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今後における啓発活動のあり方について(意見具申)

地域改善対策協議会(地対協) 1984年6月19日



内閣総理大臣
関係各大臣

地域改善対策協議会    
会長 磯村英一


前文
1 基本的認識について
 (1) 地域改善対策の現状と問題点
 (2) 啓発の方向
 (3) 啓発推進のための条件整備
2 啓発の具体的方法について
 (1) 学校における同和教育
 (2) 地域における啓発
 (3) 職場における啓発
 (4) 行政機関における啓発
3 啓発の内容について
 (1) 人権問題としての理解と実践
 (2) 同和問題発生の歴史と同和地区の実態
 (3) 地域改善対策事業の必要性
4 啓発の実施主体の役割について
 (1) 行政の役割
 (2) 学校等の役割
結び


 同和対策審議会が昭和40年に「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」について内閣総理大臣に答申して以来、20年の月日が流れようとしている。この間、同答申を受けて昭和44年に同和対策事業特別措置法が10年間の限時法として制定され、さらに3年間延長された後、同法の失効に伴い昭和57年から新たに地域改善対策特別措置法が5年間の限時法として制定、施行されている。これらの法律に基づく施策等により、同和地区住民の社会的経済的地位の向上を阻む諸要因の解消という目標に次第に近づいてきたといえる。そして法はその有効期間が残り3年足らずとなり、昭和62年3月末には効力を失うという段階になっている。
 これまで同和問題解決のために講じられた施策のあとを顧みながら将来を展望すると、環境改善施策の進展に伴い当初予期しなかった問題が生じているほか、差別事象の発生が跡を絶っていないことなど心理的な面にかかわる分野に問題が残されていることが指摘できる。それは、この問題が国民的課題であるといわれながら、国民の間にその意識が容易に定着しないことを物語るものであり、同和問題の解決のためには啓発活動の充実が重要であるといわれるゆえんでもある。
 このため本協議会は、今後の啓発活動のあり方について昭和57年7月以降延べ17回にわたり総会を開催し、多数の学識経験者等をはじめとして関係地方公共団体及び民間運動団体の代表者からも意見を聴く等により鋭意検討を続けてきた結果、このたびその結論を得るに至ったため、ここに意見を述べることとしたものである。
 特に、昨年は世界人権宣言が昭和23年に採択されて以来35周年に当たり、国内はもとより国際的にも人権問題への積極的な取組が一段と進められるなど啓発活動を効果あらしめるための環境条件も次第に整いつつあり、このような時期に意見具申を行うことは時宜を得たものと考えられる。
 もとより、世界人権宣言に明記されているように、すべての人間が生まれながらにして自由であり、尊厳と権利とについて平等であり、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有することは普遍の原理である。にもかかわらず、戦後40年の歳月を経て、民主主義が定着したと考えられる我が国において今なおこの問題の解決につき意見を具申しなければならないことは誠に残念であるといわざるを得ない。
 政府におかれては、本協議会の意見を尊重し、同和問題解決のため、所要の施策を一層強力に推進されるよう期待するものである。

