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文初中第371号
平成7年12月15日
各都道府県教育委員会教育長・各都道府県知事・附属学校を置く各国立大学長あて
文部省初等中等教育局長 井上 孝美

いじめの問題への取組の徹底等について(通知)

 最近,いじめを苦にしたと考えられる中学校生徒の自殺事件が続いて発生したことは,極めて遺憾なことであります。児童生徒が自らの命を絶つということは,理由の如何を問わずあってはならず,特に,昨年11月以来,いじめの問題の解決のために取組を強化してきた文部省としては,今回の事件を深刻に受け止めているところであります。
 このたび,平成7年5月30日付け7初中第34号をもって照会した児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査の結果を,別添「生徒指導上の諸問題の現状と文部省の施策について」のとおりとりまとめましたが,この調査結果においても,いじめの発生件数は極めて多数に上っています。
 いじめの問題については,「いじめ対策緊急会議」の「緊急アピール」を受け,平成6年12月16日付け文初中第371の1号をもって,また,同会議の「いじめの問題の解決のために当面取るべき方策について」の報告を受け,平成7年3月13日付け文初中第313号をもってこの問題への取組の徹底をお願いしたところです。また,文部省としても本年度より「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」の実施,国立教育会館の「いじめ問題対策情報センター」の設置,市町村における教育相談員の配置のための地方財政措置をはじめ,いじめの問題の解決に向けて種々の施策を講じてきたところです。
 いじめの問題については,上記「いじめ対策緊急会議」の報告に示された「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」などの基本認識に基づいて,学校,家庭,地域社会の一体となった取組が重要です。特に学校においては,まず,日頃から一人ひとりの個性を尊重し,分かりやすく楽しい授業を行うとともに,深い児童生徒理解に立ち,児童生徒がいきいきとした学校生活を送ることができるように努めることにはじまり,日常の学校運営,教育指導,生徒指導の在り方一つ一つの改善に努める必要があります。
 貴機関においては,上記の文部省通知の趣旨及び下記の点を十分踏まえ,いじめの問題の解決のため取組の一層の充実を図るとともに,あわせて貴管下の学校その他の関係機関にこれらの趣旨を周知徹底し,教師をはじめとする関係者全員がこの問題の重大性を強く認識し,その対応に積極的に取り組むよう改めて指導の徹底をお願いします。
 なお,貴機関及び貴管下の学校をはじめ各機関においては,昨年12月以来,いじめの積極的な実態把握と,その解決に向けた様々な取組を行っていただいているところですが,このたび,この1年間のいじめの問題への取組状況を総点検し,取組の現状,効果等について把握するとともに,今後の更なる対策の参考とするため,「いじめの問題への取組についての総点検調査」を実施することとしましたので,別紙の調査実施要領により調査の上,平成8年1月31日までに当局中学校課長あて御提出ください。
 おって,いじめの問題以外にも,別添「生徒指導上の諸問題の現状と文部省の施策について」における登校拒否,校内暴力,自殺等の調査結果を踏まえると,生徒指導上の諸問題については全体として憂慮すべき状況になっております。
 貴機関においては,これらの問題への対応についても,これまでの各種の文部省通知を踏まえ,引き続き遺漏なく必要な措置を講じるようお願いします。


