掲げ、障害者施策の総合的な推進を図るために、平成10年(1998年)3月に「長崎市障害者プラン」を策定しました。

(2) 現状と課題
 平成8年(1996年)から平成17年(2005年)までの10箇年の本市の障害者施策の基本となる「長崎市障害者福祉に関する新長期行動計画」では、「障害のある人もない人も共に平等に生活していくことが通常の社会である」という理念のもとに、障害者の自立と社会参加の促進を図ることを目標としています。
 住みよい平等な社会を実現するためには、社会を構成するすべての人々が、同等の権利をもっていることを正しく理解することが大切です。
 本市では、障害及び障害者に対する理解と認識を深めるため、学校教育の場や各種福祉行事などを通じて、啓発活動を展開しています。
 障害者福祉に対する市民の理解と協力は、様々な施策を講じていくうえでの社会的基盤となるものであり、障害者の問題をすべての人々の問題と考え、正しい理解に基づいた行動がとれるよう今後も啓発活動を進めていく必要があります。

(3) 具体的施策の方向
 「長崎市障害者福祉に関する新長期行動計画」に基づく、「長崎市障害者プラン」では、心のバリアを取り除くために、次の項目に取り組んでいます。 

@  障害者への理解を深めるための教育の推進
 障害や障害者に対する理解を深めるためには、早い時期からの障害者との交流が大切です。
 そのために、市内の小・中学校において、特殊学級、養護学校との交流教育を実施し、障害者に対する正しい理解と認識を深めていくよう努めます。
A  ボランティア活動の振興等
 障害者に対するボランティア活動は、障害者の社会参加を進めるうえで不可欠なものであり、また、市民の障害者への関心と理解を深める意味でも大きく寄与するものと思われます。
 そのため、ボランティア活動への関心を高め、参加を広めるための活動への支援に努めます。
B  啓発活動の推進
 障害や障害者に対する理解を深めるために、「障害者の日」(12月9日)や「障害者週間」(12月3日から12月9日)等の様々な取り組みが行われています。
 障害者の社会復帰や社会参加を推進するうえからも、一人でも多くの人に考える機会を持っていただくように、市民への啓発活動に努めます。

 この「長崎市障害者福祉に関する新長期行動計画」を具体的に推進するため、

 障害者が地域で共に生活するための施策
(ア)住まいや働く場や活動の場の確保
(イ)総合的な相談・支援体制の整備
(ウ)社会参加の推進
 社会生活を促進するための施策
(ア)障害のある子どもたちに対する教育の充実
(イ)法定雇用率達成のための雇用対策の推進
 ※バリアフリー化を推進するための施策
(ア)歩行空間の整備の推進
(イ)移動・交通対策の推進
(ウ)建築物の整備

 など、各種施策の推進を図りながら、総合的な観点から障害者の人権が尊重される社会の実現に取り組んでいきます。

※リハビリテーション
  社会復帰療法。
※ノーマライゼーション
  高齢者も若者も、障害者もそうでないものも、すべて人間として普通の生活を送るため、ともに暮らし、ともに生きぬくような社会を築いていく考え方。
※バリアフリー化
  高齢者や障害のある人などが、社会参加するうえで、不便である障害となるものを取り除くこと。

5 同和問題
(1) 経過
 同和問題は、我が国固有の人権問題で、憲法第11条で保障されている基本的人権が侵害され、市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題です。
 国においては、内閣総理大臣の諮問機関として昭和35年(1960年)同和対策審議会を設置し、同審議会に「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本方策」について諮問し、昭和40年(1965年)答申が出されました。それによると、「いうまでもなく同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる問題である。したがって、これを未解決に放置することは断じて許されないことであり、その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」との答申がなされました。
 この答申を受けて国は、昭和44年(1969年)「同和対策事業特別措置法」、昭和57年(1982年)「地域改善対策特別措置法」、昭和62年(1987年)「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)」を施行してきました。なお、「地対財特法」は平成4年(1992年)に5年間の延長、平成9年(1997年)には事業を縮小して、さらに5年間の延長がなされています。
 この間、本市においては、昭和49年(1974年)に同和問題について連絡調整と運営を円滑に行うことを目的として、庁内に「長崎市同和問題協議会」を設置しました。また、昭和53年(1978年)には組織拡大を図り、同和対策室を設置し、生活環境の整備事業等に着手し、現在では物的な基盤整備はおおむね完了しました。
 学校や地域においては、同和教育の重要性から昭和53年(1978年)「長崎県同和対策基本方針」が策定されました。これを受けて本市教育委員会は、昭和54年(1979年)「長崎市立学校における同和教育の推進に関する基本的な考え方」をまとめ、あらゆる学校教育活動の中に、人権尊重の精神が生かされるよう各学校に示すとともに、社会教育施設においても様々な形で啓発活動の充実を図ってきました。
 また、平成元年(1989年)に制定した、「長崎市民平和憲章」では、「私たちは、お互いの人権を尊重し、差別のない思いやりにあふれた明るい社会づくりに努めます。」と宣言し、人権の尊重と差別の解消に努めてきました。