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1 基本的認識について
(1) 地域改善対策の現状と問題点
(ア) 同和対策審議会答申では同和問題を、人びとの観念や意識のうちに潜在し、言語や文字を媒介として顕在化する心理的差別と、劣悪な生活環境等に象徴される同和地区住民の生活実態に具現されている実態的差別とに分類した。そして、この両差別が因果関係を保ち、相互に作用しあうことが強調されたが、差別の事実として客観的にとらえた焦点は、主観的な差別言動よりも同和地区なるがゆえに解決されずに取り残されている劣悪な環境そのものであった。これは、約20年前の同和地区住民の生活実態、物的環境の状況を考えるならば当然の判断でもあった。
 このため、当初の同和対策事業特別措置法及びこれに新たな観点を加味した地域改善対策特別措置法においてはどちらかといえば、同和地区の環境改善をはじめとする実態的差別の解消に施策の重点を置き、これまでの15年(昭和44年度〜58年度)の間に約2兆円の国費とこれを上回る地方公共団体の経費とが充てられてきた。その結果、同和地区住民の生活実態、物的環境の改善は相当に進み、一部の地区については問題を残しているものの、いわゆる残事業は地域改善対策特別措置法の有効期間内におおむね達成できると見込めそうな状況になっている。
 また、心理的差別の解消も、実態的差別の全般的な減少、人権意識の普及高揚及び各種啓発施策の実施等により、ある程度まで進んできたといえる。
(イ) しかしながら、このような環境改善事業の進展の中で、行政機関の中には行政としての主体性の欠如から民間運動団体の要望をそのまま施策として取り上げるものがあり、また、一部に同和問題解決のための施策が行政と同和関係者のみによって行われるかのごとき印象を与える例があった。更に、環境改善のための事業量の拡大が他の施策の拡充整備を抑制したり、周辺地域の状況に比べて不均衡を生じさせる等そこに摩擦を生ずる事例もあった。これが同和問題に対する国民の理解不足とあいまって周辺地域住民を中心として、同和地区及び地区住民に対する「ねたみ意識」が各地で表面化してきたのである。
(ウ) また、従来の行政による啓発活動の進め方に画一的で新鮮みに欠ける面がみられたことは、国民に同和問題に対するまたかという意識を生じさせるとともに、多分に民間運動団体の行き過ぎたいわゆる確認、糾弾をはじめとする行動形態に起因すると考えられるこわい問題であるとの意識の発生、あるいは差別の解消に向かっての民間運動団体の活動相互間において生ずる不協和音がもたらす混乱等の種々の心理面における問題も生じている。
(エ) 更に、同和関係者なるがゆえに人生の門出であるべき結婚、就職等に際して生ずる差別事件、例えば、結婚等の差別的な身元調査や「地名総鑑」の購入、あるいは各地での悪質な差別落書きや投書等が依然として跡を絶っていない。
(オ) これまでも人権思想の普及高揚、雇用に関し事業主に対し行う啓発、地域又は学校における教育等の事業は実施されてはきたが、これらの事業はその性質上効果が客観的にとらえにくい上、実効性のある具体的方策について十分工夫を凝らすべき分野である。(イ)〜(エ)のような状況を打開するためには、今後ともこれまで以上の努力を傾注しなければならない。

(2) 啓発の方向
 昨今ようやく物の豊かさよりも心の豊かさが求められつつあるものの、それまでに至る高度経済成長下における経済成長最優先という価値観の中では、ややもにすると人への思いやりや人権尊重への配慮が不足するという面があったことは否定できない。人権意識の高揚を基盤とした心理的差別の解消の実現は今日以後の重要な課題とされている。
 環境改善事業が一定の成果を収めている現在、同和対策審議会答申に盛られたあるべからざる差別の長き歴史に一日も早く終止符が打たれんことをという目的を達成するためには、引き続き国民の一層の理解と協力を得つつ、次のような観点に立って啓発活動を充実させていくことが必要である。
(ア) 国際障害者年、国際婦人年、世界人権宣言35週年等を契機とする昨今の人権尊重思想の国際的普及の中で、我が国においても人権規約の批准をはじめとして各種の幅広い取組がなされ、人権の確保、尊重への気運が次第に高まりつつあり、同和問題は人権問題の中でも何よりも先に解決すべきとの認識を深め、その幅広い理解を促進すること。
(イ) 同和問題をまちづくりの中で位置づけ、住民共通の課題とすること。そのため特に、あらゆる機会をとらえて同和地区内外の連帯を進め、その交流を通じてコミュニティーの実現を図ること。
(ウ) 封建的な身分差別につながる誤った意識の克服を図るとともに、同和地区住民の自立、自治の精神をはぐくむこと。
(エ) 啓発活動に当たっては、未知の人には正しい知識を提供し、理解のある人には一層の理解の促進を図ることは当然として、誤った意識を持っている人に対しては根気強く正しい理解を求めていくことを啓発活動の共通の目標として取り組んでいくこと。

