HOME > 人権に関する資料 > 宣言・条約・法律



人権教育の指導方法等の在り方について[第二次とりまとめ]
平成18年1月
人権教育の指導方法等に関する調査研究会議

目次
はじめに
第T章 学校教育における人権教育の改善・充実の基本的考え方
1. 人権及び人権教育について
2. 人権教育の目標について
3. 人権感覚の育成を目指す取組
第U章 学校における人権教育の指導方法等の改善・充実
第1節 学校としての組織的な取組と関係機関等との連携等
1.学校の教育活動全体を通じた人権教育の推進
 (1) 人権教育の推進のための基本的視点
 (2) 学習指導要領等を踏まえた人権教育
 (3) 人権が尊重される学級経営と生徒指導
 (4) 教職員と児童生徒自身による人権教育の環境づくり
2.学校としての組織的な取組とその点検・評価
 (1) 学校としての人権教育の目標設定
 (2) 校内推進体制の確立と充実
 (3) 人権教育の全体計画・年間指導計画の策定
 (4) 学校としての取組の点検・評価
3.家庭・地域との連携及び校種間の連携
 (1) 連携の必要性
 (2) 家庭や地域との連携
 (3) 関係諸機関との連携・協力
 (4) 保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の間の協力と連携
 (5) 連携を推進する行政による支援体制の整備
第2節 人権教育の内容及び指導方法等
1.人権教育の内容構成
 (1) 人権教育を通じて育てたい資質・能力
 (2) 指導内容の構成
 (3) 教育の中立性の確保
 (4) 個人情報やプライバシーに関することへの配慮
2.人権感覚を育成する指導方法の工夫・改善
 (1) 指導方法に関わる基本事項
 (2) 学習指導の事例の提示
3.効果的な学習教材の選定・開発
第3節 学校及び教育委員会における研修等の取組
1.教職員における人権尊重の理念の理解・体得
2.効果的な教職員の研修等の取組
 (1) 学校における研修の取組
 (2) 教育委員会における研修等の取組
 (3) 効果的な研修
3.普及方法等の取組
 (1) 学校における取組
 (2) 教育委員会における取組
おわりに

