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総 同 第 220 号
昭和56年12月10日

内閣総理大臣
関係各省大臣  殿

同和対策協議会会長    
磯 村 英 一

今後における同和関係施策について(意見具申)


 本協議会は、標記の件について本年8月18日付をもって中間意見を具申した後、これに引き続き法律および財政の問題を中心に同和関係施策の全体的構成について審議を重ね、この度その結論を得たので意見の具申を行うものである。
 先の中間意見具申に述べたように同和対策事業特別措置法施行後13年間にわたる同和関係施策の推進によって地域住民の生活状況の改善向上にはみるべきものがあり、また国民の同和問題に関する理解度も高まってきているが、その反面なお幾つかの問題点があり、これが同和問題の解決を困難にし、複雑にしている。
 同和問題は、永年にわたる日本社会の歴史的発展の過程において形成されたものであるだけに相当な努力をしない限りにおいては容易に解決し得ず、その真の解決を目指すためには国民の理解と協力が何よりも望まれるものである。
 同和対策事業特別措置法施行後13年間を振り返ってみた場合、同和関係施策の実施の過程で試行錯誤を余儀なくされたものもあり、また、生活環境、産業基盤等の改善整備事業については、関係者の合意作りや必要な用地取得に相当の努力を払わなければならない等の事情もあってなお数年を要する事業量がある。
 また、結婚や就職等に当たっての国民の理解は進んできたものの、同和問題が国民的課題であるという認識はいまだ徹底せず、同和関係者の人生の門出であるべき結婚や就職等に際しての差別は残念ながら依然として跡を絶っていない状況にある。
 一方、同和関係施策の進め方をみると必ずしもその地方公共団体の住民の理解を得ながら行われてはこなかった。もちろん、住民の側においても、それを一部の地域だけの問題であると敬遠し、無関心であったことも否定できない。しかし、同和関係施策の実施に当たって行政機関のなかにはややもすると民間運動団体の要望に押されてそれをそのまま施策として取り上げるものがあり、また同和対策事業の事業量が大きくなるにしたがって、それが他の施策の拡充整備を抑制したり、あるいは周辺地域の状況に比べて不均衡を生ずる等、そこに摩擦が生じてきたことも見過ごすことのできない問題になってきた。
 同和問題を解決していくための重要な時期を迎えた今日、民間運動団体の側において、団体相互間の意見の相違があるにしても、国民の理解と協力を得るために大局的な立場から調整し、同和問題の解決が広く国民のなかで率直に話し合えるような気運を醸成していくことが特に肝要である。
 本協議会は、前述してきた事項を踏まえながら、今後、同和対策として推進すべき施策の基本について具体的に提言をするものである。


1 法律問題について
(1) 同和問題を国民的課題として解決していくための施策については、国民の代表である立法府の意思の表明を積極的に得る必要があること、国および地方公共団体の責務を明確化する必要があること、これまで法的裏打ちにより事業が実施されてきた実績と事業の継続性を担保する必要があること等の理由で、法的根拠が必要であると考える。
(2) この場合における立法は、同和問題を早期に解決する必要があることをより明確にするためにも、また、財政の特別措置を行うこととなじみやすいことをも配意し、事業を中心とした時限立法となるが、同和問題に対する基本的な考え方を明確にするとともに過去の経緯やその他の諸般の事情を総合的に勘案し、従来の施策の反省に立った新たな観点を加えた新規立法とすることが適当である。
(3) 新規立法においては、いわゆる一般法による施策だけでは解決できない事項や、一定期間内に特定目的を達成する必要のある事項がその内容となるが、従来、ややもすれば現行同和対策事業特別措置法の運用が行政機関と同和関係者のみの法律のごとき印象を与えてきたことを反省し、この問題を解決するためには、広く国民の理解と協力を得るという立場から立案し、また、その運用に当たることが必要である。
(4) 新規立法における同和対策事業に関する基本的な考え方としては、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域および当該地域に居住している同和関係者を対象として行うこととするが、啓蒙啓発や学校教育および社会教育に関する事業は、広く国民一般を対象として行うべきである。
(5) 今後、必要な同和対策事業としては、具体的には、
ア 人権思想の普及高揚を図るための啓発事業
イ 学校教育・社会教育事業
ウ 雇用促進・職業安定事業
エ 農林漁業・中小企業振興事業
オ 生活環境改善事業
カ 社会福祉・公衆衛生事業
が考えられる。
 この場合、国際人権規約の批准、国際婦人年および国際障害者年を契機とする諸活動の推進等とあいまって、差別問題に関する国民の理解と関心を深め得る環境条件は一層整備されつつあるなかにおいても、部落差別については、先にも触れたように結婚、就職等に関する差別事件の発生をみているほか、悪質な差別落書きや文書等の問題も起きており、今後においても引き続き人権思想の普及高揚に努める必要があるほか、学校教育および社会教育を通じて、憲法で保障された人権を重んじることの尊さを徹底させていく必要がある。また、中高年を中心に不安定就労者の割合が高いこと等をかんがみ、今後においても引き続き雇用対策等を推進していく必要があること等を特記しておく。
(6) 前記(1)から(5)までにおいて新規に立法する場合の基本的考え方を明らかにしたが、同和対策事業特別措置法施行13年の運用により生じてきた問題点の是正を図るためには、新規立法においては、特につぎの諸点についても工夫がなされるべきものと考える。
 その一は、物的施設については、周辺地域との間に格差のないものを整備し、その運営に当たっては、周辺地域の人々の利用にも供するような配意をする必要があること。
 その二は、特に個人給付的事業については、行政の主体性を確保しながら、その運営の公平の確保が図られる必要があること。
 なお、同和対策事業はもとより地方公共団体が独自に実施する関係施策についても、その事業内容および運営に関して、広く住民一般のコンセンサスを積極的に得る努力をする必要がある。

2 財政問題について
 同和問題の早期解決を図るためには、現下の財政事情はまことに厳しいものであるが、地方公共団体の財政負担等に配慮し、現行同和対策事業特別措置法と同様の措置を新規立法に際しても講ずる必要があるものと考えるが、広く国民一般の理解を得るためにも、つぎに述べる措置が併せて講じられるべきものと考える。
(1) 国および地方公共団体が講じてきた同和関係施策については、今の時点でみるとその内容や運営が果たして妥当であったか否かについて十分に検討を加え、その適正化および効率化を図っていくこととし、特に個人給付的事業については、経済的理由その他真に必要な場合に限って行うこと。
(2) 前記1の(3)において述べた趣旨を踏まえ、今後、国および地方公共団体において実施すべき同和対策事業の事業量の見直しを行い、一般施策との権衡を失することのないよう、十分配意すること。
(3) 国が地方公共団体を通じて、または地方公共団体とともに行う同和対策事業の範囲については、行政の責務の範囲等を検討したうえで、明確にすること。



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