(3) 啓発推進のための条件整備
 効果的な啓発推進のためには、その内容、手法等の検討、改善が必要なことはいうまでもないが、特に本問題が国民的課題として定着し得ない原因を探ってみると、むしろ啓発推進の前提ともいうべき条件が欠けていると考えられ、これを早急に整備する必要がある。
(ア) まず第一には、同和問題についての自由な意見交換ができる環境づくりを行うことである。
 これまで、同和問題に対する疑問や不信感を持ちながらも、意見が意見として受け取られにくい状況及び本問題を避けて通ろうとする向きがあったことから、同和問題に対する批判のみならず自由な発言や積極的な提案が公にされることなく、潜在化する傾向が指摘できる。
 このような自由な意見交換が困難なままでは、啓発効果は期待できないのである。
 このため、行政としても反省すべき点は多い。特に、従来の同和行政の進め方自体に、あえて自由な発言なり批判を求めようとしない姿勢が見受けられたことについては、早急に改めねばならない。このような姿勢が、従来ややもすると地域改善対策事業の実施が行政と同和関係者のみによって決定され、運用されているかのごとき印象を与えていたのであり、それを避けるために関係施策の内容や予算額を広く公開するなどして国民及び地域社会の理解を得ることに努めねばならない。また、行政としての主体性の欠如から、民間運動団体がその固有の立場から行う要求は要求としてそれを未整理のままで取り上げ、結果として周辺地域との一体性を欠くような事態を発生させることも、国民に同和行政に対する不信感を与える以外の何物でもなく、現に戒めねばならない。更に、すべての人の人権が保障される必要があることは当然として、同和問題に関する自由な意見の表明の確保のためにも、人権上の配慮に立って行政が重要な役割を果たすことが肝要である。いずれにしても、本問題に関し行政が確固たる主体性を確保して事に当たるべきことは焦眉の急といわざるを得ない。
 一方、意見の潜在化傾向については、民間運動団体による行き過ぎたいわゆる確認、糾弾がその原因となっていることは否定できない。このため、是非ともその是正、自粛を求めるものであり、自由な意見が確保されてはじめて同和問題が国民にとって開かれたものとなり、真に国民的課題となり得ることに思いを至すべきである。また、いくつかの民間運動団体が相互に対立しあう中で、差別の概念や差別の実態の認識に種々の異なった立場が出てくることは、国民に混乱をもたらすものである。同和問題の解決のために何よりも必要となる国民の理解と協力を得るためにも、大局的見地からお互いに調整しあう努力をすることを期待するものである。
(イ) 第二には、いわゆるえせ同和団体の横行を排除することである。
 地域的な差異はあるものの、「同和」を名乗る団体の中には、その活動が同和問題の解決を阻害しているとしかいいようのないものがあり、それらが利権を得るため行政等に不当な圧力をかけるなど目に余る事態が最近発生している。同和問題解決のため長年にわたって地道に続けられてきた努力とその成果がこれらによって踏みにじられ、同和問題が国民からますます遊離したものとなってしまうことは、今後の円滑、効果的な啓発活動を進める上でも何としても避けねばならない。これは、真剣にこの問題に取り組んできた者にとって共通の思いであり、これらえせ同和団体の横行を現状のままで放置することはできない。とはいえ、全く気ままに成立、消滅を繰り返すこれら集団については、刑法犯に該当するような場合はともかく、それ以外の場合にこれを規制することは容易ではない。とりあえずそれぞれの行政レベルにおいて速やかな情報の把握を行う等工夫を凝らした対応を検討すべきである。また、国民や企業においても、不当な要求に屈することなく、勇気を持ってこれら団体に対処するとともに、最寄りの関係行政機関への情報の提供という面での協力も期待されるところである。

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2 啓発の具体的方法について
 基本的人権にかかわる同和問題は決して特定の地域のみの問題ではなく、国民一人ひとりと密接に関連しているという認識を深めるためにも、啓発はあらゆる生活の場を通じて行われなければならない。具体的には義務教育段階における基礎的な知識を踏まえつつ、同和地区住民、周辺地域住民を含めたすべての国民を対象として、環境改善事業を実施している地域のみにとどまらず広く実施する必要がある。
 この際、それぞれの地域等における同和問題の特質を十分に認識し、具体的な環境改善事業の進行の度合いや住民の同和問題に関する理解の程度にも配慮することが必要である。
(1) 学校における同和教育
 同和問題に関する最初の情報は義務教育期間及び高等学校在学中に得ることが多い。また、この時期は思考も柔軟であり、人間形成に当たり重要な時期でもあるゆえ同和問題に関する正しい知識の提供に主眼をおいた系統だった同和教育を徹底することは啓発活動の要諦といえる。
(ア) このため、まず小学校、中学校、高等学校それぞれにおける教育活動全体を通しての同和教育を各教科、道徳、特別活動等の特質にも十分配慮しつつ充実させるとともに、児童、生徒の発達段階に則した系統的な指導を実施しなければならない。この際、地域的な課題も積極的に取り上げる等の配慮が必要である。
 また、大学等の高等教育においても、それまでの同和教育の成果を更に確実なものとして社会に巣立っていけるよう、同和問題を含め人権意識の高揚のための特別の配慮が必要である。
(イ) 児童、生徒に正しい同和教育を行う前提として、教職員の同和問題に関する知識、理解を深めることが不可欠であり、このための研修等を一層充実させる必要がある。
(ウ) また、児童、生徒に対する同和教育をより効果あるものとするためには、家庭において父母が同和問題を正しく理解した上で子供に接することが欠かせないものであり、このため学校と家庭とがPTA等の協力を得て相互に連携をとりながら、同和問題に関する学習活動を進めていくことも重要である。
 その際、同和教育と政治運動、社会運動とを明確に区別して推進することが教育の中立性の観点から肝要である。