参考資料
資料


はじめに
 1948年(昭和23年)に国連総会において世界人権宣言が採択された。その後今日にいたるまで、人権に関する様々な条約が採択されるなど、人権保障のための国際的努力が重ねられてきた。そして「人権の世紀」と呼ばれる現在、このような努力をめぐる国境を越えた連携がますます重要となっている。国連は、全世界における人権保障の実現のためには人権教育の充実が不可欠であるとし、「人権教育のための国連10年」(1995〜2004年)を実施した。さらに2004年(平成16年)12月に国連総会は、全世界的規模で人権教育の推進を徹底させるための「人権教育のための世界計画」を2005年に開始する宣言を採択し、第1フェーズ2005〜2007(平成17年〜平成19年)は初等中等教育に焦点を当てることを決定し、2005年(平成17年)7月には、その具体的内容を定めた「行動計画」が国連総会において採択されたところ。
 我が国も「児童の権利に関する条約」をはじめ人権関連の諸条約を締結し、全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の下で人権に関する各般の施策を講じてきた。また、教育基本法に基づき、人格の完成を目指し、平和的な国家及び社会の形成者の育成を期する教育が、家庭・学校・地域のあらゆる場において推進されてきた。このような人権尊重社会の実現を目指す施策や教育の推進は、一定の成果を挙げてきた。
 しかしながら、「人権教育・啓発に関する基本計画」(平成14年3月閣議決定。以下、「基本計画」という。)でも指摘されているように、生命・身体の安全に関わる事象や不当な差別など、今日においても様々な人権問題(注1)が生じている。特に、次代を担う児童生徒(幼児を含む。以下同じ。)に関しては、各種の調査結果に示されているように、いじめや暴力など人権に関わる問題が後を絶たない状況にある。さらには、児童生徒が虐待などの人権侵害を受ける事態も深刻化している。
 基本計画は、様々な人権問題が生じている背景として、人々の中に見られる「同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在」、社会の急激な変化などと共に、「より根本的には、人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が未だ国民の中に十分に定着していないこと」を挙げている。
 このため、「全ての人々の人権が尊重され、相互に共存し得る平和で豊かな社会を実現するためには、国民一人一人の人権尊重の精神の涵養を図ることが不可欠であり、そのために行われる人権教育・啓発の重要性については、これをどんなに強調してもし過ぎることはない」として人権教育の重要性にふれ、政府として人権教育・啓発を総合的かつ計画的に推進していくこととしている。
 一方、基本計画では、学校教育における人権教育の現状に関しては、「教育活動全体を通じて、人権教育が推進されているが、知的理解にとどまり、人権感覚が十分身に付いていないなど指導方法の問題、教職員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない等の問題」があるとし、人権教育に関する取組の一層の改善・充実を求めている。
 さらに、基本計画は、「人権教育・啓発の推進方策」として、「学校における指導方法の改善を図るため、効果的な教育実践や学習教材などについて情報収集や調査研究を行い、その成果を学校等に提供していく」こと、また、「人権教育の充実に向けた指導方法の研究を推進する」ことを明示している。
 本調査研究会議は、こうした指摘を踏まえ、人権についての知的理解を深めると共に人権感覚を十分に身に付けることを目指して人権教育の指導方法等の在り方を中心に検討を行ってきた。そして、平成16年6月には、「人権教育の在り方について〔第一次とりまとめ〕」を公表した。この中では、特に、「自分の大切さと共に他の人の大切さを認めることができるようになり、それが様々な場面や状況下での具体的な態度や行動に現れるようにすること」というように、人権教育とは何かということを分かりやすく示すと共に、児童生徒はもちろんのこと教職員一人一人が人権尊重の理念を理解し、体得することが重要であることを強調した。
 この〔第一次とりまとめ〕を基礎として、本調査研究会議は平成16年度以降も人権教育に関する具体的な課題について検討を重ねてきた。それと共に、都道府県教育委員会の協力のもと、我が国における人権教育の実践状況及び指導事例等を収集してきた。
 この間、国際的にも、国内的にも、人権教育のさらなる充実・強化を求める機運はますます高まっており、これに対処するための理論的・実践的支援を求める教育委員会や学校現場からの要請も高まっている。
 そこで、これまでの検討内容を現時点で〔第二次とりまとめ〕として公表し、この要請に応えることにした。学校教育における人権教育の一層の推進のために積極的に活用していただくことを切に願うものである。

(注)基本計画は、「人権教育の実施主体」として「学校,社会教育施設,教育委員会などのほか,社会教育関係団体,民間団体,公益法人など」を示した上で、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者・ハンセン病患者等、刑を終えて出所した人、犯罪被害者等、インターネットによる人権侵害等の個別的課題を挙げ、「人権教育・啓発に当たっては、普遍的な視点からの取組のほか、各人権課題に対する取組を推進し、それらに関する知識や理解を深め、さらには課題の解決に向けた実践的な態度を培っていくことが望まれる。その際、地域の実情、対象者の発達段階等や実施主体の特性などを踏まえつつ、適切な取組を進めていくことが必要である。」としている。

