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配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律
公布:平成13年4月13日法律第31号
施行:平成13年10月13日


目次

 前文
 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 配偶者暴力相談支援センター等(第三条−第五条)
 第三章 被害者の保護(第六条−第九条)
 第四章 保護命令(第十条−第二十二条)
 第五章 雑則(第二十三条−第二十八条)
 第六章 罰則(第二十九条・第三十条)
 附則


前文
 我が国においては、日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等がうたわれ、人権の擁護と男女平等の実現に向けた取組が行われている。
 ところが、配偶者からの暴力は、犯罪となる行為であるにもかかわらず、被害者の救済が必ずしも十分に行われてこなかった。また、配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であり、経済的自立が困難である女性に対して配偶者が暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を行うことは、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなっている。
 このような状況を改善し、人権の擁護と男女平等の実現を図るためには、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するための施策を講ずることが必要である。このことは、女性に対する暴力を根絶しようと努めている国際社会における取組にも沿うものである。
 ここに、配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備することにより、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、この法律を制定する。

第一章 総則

(定義)
第一条 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)からの身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。
2 この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者(配偶者からの暴力を受けた後婚姻を解消した者であって、当該配偶者であった者から引き続き生命又は身体に危害を受けるおそれがあるものを含む。)をいう。

(国及び地方公共団体の責務)
第二条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護する責務を有する。

第二章 配偶者暴力相談支援センター等

(配偶者暴力相談支援センター)
第三条 都道府県は、当該都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとする。
2 配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者(被害者に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けた者を含む。以下この章及び第七条において同じ。)の保護のため、次に掲げる業務を行うものとする。
 一 被害者に関する各般の問題について、相談に応ずること又は婦人相談員若しくは相談を行う機関を紹介すること。
 二 被害者の心身の健康を回復させるため、医学的又は心理学的な指導その他の必要な指導を行うこと。
 三 被害者(被害者がその家族を同伴する場合にあっては、被害者及びその同伴する家族。次号、第六号及び第五条において同じ。)の一時保護を行うこと。
 四 被害者が自立して生活することを促進するため、情報の提供その他の援助を行うこと。
 五 第四章に定める保護命令の制度の利用について、情報の提供その他の援助を行うこと。
 六 被害者を居住させ保護する施設の利用について、情報の提供その他の援助を行うこと。
3 前項第三号の一時保護は、婦人相談所が、自ら行い、又は厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行うものとする。

(婦人相談員による相談等)
第四条 婦人相談員は、被害者の相談に応じ、必要な指導を行うことができる。

(婦人保護施設における保護)
第五条 都道府県は、婦人保護施設において被害者の保護を行うことができる。

第三章 被害者の保護

(配偶者からの暴力の発見者による通報等)
第六条 配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない。
2 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報することができる。この場合において、その者の意思を尊重するよう努めるものとする。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定により通報することを妨げるものと解釈してはならない。
4 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければならない。

(配偶者暴力相談支援センターによる保護についての説明等)
第七条 配偶者暴力相談支援センターは、被害者に関する通報又は相談を受けた場合には、必要に応じ、被害者に対し、第三条第二項の規定により配偶者暴力相談支援センターが行う業務の内容について説明及び助言を行うとともに、必要な保護を受けることを勧奨するものとする。

(警察官による被害の防止)
第八条 警察官は、通報等により配偶者からの暴力が行われていると認めるときは、警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)、警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)その他の法令の定めるところにより、暴力の制止、被害者の保護その他の配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

(被害者の保護のための関係機関の連携協力)
第九条 配偶者暴力相談支援センター、都道府県警察、社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める福祉に関する事務所等の関係機関は、被害者の保護を行うに当たっては、その適切な保護が行われるよう、相互に連携を図りながら協力するよう努めるものとする。

第四章 保護命令

(保護命令)
第十条 被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。
 一 命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいすることを禁止すること。
 二 命令の効力が生じた日から起算して二週間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること。
(管轄裁判所)
第十一条 前条の規定による命令(以下「保護命令」という。)の申立てに係る事件(以下「保護命令事件」という。)は、相手方の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
2 保護命令の申立ては、次の各号に掲げる地を管轄する地方裁判所にもすることができる。
 一 申立人の住所又は居所の所在地
 二 当該申立てに係る配偶者からの暴力が行われた地