(2) 現状と課題
 地域改善対策協議会が平成8年(1996年)、「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的なあり方について(意見具申)」の中で指摘しているように、これまでの対策により、住宅・道路等の生活環境をはじめ、様々な面で存在していた格差は大きく改善され、差別意識の解消に向けた教育・啓発も創意工夫のもとに推進されてきました。
 しかい、依然として存在している差別意識の解消、人権侵害による被害の救済等への対応、教育・就労・産業等の面でなお存在している格差の是正、差別意識を生む新たな要因を克服するための施策などが必要であるとしています。
 学校においては、毎年同和教育の全体計画を作成し、年間をとおして計画的に教職員の研修や授業研究、児童・生徒への指導を行うとともに、本市教育委員会においても、教職員や市民対象の研修会等を実施し、各種啓発資料を作成・配布するなどの事業を行ってきました。しかし、同和問題に関わる差別事象は依然として発生しています。
 また、平成5年(1993年)本市が実施した「人権と同和問題についての意識調査」によると、「同和問題について知っている」と回答した人は61.1%で、全国と比較しても、本市が13.7%低くなっています。
 このように本市での認識が低い理由としては、同和地区が少数であることや同和教育・啓発の立ち遅れなどから、同和問題を知る機会が少なかったことなどが考えられます。

(3) 具体的施策の方向
 同和問題の解決のために、同和教育・啓発活動の果たす役割は極めて大きく、これまで様々な手法で施策の推進を図ってきました。しかしながら、依然として存在している差別意識の解消に向けた同和教育・啓発活動は、引き続き積極的に推進していかなければなりません。さらに今後は、これまでの同和教育や啓発活動で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・啓発として発展的に再構築すべき時期にあると考えています。その中で、あくまで同和問題を人権問題の重要な柱としてとらえ、市民、市民団体、企業などの自主的な取り組みに対し助言や支援を行い、啓発に当たっては、具体的で親しみやすい課題を取り上げ、共感を得られるような工夫をしていきます。また、教職員や保護者、地域住民の認識を深めていくため、法務局・人権擁護委員連合会及び本市周辺自治体で組織する長崎地域人権啓発活動ネットワーク協議会をはじめ、関係機関とも連携を強化しながら、一人ひとりが同和問題を自分の問題としてとらえていくような啓発活動を展開していく必要があります。
 その啓発活動として、

@講演会の開催
A市民、市民団体、企業などの人権・同和問題研修会の助言・支援
B人権キャンペーン、事件街頭パレードによる啓発活動
C人権啓発ビデオの放映、電光掲示板による人権メッセージの表示
D広報紙による人権・同和問題特集号の作成
E人権啓発リーフレットの作成

 などの方法により、教育・啓発の充実強化に努めていきます。

6 外国人に関する問題
(1) 経過
 本市では、元亀2年(1571年)のポルトガル船入港以来数十年間、ポルトガルや中国の人々との市内混住により、対等な関係でごく自然な付き合いが行われてきました。鎖国時代には、外国の文化・情報が出島を唯一の窓口としてもたらされ、吾が国の近代化に大きな役割を果たしました。
 また、開国後も諸外国との交流が活発に行われ、友好的に共生することで異文化間の交流が深まり、独自の国際性が培われてきました。
 一方、我が国では、明治時代以降、近代化政策や度重なる戦争をとおして、アジア諸国民に対する差別や偏見が形成され、本市においても、同様な状態があったことは否めません。
 このようなことに対する歴史認識と外国人を受容してきた本市民の特性は、国際化する社会情勢の中で人権尊重を図るうえで大きな礎となっています。

(2) 現状と課題
 本市在住外国人は、2,390人(平成12年12月31日現在外国人登録人口)となっており、中国をはじめアジア諸国と隣接した位置にあることから、今後も在住外国人をはじめ、本市への外国からの観光客も一層増加する傾向にあり、市民が外国人と接する機会も増えてきています。
 そのような状況の中で、外国人への民間賃貸住宅への入居拒否、留学生へのアルバイト拒否など、様々な人権問題も発生しています。
 政治、経済、社会などすべての分野でボーダレス化、グローバル化(国境を越え、全世界的な考え方でとらえる)が進み、国際的な関わりが増大する中で、自治体としては、住民に密着した行政として、外国人とともに暮らす街づくりの中心的役割を担う必要があります。
 本市は、長い歴史の中で培われてきた長崎独自の国際性を継承しながら、さらに、次代にふさわしい国際感覚を身に付けた人材の育成を、市職員はもとより、市民にも広める取り組みが必要です。

(3) 具体的施策の方向
 本市では、21世紀にふさわしい国際交流及び国際協力の取り組みについての指針と具体的な事業を推進することを目的として、平成9年(1997年)3月、「長崎市国際化推進計画〈世界の長崎・地球市民〉」を策定しました。その基本理念として「誇れる長崎〜国際性に目覚める〜」を掲げ、

