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国連人権教育の十年(1995〜2005)行動計画
人権教育―生涯にわたる学習


目次
1 基準と概念
2 一般的指導原理
3 目的
4 主要な関係組織
5 対象となる集団
6 調整と実施のための組織体性
7 実施プログラム
8 地球規模の中間評価
9 「国連人権教育の十年」のしめくくり
10 「国連人権教育の十年」のフォローアップ


1 基準と概念 
1 「国連人権教育の十年」は国際人権諸文書の規定、とりわけ「世界人権宣言」第26条、「経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約」第13条、「子どもの権利に関する 条約」第29条、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」第10条、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」第7条、「ウィーン宣言」の第33〜34段落、同じく「行動計画」の78〜82段落などに基づくものである。
2 これらの規定にしたがい、また、「十年」の目的に照らして、教育・研修・宣伝・情報提供を通じて、知識や技能(スキル)を伝え、態度を育むことにより、人権文化(culture of humanrights)を世界中に築くとりくみとして、人権教育を定義する。
 そして、人権教育が指向するのは、以下のことがらである。
(a)人権と基本的自由への尊重を一層強化すること。
(b)個性を全面的に開花させ、人権の尊厳を大切にする心を十分に育てること。
(c)すべての国民、先住民やよび人権・民族・エスニック・宗教・言語集団間の相互理解と寛容、性的平等および友好関係を促進すること。
(d)すべての個人が自由な社会に効果的に参加できるようにすること。
(e)平和を守るための国連の活動を促進すること。

2 一般的指導原理
3 「国連人権教育の十年」は、この「行動計画」のTに示した定義と基準に従い、さらに「世界人権宣言」と「市民的・政治的権利に関する国際規約」および「経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約」、その他関連する国際人権文書に記されたあらゆる基準・概念・価値観が、できるかぎり幅広く組織され、理解されるようにすることをめざす。
4 「十年」のもとに行われるすべての活動にあたっては、国連が規定しているように、人権の中に市民的・文化的・経済的・政治的・社会的権利を含め、またすべての権利の不可分性と相互依存性を認識して、人権教育への相互的アプローチをとる。
5 「十年」の目的を追求する教育は、学校教育や職業・専門教育を通じた定型的学習(formal learning)においても、また家庭やマスメディア、市民社会の諸機関を通じた否定型的学習(informal learning)においても、すべての年齢層、あらゆる社会階層の男女が平等に参加できるようにする。
6 効果を高めるために、「十年」のための人権教育のための諸活動は、学習者の日常生活と関連づけたやり方で行われる。そして、人権を抽象的な規範の表明としてではなく、自分たちの社会的・経済的・文化的・政治的な生活現実の問題としてとらえるような対話に学習者を導くための手段や方法をさぐる。
7 民主主義の発展と人権が相互に依存し、相互に補完し合う性格をもっていることを認識し、「十年」のもとでの人権教育は、政治的・経済的・社会的・文化的領域におけるいっそう効果的で民主的な参加を実現することをめざす。また人権教育は、経済的・社会的な進歩、および民衆中心の持続可能な発展の手段として活用される。
8 「十年」のもとで展開される人権教育は、ジェンダーに対する歪んだ見方や人種その他に関するステレオタイプと闘い、これから自由であるようにする。
9 「十年」のもとで展開される人権教育は、この行動計画やそのもととなった国際人権諸文書に唄われたあらゆる原則に従って、技能(スキル)や知識を学習者に提供すると同時に、態度や行動にも積極的に影響を与えることをめざす。

3 目的
10 「国連人権教育の十年」の目的には、次のものが含まれる。
(A)人権教育を発展させるために、あらゆる学校段階、職業教育、および定型的・非定型的学習の場においてニーズを評価し、効果的な戦略を立てること。
(B)国際社会、地域(regional)、国、および地方(local)の各レベルで人権教育を推進する計画を作成し、その推進のための力量を強化すること。
(C)人権教育教材を共同で開発すること。
(D)人権教育を促進するためのマスメディアの役割と力量を強化すること。
(E)さまざまなレベルの読み書き能力や障害をもつ人のために、できる限り多くの言語および言語以外のかたちで、「世界人権宣言」を世界中に広めること。

