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女性に対する暴力の撤廃に関する宣言

 総会は、
 あらゆる人間の平等、安全、自由、誠実、及び尊厳に関する権利及び原則の女性への普遍的適用が緊急に必要であることを認識し、
 これらの権利及び原則は国際規約、特に世界人権宣言、自由権規約、社会権規約、女子差別撤廃条約、及び拷問禁止条約等の中に述べられていることに留意し、
 女子差別撤廃条約の効果的実施が女性に対する暴力の撤廃に寄与し、本宣言はその過程を強化し補足するものであることを認識し、
 女性に対する暴力は、女性に対する暴力と闘うための一連の措置を勧告した「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」で認められているように平等、発展及び平和の達成の障害となること、また、女子差別撤廃条約の十分な実施のための障害となることを憂慮し、
 女性に対する暴力は女性による人権及び基本的自由の享受を侵害し及び損ない又は無効にすることを認め、また女性に対する暴力に関連するこれらの権利及び自由が長年の間保護及び促進されないでいることを憂慮し、
 女性に対する暴力は、男女間の歴史的に不平等な力関係の現れであり、これが男性の女性に対する支配及び差別並びに女性の十分な地位向上の妨害につながってきたこと、及び女性に対する暴力は女性を男性に比べ従属的な地位に強いる重要な社会的機構の一つであることを認識し、
 少数者グループに属する女性、先住民の女性、難民女性、移民女性、農村部又は遠隔地の地域社会に住む女性、貧困女性、施設又は拘置所にいる女性、女児、障害を持つ女性、高齢女性及び武力紛争状況下にある女性など―部の女性は特に暴力にさらされやすいことを憂慮し、
 1990年5月24日の経済社会理事会決議1990/15の付属書が、特に家庭及び社会における女性に対する暴力は広範囲にわたっており収入、階段及び文化の境界を越えたものであり、その発生を除去するための緊急かつ効果的な措置により対抗されなければならないことを認めたことを想起し、
 更に、特に女性に対する暴力の問題に明示的に対処する国際文書の枠組みの開発を勧告する1991年5月3O日の経済社会理事会1991/l8を想起し、
 女性に対する暴力の問題の性質、激しさ及び重大さに対しますます注意を喚起することに女性運動が果たしてきた役割を歓迎し、
 女性の社会における法的、社会的、政治的及び経済的平等を達成する機会が、特に継続的かつある地に特有の暴力によって、制限されていることに驚き、
 以上に鑑み、女性に対する暴力に関する明確で包括的な定義、女性に対するあらゆる形態の暴力の撤廃を確保するために適用されるべき権利の明確な陳述、加盟国によるその責任に関しての確約、及び女性に対する暴力の撤廃に向けての国際社会全体の確約、が必要であることを確信し、
 ここに付属する宣言を厳粛に宣明し、次の宜言が一般に知られ尊重されるあらゆる努力がなされるよう求める。

第1条
 本宣言上、「女性に対する暴力」は、女性に対する肉体的、精神的、性的又は心理的損害又は苦痛が結果的に生じるかもしくは生じるであろう性に基づくあらゆる暴力行為を意味し、公的又は私的生活のいずれで起こるものであっても、かかる行為を行うという脅迫、強制又は自由の恣意的な剥奪を含む。

第2条
 女性に対する暴力は次に掲げるものを含むが、これに限られないものとする。
(a) 殴打、家庭内における女児の性的虐待、持参金に関連した暴力、夫婦間の強姦、女性性器の切除及びその他の女性に有害な伝統的慣習、婚姻外暴力及び搾取に関連した暴力を含む家庭において起こる肉体的、性的及び精神的暴力。
(b) 強姦、性的虐待、職場・教育施設及びその他の場所における性的嫌がらせ及び威嚇、女性の人身売買及び強制売春を含む一般社会において起こる肉体的、性的及び精神的暴力。
(c) 起こる場所を問わず、国家により行われた又は許容された肉体的、性的及び精神的暴力。

第3条
 女性は政治的、経済的、社会的、文化的、市民的又はその他の如何なる分野においてもあらゆる人権及び基本的自由を平等に享受したその保護を受ける権利を有する。これら権利は主に次のものを含む。
(a) 生命に対する権利
(b) 平等に対する権利
(c) 個人の自由及び安全に対する権利
(d) 法の下で平等な保護をうける権利
(e) あらゆる形態の差別からの自由の権利
(f) 到達可能な最高水準の肉体的精神的健康を享受する権利
(g) 公正かつ良好な労働条件を享受する権利
(h) 拷問若しくは残酷な、非人道的な又は侮辱的な取扱い又は処罰を受けない権利