@  世界の交流拠点・アジアへの窓口長崎
A  平和に貢献する長崎
B  異文化を受入れ人々が集う長崎

の3つを基本方向に定めて、人的・物的面での国際協力の推進、世界平和への貢献に努めています。具体的には、

@  国際化の推進として
 市民意識の向上と人材育成(公民館等における国際交流・国際理解講座)
 青少年の海外派遣事業の充実
 帰国子女の受入体制の充実等
 外国人にも住みよい街づくり(外国語説明書の配布、外国語版生活読本の作成)
 地球市民ひろばの充実
 初級日本語講座の継続
 市政への参加機会の拡充等
A  国際化に対応した教育の推進として
 夏休みの子ども講座の拡充
 外国語指導助手等の活用促進
 海外の学校との交流推進の拡充

等を推進しています。

7 感染症患者等に関する問題
(1) 経過、現状と課題
 私たちの意識の中には、天然痘、チフス、ハンセン病、結核、梅毒等、いわゆるうつる病気に対する漠然とした不安があり、これらのうつる病気に対しては、隔離等により社会的に防衛することで対処してきました。
 科学の発達により、個々の感染症に対する解明が進んだ現在でも、この意識は完全に払拭されていない状況です。
 エイズをはじめ、あらゆる感染症に対して、これまでの強制的な隔離や排除といった対処が、人権侵害につながるという考え方から患者やその家族と共に生きる共生型の考え方に変わってきています。
 平成11年(1999年)4月には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されました。この法律では、感染の予防と医療の提供を車の両輪として位置付けるとともに、あらゆる感染症患者やその家族等に対する偏見や差別の解消及び人権の尊重が法の理念とされています。
 本市においても、この法律の趣旨に沿って学校教育等において、あらゆる感染症に対する正しい知識を育て、偏見を除く教育活動を行っていますが、今後はさらに、市民への広がりを持った啓発が必要です。

(2) 具体的施策の方向
 あらゆる感染症患者やその家族等に対する偏見や差別をなくしていくためには、正しい知識と理解を深めていくことが最も重要であることを踏まえて、あらゆる機会を通じて次のような普及・啓発活動を進めていきます。

@  事業所、学校教育の場をとおして疾病に関する正しい知識の普及、感染予防の知識の普及・啓発活動に積極的に取り組みます。
A  市の広報媒体をはじめ、医療関係団体等あらゆるルートを通じて普及・啓発活動に取り組みます。
B  専門的知識に基づく医療・社会福祉、心理的支援等の相談体制の充実に努めます。
C  関係者との意見交換会などの開催等による適切な施策の検討を図ります。

8 様々な人権問題
(1) 現状と課題
 これまで説明してきた人権問題のほか、刑を終えて出所した人、犯罪被害者、アイヌの人々、同性愛者の人権問題や職業に関する差別など、様々な人権問題があります。
 これらは、偏見や差別、中傷やうわさ話、歴史・民族・伝統に対する理解と認識不足に起因しています。また、日常生活の中で、科学的な根拠のないものを安易に受け入れる意識や態度は、様々な形で社会に存在し、差別を助長している一因と考えられます。
 近年の情報通信技術の進展やインターネットの普及により、世界中と瞬時に大量の情報交換が可能になるなど、私たちの生活も利便性が高くなっています。しかし、一方ではインターネットの開放性・公開制・匿名性に依拠したプライバシー侵害や誹謗中傷、様々な人権侵害問題を新たに引き起こしています。

(2) 具体的施策の方向
 固定的な先入観を排除し、一人ひとりが、これまでの考え方や見方を変えていくような、人権教育・啓発を推進していくことが必要です。
 そのためには、様々な人権問題についても、正しい理解と認識を持って、お互いの生き方・考え方を柔軟に受け入れる態度を培っていくとともに、人権尊重という普遍的な視点での教育・啓発が必要です。

 これまでややもすると、一つの価値観で判断し、少数者や自分(たち)と違った者を、排除しようとする意識がありました。
 しかし、これからは個性や違いを認め、お互いを尊敬し合いながら、自らの独立性と責任に基づいて判断し、行動する意識へと変革していくことにより、従来の意識に根ざした差別の問題は解消に向かうのではないでしょうか。
 また、この意識に人権感覚を加えて醸成していくためには、人権教育の推進をとおして、自らを変えていくことも大切です。


