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文初中第371の1号
平成6年12月16日
各都道府県教育委員会・各都道府県知事・附属学校を除く各国立大学長あて
文部省初等中等教育局長 野崎 弘

いじめの問題について当面緊急に対応すべき点について(通知)

 児童生徒のいじめの問題については,昭和60年6月29日付け文初中第201号をもって既に指導の充実をお願いし,各関係機関,学校においては,特段の努力が払われているところであります。
 しかしながら,今般,いじめを苦に生徒が自殺するという痛ましい事件が発生し,また,その他にもいじめの発生が伝えられるなど,いじめの問題は極めて憂慮すべき事態となっております。
 文部省においては,この間題に関する緊急の対応として,去る9日,「いじめ対策緊急会議」を開催したところであり,その結果,同会議より,当面,緊急に対応すべき点について,別添1のとおり,緊急アピールが発表されたところであります。
 また,去る13日,「児童生徒のいじめ問題に関する関係閣僚会合」が開催され,内閣においても,関係省庁がこの間題の解決のために協力して取り組んでいくこととされたところであります。
 ついては,貴機関におかれては,これらの趣旨を十分御理解の上,いじめの問題への対応について遺漏のないよう必要な措置を講じられるとともに,あわせて,貴管下の学校その他の関係機関に周知徹底し,関係者がこの間題の重大性を強く認識し,その対応に積極的に取り組むよう指導をお願いします。なお,その際,当面の取組として,特に下記の点について十分御留意下さるようお願いします。
 なお,今後,文部省としては,「いじめ対策緊急会議」において更に検討を重ね,必要な対応等について提言をいただく予定であります。
 また,本年7月に設置された「児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議」において,小・中・高等学校の児童生徒及びその保護者並びに教師を対象としたアンケート調査や,いじめ等に関する事例研究などを行うとともに,「いじめ対策緊急会議」における検討・提言も踏まえ,更に総合的な検討を進め,所要の対策等を取りまとめる予定であります。また,引き続き,生徒指導関連施策の一層の充実を図っていくこととしております。


1 いじめは外から見えにくい形で行われることが多く,いじめの兆候を見過ごしてしまう危険性も高い。このため,学級担任を中心に全教職員が自覚と責任を持って,児童生徒が発する危険信号を見逃さず,問題の早期発見に努めることが大切である。全ての学校は,自らの学校にもいじめがあるのではないかとの問題意識を持って,直ちに学校を挙げて総点検を行うとともに,真剣に実情を把握し,適切な対応を取る必要がある。また,教育委員会においても,改めて,管下の学校にいじめがあるのではないかとの問題意識を持って,各学校と自らの取組について見直す必要がある。
 その際,本通知の内容及び別添2の「いじめの問題への取組についてのチェックポイント」等を参考とすることが望まれる。
2 いじめが行われる背景には,いじめる側に,思いやりや他者の痛みが分かる心,善悪の判断,遵法精神等が欠落している点があると思われる。特に,「社会で許されない行為は子どもでも許されない」との強い認識に立って子どもに臨むことが不可欠であり,また,学校と家庭は,改めてそれぞれの立場から,人間として備えるべき基本的な生活習慣・態度を徹底する教育,しつけを行うことが求められる。
3 いじめを受けている児童生徒の中には,誰にもこれを打ち明けることができず,その苦悩を一人で抱え込んでしまう者も多いと思われる。このような児童生徒については,いつでも相談できる雰囲気を醸成するとともに,教師の側から働き掛けることも肝要である。また,改めて,日頃から,児童生徒に対して,悩んでいる時,困っている時には積極的に相談することが大切である旨を徹底させる必要がある。
4 教育センターなど,児童生徒,保護者,教師がそれぞれの悩みを気軽に相談できる窓口を学校の外においても整備充実することが不可欠である。
 なお,教育センターの他,人権相談所,子どもの人権専門委員,児童相談所,家庭児童相談室,警察,少年補導センタ一などの相談窓口も含め,それらの所在情報等について,全ての児童生徒,保護者,教師に対する周知や広報の徹底を直ちに行う必要がある。
 また,学校,教育委員会においては,いじめの問題への対応に当たって,地域社会や関係機関等との密接な連携・協力を図る必要がある。
5 児童生徒がいじめにより心身の安全が脅かされるような深刻な悩みを持っている等の場合の対応には様々なものが考えられるが,公立の小・中学校においては,保護者の希望により,医師,教育相談機関の専門家,関係学校長などの意見等も十分に踏まえた上で,就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置を講じていく必要がある。

別添1
「いじめ対策緊急会議」緊急アピール

平成6年12月9日

 愛知県の中学2年生が,11月27日,いじめを苦に自らの命を絶ったことは,社会に大きな衝撃と深い悲しみをもたらした。いじめ対策緊急会議は,こうしたことが二度と繰り返されてはならないという観点から,いじめの問題に関する緊急の検討を行うために開催されたものである。
 討議の結果,いじめの問題は学校・家庭・社会が総合的に取り組むべき問題であるとの認識の下に,当面緊急に対応すべき点として下記のとおり提言する。なお,本会議は,この問題について引き続き真剣に検討を続けることとする。


 いじめがあるのではないかとの問題意識を持って,全ての学校において,直ちに学校を挙げて総点検を行うとともに,実情を把握し,適切な対応をとること。
 学校・家庭・社会は,社会で許されない行為は子どもでも許されないとの強い認識に立って子どもに臨むべきであり,子どももその自覚を特つこと。
 子どもが,必要なときにはすぐに親や教師に相談することができるよう,子どもと親や教師との信頼関係を深めることが大切であること。
 家庭は,いじめの問題の持つ重さと家庭における教育の重要性を再認識し,子どもの生活態度を見直してみること。
 学校は自らの責任を深く自覚するとともに,学校だけで解決できない場合もあるので,地域社会や関係行政機関との連携・協力を求めること。
 国や地方公共団体においてもいじめの問題の解決に向けての施策の充実に努めること。