第T章 学校教育における人権教育の改善・充実の基本的考え方
1.人権及び人権教育について
(1)人権は、「人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」と定義される(人権擁護推進審議会答申(平成11年)、以下「審議会答申」という)。また、基本計画は、人権を「人間の尊厳に基づいて各人が持っている、固有の権利であり、社会を構成する全ての人々が個人としての生存と自由を確保し社会において幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利」と説明している。
 しかし、人権を一層身近で具体的な事柄に関連させてより明確に把握することが必要である。例えば、人権という言葉は「人」と「権利」という二つの言葉からなっている。人権とは、要するに「人の持つ権利」を意味する。したがって、人権を理解するには、人としての尊厳と価値を踏まえながら、人とは何か、権利とは何かを具体的に考えなければならない。
 人権の具体的な内容には、人が生存するために不可欠な生命や身体の自由の保障、法の下の平等、衣食住の充足などに関わる権利がある。そして同時に、人が幸せに生きる上で必要不可欠な思想や言論の自由、集会・結社の自由、教育を受ける権利なども含まれている。
 このような個々の権利は、それぞれが固有の意義を持つと同時に、相互に不可分かつ相補的な関係にある。このような諸権利が全体で一つの枠組みとしての人権を構成しているのである。したがって、個々の権利にはおのずから優劣や軽重はないのであるが、今日、全国各地で児童生徒をめぐって生じている様々な事態にかんがみる時、人間の生命がかけがえのないものであるという点については、改めて強調しておきたい。
 人権を侵害することは、相手が誰であれ、決して許されることではない。全ての人は自分の人としての尊厳と価値が尊重されることを要求して当然なのである。したがって、誰であれ、他の人々の尊厳や価値を尊重し、それを侵害してはならないという義務と責任とを負うのである。
(2)次に、人権教育であるが、これについては、「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」(人権教育及び人権啓発の推進に関する法律第2条)を意味し、「国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう」(同法第3条)にすることを旨とする、とされている。この人権教育の定義についても、より具体的にとらえることが求められる。
 「人権教育のための国連10年行動計画」では、人権教育を、「知識と技能の伝達並びに態度の形成を通じて、人権という普遍的文化を構築することを目的とする研修、普及及び広報努力である」と定義している。そして具体的な目標として、(a)人権と基本的自由の尊重の強化、(b)人格及び人格の尊厳を感受する感覚の十分な発達、(c)全ての国家、先住民、全ての国民、先住民並びに人種的、民族的、種族的、宗教的及び言語的な諸集団の間における理解、寛容、男女平等並びに友好の促進、(d)全ての人が自由な社会に効果的に参加できるようにすること、等を挙げている。
 このようにとらえると、人権教育の目的を達成するためには、第一に、人権や人権擁護に関する基本的な知識を確実に学び、その内容と意義についての知的理解を徹底し、深化することが必要である。第二に、人権が持つ価値や重要性を直感的に感受し、それを共感的に受けとめるような感性や感覚を育成すると共に、自分と他者との人権擁護を実践しようとする意識、意欲や態度を助長すること、そしてその意欲や態度を実際の行為に結びつける実践力を育成することが求められる。つまり、人権教育は自他の人権の実現と擁護のために必要な資質や能力を育成し、発展させることを目指す総合的な教育である。その際に必要とされる資質や能力は、@知識的側面、A価値的・態度的側面、B技能的側面という3つの側面からなっている。このうちA価値的・態度的側面、B技能的側面が深く人権感覚に関わるものである。したがって、@知識的側面にとどまらず、A価値的・態度的側面やB技能的側面を含めた形で、資質や能力を全面的・調和的に発達させるように働きかけ、促進することが、人権教育の具体的な課題となる。
 以上のように、人権教育の総合的・構造的性格を考える時、審議会答申が指摘する、児童生徒一人一人が「人権の意義やその重要性についての正しい知識」を十分に身に付けると共に、「日常生活の中で人権上問題のあるような出来事に接した際に、直感的にその出来事はおかしいと思う感性や、日常生活において人権への配慮がその態度や行動に現れるような人権感覚」をも十分に身に付けることの重要性が一層明確になる。
(3)人権感覚とは、人権の価値やその重要性にかんがみ、人権が擁護され、実現されている状態を感知して、これを望ましいものと感じ、反対に、これが侵害されている状態を感知して、それを許せないとするような、価値志向的な感覚である。この人権感覚が健全に働く時、自他の人権が尊重されていることの「妥当性」を肯定し、逆にそれが侵害されることの「問題性」を認識して、人権侵害を解決せずにはいられないとする、いわゆる人権意識が芽生えてくる。つまり、価値志向的な人権感覚が知的認識とも結びついて、問題状況を変えようとする人権意識又は意欲や態度になり、自分の人権と共に他者の人権を守るような実践行動に連なるのである。
 なお、このような人権教育が効果を挙げうるためには、まず、その教育・学習の場である学校・学級自体が、人権尊重が徹底し、人権尊重の精神がみなぎっている環境であることが求められる。このことは、教育一般においても言えるが、とりわけ人権教育においては、その教育内容や方法の在り方と共に、教育・学習の場そのものの雰囲気の在り方がきわめて重要な意味を持つ。教職員同士の関係、教職員と児童生徒の関係、児童生徒同士の関係等々の人間関係や全体としての雰囲気など、学校・学級の在り方そのものが、人権教育の基盤をなすのである。この基盤づくりは、校長をはじめ、教職員一人一人の意識と努力により、即座に取り組めるものであり、また取り組むべきものである。
 また、人権教育は、教育を受けること自体が基本的人権であるという大原則の上に成り立つものであることも再認識しておきたい。
【参考】(省略)