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V 人権と平和

1 人権尊重と平和
 戦争は、人権侵害の最たるものです。国連憲章はその前文において、20世紀中に2回にわたって言語に絶する悲しみを人類に与えた戦争の被害から、将来の世代を守ることをうたっています。また、昭和23年(1948年)に国連総会で採択された「世界人権宣言」には、世界の人々の人間としての尊厳と平等で、譲ることの出来ない権利を認めることが、自由・正義及び平和の基礎であると明記されています。
 長崎市は、「国際文化の向上を図り、恒久平和の理想を達成する」という、国際文化都市建設法(昭和24年「1949年」公布)の精神に基づいて、平和で明るく、住みやすい町の建設に努力してきました。そして長崎市民は、原爆被爆による苦しみと悲しみを乗り越えて、「核兵器による犠牲者は、私たちが最後であって欲しい」との願いを持って、核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を国の内外に訴えています。
 しかしながら、世界には、人類を何度も絶滅させる核兵器が存在しており、21世紀を核兵器のない世紀とするためには、世界の市民、NGO(非政府組織)との連携により、核兵器廃絶の国際世論を、さらに喚起しなければなりません。
 特に、被爆体験の風化が叫ばれる中、次代を担う青少年に原爆の恐ろしさと戦争の悲惨さを伝え、平和の大切さと命の尊さを、いかに教えていくかが重要な課題となっています。
 同時に、地域紛争、飢餓、貧困、人権抑圧、環境破壊など平和を脅かす諸問題を、市民一人ひとりが自分の問題として考え、対応していくことも求められています。
 また、学校、家庭、地域社会の日常生活の中で、お互いの違いを認め合い、思いやりと助け合いの心を育てることが、平和の第一歩であります。

2 被爆都市としての取り組み
(1) 経過
 昭和20年(1945年)8月9日午前11時2分、本市は広島市に続いて、原爆の被災を受けました。長崎のまちは一発の原子爆弾により一瞬にして廃墟と化し、当時の人口の3分の2にあたる15万人余りの人々が死傷しました、また、原爆でなくなった人たちの中には、中国人や朝鮮人、連合軍捕虜たちも数多く含まれていました。
 一方で、第二次世界大戦では、日本がアジア、太平洋の国々の人たちに、大きな苦痛と悲しみを与えたことを忘れてはなりません。
 そして、悲惨な体験をした日から半世紀以上が経った今もなお、毎年数多くの被爆者が原爆後障害のため亡くなったり、病気や老後の不安におびえる日々を送っています。
 被爆者は、戦後の復興期において、被爆による身体的・精神的苦痛に苦しみ、親族・友人を失った悲しみや心の傷を引きずりながら生きてきました。
 この間、国は昭和32年(1957年)に、「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」を、また、昭和43年(1968年)には、「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律」を制定し、被爆者の健康管理、医療及び福祉の向上を図ってきました。
 さらに、平成7年(1995年)には、高齢化の進行など被爆者を取り巻く環境の変化を踏まえ、恒久の平和を祈願するとともに、被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて国としての原爆死没者の尊い犠牲を銘記するため、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」を施行しました。

(2) 現状と課題
 戦争の悲惨さと原爆の恐ろしさを体験した長崎市民は、核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を訴え続けています。この訴えは、核兵器による悲劇が決して繰り返されないように、核兵器による犠牲は私たち長崎市民が最後であって欲しいという願いに基づいています。本市は昭和23年(1948年)から、毎年8月9日に原爆犠牲者慰霊平和祈念式典を行い、長崎市長が市民の平和の願いを込めた平和宣言を行っています。
 平成元年(1989年)3月、市制施行100周年の年に長崎市民の平和への誓いを新たにするため「長崎市民平和憲章」を制定しました。
 この憲章は次の5項目からなっています。

1 私たちは、お互いの人権を尊重し、差別のない思いやりにあふれた明るい社会づくりに努めます。
1 私たちは、次代を担う子供たちに、戦争の恐ろしさを原爆被爆の体験とともに語り伝え、平和に関する教育の充実に努めます。
1 私たちは、国際文化都市として世界の人々との交流を深めながら、国連並びに世界の各都市と連帯して人類の繁栄と福祉の向上に努めます。
1 私たちは、核兵器をつくらず、持たず、持ちこませずの非核三原則を守り、国に対してもこの原則の厳守を求め、世界の平和・軍縮の推進に努めます。
1 私たちは、原爆被爆都市の使命として、核兵器の脅威を世界に訴え、世界の人々と力を合わせて核兵器の廃絶に努めます。
 私たち長崎市民は、この憲章の理念達成のため平和施策を実践することを決意し、これを国の内外に向けて宣言します。

 本市は、「長崎市民平和憲章」にうたわれている理念を達成するため、各種の平和事業を実施しています。
 しかしながら、被爆後半世紀以上が経過し、戦後生まれの世代が本市人口の7割に達し、被爆者が高齢化する中で、青少年に対する戦争体験、被爆体験の継承が平和行政の重要な課題となっています。
 また、世界では民族や宗教などの対立に起因する地域紛争が後を絶たず、さらには、飢餓、貧困、難民、人権抑圧、環境破壊等の平和を阻害する諸問題が山積みしています。
 本市としては、被爆都市の使命として被爆の実相を国の内外に伝え、核兵器廃絶の世論を世界に広げるとともに、戦争や地域紛争を防止し、平和を阻害する諸問題の解決のために、なすべき市民の役割を考える国際理解教育を推進し、市民のボランティア活動を奨励することも、今後の課題です。

