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児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について
平成9年6月20日
児発第434号
各都道府県知事、指定都市市長あて厚生省児童家庭局長通知
近年、児童や家庭を取り巻く環境の変化等に伴い、児童相談所への虐待相談件数が急増するなど児童虐待の増加が指摘されている。言うまでもなく、児童虐待は人格形成期にある児童の心身に重大な影響を与えるものであって、児童福祉の観点から看過しがたいものであり、迅速かつ適切な手続きによる積極的な対応が求められているところである。
児童虐待が生ずる要因は複雑・多様であり、個々の実情に応じた児童の処遇及び家庭環境の調整等を図ることが必要であるが、このような支援に当たっては、地域において児童や家庭に対する相談支援体制を強化し、児童虐待の未然防止に努めるとともに、家庭に潜行しがちな虐待が深刻化する前に早期発見・早期対応を図ることが特に重要である。また、保護者等からの分離が必要な場合については、適切に児童を一時保護あるいは施設入所等させ、必要に応じ所要の司法手続きを採るなど、関係者が緊密な連携を図りつつ一丸となって児童の適切な保護のために毅然とした対応を採ることが求められる。
こうした児童虐待等への対応については、現行の児童福祉法(以下、「法」という。)において、通告義務、立入調査、一時保護、家庭裁判所への申立てなど所要の規定が設けられているが、これまで必ずしもその適切な運用が図られてこなかったきらいがある。このため、今般、左記のとおり、法の解釈・運用に当たっての留意点をまとめたので、管下の児童相談所等関係機関及び児童福祉施設等に対して周知徹底を図り、法の適正な運用を行い、児童虐待等の問題に対する積極的な取組みに努められたい。
また、児童虐待等への対応については、「児童福祉法等の一部改正について」(平成9年6月11日児発第411号厚生省児童家庭局長通知)で既に通知したとおり、「児童福祉法等の一部を改正する法律(平成九年法律第七四号)」(以下、「新法」という。)においても児童家庭支援センターの設置など所要の法整備を行ったところであり、新法の運用等については、追って別途通知する予定であるが、本通知は、現行法の適切な運用により児童虐待等の問題への積極的な対応を図ることを趣旨としており、左記の点は新法によって改正される条項に係るものではないので留意されたい。
なお、本通知については警察庁と協議済みであり、また、本通知が発出されることについては、文部省を通じて各都道府県指定都市教育委員会へ、最高裁判所事務総局家庭局を通じて各家庭裁判所へ、それぞれ連絡を依頼してあるので申し添える。
記
1 保護を要する児童について
法では、「保護者に監護させることが不適当であると認める児童」(法第二五条)や「保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」(法第二八条)には、その態様に応じ法第二七条又は法第二八条に定める措置等を採ることとして、児童を保護するための一連の手続きが定められている。
これらの児童には、身体的暴力や性的虐待のほか、衣食住や生活環境の清潔さに関し児童の健康状態を損なうほどの保護の拒否や怠慢、児童の日常生活に支障をきたす精神症状が現れる心理的外傷を与える言動や行為等(以下「虐待等」という。)によって、健全な心身の発育・発達に重大な影響を受けている児童等も含まれる。
以上を踏まえ、児童相談所等関係機関においては、学校など地域の関係者と緊密な連絡をとりつつ積極的に情報の収集を図り、虐待等を受けている児童について、その早期発見と早期対応が図られるよう努められたい。
2 要保護児童発見者の通告義務(法第二五条関係)について
(1) 法第二五条に規定する通告義務は、法第一条に定める児童の健全育成に係る国民の責任に鑑み、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童の通告義務を全ての国民に負わせることにより、保護を要する児童の速やかな発見とその保護に万全を期することを目的とするものである。したがって、通告義務は広く国民一般に課された義務であるとともに、特に児童福祉に関係の深い職にある者などについてはその履行が強く要請されるものである。
以上を踏まえ、国民に広く法第二五条の趣旨を周知するとともに、次に掲げる者など職務上、虐待等を受けている児童を発見しやすい立場にある者に対し、一層の注意を喚起するよう、広報・啓発活動の充実に努められたい。
(ア) 保母、家庭相談員、民生・児童委員、生活保護の現業を行う所員(ケースワーカー)等の社会福祉関係者
(イ) 医師、看護婦、保健婦等の保健医療関係者