4 主要な関係組織
11 各国政府は、「国連人権教育の十年」のプログラムを実施するにあたって、積極的な役割を果たすべきである。そのため、人権教育に関する国内行動計画を作成したり、公教育制度の中に全国的な人権教育カリキュラムを導入し、また強化したり、人権に関する全国的な情報キャンペーン活動を展開したり、人権資料・情報・研修センターへ人々がアクセスできるように道を開いたり、さらには、人権教育に関連する自主的な基金や国際的・国内的な人権教育プログラムに資金面での援助を行ったりすべきである。
12 各国の人権機関、たとえば人権委員会やオンブズパーソン事務局、人権研究・研修機関などは、全国的な人権教育計画の作成と調整、実施にあたって中心的な役割を果たすべきである。
13 各国の非政府組織(NGO)、草の根組織、専門家組織、関心をもつ個人などが積極的に関与し、「十年」の目的達成を支援するように奨励すべきである。この目的のために、各国の諸組織による人権教育活動に対しては、国際的プログラムや政府などから全面的な支援が提供されるべきである。その方法としては、技術的な面での支援とともに、教育・訓練を行う。あるいは市民社会においてそれらの組織の役割を強化するために資金的な支援を行う、などのやりかたがある。
14 人権高等弁務官は、人権問題を扱う国連の最高担当者である。人権高等弁務官は、国連総会決議48/141にしたがって、とくに人権分野における国連の教育や広報活動に関連するプログラムの調整をはかる。
15 人権高等弁務官が政策の方向性と行動の優先順位を打ち出し、国連人権センターがその政策を遂行するという形で、人権高等弁務官と国連人権センターは一体となってとりくむ。
 この点に関わって、国連人権センターはユネスコと協議の上、諸政府の要請に応じて人権に関する教育・研修・情報・奨学金・助言サービスのプログラムを引き続き提供する。
 国連人権センターは、このような視点で、教員・警察・刑務所の管理者・法律家・裁判官・官僚・メディア・軍隊・NGO・選出された公務員、および一般民衆への啓発や研修を今後も重視する。国連人権センターはまた、国際公務員や開発プログラム担当者、平和維持活動関係者への人権研修を引き続き提供する。
16 国連人権条約監視機関、人権委員会、「差別防止及び少数者保護に関する小委員会」など、国連のすべての人権機関と人権プログラムは、「十年」の期間中に自らに課せられ役割の一環として、政府や人権高等弁務官および他の人権教育関係者に適切な勧告を行うなど、人権教育の伸長を奨励する。
17 ユネスコは、教育、教育方法、人権に関するその長年にわたる経験にもとづき、またユネスコ協同学校やユネスコクラブ、ユネスコ人権講座や各国のユネスコ国内委員会など、独自のネットワークを通じて、この行動計画に示されたプロジェクトの計画・実施・評価において中心的な役割を果たす。したがってユネスコは、人権高等弁務官や国連人権センターと、この行動計画の実施にあたって緊密に協力しあうことになる。
18 同様に、人権教育活動に関与しているその他の国連専門機関や事務局、ならびにプログラム、たとえば国連児童基金(UNICEF)、国際労働機関(ILO)、国連難民高等弁務官事務局(UNHCL)、国連開発計画(UNDP)、国連ボランティア、国連環境計画(UNEP)、国連人権居住センター、社会開発・人道問題センター、国連大学をはじめとするさまざまな国連研究機関が、現時点における人権教育の力量を「十年」の目的達成に向けて全面的に調整し、動員するために、人権高等弁務官と共同することが望ましい。
19 人権分野で活動する政府間組織やNGOなど上記以外の国際組織は、人権教育分野の活動を継続・強化するとともに、「十年」の目的達成のために人権高等弁務官との協力関係を活用するよう奨励されるべきである。                 

5 対象となる集団
20 「国連人権教育の十年」のもとに実施される諸活動は、定型的教育(formal education)と非定型的教育(non‐formal education)の両方を通じて、できるだけ多くの集団や人々に、その目的を伝えられるように計画される。そのために、指導者研修などを通じて恒久的な力量を形成するようなアプローチが奨励されるべきである。
21 一般民衆は、国際人権諸文書に示された権利と責任について啓発するための、広範囲に及ぶ人権情報提供の取り組みの対象となる。
22 「十年」に基づいて展開される人権教育にあっては、視聴覚教材やマルチメディア教材を推進力として活用し、さまざまな読み書き能力や教育経験、および障害をもった人々に対する人権教育についても効果的に実施する。
23 「十年」のもとで展開される人権教育活動では、女性・子ども・高齢者・マイノリティ・難民・先住民・生活困窮者・HIVキャリア・エイズ患者など、社会的に弱い立場におかれている集団にとくに焦点をあてる。
24 警察・刑務所の管理者・法律家・裁判官・教師・カリキュラム開発者・軍隊・国際公務員・開発プログラム担当者・平和維持活動関係者・NGO・メディア・官吏・議員など、人権の実現に影響力をもつ特別な立場にある人々に対する研修に特別な注意を向ける。
25 政府ならびに国際的援助機関やプログラムの支援を得て、学校、大学、専門教育・職業教育のプログラムや機関が、人権教育カリキュラムとそれにもとづく教材や資料を開発する。さらに、就学前・初等・中等・中学後・成人の各教育段階にそれらを導入するよう奨励し、支援するべきである。
26 NGO、労働者団体、雇用者団体、労働組合、マスメディア、宗教団体、地域社会組織、家族、自主的な情報・資料・研修センターをはじめとする市民社会のしかるべき機関が、人権教育を非定型的な教育プログラムに位置づけるために、政府ならびに国際的援助機関・プログラムの支援を得て、そうした非定型的教育プログラムを開発し、提供するよう援助し、支援するべきである。

6 調整と実施のための組織体性
27 人権高等弁務官は、国連人権センターの協力を得て、この行動計画の実施を促進し調整する。人権高等弁務官は、国連人権条約監視機関や国連憲章に基づく人権機関とこの行動計画に関して協議し、それらの機関によって作成された人権教育分野のあらゆる勧告を支援する方法を探るべきである。人権高等弁務官はまた、各国政府・地域組織・各国研究機関・専門機関・NGO・草の根団体・専門家組織ともとくに緊密に協議し、得られた情報をもとに、あらゆるレベルで達成された進展に関して、年次報告書を準備しなければならない。
28 国際的な調整の仕組みと同様に、国レベルや地方レベルでの行動が、人権教育の効果的推進に決定的に重要であることをふまえて、本校動計画は次のことがらを構想するものである。
(a)各国において、人権教育推進のための中心的組織を指名する必要がある。こうした中心的組織としては、関連する政府機関、NGO、民間セクター、教育関係者からの代表を含む特別な委員会が考えられる。あるいはまた、オンブズパーソン事務局、国内人権委員会、国内人権研修・研究機関など、既存の関連機構・組織がその機能を果たすよう指名される場合もあるだろう。
(b)人権教育にとりくむ各国の中心的組織は、国内の人権教育に関わるニーズを把握し、国内行動計画を策定し、資金を確保し、「国内人権教育の十年」の目的達成に関係する国際的・地域的組織と協力し合って、ニーズ、展望、「十年」の目標達成に向けた進展などを人権高等弁務官に報告する責任を負う。
(c)さらに、各国の中心的組織は、国際社会・地域の資源、情報、支援を、その国の地方レベルや草の根レベルに届ける役割をはたす。
(d)各国政府は、研究、指導者研修、人権教育教材の収集・翻訳・普及、および会議・研究集会・講座の開催にとりくむ力量をもった人権研修センターを国内に設立するよう奨励される。また、すでにそのようなセンターが存在するところでは、その強化に向けてとりくむ。
(e)国連をはじめとする国際機関、援助国政府、政府間組織、NGOを含む国際的なプログラムや諸活動は、「十年」の目的を達成しようとする各国の、あるいは地方の努力を支援し、これらに対する刺激を与えなければならない。