(2) 地域における啓発
 生活の場としての地域はややもすると差別意識の温床となる可能性が大きい。同和問題の解決はこのような身近な地域の人びとの理解と協力の積み重ねによりはじめて可能となるものであり、特に婦人、幼児、老人、自営業者等に対しては唯一の啓発の場であることからもそれぞれの地域の中で正しく同和問題を取り上げ、啓発を進めていく必要がある。
(ア) 地域における啓発に当たっては、まず、同和問題に関する学習意欲を喚起し、学習機会を提供するため、誰もが利用できる公民館、隣保館、集会所等を拠点として、各地域における各種の自治組織、社会教育・文化・福祉等の活動に関する組織の協力を求めつつ進める必要がある。この際、それぞれの地域的な課題と結びついた啓発を行うことが同和問題を身近に理解するために効果的であると同時に、地域住民がより自主的に参加できるような工夫が必要である。また、啓発の充実に欠かせない指導者の育成、強化を積極的に進めるとともに、これら指導者を中心とした地道な、日常的な啓発活動の促進が望まれるところである。
(イ) 具体的な啓発の方法としては、映画やVTRをはじめとする音声、映像媒体等による感性に訴える手法を一層活用するとともに、自由に閲覧できる啓発資料コーナーの設置、講習会、研修会の小地域単位での開催等工夫を凝らしてその推進に当たるべきである。
(ウ) 更に、同和地区住民に対し、その自立意識の確立と社会的自覚の促進を図るための啓発を実施することは、地域における啓発の重要な一つの柱である。これにより地区内外の社会的交流が一層円滑となり、相互の信頼関係が厚くなることが期待される。
(エ) 家庭学習を今後一層進めるためには、講習会や研修会等への参加を呼びかけるだけでなくテレビ、ラジオ等の各家庭に直結するマスメディアを利用して直接同和問題に関する正しい知識を提供し、その中でお互いの理解を深める等の手法が効果的である。

(3) 職場における啓発
 「地名総鑑」の購入事件等にみられるように、従業員の採用選考に際して差別事象が生じやすい。職場での人権尊重の確保とともに差別のない公正な採用の確保を実現するため職場における啓発が重要である。
(ア) 公正な採用の確保については、採用の決定権を有する事業主に対する啓発を一層推進する必要があるが、業態ごとに所管する行政機関が異なったり、また人権問題や社会教育等とのかかわりもあることからいろいろのレベルで多くの行政機関が関与する場合がある。このため、これらが有機的に連携をとりながら、啓発指導が行われるよう十分配慮しなければならない。
(イ) 職場において啓発を推進していく際の指導者についてその養成を今後とも進めるとともに、資質の向上に努めなければならない。そして、これらの指導者がリーダーとなってそれぞれの職場において独自の自主的な啓発活動が進められるようにする必要がある。また、そのために必要な啓発教材、啓発資料の整備充実、ゼミナール形式等による事業所内研修の実施等その具体的方法の検討も急がれる。
(ウ) また、事業所団体や労働団体においても、組織として本問題の理解を深めるための自己研修や個々の構成員に対する指導等の自主的な活動を促進することが望ましい。

(4) 行政機関における啓発
 公務員すべてが同和問題の本質を把握し、共通の認識を持ってそれぞれの行政分野で適切な対応を行うことが、同和問題を国民一人ひとりの問題とし、これを解決していくための第一歩である。そこで、従来から国家公務員法、地方公務員法に基づいて行われる研修及びその他の種々の機会をとらえて個別に同和問題が取り上げられてきているが、公務員による差別発言事例の発生等にみられるように、すべての公務員に同和問題の理解が徹底しているとはいい切れないのが現状である。
(ア) このため、既存の初任者研修、管理職研修等の各種一般公務員研修等の中に同和問題の理解を深めるための配慮を行うとともに、定期的に同和問題に関する研修会を開催するほか、中央官庁に附属する各種の大学校等や地方公共団体の研修機関等で実施する実務的な行政研修の課程にも所要の講義を設けるなどあらゆる場の積極的な活用を図る必要がある。
(イ) また、同和問題を担当する公務員に対する専門的な研修については一層その内容に工夫を凝らしたものとするとともに、これら担当者が啓発推進に当たっての民間レベルの協力者に対し適切な助言指導が常に行えるような体制を整えておく必要がある。