(ウ) 教職員等の学校教育・社会教育関係者
(エ) 警察官等の警察関係者
(オ) 弁護士
(2) また、この際、医師や弁護士等、刑法第一三四条の規定により正当な理由がないのにその業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らすことが禁じられている者や、地方公務員や民生委員など刑法以外の法令上いわゆる守秘義務が定められている者についても、法第二五条に定める通告義務があり、通告を受けた児童相談所等の職員に守秘義務があること等に鑑みれば、通告することは秘密漏示や守秘義務違反に当たるものではないので、その旨周知徹底を図られたい。なお、通告を受けた児童相談所等の職員においては、通告者と虐待等を行っている者の関係等を踏まえ、守秘義務の遵守を含め情報源の秘匿等に十分配慮して対応するよう指導されたい。
3 立入調査等(法第二九条関係)について
(1) 保護者に虐待等の疑いがある場合に児童相談所長等が児童の処遇を決定するに当たっては、当該児童の意向やその保護者の意見を聴取するなど児童相談所運営指針等に従った適切な処理を行うとともに、通告者をはじめ、必要に応じ児童の通っている保育所、幼稚園又は小中学校等、児童が診療を受けた医療機関、保健所や福祉事務所など地域の関係機関と緊密な連携を図りつつ、事実関係の調査、確認に万全を期されたい。
(2) また、法第二九条に規定する立入調査権は、児童福祉施設へ入所させる措置等を採るに当たって、法第二八条の適用が想定されるような場合に、事実関係等の把握の必要性の観点から規定されたものであり、この趣旨に即し、特に次の事項に留意してその適切かつ積極的な運用に努められたい。
ア 法第二九条の立入調査は、法第二八条に定める承認の申立てを行った場合だけでなく、虐待等の事実の蓋然性、児童の保護の緊急性、保護者の協力の程度などを総合的に勘案して、法第二八条に定める承認の申立ての必要性を判断するために調査が必要な場合にも行うことができること。
イ 立入調査に携行する身分証明証については、児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する吏員が、その職に就いたときに交付し、平素携帯させてよい旨を既に通知(昭和23年8月23日児発第554号厚生省児童局長通知)しているところであるが、その趣旨の徹底を図ること。
また、立入調査のつど必要な都道府県知事の指示について、指示の権限を児童相談所長に委任するなど、事務手続きにより迅速な立入調査の実施に支障が生じることのないようにすること。
ウ 立入調査に当たっては、必要に応じ、児童又は調査担当者に対する保護者等の加害行為等に対して迅速な援助が得られるよう、警察に対する事前協議を行い、これに基づく連携による適切な調査を行うとともに、状況に応じ遅滞なく児童の一時保護につなげるなど、児童の福祉を最優先した臨機応変の対応に努めること。
エ 立入調査に当たっては、その後の家庭裁判所における審判等における事実関係の確認に資するため、詳細な調査記録の作成を行うとともに、関係書類等の入手・保存に努めること。
4 児童の一時保護等(法第三三条関係)について
虐待等は児童の心身に重大な影響を与える行為であり、児童相談所の職員等の児童福祉関係者において、虐待等を受けている児童やその家庭等の状況を早期に把握したうえで、必要に応じ児童相談所等の一時保護ないしは一時保護委託(以下、「一時保護等」という。)を積極的に活用することにより、児童の迅速な保護が図られるよう万全を期されたい。
なお、一時保護等に当たっては、特に以下の点に留意しつつ、児童相談所運営指針等に従い、その適切な運用を期するとともに、その旨児童福祉施設等の一時保護受託者に対する指導・連絡を徹底されたい。
(1) 一時保護等に当たってはできるだけ児童及び保護者等の同意を得て行うことが望ましいが、虐待等の場合には保護者等の同意が得られないことも多く、この場合には状況に応じ、引き続き保護者の理解を得る努力を行いつつ、並行して児童の一時保護等を採るなど、児童の福祉を最優先した対応を図ること。また、一時保護等を採るに当たっては、保護者等に対し、文書をもって通知し、併せて行政不服審査法第五七条の規定に基づき不服申立ての方法等について教示することを原則とするが、緊急を要する場合などやむを得ない場合には、口頭で当該通知及び教示を行い、一時保護等を採った後、速やかに文書にて当該通知及び教示を行うことも許されること。
また、例えば現に保護者等が児童に著しい身体的暴力を加えている場合など、児童の保護の緊急性や保護者の違法行為の蓋然性の程度からみて警察の対応が相当と認められる時には、警察に対する事前協議を行い、これに基づく連携による児童の迅速な保護に努めること。なお、警察において一時保護等を行う場合については、「警察が行う児童の一時保護について」(昭和26年1月17日児発第12号厚生省児童局長通知)によられたい。