7 実施プログラム
29 「国連人権教育の十年」の具体的な目的、またその目的を実現するための実施プログラム、そして各プログラムのフォローアップと評価の手段については、以下の通りとする。

A:要素1―ニーズの把握と戦略づくり
目的
30 要素1の目的は、国際社会、地域、国、地方の各レベルで人権教育を促進するために、ニーズを把握し、効果的な戦略を形成することである。

プログラム
31 人権高等弁務官は、国連人権センターの支援とユネスコの協力を得て、1995年に、国際社会、地域、国レベルですでに実施されてきた人権教育プログラムや、主導的な取り組みについて、予備的な調査と評価を実施し、その調査結果についての報告書を作成する。
32 予備報告書では、すでに行われている人権教育のプログラムおよび主導的な取りくみについて、入手できるあらゆる情報を考慮し、「国連人権教育の十年」の目的を実現する上での問題点やニーズを明らかにし、「十年」の間にそのニーズに効果的に取り組むための行動を提案する。
33 人権高等弁務官が予備報告書を作成するため、「十年」参加するに各国の人権教育にとりくむ中心的組織、国際的・地域的な組織、NGO、専門機関やプログラム、またその他の関連組織は、それぞれ独自の評価と活動に基づいて、関連情報を人権高等弁務官に提供するよう要請される。とくに、人権教育に取り組む各国の中心的組織については、それぞれの国における詳細な評価を行い、人権高等弁務官に対して報告することが要請される。
34 調査と評価、およびその結果をまとめた予備報告書においては、国際社会、地域、国レベルでの、入手可能なさまざまなタイプの人権教育の教材の数や種類、すでに存在する人権教育機関、センター、人権教育推進のための恒常的な中心的組織、各国における人権教育の研修を受けた教師の割合、小学・中学校・高校で人権教育のカリキュラムを持つ学校の割合、また専門的研修や非定型的教育プログラムにおける人権教育のとりくみの数やタイプなど、さまざまな内容を明らかにする。
35 予備報告書ではまた、すでに実施されている人権教育プログラムをさらに促進し、また新たなプログラムをつくり出すため、国連加盟国、NGO、その他の人権教育実施機関がどのようなニーズをもっているかを明らかにし、「十年」の目的に貢献するとともに、その目的に関する提案を行う。
36  報告書ではまた、人権教育を新たな方向で発展させ、人権の価値を社会全体に効果的に広げるために、伝統的な教育以外の場における社会化プロセスの他の側面についても探求する。
37 報告書には、人権教育にとりくむ各国の中心的組織、「十年」に協力する国際的・地域的組織、人権に関する既存の研究・研究機関やセンター、その他「十年」に取り組む協力組織(パートナー)のリストを付け加える。また、人権教育に関わる政府あるいは民間の教育機関や組織に対して、資金的・技術的支援を行う機関、組織、財団等の情報も提供すべきである。

評価とフォローアップ
38 人権高等弁務官の予備報告書発行に続いて、人権高等弁務官と国連人権センターは、ユネスコや他の国連機関、「国連人権教育の十年」のとりくみに参加する人権団体、地域・国際的組織やNGO、資金を拠出した国の政府、教育者、その他世界中の専門家の協力を得て、「十年」の計画立案のための国際会議を開催する。
39 会議では、人権高等弁務官の報告書を検討し、その提案の実施と責任分担のために、詳細な計画を策定する。計画には実施予定表、地方、国、地域、国際社会の各レベルでの実施機関の明示、予算、実行と資金獲得のための戦略が含まれる。
40 人権高等弁務官は、この会議の場を利用して、予備報告書と会議から生み出されたさまざまなプログラムに対する資金面での支援を訴える。
41 会議の結論は報告書にまとめ、これによって人権高等弁務官の予備報告書を補足するとともに、「十年」に参加するすへての組織や政府、ならびに人権教育にとりくむ各国の中心的組織が入手できるものとする。
42 補足的な報告書を受けとった後、人権教育にとりくむ各国の中心的組織は、国内における人権教育実施のための詳細な五カ年計画をたてることが要請される。そして、その計画の中には、対象となる集団、方法、予定表、予算と資金獲得戦略、中間年にあたる2000に評価を行うまでのりくみを網羅するものとする。