別添2
「いじめの問題への取組についてのチエツクポイント」

<趣旨>
 このチェックポイントは,最近における深刻な児童生徒のいじめの問題の状況にかんがみ,昭和60年10月25日付け文初中第244号別添の「いじめの問題に関する指導の状況に関するチェックポイント」に,今回通知の趣旨を加え,いじめの問題に関する学校及び教育委員会の取組の充実のために,具体的に点検すべき項目を参考例として示したものである。
 なお,「いじめ」の定義については,一般的には,「1:自分より弱いものに対して一方的に,2:身体的・心理的な攻撃を継続的に加え,3:相手が深刻な苦痛を感じているもの」とされているが,個々の行為がいじめに当たるか否かの判断は,表面的・形式的に行うことなく,いじめられた児童生徒の立場に立って行うことに留意する必要がある。

<チェックポイント>
I 学 校
(指導体制)
 いじめの問題の重大性を全教職員が認識し,校長を中心に一致協力体制を確立して実践に当たっているか。
 いじめの態様や特質,原因・背景,具体的な指導上の留意点などについて職員会議などの場で取り上げ,教職員間の共通理解を図っているか。
 教師は,日常の教育活動を通じ,教師と児童生徒,児童生徒間の好ましい人間関係の育成に努めているか。また,児童生徒の生活実態のきめ細かい把握に努めているか。
 児童生徒が発する危険信号を見逃さず,その一つ一つに的確に対応しているか。
 いじめについて訴えなどがあったときは,学校は,問題を軽視することなく,的確に対応しているか。
(教育相談)
 校内に児童生徒の悩みや要望を積極的に受け止めることができるような教育相談の体制が整備されているか。また,それは,適切に機能しているか。
 学校における教育相談について,保護者にも十分理解され,保護者の悩みに応えることができる体制になっているか。
 教育相談では,悩みをもつ児童生徒に対してその解消が図られるまで継続的な事後指導が適切に行われているか。
 教育相談の実施に当たっては,必要に応じて教育センターなどの専門機関との連携が図られているか。
 教育センター,人権相談所,児童相談所等学校以外の相談窓口について,児童生徒や保護者に対し周知や広報の徹底が行われているか。
(教育活動)
 学校全体として,校長をはじめ各教師がそれぞれの指導場面においていじめの問題に関する指導の機会を設け,積極的に指導を行うよう努めているか。
 道徳や学級活動・ホームルーム活動の時間にいじめにかかわる問題を取り上げ,指導が行われているか。
 学級活動や児童生徒会活動などにおいて,いじめの問題とのかかわりで適切な指導助言が行われているか。
 児童生徒に幅広い生活体験を積ませたり,社会性のかん養や豊かな情操を培う活動の積極的な推進を図っているか。特に,「社会で許されない行為は子どもでも許されない」との強い認識に立って指導に当たっているか。
(家庭・地域との連携)
 学校は,PTAや地域の関係団体等とともに,いじめの問題について協議する機会を設け,いじめの根絶に向けて地域ぐるみの対策を進めているか。
 学校は,家庭に対して,いじめの問題の重要性の認識を広めるとともに,家庭訪問や学校通信などを通じて家庭との緊密な連携協力を図っているか。
 いじめが起きた場合,学校として,家庭との連携を密にし,一致協力してその解決に当たっているか。
 いじめの問題解決のため,学校は必要に応じ,教育センター,児童相談所,警察等の地域の関係機関と連携協力を行っているか。

II 教育委員会
(指導体制)
 教育委員会は,管下の学校等に対し,いじめの問題に関する教育委員会の指導の方針などを明らかにし,積極的な指導を行っているか。
 教育委員会は,管下の学校におけるいじめの問題について,学校訪問や調査の実施などを通じて実態の的確な把握に努めているか。
 いじめの問題について指導上困難な課題を抱える学校に対して,指導主事や教育センターの専門家の派遣などによる重点的な指導,助言,援助を行っているか。
(教育相談)
 教育委員会に,学校からの相談はもとより,保護者からの相談も直接受けとめることのできるような教育相談体制が整備されているか。また,それは,利用しやすいものとするため,相談担当者に適切な人材を配置するなど運用に配慮がなされ,適切に機能しているか。
 教育委員会は,教育相談の利用について関係者に広く周知を図っているか。また,教育センター,人権相談所,児童相談所等学校以外の相談窓口について,児童生徒,保護者,教師に対し周知徹底が図られているか。
 教育委員会は,教育相談の内容に応じ,学校とも連絡・協力して指導に当たるなど,継続的な事後指導を適切に行っているか。
 教育相談の実施に当たっては,必要に応じて,医療機関などの専門機関との連携が図られているか。
 いじめによる悩みを持つ児童生徒の小・中学校の学校指定の変更の相談があった時,親身になって相談にのるとともに,その取扱いについて適切な対応がなされているか。
(教員研修)
 教育委員会として,いじめの問題に留意した教員の研修を積極的に実施しているか。
 いじめの問題に関する指導の充実のための教師用手引書などを作成・配布しているか。
(家庭・地域との連携)
 教育委員会は,学校とPTA,地域の関係団体等がいじめの問題について協議する機会を設け,いじめの根絶に向けて地域ぐるみの対策を推進しているか。
 教育委員会は,いじめの問題への取組の重要性の認識を広め,家庭や地域の取組を推進するための啓発・広報活動を積極的に行っているか。
 教育委員会は,いじめの問題の解決のために,関係部局・機関と適切な連携協力を図っているか。




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