1 全ての児童生徒に対して生命や人権の大切さについての指導や生きる力をはぐくむ指導を改めて徹底するとともに,児童生徒の自殺を食い止めるためのあらゆる手だてを講じること。その際,理由の如何を問わず絶対に死んではいけないこと,いじめを受けている児童生徒には,決して一人で悩まず必ず親や教師など誰かに相談することを十分に指導すること。
2 いじめを受けたり,悩みや困ったことがある場合は,学校では,教師,養護教諭等の誰かが必ず相談に応じることができること,いじめられている児童生徒を必ず守り通すということを全ての児童生徒に対して徹底するとともに,全教職員がどんな些細なことでも必ず親身になって相談に応じること。また,その姿勢を日頃から児童生徒に対して態度で示し,教師と児童生徒との信頼感を学校内に行き渡らせ,安心していつでも相談できる信頼関係を築くこと。
3 児童生徒,保護者等がいじめにかかわる悩みを相談できる窓口として利用可能なものについて,例えば,カードやパンフレット等にして配布する方法等により,速やかに全ての児童生徒,保護者等に周知徹底すること。その場合,関係機関の協力を得ながら,これらの相談窓口をいつでも安心して利用できるよう,電話番号,相談時間のみならず,例えば,相談内容,相談員,相談した場合にとられる対応等に関する可能な限り具体的で丁寧な情報を提供できるよう工夫すること。なお,この措置を講ずるに当たっては,国立教育会館の「いじめ問題対策情報センター」の相談機関のデータベースを活用することができること。
4 児童生徒がいじめにより心身の安全が脅かされるようなおそれがある場合は,公立小・中学校においては,保護者の希望により,医師,教育相談機関の専門家,関係学校長などの意見等も十分に踏まえた上で,就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置を講じることができること。また,深刻ないじめにより,学校を欠席して家庭にとどまっている児童生徒等に対しては,学校は,家庭と十分連携を図り,児童生徒への指導の機会を確保するなど遺漏のないよう万全の措置を講ずること。
5 いじめを見過ごすことのないよう,学級担任をはじめとする全教職員がいじめの問題を各学校における現下の最重要課題として認識し,全ての学校にいじめがあり得るとの問題意識の下,徹底して実態の把握に努めること。特に,種々の問題行動等が生じているときには,同時に他にいじめが行われている場合もあることに留意すること。また,児童生徒や保護者からのいじめの訴えはもちろんのこと,その兆候等の危険信号は,どんな些細なものでも真剣に受け止めて,速やかに教職員相互間において情報交換を図るなど,その対応や解決に学校を挙げて取り組むこと。
6 校長,教頭,生徒指導主事等は,いじめの訴え等に基づき,いじめに関する対応を指示したり,情報を伝達したりした場合,学級担任等に連絡して終わりとせず,逐次報告を受けるなど,その解決に至るまで適切に取り組むこと。また,いじめの訴え等を学級担任等が一人で抱え込むようなことはあってはならず,校長に適切な報告等がなされるようにすること。
7 いじめが解決したと見られる場合でも,教師の気付かないところで陰湿ないじめが続いていることも少なくないため,そのときの指導によって解決したと即断することなく,当該児童生徒が卒業するまで,継続して十分な注意を払い,折に触れて必要な指導を行うこと。
8 「弱い者をいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識に立ち,児童生徒にいじめの問題に対する全教職員の毅然とした態度を示すこと。いじめをはやしたてたり,傍観したりすることもいじめることと同様に許されないことを徹底して指導し,教師に訴えたためにいじめを受けるようになったり,いじめが激しくなったりするような事態に対しては,学校を挙げていじめる児童生徒に毅然と対応し,いじめられている児童生徒を必ず守り通すという断固とした姿勢を示すこと。
9 いじめる児童生徒に対する指導としては,いじめの非人間性やいじめが他人の人権を侵す行為であることに気付かせ,他人の痛みを理解できるようにすることを基本としつつ,学校生活において感じている不満や充足感を味わえない心理等を十分理解し,学校生活に目的を持たせ,人間関係や生活体験を豊かにする指導を根気強く継続して行うよう努めること。ただし,そうした指導にもかかわらず,なおいじめが一定の限度を超え,いじめられている児童生徒を守るために必要があると認められる場合には,いじめる児童生徒に対する出席停止の措置など厳しい対応策をとることも必要であること。
10 いじめの問題を学校のみで解決しようとせず,いじめを発見した場合は,速やかにいじめている児童生徒,いじめられている児童生徒双方の家庭にいじめの実態や経緯等について連絡し,双方の家庭の協力を求めるとともに,適宜,PTA等にもいじめの状況や学校としての取組状況について報告し協力を求めるなど,家庭との十分な連携を図ること。
11 今現在把握されながら,解決に至っていないいじめについては,早急にその解決を図るよう,全教職員が一致協力して真剣に取り組むこと。




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