2.人権教育の目標について
 学校教育において人権教育を進めるに当たっては、人権についての知的理解を深化し、徹底させると共に、児童生徒が人権感覚を十分に身に付けるための指導を一層充実することが必要である。
 各学校において人権教育に取り組むに際しては、まず、人権に関わる概念や人権教育が目指すものについて明確にし、教職員がこれを十分に理解し、組織的・計画的に進めることが肝要である。人権教育に限らず、様々な取組を進めるためには目標を明確にすることが重要である。それによって、組織的な取組が可能となり、改善・充実のための評価の視点も明らかになるからである。しかし、「人権尊重の理念」というような人権に関わる概念は抽象的で分かりにくい、といった声もしばしば聞かれるところである。
 人権尊重の理念は、「自分の人権のみならず他者の人権についても正しく理解し、その権利の行使に伴う責任を自覚して、人権を相互に尊重し合うこと、すなわち、人権の共存の考え方ととらえる」(審議会答申)べきものとされている。このことを踏まえて、人権尊重の理念について、特に、学校教育において指導の充実が求められる人権感覚の側面に焦点を当てて児童生徒にも分かりやすい言葉で表現するならば、[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]であると言うことができる。
 この[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]については、そのことを単に理解するにとどまることなく、それが態度や行動に現れるようになることが求められることは言うまでもない。すなわち、一人一人の児童生徒がその発達段階に応じ、人権の意義・内容や重要性について理解し、[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるようになり、それが様々な場面や状況下での具体的な態度や行動に現れるとともに、人権が尊重される社会づくりに向けた行動につながるようにすることが、人権教育の目標である。
 このような人権教育の実践が、民主的な社会及び国家の形成発展に努める人間の育成、平和的な国際社会の実現に貢献できる人間の育成につながっていくものと考えられる。
 各学校においては、上記のような考え方を基本としつつ、児童生徒や学校の実態等に応じて人権教育によって達成しようとする目標を具体的に設定し主体的な取組を進めることが必要である。

3.人権感覚の育成を目指す取組
 [自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるために必要な人権感覚は、児童生徒に繰り返し言葉で説明するだけで身に付くものではない。このような人権感覚を身に付けるためには、学級をはじめ学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が実感できるような状況を生み出すことが肝要である。児童生徒一人一人が、自らが一人の人間として大切にされているという実感を持つことができる時に、自己や他者を尊重しようとする感覚や意志が芽生え、育つことが容易になるからである。
 人権教育に関わる知的理解を推進するためには、学校の教育課程を体系的に整備することが必要である。他方、人権感覚の育成には、そうしたカリキュラムの整備と共に、いわゆる「隠れたカリキュラム」(「隠れたカリキュラム」とは、「教育する側が意図する、しないに関わらず、学校生活を営むなかで、児童生徒自らが学びとっていく全ての事柄」を指す。学校・学級の「隠れたカリキュラム」を構成するのは、それらの場の在り方であり、雰囲気といったものである。)が重要である。

