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平成15年4月22日
雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課


男女間の賃金格差解消のための賃金管理及び雇用管理改善方策に係るガイドラインについて

 働く女性が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは重要な課題であり、男女雇用機会均等法の施行により制度面の男女均等取扱は着実に浸透しつつあるが、事実上の男女間格差はいまだ存在するところである。特に賃金面については依然として大きな男女間格差が存在しており、その改善策の検討が求められてきたところである。
 このため、厚生労働省では、学識経験者による「男女間の賃金格差問題に関する研究会」を参集して一般労働者の所定内給与に関する男女間の平均賃金の格差の解消方策等について検討を進め、昨年11月に報告(参考)をとりまとめたところである。同報告では「男女間賃金格差解消のために労使が自主的に取り組むための賃金管理及び雇用管理の改善方策に係るガイドラインを作成し、労使に提示、周知して、その普及を図ることが必要」とされており、これを受け、今般、「男女間の賃金格差解消のための賃金管理及び雇用管理改善方策に係るガイドライン」(別添)を作成したものである。
 今後、厚生労働省では、パンフレットの作成等を含め、本ガイドラインの周知・啓発に努めていく考えである。

(別添)

男女間の賃金格差解消のための賃金管理及び雇用管理改善方策に係るガイドライン

第1 趣旨
 男女雇用機会均等法が施行されてから15年以上が、育児休業法(現在は育児・介護休業法)が施行されてから10年以上が経過した。その間、職場における女性の進出は着実に進展している。しかしながら、女性の平均賃金を男性のそれと比較すると、依然として大きな格差が存在する。我が国の一般労働者の所定内給与に関する男女間賃金格差を長期的に見ると、縮小する傾向にあるが、2002年度において、男性を100とした時に女性は66.5であり、国際的にみて格差は大きいのが現状である。
 男女間賃金格差の水準は男性と比較した女性の能力発揮の程度を総合的に示すものといえ、労使は、女性の能力発揮を促進する観点から、男女間賃金格差を女性の能力発揮度合いを示すバロメーターの1つとして捉え、格差解消に努めていくことが適切である。
 この場合、男女間賃金格差は人材の配置、昇進、教育訓練、評価等の結果として現れる問題であるため、包括的アプローチによる施策を展開する必要がある。
 このため、このガイドラインは、一般労働者の男女間の賃金格差解消のために労使が自主的に取り組むための賃金管理及び雇用管理の改善方策を包括的に示している。

第2 労使が自主的に取り組むための賃金管理及び雇用管理の改善方策に係る事項

1 男女間賃金格差の実態把握とフォローアップ等
 企業において男女間賃金格差についての実態把握と要因分析を行うことが大切であり、それを踏まえて労使の間で男女間賃金格差の解消に向けた対応策の議論を行うべきである。この場合、女性労働者の参加等により女性の意見が議論に反映できるようにするのが効果的である。
 また、男女間賃金格差の実態について、定期的にフォローアップすることにより、必要に応じて対応策を最新の状況に応じたものとすることが求められる。
 なお、女性の意見の反映のためには、企業及び労働組合において、組織の幹部に女性を積極的に登用することが望まれる。

2 賃金管理における改善方策
(1) 公正・透明な賃金制度の整備
 個々の労働者の賃金決定が曖昧である賃金制度は男女賃金差別の温床となる。どの企業も公正かつ明確で透明な賃金制度の整備を進める必要があり、特に、賃金決定基準を明確化し、賃金表を整備することが求められる。
 また、労働者から男女間の賃金格差について説明を求められたり、不満が寄せられた場合には、十分な資料を示しつつ誠意をもった説明が必要である。

(2) 公正・透明な人事評価制度の整備と運用
 どのような賃金制度であれ、個人別の賃金決定において人事評価は非常に重要である。不透明で曖昧な人事評価制度は賃金、昇進・昇格における男女差別の温床となり、その結果として男女間賃金格差が増幅されることになる。
 男女間賃金格差の解消を図るためには、公正・透明な人事評価制度の整備を進めることが重要である。人事評価制度の整備にあたっては、評価基準を明確で客観的なものにするとともに、公正かつ透明性の高い運用を確保するための評価者訓練や評価結果のフィードバック等が必要である。

(3) 生活手当の見直し
 家族手当、住宅手当等の生活手当については、男女間賃金格差解消の観点からは、それが格差を生成するような支給要件で支払われている場合には廃止することが望ましい。
 労使双方、特に労働組合側に引き続き維持したいとの考えが根強いが、男女間賃金格差に影響しないよう、時間をかけてでも制度変更することが必要である。具体的には、男女間の賃金格差解消の観点からは、家族手当のうちの子どもに対する手当や住宅手当を引き続き維持するとしても、配偶者に対する手当は廃止する等、両手当を出来るだけ縮小することが望ましい。
 この場合、生活手当の縮小・廃止に伴う影響を最小限に抑制するために、福利厚生施策面での対応や、賃金総額の引き下げにつながらないような措置を講ずる等により生活面への影響を緩和することが求められる。