第4条
 国は、女性に対する暴力を非難すべきであり、その撤廃に関する義務を回避するため如何なる慣習、伝統又は宗教的考慮をも理由として援用してはならない。国は、あらゆる適切な手段を以て遅滞なく女性に対する暴力を撤廃するための施策を推進すべきであり、この目的のため、次のことを行うべきである。
(a) 女子差別撤廃条約の批准または加入もしくは同条約の留保の撤回につき、これを実施していないものについてはその検討を行う。
(b) 女性に対する暴力への関与を控える。
(c) 女性に対する暴力行為を、かかる行為が国により行われたか又は個人によるものかを問わず、防止し調査しまた国内法に従って処罰するためしかるべき努力を払う。
(d) 暴力を受けた女性に対して行われた不法行為を処罰し補償するため国内法に刑事、民事、労働及び行政上の罰則を開発する。暴力を受けた女性は、司法機構及び、国内法の規定に従いその被った被害に対する公正かつ効果的な救済へのアクセスが与えられるべきである。国はまた女性に対し、かかる機構を通じて補償を求める権利を知らせるべきである。
(e) あらゆる形態の暴力からの女性の保護を促進するため、又は既存の計画にこの目的の規定を含めるため、特に本問題に関心を有する非政治団体から提供され得る協力をそれが適当である場合には考慮に人れて、国内行動計画を開発する可能性を検討する。
(f) あらゆる形態の暴力からの女性の保護を促進する予防方法及びあらゆる法的、政治的、行政的及び文化的性質の措置を包括的に開発し、性別に配慮しない法律、実施慣行及びその他の介入のための女性が重ねて被害を受けないことを確保する。
(g) 利用可能な資源に鑑みて実現可能な最大限の範囲で、また必要な場合には、国際協力の枠組みの中で、暴力を受けた女性及び、それが適当である場合にはその子供が、社会復帰、子供の保育及び扶養の補助、治療、相談、保健及び社会事業、施設及び計画並びに支援組織等の特別な支援を得られるよう努力し、またその安全並びに肉体的及び心理的リハビリテーションを促進するためのその他あらゆる適切な措置をとらなければならない。
(h) 政府予算に女性に対する暴力の撤廃に関する活動のための相応な予算を含む。
(i) 法執行官及び女性に対する暴力を防止し、調査しまた処罰するための施策の実施を担当する公務員が、女性の必要としているものを察知し得るようにするための訓練を受けることを確保するための措置を取る。
(j) 男女の社会的及び文化的行動様式を修正し、偏見、伝統的慣習及びいずれかの性の優越性または劣等性の概念及び男女の定型化された役割に基づくその他のあらゆる慣習を撤廃するため、特に教育の分野において、あらゆる適切な措置をとる。
(k) 特に家庭内暴力に関し、女性に対する異なる形態の暴力の横行に関する調査、情報収集及び統計の編纂を促進し、女性に対する暴力の原因、性質、重大性及び結果並びに女性に対する暴力を予防し救済するため実施された措置の効果についての研究を奨励する。
(l) 特に暴力に晒されやすい女性に対する暴力の撤廃に向けた措置をとる。
(m) 関連する国際連合の人権関係諸条約の下で求められている報告を提出する際には、女性に対する暴力及びこの宣言の実施のためとられた措置に関する情報を含める。
(n) この宣言に述べられた原則の実施を助ける適当なガイドラインの開発を奨励する。
(o) 女性に対する暴力の問題に関する関心を高めまたその問題を軽減することにおける女性運動及び非政府団体の役割を認識する。
(p) 女性運動及び非政府団体の活動を促進し強化し、地方、国内及び地域レべルでこれら団体と協力すべきである。
(q) 加盟している政府間地域機関がその活動計画に然るべく女性と暴力の撤廃を含めることを奨励する。

第5条
 国際連合機構の組織及び専門機関は、各々その能力のある分野において、この宣言に述べらせれた権利及び原則の認識及び実現に寄与し、この目的のため、主に次のことを行う。
(a) 暴力に対抗するための地域戦略を定め、女性に対する暴力の撤廃に関する経験を交換しまた計画への資金拠出を行うことを目的として国際協力及び地域協力を促進する。
(b) あらゆる人々の間に女性に対する暴力の問題に関する意識を啓発し高めることを目指して会合及びセミナーを促進する。
(c) 本問題に効果的に対処するため国連機構内の人権関係条約組織間の調整及び交流を促進する。
(d) 世界社会情勢に関する定期報告等、国連機構の組織及び機関による社会的動向及び問題の分析に女性に対する暴力の動向の調査を含む。
(e) 特に暴力を受けやすい女性グループに関し、女性に対する暴力の問題を現在継続中の計画に組み入れるよう国連機構の組織及び機関間の調整を促進する。
(f) ここに記載された措置を考慮して、女性に対する暴力に関するガイドライン又はマニュァルの作成を推進する。
(g) その任務遂行において、それが適当である場合には、人権関係条約の実施との関連を含め、女性に対する暴力の撤廃の問題を検討する。
(h) 女性に対する暴力に対処するについては非政府機関と協力する。

第6条
 この宣言のいかなる条項も、国内法、国際規約、条約又はその他国内において効力を有する文書に含まれている女性に対する暴力の撤廃のためより一層効果的な条項に対し何等影響を及ぼすものではない。



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