【参考】「隠れたカリキュラム」の例
○「いじめ」を許さない態度を身に付けるためには、「いじめはよくない」という知的理解だけでは不十分である。実際に、「いじめ」を許さない雰囲気が浸透する学校・学級で生活することを通じて、児童生徒ははじめて「いじめ」を許さない人権感覚を身に付けることができるのである。だからこそ、教職員一体となっての組織づくり、場の雰囲気づくりが重要である。

 このように、自分と他の人の大切さが認められるような環境をつくることが、まず学校・学級の中で取り組まれなければならない。また、それだけではなく、家庭、地域、国、等のあらゆる場においてもそのような環境をつくることが必要であることを、児童生徒が気付くことができるように指導することも重要である。
 さらに、[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるということが、態度や行動にまで現れるようにすることが必要である。すなわち、他の人と共によりよく生きようとする態度や集団生活における規範等を尊重し義務や責任を果たす態度、具体的な人権問題に直面してそれを解決しようとする実践的な行動力などを、児童生徒が身に付けることができるようにすることが大切である。具体的には、各学校において、教育活動全体を通じて、例えば次のような力や技能などを総合的にバランスよく培うことが求められる。
@他の人の立場に立ってその人に必要なことやその人の考えや気持ちなどが分かるような想像力や共感的に理解する力
A考えや気持ちを適切かつ豊かに表現し、また、的確に理解することができるような、伝え合い、分かり合うためのコミュニケーションの能力やそのための技能
B自分の要求を一方的に主張するのではなく建設的な手法により他の人との人間関係を調整する能力及び自他の要求を共に満たせる解決方法を見いだしてそれを実現させる能力やそのための技能

 これらの力や技能を着実に培い、児童生徒の人権感覚を健全に育成していくためには、「学習活動づくり」や「人間関係づくり」と「環境づくり」とが一体となった、学校全体としての取組が望まれるところである。

第U章 学校における人権教育の指導方法等の改善・充実
 前章では、人権教育の目標に関連して、人権に関する知的理解の促進と深化、並びに人権感覚の育成の意義と必要性とについて指摘した。さらに、人権教育の成立基盤としての学校・学級の在り方そのものが持つ重要性にも言及した。これを受けて、本章では、学校における人権教育がその目標を達成するためにどのような点に留意すべきかについて示した。その際、「学校としての組織的な取組等に関すること」、「人権教育の内容及び指導方法等に関すること」、そして「教職員研修等に係る教育委員会の取組に関すること」の3つの観点から検討することとした。
 なお、本調査研究会議は、都道府県教育委員会の協力を得て人権教育の実践状況及び指導事例等を収集した。これらの事例と海外の人権教育に関する理論的・実践的研究成果を踏まえて、上記のそれぞれの観点ごとに具体的に検討すると共に、今後の人権教育の推進に資すると考えられる基本的、一般的な事例も併せて示した。