3 雇用管理における改善方策
(1) ポジティブ・アクションの実践
 どの企業においても、女性が能力を最大限発揮できるようにするという姿勢で雇用管理を進めることが基本であり、影響力の大きい企業トップのイニシアティブはきわめて重要である。企業トップが先頭に立ってポジティブ・アクションを推進することが求められる。また、ポジティブ・アクションの実践においては、中間管理職の果たす役割が大きいことから、中間管理職の意識改革を図ることも大切である。
 ポジティブ・アクションにおいては、男女間賃金格差の生成に大きく影響している男女間の職階格差や勤続年数格差の縮小に取り組むべきであり、特に、職階格差縮小の観点からは、以下(2)(女性に対する業務の与え方や配置の改善)に取り組むとともに、女性の勤続年数伸張の観点からは、以下(4)(ファミリー・フレンドリーな職場形成の促進)に取り組むことが求められる。

(2) 女性に対する業務の与え方や女性の配置の改善
 業務の与え方については、これまで、難易度や重要度の低い業務、定型的な業務が主として女性に割り当てられたり、評価の低い職務に女性を多く配置することがよく見られてきたのが実態である。
 このように偏った業務配分や配置を改善するために、性にとらわれることなく個々の労働者の意欲や適性、職務遂行能力を基準とした配置を進めることや管理職研修に女性の能力発揮に配慮した業務の与え方に係る留意事項を含めることが求められる。また、労働者が希望職務や保有能力等を申告できる自己申告制度や、欠員ポストを補充する人材を広く社内で募集する社内公募制度、一定の条件を満たした社員が希望部署への異動を申告できる社内フリーエージェント制度の導入なども女性の配置改善に寄与するものである。
 さらに、ライセンス制度(職務に必要なスキルを明確にし、その職務につくためのスキルを持ったものに試験等でライセンスを与え、欠員が出た場合にはそのライセンス保持者の中から配置する制度)や、女性登用を念頭においた後継者計画(管理者が自分の後任候補者数名を所属部門長や人事部門に登録する際に、最低1名は女性とすることのルール化)等も有効と考えられる。

(3) コース別雇用管理制度及びその運用の改善
 コース別雇用管理制度について、男女間賃金格差の改善を図る観点から、コース区分決定方法など、制度そのものを点検することが大切である。
 特に検討が求められるのは、コース区分の決定を入社時に行うのではなく、採用後一定期間の職務経験後に労働者の意欲・能力・適性等に基づき決定すること、コース転換の円滑化のための措置の導入(一定の条件を満たす労働者の希望を実現するコース転換制度の導入、コース転換希望者に対する教育訓練の実施等)、転勤の有無によるコース設定がキャリア形成上真に必要であるかどうかの再検討、である。
 なお、コース別雇用管理制度の内容について、労働者に対して十分な説明がなされることが望まれる。また、併せて、転勤があることが条件になっている総合職の男女労働者を含め、育児・介護休業法第26条により企業は転勤を命ずるに際し、育児や介護の状況に配慮すべき責務があることにも十分留意する必要がある。

(4) ファミリー・フレンドリーな職場形成の促進
 企業は育児・介護休業制度を利用しやすくするなどの職場環境の改善に努め、育児・介護を担うことの多い女性の仕事と育児等の両立の負担を軽減することが大切である。
 特に、成果主義賃金が広がりつつある中では、これまで以上に育児・介護等家族的責任を有する労働者に配慮した仕組みが求められる。具体的には、育児・介護休業取得期間中における復職に向けた企業情報の伝達や、スキルの陳腐化を防ぐための通信研修の提供、在宅勤務制度などが考えられる。
 また、依然として広くみられる恒常的残業を出来るだけ排除し、短時間勤務制度、フレックスタイム制などの活用を通じて柔軟な労働時間制度を採用するなど労働時間の面でも、家庭生活と職場生活が両立できるように努めることが必要である。


(参考)
男女間の賃金格差問題に関する研究会報告(総論の概要)
1. はじめに
 職場における女性の進出が着実に進展しているが、男女間の賃金格差は依然として大きい。本研究会は、男女間賃金格差の本格的解消に向け、行政として初めてこの問題を真正面から取り上げたものである。
 本研究会で取り上げた男女間賃金格差とは、基本的に一般労働者の所定内給与に関する男女別平均賃金の格差である。賞与や退職金は検討の対象外であるが、所定内給与の男女間賃金格差が縮小すればこれらの縮小にも寄与するものである。
 研究会報告は総論部分と各論部分からなるが、総論には委員の総意が集約されている。各論は委員の個人論文であり、研究会の総意を集約したものではない。