(3) 具体的施策の方向
 本市は、古くから外国との交流を通じて発展してきた歴史的特性と、被爆体験に基づき核兵器廃絶を訴えている平和都市としての使命を踏まえ、「長崎市民平和憲章」を基本理念として、平和事業を推進していかなければなりません。
 戦争体験・被爆体験を継承するため、被爆体験講話、原爆映画・ビデオの上映、原爆資料館の見学などを通じて戦争の悲惨さ、原爆の恐ろしさ、平和の大切さ、人の命の尊さについて学ぶ平和学習を積極的に推進します。
 また、沖縄県、広島市をはじめとする全国の青少年との平和交流事業や児童・生徒向け原爆図書の発刊、平和宣言解説書の配布、平和ポスター・標語の募集及び展示、平和講座、講演会、シンポジウムの開催などにより青少年や市民の平和意識の高揚に努めます。
 被爆の実相を国内外の人々に伝え、核兵器廃絶の国際世論を喚起するために原爆展の開催、インターネットによる原爆・平和情報の発信を進めるとともに、国連をはじめとする国際機関及びNGO(非政府組織)との連携を図ります。
 さらに、世界の500都市が加盟する世界平和連帯都市市長会議の活動や、長崎ヒバクシャ医療国際協力会の事業を通じて、都市が共通に抱える問題や平和を阻害する問題の解決に協力したり、長崎・広島で被爆し、その後、海外に渡った在外被爆者や核実験等の放射線被害者の支援を図ります。

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W 人権教育の推進

 人権教育を推進していくためには、市民一人ひとりがあらゆる機会をとおして、〈いつでも〉〈どこでも〉人権について学習できる場が必要です。
 人権問題を考える場としてこれまで家庭、地域、学校、職場などで取り組まれてきました。
 「人権教育のための国連10年」の推進に当たっては、これまでに取り組んできた差別意識の解消に向けた同和教育・啓発の成果と手法を踏まえ、広く市民を対象として、人権教育の視点を新たに加えた取り組みを推進します。具体的に人権感覚を養うため、団体・企業等職員、市職員、教職員、消防職員等、医療関係者、福祉保健関係者等への研修の充実を図っていきます。

1 あらゆる場における人権教育の推進
(1) 学校等における人権教育
@ 経過
 学校教育においては、憲法や教育基本法に示された基本的人権尊重の精神を育成することが、戦後一貫して求められてきました。
 本県では、昭和53年(1978年)に「長崎県同和対策基本方針」が策定されましたが、長崎市教育委員会は、これを受けて昭和54年(1979年)に「長崎市立学校における同和教育の推進に関する基本的な考え方」を示しました。
 長崎市立の幼稚園や諸学校においては、これに基づいて、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消を目指す教育を推進してきました。学校(園)における同和教育が、人権を尊重する教育の中核を担ってきたと言えます。
 近年、社会の変化と人権意識の高揚を背景に、様々な人権問題が教育上の課題として取り上げられるようになってきています。
 女性に関する問題に関しては、本市教育委員会は平成10年(1998年)に、「長崎市立幼稚園及び小・中学校における男女平等教育の推進について」により〈基本的な考え方〉と〈推進の視点〉を示し、学校における男女平等教育を推進してきました。
 子どもに関する問題については、平成元年(1989年)国連において「児童の権利に関する条約」が採択され、平成6年(1994年)に条約の効力が生じました。この条約は、18歳未満のすべての子どもが一人の人間として尊厳をもって生きていくための権利を総合的に保障したものです。本市では、平成9年(1997年)に小・中学校向けに啓発用リーフレットを作成するなど、その趣旨の周知に努めてまいりました。
 昭和36年(1961年)、長崎市立学校に初めて特殊学級が設置されて以来、特殊教育に関わる実践的研究が推進されてきました。その後、昭和54年(1979年)養護学校設置義務化、昭和56年(1981年)の国際障害者年を契機に学校教育における障害者理解の推進を図るため、積極的な交流教育の取り組みが始まりました。
 昭和63年(1988年)からは、長崎市立中学校にALT(外国語指導助手)が配置されるようになり、外国人との交流をとおして、外国の言語や文化に関する理解を深め、生徒に国際理解の精神を培ってまいりました。
 その他の課題についても、教科の内容として取り上げられたり、様々な教育活動の中で取り扱われるようになってきています。