第1節 学校としての組織的な取組と関係機関等との連携等
1.学校の教育活動全体を通じた人権教育の推進
(1)人権教育の推進のための基本的視点
 学校教育においては[生きる力]を育む教育活動を進めている。[生きる力]については、平成8年の中央教育審議会答申において、「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」、「自らを律しつつ、他人と共に協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性」、「たくましく生きるための健康や体力」が重要な資質や能力として挙げられている。
 人権教育は、この[生きる力]を学校教育において、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じ、教育活動全体を通じて推進されるものである。
 また、日常の学校生活も含めて人権が尊重される学校・学級とするように努めることが肝要である。例えば、児童生徒の意見をきちんと受けとめて聞く、明るく丁寧な言葉で声かけを行うことなどは当然であるが、教職員は改めて児童生徒一人一人の大切さを強く自覚し、一人の人間として接しなければならない。一方、いじめや暴力をはじめ他の人を傷つけるような問題が起きた時には、これらの行為を看過することなく学校全体として適切かつ毅然とした指導を行い、いわば正義が貫かれるような学校・学級とするように努めなければならない。
 現在、各学校では人権教育に組織的に取り組むと共に、家庭・地域社会、他校種と積極的に連携して人権教育を推進している。この実践をより積極的に推進することが求められる。
 なお、このような学校・学級にするために、教職員だけでなく児童生徒自身も自らの大切さや他の人の大切さが認められるような環境づくりに主体的に取り組むことが重要であることはもちろんのことである。
(2)学習指導要領等を踏まえた人権教育
 人権教育は、学校教育において、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じ、教育活動全体を通じて推進されるものである。
 以下の例のような工夫も参考に、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間でそれぞれの特質に応じて行われている人権教育が有機的に関連して展開できるようにすると共に、学習活動の基盤としての学校づくり及び学習集団づくりを効果的に行うことが大切である。

【参考】「人権教育を行う上での工夫の例」
1 「地域の教育力の活用」:各教科等の特質に応じて、地域人材の協力を得て、地域の教育力を有効活用して教育活動全体を通じて人権教育を推進する。
2 「体験的な活動」:フィールドワークなどの体験的活動を積極的に活用して、人権についての関心・意欲・態度、思考・判断、技能・表現、知識・理解の力を育て、人権感覚を育成する。
3 「学習形態、教育方法上の工夫」:人権教育の目的に応じて一斉学習、グループ学習、個別学習などを有効に活用し、内容によっては、授業担当教師とゲスト・ティーチャー(地域人材等)とのティーム・ティーチングを取り入れる。また、目的に応じてコンピュータなどの情報機器を活用、体験的な活動の導入、児童生徒の実態調査などを通して効果的に指導する。
4 「生き方学習や進路学習」:学級活動やホームルーム活動などでの人間としてのあり方生き方についての自覚を深める学習や、進路指導の機会等を通して長期的広域的視野から人権教育を推進する。

(3)人権が尊重される学級経営と生徒指導
ア:人権尊重の精神に立つ学級経営
 教師は児童生徒一人一人の大切さを強く自覚して、児童生徒の日常の学校生活も含めて人権が尊重される学級経営をするように努めなければならない。特に、学級経営においては、児童生徒が他者との関わりの中で自らのよさを発揮しながら、学級生活を安心して過ごすことが大切である。

【参考】「学級経営の留意点」
○自己と他者に対する尊敬の念を培うこと
○よさを認め合い、共感的理解を育むこと
○自己表現できる力やコミュニケーション 能力を育成すること
 これらを「人権学習」、「自主的活動」、「学校や学級等での生活」を通して培っていく。

イ:人権尊重の精神に立つ生徒指導
 学級活動、ホームルーム活動での集団指導やその他の個別指導での人権を尊重した生徒指導は、「自分の大切さと共に他の人の大切さを認める」という人権感覚を育成する人権教育として位置づけることができる。このように生徒指導において、「自分の大切さとともに他の人の大切さを認める」という人権感覚を育成することを通じて、暴力行為やいじめ等の生徒指導上の諸問題の未然防止に努めることが重要である。
 児童生徒の暴力行為、いじめ、不登校、中途退学などの生徒指導上の諸問題の解決に当たっては、人権侵害行為の存在や人権相互間の調整を必要とする問題である可能性の存在を念頭におき、人権教育を基盤とした生徒指導を実施することが大切である。
 また、いじめや暴力をはじめ他の人を傷つけるような問題が起きた時には、他の人の人権を尊重する観点から、これらの行為を看過することなく学校全体として適切かつ毅然とした指導を行うように努めることが大切である。このように、学習指導、進路指導、個人的適応指導、社会性指導、余暇指導、健康安全指導の全てについて、児童生徒の人権を尊重した指導をすることにより、生徒指導を通して人権教育の推進を図ることができる。