2. 男女間賃金格差の現状、推移と格差生成の要因
(1) 男女間賃金格差の現状と推移
(1) 我が国の男性の平均賃金水準を100としたときに、女性の平均賃金水準は、2001年の数字で65.3であり、男女間賃金格差は国際的にみても大きい。
(2) 我が国の男女間賃金格差を長期的にみると、男女雇用機会均等法を施行した1986年には59.7であり、縮小傾向にある。

(2) 男女間賃金格差の要因分析
(1) 男女間賃金格差は、職階(部長、課長、係長などの役職)の違いによる影響が大きく、勤続年数の違いによる影響がこれに次いでいる。
(2) 年齢の上昇とともに男性の賃金は大きく上昇するが、女性はあまり上昇していないことも要因となっている。
(3) 労使に対するアンケート調査では管理職の女性が少ないことや業務の難易度に差があること、勤続年数が短いこと、諸手当の支給の少なさが格差の要因として指摘され、また、企業ヒアリングでは、業務の与え方に男女差が見られることが、勤続年数を経た後の男女の処遇差となって現れているとの指摘がみられた。
(4) 賃金格差には統計的差別(労働者の属性ごとの平均値に基づく推測により処遇することをいい、例えば、平均的に女性の勤続年数が男性より短いことから、企業が女性に対する教育訓練を手控えることなどがある)だけでなく、女性に対する差別意識も影響している。
(5) 家族手当や住宅手当は男性世帯主を中心に支給されている実態にあり、男女間賃金格差の一つの要因となっている。
(6) コース別雇用管理制度の導入企業の方が導入していない企業よりも男女間賃金格差が大きい。

3. 男女間の賃金格差を解消する賃金・処遇制度のあり方
(1) 賃金制度に内在する問題と対応の方向
(1) 職能給、職務給等の基本給に係る賃金制度そのものは一般的にみて性に中立的とみられるが、職業能力や職務の評価の判定方法や業務の与え方、教育訓練等の運用面で公平性が保たれない限り、どの制度でも男女間賃金格差を生成する。
(2) 家族手当や住宅手当は、現実には男性世帯主を中心に支給されており、男女間賃金格差を拡大している。
(3) 男女同一価値労働同一賃金原則がめざす性差別のない賃金は、職務給だけではなく、我が国で広く利用されている職能給中心の賃金体系の下でも、女性への業務の与え方や能力開発、人事評価制度などの人事管理を適切に行うことにより、実現は十分可能である。

(2) 雇用管理(賃金制度以外)に関連する問題と企業の対応の方向
a 昇進・昇格における男女間格差の解消
 男女間で職階格差や社内資格格差が存在する背景には、日頃の業務の与え方の積み重ねや評価制度の内容・運用も影響している。女性が男性と同じように賃金の高い職階や社内資格に進むことのできるような体制作りが大切であり、同時に、ポジティブ・アクション等を通じて、女性の能力を積極的に活用する努力が必要である。
b 配置・配置転換における男女間格差の解消
 企業内の配置や配置転換の男女差は、長期的には昇進・昇格格差をもたらす。男女間で分け隔てのない配置や配置転換が重要であり、女性の配置が遅れている職務分野に女性の配置を推進するためにも、ポジティブ・アクションを積極的に導入すべきである。
c ファミリー・フレンドリー企業への努力
 女性が育児・介護等家族的責任のために仕事の継続を断念することがないよう、育児・介護休業制度の整備・充実や、利用者を増やす努力、フレックスタイム制など柔軟な労働時間制度の導入等により、ファミリー・フレンドリーな企業を目指すべきである。
d 男女の役割等についての意識改革
 男女の役割や職業適性に関する固定的な見方を払拭することが大切であり、経営層や中間管理職層に対して女性の能力発揮に関する指導・教育を徹底することが重要である。
e コース別雇用管理制度
 コース別雇用管理制度が男女間賃金格差を生み出している面があるため、雇用管理を点検するべきである。厚生労働省が示している「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」に沿った制度の運用が求められる。特に、採用後一定期間経過後のコースの振り分け、転勤要件の見直し、コース転換要件の緩和、コース転換希望者への教育訓練の実施等の配慮が必要である。

4. 格差解消への取組み 〜労使への提言と行政の課題〜
 男女間賃金格差の水準は女性の能力発揮の程度を総合的に示すものともいえ、これをバロメーターの1つとして、男女雇用機会均等施策を進めることが適切である。
 男女間賃金格差の縮小や解消を図るには賃金制度に留まらない包括的アプローチ(配置、昇進、教育訓練、評価等)が必要である。
 労使双方も格差解消に向けた取組の必要性を認識しており、こうした時機をとらえて積極的に進めることが望ましい。