(2) 保護者等の同意が得られずに行った一時保護等について、保護者等が児童の引き取りを求めてきた場合には、これを拒むこと。また、一時保護等を採った後の家庭環境の改善状況等に鑑み、家庭等に戻すことが相当と考えられる場合であっても、一時保護等の処分権者(都道府県知事又は児童相談所長)の解除を要件とし、一時保護部門の長ないしは一時保護委託を受託した者の判断で家庭に戻すことのないよう徹底すること。
なお、保護者等の強引な引き取りに対しては、必要に応じ、児童又は担当者に対する保護者等の加害行為等に対して迅速な援助が得られるよう、警察に対する事前協議を行い、これに基づく連携をとりつつ、毅然とした対応に努めること。
(3) 虐待等を受けている児童の一時保護等はあくまでも緊急避難的な措置である。したがって、その期間が必要最小限のものとなるよう、速やかに施設入所措置等の必要な措置を採ること。また、一時保護等の期間中においては、児童の心身の状態に特に留意し、医師、保健婦、看護婦等との十分な連携を図ること。
5 施設入所等の措置(法第二七条及び第二八条関係)について
(1) 虐待等を受けている児童について法第二七条第一項第三号に規定する措置を採るに当たっては、施設入所後の児童に対する処遇及びその家庭環境の調整を円滑に図る観点から、保護者等の意見を十分聴き、その同意を得て行うことが望ましい。しかし、これが困難な場合には、法第二八条に定める家庭裁判所の承認の申立てを行うこと等により、児童の最善の処遇を最優先した措置が確保されるよう万全を期されたい。なお、この場合においては以下の点に特に留意されたい。
ア 法第二八条に定める家庭裁判所の承認の申立てを行った後、家庭裁判所調査官の調査に協力するなど、速やかに審判が開始され、終結するよう努めること。
イ 法第二八条に定める家庭裁判所の承認の申立てを行った後、審判が終結し施設入所等するまでの間、一時保護等の積極的活用により適切に児童の保護を図ること。また、一時保護等の期間中の児童の保護者等による引き取りについては四(二)に留意されたいこと。なお、法第二八条の申立てに係る審判が確定するまでの保護に関し、審判前の保全処分の申立てを認容した浦和家裁平成8年3月22日審判(家庭裁判月報48巻10号168頁)があることを付記する。
ウ 保護者等の同意を得ずに法第二八条の規定に基づき家庭裁判所の承認等を得て行った児童福祉施設入所措置について、施設入所後、保護者等が児童の引き取りを求めてきた場合の対応について、児童福祉施設に対し、以下の点を指導すること。
(ア) 保護者等の引き取りに対しては、法第二八条による家庭裁判所の承認があった以上、児童福祉施設の長に与えられた監護権が保護者等の監護権に優先することになるので、これを拒むこと。
(イ) 保護者等の強引な引き取りに対しては、児童相談所の援助を求めるとともに、必要に応じ、児童又は担当者に対する保護者等の加害行為等に対して迅速な援助が得られるよう、警察に対する事前協議を行い、これに基づく連携をとりつつ、毅然とした対応に努めること。
なお、法第三三条の七の規定に基づく児童相談所長による親権喪失申立請求事件は現在極めて稀であるが、親権者が再三にわたって児童を強引に連れ戻し、虐待等を続けているような場合には、同条の規定に基づく申立てとその審判前の保全処分の申立てを行うことが適当な場合もあるので積極的に検討されたいこと。
(ウ) 児童福祉施設入所措置後の家庭環境の改善状況等に鑑み、家庭等に戻すことが相当と考えられる場合には、児童相談所に状況等を適切に報告したうえで、入所措置の処分権者(都道府県知事又は児童相談所長)が措置停止又は解除を行うことを要件として家庭等に戻すこととし、児童福祉施設の長の判断で保護者等の引き取りに応ずることのないよう徹底すること。
(2) 施設入所中の児童の処遇に当たっては、個々の実情に応じた児童の心身両面にわたる適切な処遇とその家庭環境の調整に努めることが重要である。入所措置の処分権者(都道府県知事又は児童相談所長)においては、入所措置後も、児童福祉施設と十分連携を図りつつ、入所児童及びその家庭環境の状況等を継続して把握するとともに、必要な指導・援助を行うよう努められたい。また、入所措置の停止又は解除を判断するに当たっては、児童虐待等の再発防止を図る観点から、児童の状況のみならず、家庭の状況など退所後の生活環境にも十分注意するとともに、施設退所後も児童及びその家庭の状況に十分留意して継続的な対応を図るよう努められたい。
なお、新法の施行に伴う児童福祉施設における入所児童の処遇及び児童相談所と児童福祉施設の関係に係る一般的事項については別途通知する予定である。
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