B:要素2―国際的なプログラムとその力量の強化
43 要素2の目的は、国際社会における人権教育プログラムとその力量を強化することにある。

プログラム
44 人権高等弁務官による人権のための全体的な政策指針のもとで、国連人権センターは、それぞれの具体的な対象者むけのハンドブックや研修マニュアルの作成など、人権教育分野でのプログラム開発に関する活動を継続して推進する。国連人権センターは、人権とソーシャルワーク、人権と選挙、人権と予審段階での拘禁、人権状況の報告などに関するハンドブックやマニュアルが、幅広くいきわたるようにしなければならない。また、人権と国家機関、人権と警察、人権と監獄、人権と司法、人権と軍隊、人権と憲法、人権と紛争解決、人権と教師、人権とメディア、人権と議会についても、さらにマニュアルやハンドブックを作成する。
45 国連人権センターは、人権分野での助言サービスと技術的支援プログラムの一環として、一般の人々や特定の集団に対して、人権教育に関係する技術的支援活動を引き続き促進する。
46 国連人権センターはユネスコと協力して、初等・中等学校むけにモデルとなる人権教育カリキュラム、教育技術、教材を開発する。国連人権センターでは、人権の分野での助言サービスと技術的支援プログラムの一環として、技術的支援を要請した国に対して協力を行う際に、これらの教材を活用する。
47 各専門機関は、人権教育の分野でのとりくみを強めるとともに、人権高等弁務官および国連人権センターと協力して、それぞれの機関が権限を有している分野の人権に関係した共同の教育活動を発展させるために、人権教育連絡調整担当官を指名することが要請される。各機関は、人権高等弁務官が予備・中間・最終報告書を作成するのに役立つように、人権高等弁務官に対して、実施したプログラムや開発された教材についての情報を提供する。
48 国連人権センターは、優先的な人権問題に関する、人権教育の概念、教材、方法を明らにするために、国際的なワークショップの開催を促進する。
49 国連人権センターは、世界人権会議のウイーン宣言と行動計画の趣旨にそって、平和維持活動に従事する者、国際公務員、開発プログラム担当者が、人権の基準・概念・方法を、その職務の計画と遂行に統合することを支援するための活動を引き続き促進する。この目的のために、国連人権センターは、研修プログラムをそれぞれの対象集団ごとに開発し、また国連の関連機関や部局と協力して、このようなプログラムをそれぞれの活動の中に組み込むようにするべきである。
50 国連人権センターおよび関連する専門機関や国際的プログラムは、先端技術の開発と利用の可能性を追求する。これには、「国連人権教育の十年」にかかわる国際的プログラム、人権教育にとりくむ各国の中心的組織、教育者、情報、研修センター間のネットワーク形成を促進するための、電気通信網、電子メールのデータベース、データ交換などが含まれる。
51 国連事務総長は「人権教育のための国連任意基金」を創設されることが要請される。この基金は助言サービスや技術的支援のプログラムという形で、国連人権センターが運営し、政府機関やNGOが、国レベルで「十年」にもとづく人権教育の力量充実を支援するために使われる。 

評価とフォローアップ
52 人権高等弁務官は、その予備・中間・最終報告書において、これらすべてのプログラムの進展や推移について報告する。また同時に、各報告書では、各プログラムの目的を推進するための提案を行う。従って、これらの各プログラム項目に関連のある国際的な組織等は、最新の詳細な情報を人権高等弁務官に提供することを要請される。

C:要素3―地域におけるプログラムとその力量の強化
目的
53 要素3の目的は、地域における人権教育プログラムとその力量を強化することである。

プログラム
54 地域および域内小地域(subregional)の人権組織は、人権教育分野でのとりくみを促進するとともに、人権高等弁務官ならびに国連人権センターと協力し、その各組織の活動地域において人権に関する教育活動を共同で促進するために、人権教育連絡調整担当官を任命することが要請される。この担当官はまた、各組織を代表して、予備・中間・最終報告書作成のために、人権教育に関して実施されたプログラムや開発された教材などを人権高等弁務官に報告する。
55 このような人権組織がまだ存在しない地域、もしくは域内小地域では、人権高等弁務官は、国連人権センターの協力を得て、適切な場合はワークショップを開催したり、技術面での支援を提供することにより、このような組織の設立を後押しする。
評価とフォローアップ
56 人権高等弁務官は、予備・中間・最終報告書の中で、これらのプログラムすべての進展や推移について報告する。また同時に、各報告書の中でプログラムの目的をさらに前進させるための提案を行う。そこで、これらのプログラムに参加するすべての国際地域組織は、最新の詳細な情報を人権高等弁務官に提供することを要請される。