A 現状と課題

 全体の課題
 幼児・児童・生徒の豊かな人間性や社会性を調和的に育成することが、学校(園)における人権教育推進の目標です。
 そのためには、幼児・児童・生徒の発達段階に応じて、学校(園)の教育活動全体を通じて、公正・中立の立場から、人権尊重の意識を高める教育がなされなければなりません。
 人権問題は、国の行動計画に掲げられた重要課題だけでも多岐にわたっています。人権教育を、こうした様々な課題の単なる知識としての伝達に終わらせず、差別をなくし、人権を大切にする態度の育成にまで深めていきたいと考えます。
 また、幼児・児童・生徒の教育を受ける権利を大切にしながら、教育の方法に関しても、人権が守られた状況で進められるような配慮がなされていかなければなりません。
 学校においては、人権週間を中心にして、人権集会を開催したり、人権擁護委員連合会主催の人権作文コンテストへの応募等の活動を行ったりして児童・生徒の意識の高揚に努めてきました。
 子どもたち一人ひとりに人権感覚と人権尊重の態度を養い、いじめや不登校、いわれのない差別、非行や暴力等のない子どもたちが安心して通える、明るい学校づくりを進めることが学校における課題です。また、教職員に対しては、人権教育が特定の知識や考えを一方的に児童・生徒に押しつけていくものではなく、誰もが課題として持っており、関わっている問題だという認識を徹底していかなければなりません。
 女性に関する問題
 保健体育や技術・家庭科など、従来男女別に行われてきた授業も、現在は男女共修が原則となっており、男女が区別される場面は、健康診断等の限られたものとなってきました。
 しかし、保護者や教職員の中にも依然としてジェンダーによる男女の区別をする意識が残っており、家庭・地域・学校におけるジェンダーフリー教育の推進が課題となっています。
 子どもに関する問題
 いじめや不登校が全国的に深刻な問題となっていますが、本市も例外ではありません。市内の小・中学校においては、いじめは平成7年(1995年)をピークに減少傾向にありますが、不登校は平成6年(1994年)の調査開始から、いったん減少したものの、その後増加を続けています。
 すべての子どもたちが安心して登校し、教育を受ける権利が保障されるように、継続した努力が求められています。
 高齢者に関する問題
 市内の小・中学校では、地域の高齢者との交流活動や疑似体験によって、高齢者の立場の理解を図るなど様々な活動が行われています。
 今後、高齢者の持つ豊かな知恵や経験を教育活動に生かしていくことが求められています。
 障害者に関する問題
 本市においては、児童・生徒の実態に即した指導がなされるよう、昭和36年(1961年)以降特殊学級を増設してきました。従来の分離教育から統合教育への転換を図り、現在、通常学級と特殊学級の校内交流や養護学校との学校間交流も盛んに行われています。また、障害児の社会参加や地域の理解啓発を図るために、保護者、特殊学級、養護学校、小・中学校、高校が一堂に会した地域交流推進事業も、平成9年(1997年)から実施されています。
 加えて、各種障害者団体の協力で小・中学校において「手話教室」、「車椅子体験」、「啓発講話」なども取り入れられ、児童・生徒の福祉に対する意識も高まってきました。
 今後も、家庭・学校・各種機関・地域の連携による交流の一層の推進が求められています。
 同和問題
 本市教育委員会が作成する「指導計画書」(各学年、教科ごとの年間をとおした学習指導のプラン)の中には、〈人権を尊重する同和教育の推進〉の視点を具体的に掲げ、カリキュラム全体の中に同和教育の視点を位置付けてきました。また、市内の各小・中学校においては、毎年人権・同和教育の全体計画を作成し、年間をとおして計画的に教職員の研修や授業研究、児童・生徒への指導を行うようにしています。さらに、本市教育委員会においては、教職員対象の研修会等を行い、啓発資料や指導資料を作成・配布するなどの事業を行ってきました。
 しかし、部落差別に関わる差別事象は依然として亡くなっておらず、さらに、努力が求められています。
 外国人に関する問題
 平成12年度(2000年度)現在、市内の中学校に12人のALTが配置され、すべての中学校を訪問しています。また、平成12年度(2000年度)から始まったハローイングリッシュ事業では、市内在住の外国人を各小学校に派遣し、交流しながら外国の言語や文化を学ぶ機会を設けています。
 児童・生徒の外国の言語や文化に対する理解を一層深め、外国人の持つ文化や多様性を受け入れ、尊重する態度を育てることが求められています。

B 具体的施策の方向

 発達段階に応じた人権感覚と態度の育成を図ります。
(ア)  就学前の時期には、家族以外の他者との関係を広げ、自我の発達の基礎を築くための安定した教育環境づくりに努めます。また、幼児の主体的な活動としての遊びを保障し、生きる力の基礎となる人と関わる力を育てます。
(イ)  小・中学校の時期には、各教科・道徳・特別活動等のあらゆる教育活動をとおして、人権についての教育を推し進めるとともに、体験活動を重視し、様々な人々との交流をとおして、児童・生徒の人権感覚と態度を育みます。
 家庭・学校・地域及び関係団体との連携による教育・啓発を進めます。
 リーフレット等の啓発資料を作成し、人権教育の重要課題等の正しい理解と周知を図ります。
 様々な体験活動や交流活動を推進します。
 教職員対象の研修や学校における実践的な研究を進めます。
(ア)  教職員の人権感覚と技能を磨く参加型の研修を実施します。
(イ)  管理職や新任教員対象の研修を充実させます。
(ウ)  学校においては、授業研究を中心とした実践的な研究を進めます。
 すべての子どもたちが安心して登校することのできる学校づくりのために、スクールカウンセラーや心の教室相談員を配置するとともに、各学校や長崎市教育研究所における教育相談事業を充実させます。