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3 啓発の内容について
 同和問題が基本的人権にかかわる重要な問題である点を強調し、今日の人権擁護の潮流の中にこれを位置づけていくことが重要である。その上で、同和地区発生の背景と成立の経過についての正しい認識と地域改善対策事業の円滑な執行に対する国民の幅広い理解と協力が不可欠であることを徹底させる。
(1) 人権問題としての理解と実践
 同和問題が重要な人権問題の一つであるとの認識は次第に深まりつつあり、20年前の答申の当時の状況とは隔世の感がある。この認識の深まりを背景として、同和問題解決のためには一人ひとりが常に人権尊重の精神に立って行動することが必要であることを改めて強調する。

(2) 同和問題発生の歴史と同和地区の実態
(ア) 同和対策審議会答申の精神に立ち、誤った知識に基づく余談と偏見が差別と結びつき、更に差別を拡大していくことに十分留意し、同和問題の発生の歴史についての正しい理解を求め、これを徹底していく必要がある。
(イ) 現在、同和地区の環境改善はかなりの程度進んでいるものの、なお社会的に低位の状態にあるところも存在しており、特に就職、結婚等に伴う心理的差別が依然として跡を絶っていないことを指摘する必要がある。ただし、この場合も、社会的低位状態を強調するあまり、かえって心理的差別を助長させてしまうことのないよう十分配慮しなければならない。
(ウ) また、それぞれの同和地区には特有の伝統的文化等が伝承されている場合も多いので、これらを積極的に評価していく必要がある。

(3) 地域改善対策事業の必要性
 地域改善対策事業は同和地区及び地区住民の社会的低位状態を解消し、憲法に保障されている基本的人権を同和地区住民についても確保するために実施されていることを再認識するとともに、これまで行われてきた事業の趣旨を明らかにし、かつ、今後の展望も示すことにより、その事業実施についての国民の理解を得なければならない。

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4 啓発の実施主体の役割について
 同和問題が国民的課題であるという趣旨は、国民の一人ひとりが本問題に主体的に取り組むことによってはじめてその最終的な解決が可能となるということであり、その意味においては、最終的な啓発の主体は国民であるといえる。実際には、行政が中心となって率先して啓発を推進し、本問題の解決に取り組むにしても、最終的には国民が主体となるための条件整備を行政が行うという認識に立った施策でなければならない。
 また、国民の各界、、各層における幅広い啓発を進めるためには、学校、事業所等に期待されるものも大きい。
(1) 行政の役割
(ア) 国、都道府県(以下「県」という。)、市町村はそれぞれの行政対象区域と機能に応じて全体として整合性のとれた役割分担による効果的な啓発を推進する必要があるが、それぞれの具体的な役割分担としてはおおむね次のようなものが考えられる。
 まず、国においては、全国的観点に立って進めるべき啓発の企画、立案とその実施、例えば、政府広報の効果的な活用、啓発活動の現況の取りまとめ、啓発推進のための指針の策定、地方公共団体における啓発指導者の養成、全国的に活用可能な啓発媒体の作成及び情報資料の収集・提供などを行うとともに、地方公共団体を通して実施する啓発活動に対し、引き続き所要の措置を行う。
 次に、県においては国と連携をとりつつ県レベルでの広域的な啓発についての企画、立案とその実施、例えば、統一啓発行事の実施、県広報の活用、地域における啓発指導者の養成、県内の実情に即した啓発媒体の作成等を行うとともに、市町村に対する助言指導を行う。
 更に、市町村では地域の実態に即し、地域住民に密着したきめ細かな啓発活動を実施するなどが考えられる。
(イ) 啓発の推進に当たっては、特にマスコミの協力を得ることが効果的である。従来、行政自身の働きかけも弱かった上にマスコミ自体がこの問題を避けて通ろうとした傾向がないとはいえなかった。啓発の効果的推進という責務を有する行政から、国、県、市町村それぞれの分野で必要な情報を提供するなど積極的に働きかけるとともに、マスコミの協力を得やすい土俵づくりが必要である。
(ウ) 特に、行政が行う啓発はその内容に発展性がなく、惰性に流されやすいため、またかという意識からそれへの参加が敬遠されやすい点を謙虚に反省し、国民の理解を深めるため一層の努力を行わねばならない。
(エ) 行政においては、それぞれの担当部門ごとに啓発事業を実施しているが、関連する啓発実施に際し、啓発担当部門が複数にまたがるような場合には相互の連携を一層強化することが効果的である。
(オ) 行政以外の多くの啓発実施主体相互間においても、必要に応じて連携を図ることが効果的な場合も多く、行政は積極的にその促進に当たるべきである。更に県民総ぐるみで啓発推進の効果を挙げているところもあり、状況さえ整えば、各種組織を網羅した啓発推進協議会等の活用、結成を図る必要がある。
(カ) 啓発活動の効果は情報量の大きさに左右されるとはいえ、最近における行政情報の公開への動きの中で、行政の把握している個人情報の取扱いについては、プライバシー保護との関連から十分な配慮をすべきである。
 特に、住民に関する記録を行う制度である住民基本台帳の公開については、これに基づく遺憾な事件の発生もみられ、現行の閲覧等のあり方が問題とされてきているところでもあり、プライバシー保護の観点から再検討することが望まれる。