D:要素4―各国におけるプログラムとその力量の変化
目的
57 要素4の目的は、各国の人権教育プログラムと、その力量を強化することである。

プログラム
58 各国は、国際的な計画に示されている原則や目的を反映した人権教育行動計画の策定を要請される。それは、人権のための各国の包括的な行動計画の重要な構成要素になるだろう。このような国レベルの行動計画は、その国や地方の関連団体等との協議の上で1995年内に完成させ、その実行に向けた効果的な調整や協力を行うため、人権高等弁務官に対して報告する必要がある。各国の行動計画では、幼児教育、初等・中等教育、高等教育、専門教育機関、公務員研修、および一般市民への教育を含む非定型教育において、人権教育を推進するための具体的目的、戦略、プログラムに示すものとする。人権教育に取り組む国レベルの中心的組織は、定期的に計画の実施について再検討を行い、必要があればこれを改訂する。
59 第二八項で示したように、全ての国は人権教育にとりくむ国レベルの中心的組織を決め、ニーズの把握や国レベルの行動計画の策定、資金集め、及び人権高等弁務官との国際的・国内的な連絡や調整をはかるものとする。
60 すべての国に市民が利用できる人権情報・研修センターを設置すること。すでにこのようなセンターが存在する場合は、国レベル、地方レベルでの人権教育を支援する力量を強化するための具体的手段をとることを奨励する。このようなセンターの設置、機能強化にあたっては、国際的・地域的なプログラムや組織が、資金や技術などに関する支援を行う。各国は、人権高等弁務官に対して、予備・中間・最終報告書作成のために、このようなセンターの存在、運営、機能、資源について、入手できる限りの情報を提供する。
61 各国の人権情報・研修センターは、人権教育にとりくむ中心的組織と協力し、とくに以下の任務を遂行する。
(a)人権と人権教育についての研究
(b)研修用教材を翻訳したり、文化的に適合する形で取り入れたりすること
(c)専門家集団やコミュニティレベルの活動家に対する支援
(d)研修指導者を対象に、ジェンダーに関する意識化、および感性を高める研修を行うこと
(e)人権教育に関するプロジェクトづくりに関心のある生徒と教師のためのインタープログラムの企画
(f)人権に関する芸術、音楽、演劇などの文化事業の開催、および学術誌、一般書籍、視聴覚教材の製作
(g)人権教育に関する、国内の専門家、および機関のリストの維持管理
(h)人権教育に関して、国際的な資金援助を受けて実施される技術協力プロジェクトの支援
(i)人権教育に関することがらについて支援を求めている個人や集団に、相談の機会を提供したり、出版物や教材を入手できるようにするなど、人権を広げるためのサービスを提供。
 このようなサービスを提供するためのガイドラインや教材を形成するため、国レベルの情報・研修センターの要請に応じて、すぐれた力量をもった国際プログラムや組織からの支援提供

評価とフォローアップ
62 人権高等弁務官は、これらすべてのプログラムについて、その進展や推移を、予備・中間・最終報告書の中に記述する。また、同時に各報告書において、目的達成に向けてさらに前進できるように提案を行う。これらのプログラムに参加する各国の人権教育にとりくむ中心的組織は、最新の詳細な情報を人権高等弁務官に提供することを要請される。
63 人権高等弁務官の各報告書は、すべて人権教育にとりくむ各国の中心的組織が入手できるようにする。また、それらの中心的組織がその提案を考慮し、また報告書の中の他の情報についてもこれを利用することによって、プログラムの開発を行ったり、あるいは資金的、技術的な協力をどこに要請すればよいかを知ることにより、「国連人権教育の十年」に関して他団体との連絡・調整ができるようにする。

E:要素5ーの目的は、地方におけるプログラムと力量の強化
目的
64 要素5の目的は、地方における人権教育プログラムとその力量を強化することである。

プログラム
65 人権教育にとりくむ国レベルの中心的組織は、地方やコミュニティでの人権教育の力量を育てるため、上記要素4でふれたリスト上のすべての地方、及びコミュニティ組織を巻き込み、それらの組織がそのとりくみや資源の活用によって、地方の構成員に効果的な人権教育を行えるようにすることをめざし、国際的な支援の確保も含めて協力を行う。
66 人権教育にとりくむ国レベルの中心的組織、及び資料・情報・研修センターの支援を得て、地方やコミュニティレベルの組織では、職業教育や成人教育、、識字教育、および地方のNGOや家庭にサービスを提供することを通して、人権教育を実施できる態勢を整えておく。
67 以上の目的のために、人権教育に取り組む国レベルの中心的組織は、定期的な相談事業、あるいは地方のグループや代表者との年次会合を開催し、またそれらのグループや代表者に対して、国レベルでの評価や行動計画、プロジェクト、人権高等弁務官の報告書への積極的な提案を求める責任を負う。
68 地方やコミュニティレベルでの組織は、同時に「十年」の恩恵を社会のすべてのレベルと領域に行き渡らせるために、国レベルでの人権教育プロジェクトの実施にも、全面的にかかわるべきである。

評価とフォローアップ
69 人権高等弁務官は、人権教育を地方に広めるための課題や進展について、その予備・中間・最終報告書において報告する。人権高等弁務官はその報告書の中において、これらの努力をさらにすすめるための提案を行う。これらのプログラムに参加する国レベルでの中心的組織は、協力関係にある地方やコミュニティレベルでの団体の数や種類について、また地方に対して行った支援、及び直面した課題や困難について、最新の詳細な情報を人権高等弁務官に提供することを要請される。