(2) 社会教育における人権教育
@ 経過
 近年の国際化、高度情報化、少子高齢化等の社会変化は、我が国の伝統的な家庭や地域の在り方についても急激な変化をもたらし、様々な人権侵害に関する問題を複雑化させる要因の一つとなっていることが、指摘されます。
 そこで、これらの社会変化に対応し、人々が互いに「人間の尊厳」を尊重し合えるような、人権豊かな社会を構築することは、多くの人の願いでもあり、そのためにも、家庭及び地域の教育力を向上させることが、必要と言えます。
 すなわち、社会教育の分野において、人権教育を一層推進していくことは、ますます必要になってきています。
 これまで公民館等の社会教育施設においては、人権に関する講座や研修会、映画会等を行うなど、学習機会の提供と人々の人権意識の高揚に努めてきました。
 さらに、以前より同和問題をはじめとするあらゆる差別をなくしていくことを目指して、関係団体と協議の場をもってきましたが、平成6年度(1994年度)からはそれを発展させる形で「長崎市同和教育推進協議会」を設置し、PTA連合会、青少年育成連絡協議会、同和教育研究会等と、様々な事業の連絡調整を行っています。その結果、講演会・研修会等を開催する際に連携を取り合うなど協力関係も深まり、機能的な人権・同和教育の推進が図れるようになってきています。

A 現状と課題
 関係団体との連携を図ってきたことや人権教育に対する関心が増したことなどにより、以前より人権教育に関する様々な事業への参加者が増加傾向にあります。
 しかし、その多くは「差別は当然不当であり、してもされてもいけないもの」と一応理解しているものの、「自分は差別していないから関係ない」といった誰しも持ちうる自己の差別性を認識しないまま、自己変容や人権学習の必要性を感じていません。
 人権に関する様々な問題の生じる要因としては、私たち一人ひとりの内にある同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理な因習、物の豊かさの追求、心の豊かさを軽視する社会的風潮、社会における人間関係の希薄化の傾向等が挙げられています。
 また、人と人が互いに認め合って生きていく社会では、人としての最低限のマナーやエチケットが身に付いていなければなりません。
 しかし、昨今、子どもしつけの在り方に見られるような家庭や地域の教育力低下や親の差別的な意識が言動を通じて子どもに再生産されやすいことなどから、特に親を対象とした家庭教育の推進が求められています。
 このような状況を踏まえ、人権意識の拡充と進化を一層図ることは、人権豊かな社会の構築に欠かせません。したがって、あらゆる学習機会をとらえ、対象者に合わせた、身近で具体的な、しかも自分自身のこととして振り返り、考えることができるような学習プログラムを提供していくことが必要です。

B 具体的施策の方向
 学習者の対象や実態を踏まえ、学習者が主体的に取り組めるような学習プログラムにより、多様な学習機会の提供に努めていきます。

 公民館等の社会教育施設における講座、学級、研修会、映画会等を通じて、成人の人権感覚向上に関わります。
 家庭や地域の教育力向上に資するため、PTA等の社会教育関係団体と連携を深め、支援に関わります。
 異年齢集団による様々な体験活動をとおして、青少年の人権感覚の向上に関わります。
 人権ポスターや人権啓発リーフレット等により、市民が身近に感じられるような人権啓発に関わります。
 同和教育推進協議会を通じて、相互の協力関係を一層密にし、豊かな人権・同和教育の推進に関わります。

(3) 団体・企業等における人権教育
@ 経過
 企業等は、経済活動等を行うことにより地域の発展に寄与するだけでなく、雇用の創出による労働者の生活基盤確保の役割でも重要なものです。
 すべての人が、雇用条件や雇用環境において等しい機会を与えられることは基本的、かつ、重要なことであり、企業等が性別や高齢者、障害者、同和問題等において十分な人権への配慮を行うよう啓発してきました。

A 現状と課題
 市内企業の現状は、業種等にもよるが、性別による偏った採用や障害者の法定雇用率を満たしていないところもまだあります。
 また、長引く景気低迷による企業のリストラ等においても、高齢者、女性、障害者がその対象となることが危惧されます。
 このような中で、本市も支援している長崎雇用対策協会においては、企業や事業主に対して、毎年研修会を開催し、採用選考時の人権に係る基本的な事項について啓発に努めており、こうした研修会等を通じて、企業や事業主へ人権意識の高揚を図っていくことが重要であると考えます。
 一方、市職員の採用にあたっては、地方公務員法の趣旨に基づき、平等・公開の原則による公正な試験制度を実施しています。特に、面接試験の委員には他都市に先駆け民間人を登用しています。平成11年度(1999年度)からは、視覚障害者を対象に点字による受験を可能としたり、消防職員の採用に当たっては、これまでの男子限定を撤廃しました。
 今後も、学歴別採用試験の在り方などの見直しを含め、人権に配慮した公正な採用選考システムを検討する必要があります。