(保護命令の申立て)
第十二条 保護命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。
 一 配偶者からの暴力を受けた状況
 二 更なる配偶者からの暴力により生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる事情
 三 配偶者暴力相談支援センターの職員又は警察職員に対し、配偶者からの暴力に関して相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実の有無及びその事実があるときは、次に掲げる事項
  イ 当該配偶者暴力相談支援センター又は当該警察職員の所属官署の名称
  ロ 相談し、又は援助若しくは保護を求めた日時及び場所
  ハ 相談又は求めた援助若しくは保護の内容
  ニ 相談又は申立人の求めに対して執られた措置の内容
2 前項の書面(以下「申立書」という。)に同項第三号イからニまでに掲げる事項の記載がない場合には、申立書には、同項第一号及び第二号に掲げる事項についての申立人の供述を記載した書面で公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第五十八条ノ二第一項の認証を受けたものを添付しなければならない。

(迅速な裁判)
第十三条 裁判所は、保護命令事件については、速やかに裁判をするものとする。

(保護命令事件の審理の方法)
第十四条 保護命令は、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより保護命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
2 申立書に第十二条第一項第三号イからニまでに掲げる事項の記載がある場合には、裁判所は、当該配偶者暴力相談支援センター又は当該所属官署の長に対し、申立人が相談し又は援助若しくは保護を求めた際の状況及びこれに対して執られた措置の内容を記載した書面の提出を求めるものとする。この場合において、当該配偶者暴力相談支援センター又は当該所属官署の長は、これに速やかに応ずるものとする。
3 裁判所は、必要があると認める場合には、前項の配偶者暴力相談支援センター若しくは所属官署の長又は申立人から相談を受け、若しくは援助若しくは保護を求められた職員に対し、同項の規定により書面の提出を求めた事項に関して更に説明を求めることができる。

(保護命令の申立てについての決定等)
第十五条 保護命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。
2 保護命令は、相手方に対する決定書の送達又は相手方が出頭した口頭弁論若しくは審尋の期日における言渡しによって、その効力を生ずる。
3 保護命令を発したときは、裁判所書記官は、速やかにその旨及びその内容を申立人の住所又は居所を管轄する警視総監又は道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長)に通知するものとする。
4 保護命令は、執行力を有しない。

(即時抗告)
第十六条 保護命令の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
2 前項の即時抗告は、保護命令の効力に影響を及ぼさない。
3 即時抗告があった場合において、保護命令の取消しの原因となることが明らかな事情があることにつき疎明があったときに限り、抗告裁判所は、申立てにより、即時抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、保護命令の効力の停止を命ずることができる。事件の記録が原裁判所に存する間は、原裁判所も、この処分を命ずることができる。
4 前項の規定による裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
5 前条第三項の規定は、第三項の場合及び抗告裁判所が保護命令を取り消した場合について準用する。

(保護命令の取消し)
第十七条 保護命令を発した裁判所は、第十条第一号に掲げる事項に係る保護命令の申立てをした者の申立てがあった場合には、当該保護命令を取り消さなければならない。同号に掲げる事項に係る保護命令が効力を生じた日から起算して三月が経過した場合において、当該保護命令を受けた者が申し立て、当該裁判所が当該保護命令の申立てをした者に異議がないことを確認したときも、同様とする。
2 第十五条第三項の規定は、前項の場合について準用する。

(保護命令の再度の申立て)
第十八条 保護命令が発せられた場合には、当該保護命令の申立ての理由となった配偶者からの暴力と同一の事実を理由とする再度の申立ては、第十条第一号に掲げる事項に係る保護命令に限り、することができる。
2 再度の申立てをする場合においては、申立書には、当該申立てをする時における第十二条第一項第二号の事情に関する申立人の供述を記載した書面で公証人法第五十八条ノ二第一項の認証を受けたものを添付しなければならない。