(2) 学校等の役割
 国民の各生活分野における日常的な幅広い啓発活動を推進するには行政のみにとどまらず、主要な日常生活活動の場としての学校、事業所にも啓発の実施主体としての役割が期待される。また、家庭を含めた各地域においては、各種市民団体や民間運動団体等の活動への期待も大きなものがある。なお、社会の公器としてのマスコミにおいても本問題を避けることなく、国民の前により開かれたものとするとともに、人権問題としての本問題解決のため積極的な取組をすることが期待されている。
(ア) 学校
 児童、生徒の人間形成に当たって学校の果たす重要な役割を十分認識し、これを踏まえての差別意識の根本的な払拭という目標に向けて同和問題に関する正しい知識の提供とこれを可能にする教職員の資質の向上に努めなければならない。
 また、PTA等の協力を得つつ家庭との連携を深めるとともに、更に地域社会までも含めた三者の連携、協力による効果的な同和教育推進に当たっての中心的役割を果たさなければならない。
(イ) 事業所
 企業体としての社会的責任を自覚し、公正な採用の促進と事業所内における人権尊重の確保に向けての主体的、自主的な活動を推進することが望まれる。
(ウ) 民間運動団体
 同和地区住民に対する影響力の大きさからも啓発推進の重要な一翼を担うものである上、同和問題を国民的課題とするために期待される役割は非常に大きなものがある。 また、先に述べたように同和問題に関し自由な意見交換を行える環境づくりを進めることが啓発推進の前提となることから、国民に対し誤解ないし不信感を与えるようなおそれのある行動方針については、民間運動団体自体としても再検討を望むものである。
(エ) その他の各種団体
 最終的な啓発の主体は国民であるとの認識の下に、同和問題に関して広く国民の理解を求めるため、特に自治会等の地域団体、婦人層・老人層・自営業者層等を構成員とする団体、あるいは国民の精神生活に深くかかわっている宗教団体などをはじめとする各層の団体において、人権問題としての本問題解決のための自発的活動の定着化を促進することが期待される。

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結び
 同和問題解決の基本的方向を示すとともに、関係諸施策推進の拠り所となった同和対策審議会答申が取りまとめられてから早20年がたった。この間、実態的差別解消への歩みは着実に進展し、また、人びとの心に心理的差別解消への問題意識の芽生えがみられ、その共感の輪も次第に広がっているといえる。あるべからざる差別の解消は我々国民に課せられた使命であると同時に、我々の手によって必ずや解決できるものであり、今後とも更に最大限の努力を続けていかねばならない。その際、啓発活動というものが人の心に働きかけるものであるだけに、効果が客観的に把握しにくいことからも、一層想を練り、工夫を凝らして成果を拡大していく必要がある。その意味では、今後の啓発活動の方向を示したこの意見具申はより充実した啓発活動への出発点になるものである。本協議会としても、今後の具体的な啓発活動に深い関心を持ち、必要があれば更に意見を付け加える等によってより良い啓発活動の実現のための努力を続けるものである。
 最後に、本問題の最終的な解決は、憲法に定める基本的人権尊重の理念を実現することであり、これは、必ず達成できる課題である。このためにはすべての国民の理解と協力が絶対に不可欠であることを重ねて強調する次第である。


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