B 具体的施策の方向
 平成11年(1999年)4月に「男女雇用機会均等法」が改正され、また、本市では同年9月に「ながさき男女共同参画都市宣言」を行いました。これらの趣旨を生かし、男女の均等な雇用機会と待遇の確保のために、本市が率先して採用等における性別による差別がないよう配慮していくとともに、企業等に対する啓発活動にも力を注いでいきます。
 また、高齢者や障害者の雇用に対する各種助成制度が国等において実施されていることから、これらを周知することにより、事業主の障害を取り除いていくよう努めていきます。
 このほか、雇用に関わる様々な人権問題に対応するため、事業所内に※公正採用選考人権啓発推進員(以下「推進員」という。)が配置されています。これら推進員に対しては、公正な採用選考が行われるよう研修会を実施し、年間300社を超える事業所からの参加があります。今後も推進員が配置されている趣旨の徹底を図るため、このような研修会を支援するとともに、県、公共職業安定所等関係機関との連携を深めていきます。
 さらに、企業が自ら積極的に人権教育に取り組んでいくよう経済関係団体等に対し要請します。
 市職員についても募集・採用時の問題だけでなく、職場におけるセクシュアル・ハラスメント(性的な嫌がらせ)の防止といった新しい課題についても積極的に取り組んでいきます。

※公正採用選考人権啓発推進員
  常時雇用する従業員の数が50人以上の事業所等において選任し、就職の機会均等等を確保するという視点にたち、公正な採用、選考システムの確立及び企業内研修において中心的な役割を担う者である。

2 特定職業従事者に対する人権教育
(1) 市職員に対する人権教育
 人権にかかわる研修として、「男女共同参画研修」や「同和問題研修」を新規採用職員から管理監督者にいたる階層別基本研修で実施しています。具体的には、新規職員・新任係長職員・新任課長を対象とした研修を行っています。さらに、すべての職員を対象とした人権問題に関する講演会の開催や人権問題に関するビデオ・図書の貸し出しを行い、職員の人権についての意識の高揚を図っています。
 今後も人権問題に対する正しい理解と認識を深めていくため、差別をなくす実践力を高めていくよう人権研修を充実させ、職員の人権感覚の向上に努めます。

(2) 教職員に対する人権教育
 教職員に対しては、教職員自身の人権意識を高め、人権教育の推進を図るため、様々な研修をとおして、知識や技術の伝達及び態度の形成に努めます。

(3) 消防職員等に対する人権教育
 消防職員は、市民生活と密着した職務に就いています。これに携わる者は、人権尊重の精神をもって、地域住民の生命と財産の安全を守る使命があります。このため消防職員はもとより、地域において防火・防災やその啓発に当たる消防団員等に対しても研修等をとおして人権教育の充実に努めます。

(4) 医療関係者に対する人権教育
 医師や看護婦(士)をはじめとする医療従事者の使命は、生命の尊重と個人の尊厳の保持であり、また良質な医療の提供を行うためには、医療を受ける者との間に強固な信頼関係が築かれなければなりません。
 このためには、患者の人権を十分に尊重し、患者の立場に立ったインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)の徹底を図ることが大切です。
 そこで、人権意識の一層の向上を図るため、医療機関等に対し人権教育の充実を要請します。

(5) 福祉保健関係者に対する人権教育
 高齢者、子ども、障害者等に接する機会が多い社会福祉関係者及び保健関係者等に対して、対象者の人格の尊重、個人の秘密保持、公平な処遇の確保、人権尊重の教育を充実するよう関係機関に要請します。

3 メディアを活用した情報の提供
 人権に関する情報を積極的に市民に伝えていくことは、人権教育・啓発を進めるうえで大変重要なことです。
 特に、情報を効果的に伝達するには、啓発の内容が市民にわかりやすく、より身近に感じ取ることができるよう情報発信する必要があります。
 その提供方法として、

(1)  広報紙などの市の広報媒体を利用して講座や講演会のお知らせ、人権に関する記事の掲載等積極的な啓発に取り組みます。
(2)  報道機関等を通じた広報を効果的に活用します。

4 国、県及び関係団体との連携
 人権教育・啓発を効果的に推進していくためには、国及び県との連携を図るとともに企業や民間団体等との連携が必要です。そのためには、人権啓発活動ネットワーク協議会や公共職業安定所など関係機関との情報交換を緊密にし、それぞれの役割に応じた人権教育・啓発の協力・支援体制を強化します。

5 国際協力の推進
 「長崎市民平和憲章」では「私たちは、国際文化都市として世界の人々との交流を深めながら、国連並びに世界の各都市と連携して人類の繁栄と福祉の向上に努めます。」と、国際交流や国際協力の推進を国の内外に向けて宣言しています。
 また、「長崎市国際化推進計画〈世界の長崎・地球市民〉」に基づき、国際化時代にふさわしい人権感覚豊かな人材育成や様々な国や地域、人々の文化や習慣等を理解し、認識を深めていくよう努めていきます。

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X 行動計画の推進

1 計画の推進

(1)  「人権教育のための国連10年」長崎市行動計画の積極的な推進を図るため、「人権教育のための国連10年」長崎市推進本部のもと、人権教育・啓発を市政のあらゆる分野で課題として認識し、本市の人権に関する基本的な指針として取り組みます。
(2)  市民、国、県、団体、企業等と緊密の協力し、連携を図りながら取り組みます。

2 計画の期間
 この行動計画の最終年は平成16年(2004年)とします。

3 計画の見直し
 推進本部は、この行動計画の目標達成への努力の家庭において、進捗状況に応じ、計画の見直し等を行うものとします。


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