(1) 労使への提言
 企業において男女間賃金格差についての実態把握と要因分析を行うことが大切であり、それを踏まえて労使の間で対応策について議論を行うべきである。職場での女性の能力発揮、雇用管理の改善に向けた女性労働者の意見の浸透のために、企業及び労働組合は組織中枢に女性を登用することを目指すべきである。
a 賃金管理
(公正・透明な賃金制度の整備)
・ 賃金決定基準が不明確であったり、賃金表が未整備である場合には、男女賃金差別の温床となるため、公正・明確・透明な賃金制度の整備を進めるべきである。
(公正・透明な人事評価制度の整備と運用)
・ 不透明で曖昧な人事評価制度は賃金、昇進・昇格における男女差別の温床となる。評価基準を明確で客観的なものにするとともに、評価者訓練や評価結果のフィードバック等も必要である。
(生活手当の見直し)
・ 家族手当、住宅手当といった生活手当は、格差解消の観点からは、それが男女間賃金格差を生成するような支給要件で支払われている場合には廃止することが望ましく、男女間賃金格差に影響しないよう、時間をかけてでも制度変更することが必要である。具体的には、家族手当のうちの子どもに対する手当や住宅手当は維持するにしても、生活手当の廃止・縮小に伴う影響を緩和しつつ配偶者に対する手当は廃止する等、できるだけ縮小することが望ましい。

b 雇用管理
(ポジティブ・アクションの実践)
・ 企業トップが先頭にたってポジティブ・アクションを推進することが望ましい。また、その実践においては中間管理職の果たす役割が大きいことから、中間管理職の意識改革を図ることも大切である。
(業務の与え方や配置の改善)
・ 偏った業務配分や配置を改善するため、個々の労働者の意欲や適性、職務遂行能力を基準とした配置を進めるべきである。自己申告制度や社内公募制度、社内フリーエージェント制度の導入など、従業員の意思や適性を重視する制度の整備も、女性の配置改善に寄与するであろう。
(コース別雇用管理制度及びその運用の改善)
・ コース別雇用管理制度について、上記3(2)eのような観点からコース区分決定方法など制度そのものを点検することが大切である。なお、コースの内容について従業員に十分な説明がなされることが望まれるが、併せて、総合職の男女労働者を含め、企業は転勤を命ずるに際し、育児や介護の状況に配慮すべき責務があることにも留意する必要がある。
(ファミリー・フレンドリーな職場形成の促進)
・ 育児・介護休業制度を利用しやすくするなどの職場環境の改善に努め、短時間勤務制度、フレックスタイム制など柔軟な労働時間制度を採用する等、家庭生活と職業生活が両立するような業務運営に努めることが必要である。

(2) 行政の課題
a 当面の課題への対応
(男女間賃金格差解消に向けた労使の取組みへの支援)
・ 男女間賃金格差解消のために労使が自主的に取り組むための賃金管理及び雇用管理の改善方策に係るガイドラインを作成し、その普及を図ることが必要である。
・ 企業のポジティブ・アクションへの取り組みを一層促進するため、個別企業の状況や好事例等の収集に努め、具体的な目標設定のための支援や、企業が取り組みやすいような環境整備を図るべきである。また、コース別雇用管理制度についてその適正な運用がなされるよう指導を行うとともに、ファミリー・フレンドリーな職場環境の形成に引き続き努めるべきである。
(行政による事後救済制度の補完)
・ 男女賃金差別事案の事後救済制度が効果的に機能するよう、事後救済の過程において、人事評価システムを含め賃金・雇用管理の専門家による客観的分析が行えるようにすることが必要である。
(男女間賃金格差レポートの作成)
・ 男女間賃金格差の現状や格差縮小の進捗状況を継続的にフォローアップし、定期的に公表することにより、男女間賃金格差縮小に関する労使の取り組みを促進することが必要である。

b 中期的な課題への対応
・ ポジティブ・アクションを推進するために、諸外国の事例を参考にしつつ、国内の取組状況を踏まえながら、法制面の整備を含めた手法の検討を行うことが求められる。また間接差別(注)についても、我が国でどのようなケースが間接差別となるのかについて、十分な議論を進めることが必要である。

(注) 間接差別とは、形式上は性に中立な制度や仕組みであっても、制度や仕組みを運用した結果として大多数の女性にとって不利となるもの(例えば、身長175センチメートル以上であることを採用基準とした場合で、その基準を置く合理的理由のないものなど)であれば、そうした制度や仕組みは女性差別であるとする考え方。




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