F:要素6ー人権教育教材の共同開発
目的
70 要素6の目的は、効果的な人権教育教材を、うまく調整をはかりながら共同開発するとである。

プログラム
71 人権高等弁務官と国連人権センターは、人権高等弁務官が出す予備・中間・最終報告書と並んで、ユネスコや「国連人権教育の十年」を担うその他のすべての関係組織と協力しながら、マニュアル、ハンドブック、カリキュラム、視聴覚教材、およびその他の教材を含む入手可能な人権教育教材の最新リストを作成・発行し、そのリストの内容を定期的に更新する。このリストには、関心をもつ団体や個人がどのようにすればそれらの教材を入手できるかについての情報も掲載する。このリストは、できるだけ早期に、電子データベースでも利用可能にする必要がある。リスト作成にあたっては収集された教材は、国連人権センターで管理し、関心をもつ関係者が要求すれば、利用できるようにするべきである。
72 ユネスコ、及びその他の国際的、地域的な組織や機関は、このような人権教育教材開発のためのとりくみを強化することが望まれる。その際、人権高等弁務官の上記リスト作成の過程で明らかになった教材の抜け落ちに対し、また既存の教材に必要な改善を加えることに関して、優先的な注意を向ける必要がある。
73 国際的、地域的なレベルで開発された教材は、人権教育にとりくむ各国の中心的組織および資料・情報・研修センターによる検討やコメントを受けることによって、より豊かになるだろう。また、国際的、地域的なプログラムによる資金的、技術的な支援により、これらの教材を各国および地方の人権教育プログラムに提供し、翻訳や文化的適応、またテストや修正を行えるようにする必要がある。
74 各国の資料・研修センターは、全国的な、また地方の人権教育プログラムの開発に活用することができるように、これらすべての教材を提供されるべきである。また、人権教育にとりくむ各国の中心的組織は、人権高等弁務官への報告において、この点でのニーズを具体的に示す必要がある。一方、人権教育にとりくむ各国の中心的組織は、これらの人権教育教材を、地方に根ざした団体、全国的な専門家研修プログラムおよびNGO、その他「十年」を担う関係組織に提供する責任がある。
75 特別の対象者向けに新しい教材を開発する際には、この行動計画のTからXに示された基準、定義、指導原則、目的、対象集団に加えて、以下のことがらを検討する必要がある。
(a)同僚によるプレゼンテーション
可能であれば、効果的な研修のために、実際的な指向性を持った専門家を活用すべきであ
る。
 大学教授や理論家のみで構成される専門家パネルではなく、人権教育を行うために、法律家、判事、あるいは警察官など、それぞれの関連分野の実務家を準備することを考慮すべきであろう。例えば、警察官が警察官と話し合うというように、同僚どうしで学習するアプローチを用いれば、「教授が学生に」という研修モデルよりも、多くの成果が得られるであろう。
(b)研修指導者の訓練と力量育成
 対象となる人権コースの参加者は、研修コース終了後もその責任が継続するという認識のもとに選ばれる必要がある。通常の任務に戻った後も、自ら研修を継続し、あるいは研修の成果を広める責任を負う必要がある。こうして、提供された情報が関係機関全体に広められるので、研修コースの効果は数倍に拡大する。
(c)教育技術
 「十年」のもとで開発されるコースはそれぞれ、特定の対象者の研修に効果的な各種の方法を紹介する部分を備えている必要がある。特に、プログラム参加者の積極的で熱心な参加を確実にするような、創造的で、相互作用のある教授方法を活用するための提案が求められる。そのような方法として、ワーキング・グループ(作業部会)、講演・討論、事例研究、パネル討論、円卓会議(ラウンド・テーブル)、ブレーンストーミング、シミュレーション、ロールプレイ、フィールド・トリップ(野外研究)、実習、視聴覚機器などを、その特定の対象者にとって文化的に適合した形で活用することがあげられる。
(d)対象者にあわせたやり方
 一般に適応できるようなあいまいな原則をただ繰り返すだけでは、特定の対象者の実際の行動に影響を及ぼしうる可能性はほとんどない。実際、研修や教育が効果を上げ、少しでも役立つものとなるためには、警察官であれ、医療従事者であれ、法律家や学生であれ、その特定の対象者に合わせて、適切な形で提示する必要がある。従って、「人権教育の十年」の教育活動は、生活と距離感のある理論的概念よりも、その対象者が地域社会で担っている役割や日々の仕事に直接関係した基準に焦点をあてるべきである。
(e)実際的なアプローチ
 ある国の警察署で起こった違反を調査していた最近の議会委員会の報告によると、権力の濫用を示す証拠をつきつけられたときに警察の側が述べたことは、捜査方法についての理解を欠いていたこと、旧式のやり方で取り調べを行ったこと、また民主主義国家での捜査がどのように行われているかについて知らなかったことなどであったという。捜査のやり方を比較し、改善するために警察が望んだのは、民主主義国家において調査を行い、その捜査方法について観察することであった。このような報告は、二つの重要な点を浮き彫りにするが、これらのことは警察官以外の研修参加者にもあてはめて考えることができる。まず、拷問のように人権を著しく侵害する行為を正当化しようとすることは、それがいかなる根拠にもとづくものであっても、人権のもっとも基本的な基準に関する認識を欠いていることを示す。つまり、いかなる理由であれ、その様な行為を正当化することは不可能なのである。第二に、実際の警察官(また他の集団)は、規則が何であるかということだけではなく、それらの規則の制約のもとでも、職務をいかに効果的に遂行できるかを知りたいのである。このいずれであっても、それを無視するような研修のとりくみは、信頼もされず、効果をあげることもできない。従って、「十年」のもとでの教育のとりくみは、対象になる専門職の職務遂行にとって、その時点でもっともすぐれたやり方であるとして文献や専門家の提言が示しているような、つまり対象集団の職務遂行を促進する効果がすでに明らかにされている方法についての実際的な情報を含むべきである。
(f)基準の包括的な提示
 「十年」のもとで開発されたコースや教材は、関連する国際的基準を詳細に提示する必要がある。そのため、関連文書や簡素化された学習資料を翻訳し、研修参加者に配布する必要がある。
(g)感性に働きかける教育
 「十年」のもとで開発されたコースや教材の目標は、基準や実際的なスキルを伝えるだけにとどまらず、研修参加者自身が、意図的ではなくても人権を侵害するような振る舞いをする可能性をもっていることを気づかせるような演習を含む必要がある。例えば、参加者自身の態度、あるいは振る舞いの中に性差別や人種差別の要素が含まれていることを自覚させる効果をもった、よく設計された演習である。同様に、(例えば)女性に適用される基準の重要性は、いつも明白であるとは限らない。例えば、さまざまな国際文書において見かけられる「名誉を傷つけるような扱い」ということばは、女性に適用される際には、男性とは異なる実際的意味合いを持っているかもしれないし、あるいは文化によっても、異なった意味合いをもつ可能性がある。
(h)研修コースの設計と適用の柔軟性
 普遍的な効果をもつためには、研修担当に単一の厳格な視点やアプローチを要求するのではなく、柔軟な利用を促すような形で研修コースが設計される必要がある。これらのコースは、研修対象者の中に存在する多様な幅を持った文化的、教育的、地域的、経験的ニーズや現実に適応できるものでなければならない。
(i)評価のツール
 研修教材やコースは、研修前・後の評価のための、評価用質問紙のような演習を含む必要がある。これは、三つの重要な目的に役立つ。まず、コース開始前の質問紙は、適切に活用すれば、対象者の具体的な教育ニーズに合わせて、研修担当者が研修内容を修正することを可能にする。コース終了後の質問紙と評価セッションは、いずれも研修参加者自身が何を学んだかのかを確認し、「十年」のもとで提供されるコースの継続的な(決定的に重要)修正と改善を支援するものである。