(4)教職員と児童生徒自身による人権教育の環境づくり
ア:教職員と児童生徒の連携
 教職員による厳しさと優しさを兼ね備えた生徒指導と、児童生徒の主体的な学級参加によって、人権の尊重される学校教育を維持するための環境整備に取り組まなければならない。その際、校長のリーダーシップや、人権教育目標についての教職員相互の共通理解が必要であり、全ての教職員の意識的な参画が人権教育推進の必要条件である。

【事例紹介】「学習環境の整備の例」
○人権コーナーの設置⇒正面玄関に授業で取り組んだ作品を展示し、児童生徒がいじめや差別のない人権の守られる学級・学校とは何かを考えるようにする。
○人権啓発標語・ポスター⇒人権週間に併せて人権啓発に関する標語作りやポスター作りを通して人権感覚を養う。
○人権学習会⇒障害のある人や元海外協力隊員など国内外で人権問題に関わった人々の話を聞く。
○全校集会⇒子ども達が自ら学んだことを全校の子どもや保護者に発表し、人権についての意識を高める。

イ:環境整備のための支援
 教職員と児童生徒が人権教育の環境づくりに主体的に取り組むためには、学校評議員、保護者、地域住民、行政担当者、法務局・地方法務局、福祉施設、医療機関、大学の研究者などが積極的・継続的に学校を支援する人的ネットワークづくりが求められる。
 また、それぞれの教育段階で効果的に人権教育を推進するためには、幼稚園、保育所、小学校、中学校、高等学校等の協力と連携が効果的である。また、それらを進めるためにも、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の趣旨に基づく積極的な行政的支援がますます必要となる。

ウ:人権を尊重した学習指導と学力向上
 全ての児童生徒に基礎的な知識・技能等を確実に身に付けさせ、それらを活用しながら自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育むためにも、学校全体として「一人一人を大切にし、個に応じた目的意識のある学習指導に取組む」等の教育目標の共通理解を図ると共に、学ぶことの楽しさを体験させ、望ましい人間関係づくり等を培い、学習意欲の向上に努めることが求められている。

【参考例】「効果のある学校(effective schools)」
 今日、「効果のある学校」に関する研究が国内外で推進されている。このような「教育的に不利な環境のもとにある児童生徒の学力水準を押し上げている学校」では、学力の向上と人権感覚の育成とが合わせて追求されている。
 それは、一人一人の個性やニーズに応じた基礎学力を獲得するためには、学校・学級の中で、現実に一人一人の存在や思いが大切にされるという状況が成立していなければならないからである。
 ここでは、人権感覚の育成は、児童生徒の自主性や社会性などの人格的な発達を促進するばかりでなく、学校の役割の大事な部分を占める学力形成においても成果を挙げていると指摘されている。

2.学校としての組織的な取組とその点検・評価
 各学校においては、校長のリーダーシップの下、教職員が一体となって人権教育に取り組む体制を整え、人権教育の目標設定、指導計画の作成や教材の選定・開発などの取組を組織的・継続的に行うことが肝要である。また、こうした人権教育の取組については、学校教育活動全体の評価の中で自ら点検・評価を行い、その結果を基に学校が主体的にその取組の不断の見直しを行うと共に、保護者や地域の人々に積極的に情報を提供するよう努めることが求められる。
 その際、学校評議員制度を活用する、保護者等の意見を聞く機会を設けるなどの工夫も考えられる。