(事件の記録の閲覧等)
第十九条 保護命令に関する手続について、当事者は、裁判所書記官に対し、事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。ただし、相手方にあっては、保護命令の申立てに関し口頭弁論若しくは相手方を呼び出す審尋の期日の指定があり、又は相手方に対する保護命令の送達があるまでの間は、この限りでない。

(法務事務官による宣誓認証)
第二十条 法務局若しくは地方法務局又はその支局の管轄区域内に公証人がいない場合又は公証人がその職務を行うことができない場合には、法務大臣は、当該法務局若しくは地方法務局又はその支局に勤務する法務事務官に第十二条第二項及び第十八条第二項の認証を行わせることができる。

(民事訴訟法の準用)
第二十一条 この法律に特別の定めがある場合を除き、保護命令に関する手続に関しては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定を準用する。

(最高裁判所規則)
第二十二条 この法律に定めるもののほか、保護命令に関する手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

第五章 雑則

(職務関係者による配慮等)
第二十三条 配偶者からの暴力に係る被害者の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない。
2 国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、被害者の人権、配偶者からの暴力の特性等に関する理解を深めるために必要な研修及び啓発を行うものとする。

(教育及び啓発)
第二十四条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。この場合において、配偶者からの心身に有害な影響を及ぼす言動が、配偶者からの暴力と同様に許されないものであることについても理解を深めるよう配慮するものとする。

(調査研究の推進等)
第二十五条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に資するため、加害者の更生のための指導の方法、被害者の心身の健康を回復させるための方法等に関する調査研究の推進並びに被害者の保護に係る人材の養成及び資質の向上に努めるものとする。

(民間の団体に対する援助)
第二十六条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体に対し、必要な援助を行うよう努めるものとする。

(都道府県及び市の支弁)
第二十七条 都道府県は、次の各号に掲げる費用を支弁しなければならない。
 一 第三条第二項の規定に基づき同項に掲げる業務を行う婦人相談所の運営に要する費用(次号に掲げる費用を除く。)
 二 第三条第二項第三号の規定に基づき婦人相談所が行う一時保護(同条第三項に規定する厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行う場合を含む。)に要する費用
 三 第四条の規定に基づき都道府県知事の委嘱する婦人相談員が行う業務に要する費用
 四 第五条の規定に基づき都道府県が行う保護(市町村、社会福祉法人その他適当と認める者に委託して行う場合を含む。)及びこれに伴い必要な事務に要する費用
2 市は、第四条の規定に基づきその長の委嘱する婦人相談員が行う業務に要する費用を支弁しなければならない。

(国の負担及び補助)
第二十八条 国は、政令の定めるところにより、都道府県が前条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第一号及び第二号に掲げるものについては、その十分の五を負担するものとする。
2 国は、予算の範囲内において、次の各号に掲げる費用の十分の五以内を補助することができる。
 一 都道府県が前条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第三号及び第四号に掲げるもの
 二 市が前条第二項の規定により支弁した費用

第六章 罰則

第二十九条 保護命令に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第三十条 第十二条第一項の規定により記載すべき事項について虚偽の記載のある申立書により保護命令の申立てをした者は、十万円以下の過料に処する。

附則

(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。ただし、第二章、第六条(配偶者暴力相談支援センターに係る部分に限る。)、第七条、第九条(配偶者暴力相談支援センターに係る部分に限る。)、第二十七条及び第二十八条の規定は、平成十四年四月一日から施行する。

(経過措置)
第二条 平成十四年三月三十一日までに婦人相談所に対し被害者が配偶者からの暴力に関して相談し、又は援助若しくは保護を求めた場合における当該被害者からの申立てに係る保護命令事件に関する第十二条第一項第三号並びに第十四条第二項及び第三項の規定の適用については、これらの規定中「配偶者暴力相談支援センター」とあるのは、「婦人相談所」とする。

(検討)
第三条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

(民事訴訟費用等に関する法律の一部改正)
第四条 民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)の一部を次のように改正する。
 別表第一の一六の項中「非訟事件手続法の規定により裁判を求める申立て」の下に「、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成十三年法律第三十一号)第十条の規定による申立て」を加え、同表の一七の項ホ中「第二十七条第八項の規定による申立て」の下に「、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律第十六条第三項若しくは第十七条第一項の規定による申立て」を加える。


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