評価とフォローアップ
76 人権高等弁務官は、その予備・中間・最終報告と並んで、あらゆる国際的、地域的組織や人権教育にとりくむ各国の中心的組織に、ここに示した利用可能な研修教材の最新リストを配布できるようにとりくむ。
77 人権教育にとりくむ各国の中心的組織、ならびに「十年」に参加する他の協力組織の報告書によって提供される情報にもとづいて、変化するニーズに示されるように、新しい教材の開発と普及を奨励する必要がある。

G:要素7―マスメディアの役割強化
目的
78  要素7の目的は、人権教育を一層推進するために、マスメディアの役割と能力を強化することである。

プログラム
79 さまざまなレベルの読み書き能力をもつ人々、及び僻地で生活や仕事をしている人々を含む社会のあらゆるセクターに人権教育を提供する上で、マスメディアが重要な役割を果たしていることを認識した上で、放送や他のメディアの専門家は、「国連人権教育の十年」において、人権に関する情報や一般市民向けの人権教育の視点をその職務に盛り込むために、一層の研修と支援を受けるべきである。「十年」のもとで研修や技術的支援の提供に関わるすべてのプログラムや組織は、このようなとりくみへの貢献を検討する必要がある。とくに国連人権センターは、メディア向けに人権のマニュアルを作成し、そのメディア研修活動を強めるべきである。
80 「十年」を担うすべての関係組織は、メディアとの接触において、その独立性と情報や表現の自由を十分に尊重しながら、一般市民向けに人権問題がとりあげられるように奨励し、また人権についての情報やアイデアを提供し、人権に関する市民の対話を促進するように取り組むべきである。
81 人権高等弁務官、及び国連人権センターとの協議により、国連広報局は、人権に関する国連のテレビ・ラジオの教育プログラム制作を大幅に増やす。同局はまた、人権をテーマにしたラジオ放送番組やビデオ、映画などを製作することも望まれる。
82 人権高等弁務官、及び国連人権センターは、国連広報局との協力により、人権に関する一般市民向けの広報や教育を推進するためのメディア諮問委員会を設立し、人権基準や機構に関するマスメディアによる広報キャンペーンを発展させる。
83  人権に関する世界広報キャンペーンとの関係で、また関連するNGOや機関との協力により、国連人権センターはデータ表、調査研究、その他の人権に関する広報資料の出版活動を強化する。また、例えば1995年の国連50周年や1998年の世界人権宣言50周年のような公的な人権行事を組織し、あるいは参加する。人権高等弁務官はこれらの行事が世界的にメディアで報道されるようにとりくむ。

研修とフォローアップ
84 人権高等弁務官は、その予備・中間・最終報告書において、国際社会、地域、国の各レベルで、人権問題に対するメディアの関心を高めるためのとりくみについて情報を提供する。人権教育に取り組む各国の中心的組織はすべて、それぞれの国内での人権問題に関する新聞報道を検討し、その内容について人権高等弁務官に報告することが期待される。また、国際的なレベルでは、同様の新聞報道に関する検討を、国連人権センターと国連広報局で行う。

H:要素8ー世界人権宣言の世界的普及
目的
85 要素8の目的は、最大限可能な数の言語で、またさまざまな読み書き能力や障害をもつ人々にふさわしい方法で、世界人権宣言を世界的に普及させることである。

プログラム
86 人権高等弁務官、および国連人権センターは、ユネスコ、国連広報局、および国連広報センターとの協力により、世界人権宣言がどれだけの言語で発行されているのか、また絵や視聴覚、その他の形態で表現されているのかについて、世界的な調査を実施し、1995年から各加盟国において、世界人権宣言がそのようなさまざまな形で活用できるようにとりくむ。
87 上記調査結果にもとづき、人権高等弁務官はさらに他の言語で人権宣言を翻訳するための計画を作成する。その際、各加盟国の主要言語による翻訳が少なくともひとつ確保されること、また各国におけるさまざまな読み書き能力や障害をもつ人々に適した世界人権宣言の音声版、あるいは他の形態で表現したものが、最低ひとつ確保されることを優先的に考える。
続いて、これら以外にも、マイノリティ集団や他の民族の言語による翻訳、また異なった
読み書き能力や障害のレベルに対応した世界人権宣言を、それぞれ早急に作成する必要が
ある。
88 人権高等弁務官と人権教育にとりくむ各国の中心的組織の調整により、また調査にもとづいてつくられた計画の従って、政府、各国のNGO、大学、研究所は、必要であれば国際的な機関やプログラムの技術的、資金的な支援を受けながら、世界人権宣言を適切な形態で翻訳、出版、普及することが求められる。このような国際機関やプログラムとしては、国連人権センター、ユネスコ、その他の国連機関、また国際的なNGOによる助言サービスや技術支援が含まれるが、人権高等弁務官によってその提供が奨励され、また国際的な援助機関もこのような努力を支援することが望まれる。
89 1998年の世界人権宣言50周年に際し、国際社会、地域、国の各レベルで、それぞれ大きな記念行事が組織され、世界人権宣言の諸規定についての普遍的な知識や理解の重要性が強調されるだろう。国際的なレベルでは、人権宣言が確実に世界的に普及し、またすべての加盟国において、あらゆる教育段階の人権教育に有効に組み込まれるための戦略を生み出すために、人権高等弁務官が世界人権宣言の普及に関する国際会議を開催する予定である。地域機関や人権教育にとりくむ各国の中心的組織も、これに相応する事業を展開し、国際会議の勧告に貢献するとともに、その実施に向けてとりくむことが望まれる。

評価とフォローアップ
90 人権高等弁務官が実施する調査の結果と1998年に開催される国際会議の報告書は、それらが完成した時点で、すべての地域機関、人権教育に取り組む各国の中心的組織、また「国連人権教育の十年」に関心を持つ他の関係組織に配布される。
91 すべての地域機関、人権教育にとりくむ各国の中心的組織、および「十年」に関心を持つ他の関係組織は、調査終了後の進展について、人権高等弁務官に中間報告(西暦2000年)と最終報告(同2005年)に必要な情報を提供することが求められる。報告内容としては、実施された記念行事、利用可能な世界人権宣言の翻訳その他の形態による表現、またこれらのプログラム要素の達成に向けた継続的なニーズや課題が含まれる。
92 人権高等弁務官はこれらすべての情報を中間、および最終報告にもりこみ、すべてのプログラム実施協力組織は、これらの報告に含まれた情報や提案に従って、そのとりくみを再度方向づけする。

8 地球規模の中間評価
93 西暦2000年には、「国連人権教育の十年」の目的達成に向けてどれだけの進展がなされたかについて、人権高等弁務官と国連人権センターが、「人権教育の十年」の他のすべての関係組織と協力して、地球規模の中間評価を実施する。人権高等弁務官は、この評価結果を国連総会に報告する。
94 この評価報告は、国際社会、地域、国、地方の各レベルで、それまでに達成されたことについてのあらゆる入手可能な情報を考慮し、残された課題や不充分点を明らかにし、「十年」の残りの5年間にとりくむべき行動に関する提案を行う。
95 人権高等弁務官の報告書のために、「人権教育の十年」に参加している各国の人権教育にとりくむ中心的組織、国際的・地域的な組織、NGO、専門機関とプログラム、その他の関心をもつ組織や人々は、その独自の評価や活動にもとづいて、人権高等弁務官に適切な情報を提供することが求められる。とくに、人権教育に取り組む各国の中心的組織は、自国において詳細な評価を実施し、その上で人権高等弁務官に報告することが要請される。

9 「国連人権教育の十年」のしめくくり
96 西暦2005年は、「国連人権教育の十年」の最終の年である。従って、この年は、各国の行動計画実施を通じて、人権教育プログラムを全般的にに達成する目標年となる。また、人権教育教材の包括的な収集を完了し、すべての加盟国にそれらを広く普及させる目標年でもある。「十年」の終了までに、人権教育を推進するための有効な国家的力量が、世界的に確保されていなければならない。

10 「国連人権教育の十年」のフォローアップ
97 「国連人権教育の十年」の終了後、人権高等弁務官は国連人権センターの支援により、またユネスコと協力しながら、地方、国、地域、国際社会の各レベルでの人権教育の現状に関する最終報告を出す必要がある。この報告書において、人権高等弁務官はさまざまな分野における進展について、できるだけ詳細に記述することが求められる。例えば、世界人権宣言がどれだけの言語に翻訳されているか、国際的・地域的な組織やプログラムによって開発された人権教育マニュアルやハンドブック、教材の種類と数、人権教育の研究機関、センター、あるいは各国で恒常的に設けられた人権教育のとりくむ国レベルの中心的組織の数、人権に関する研修をうけた各国の教員の割合、人権教育カリキュラムを採択した学校の数、そして専門分野や非定型的(non‐formal)、無定型的(informal)な教育の種類と数、などである。またこの報告書は、関心をもつ団体や個人が、どのようにすればさまざまな言語による世界人権宣言の翻訳や人権教育教材を入手できるかについても、詳しい情報を提供すべきである。
98 「十年」のもとで設けられた国、地域、国際社会の機構やネットワークは、人権教育分野での国際協力にとって、恒常的な推進・接触拠点として機能し続ける必要がある。そして、人権高等弁務官と国連人権センターは、ユネスコと協力しながら、そのような機構や人権教育にとりくむ国レベルの中心的組織の最新のリストを管理し、要請があれば情報を提供できるようにすべきである。
99 「十年」のもとで開発された人権教育教材は、定期的に見直し、変化するニーズや現実に対応して、内容を補ったり、修正したりする必要がある。そして、できるだけ幅広く利用可能な形で、引き続き提供されなければならない。 

訳:森 実(大阪教育大学)
訳:阿久澤麻里子(山本登研究室嘱託調査員)
監訳:平沢 安政(大阪大学)


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