(1)学校としての人権教育の目標設定
 学校として人権教育の目標を設定するに当たっては、様々な人権問題の解決に資する教育の大切さと共に、「人権が尊重される社会の実現」という未来志向的、建設的な学習目標の設定に留意することが重要である。
 また、「自分の大切さと共に他の人の大切さを認める」ことを意味する「人権感覚」の育成が、現在の人権教育の基本的な目標であることと合わせて共通理解を図ることが必要である。
 さらに、人権感覚を育成するに当たっては、自尊感情を培うことはもとより、共感能力や想像力、人間関係調整力を育むことが求められており、それらを踏まえると共に、これまで学校の中で取り組んできたことや児童生徒及び地域の実情等も踏まえ、自校の具体的目標を設定することが大切である。

(2)校内推進体制の確立と充実
 組織的な取組を推進するに当たっては、校内推進体制の確立と共に、その効果的・効率的な役割の充実を図ることが求められる。
ア:人権教育を推進する体制の確立
 児童生徒の意識・意欲・態度・表現力等を培い、人権感覚の育成という学習目標の具体化を一層図る観点からも、教職員の人権問題及び人権教育に関する研修に関する企画立案、人権教育の年間指導計画の策定や毎年の実践の点検・評価のとりまとめ等の役割を果たす体制の確立は、人権教育の推進にとってきわめて重要である。したがって、校長のリーダーシップのもと、人権教育担当者、学年主任をはじめ、進路指導部、生徒指導部、総合学習研究部等、関連研究部担当者が必要に応じて随時参加する機能的な構成が求められる。

イ:人権教育担当者の役割
 人権教育に関する企画立案、人権教育に関する研究部の統括及び学校運営全体との調整又は人権教育の推進に関するコーディネート等、学校全体の指導的役割を果たす人権教育担当者は、校内推進体制の要として重要である。また、人権侵害が生じた場合の迅速な対応や相談活動を行うことも大切である。
【参考例】「校内組織図」(省略)

(3)人権教育の全体計画・年間指導計画の策定
ア:人権教育の全体計画・年間指導計画策定の観点
 人権教育の組織的な取組に当たっては、校内推進組織の確立と共に人権教育の全体計画及び各学年指導計画の策定が必要であり、計画策定に当たっては、指導計画の観点を明確にすることが重要である。

【参考例】「人権教育の全体計画・年間指導計画の観点目標」:
○重点目標(全体計画)
○実践的課題
 ・人権教育における各学年の課題と年間指導計画
 ・人権教材や地域等外部人材の活用
 ・コミュニケーションや共感力等の育成(豊かな人間関係づくり)等
○教職員の人権認識を高める取組
○地域・保護者及び校種間連携及び校内研究推進組織の概要

イ:人権教育の全体計画・年間指導計画の策定
 人権教育の全体計画・年間指導計画の策定に当たっては、管理職及び人権教育担当者による全体計画案の作成と運営委員会への提示を出発に、人権教育に関する研究部による具体的な実践的課題の設定、各学年による年間指導計画の作成と研究部によるとりまとめ、職員会議への提示による全教職員の共通理解等、組織的かつ機能的な学校としての対応が求められる。また、このような対応を通して、全教職員の人権教育の推進に対する参画意識を培うことが望ましい。

【参考】「全体計画作成に当たって考えられること」
 学校や地域の特色を生かした取組、ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動の充実や様々な人との交流活動の在り方を示したり、校種、学校や地域の実態等を踏まえた指導目標との関係を明確にしたりする。
 その際、小学校の重点として、体験・交流活動を通して、児童が自分で「ふれる」「気付く」こと、中学校では、他者に「気付く」ことを確かな認識に「深める」こと、高等学校では、自分自身の生き方と関連させ、解決に向け地域社会に「発信する」「行動する」ことを重点にした目標が望ましい。

【参考例】「全体計画・充実のポイント(小学校版)」
※ 次の項目について、自校の全体計画を見直してみましょう!
□ 人権教育の意義やねらいを全教職員が共通理解し、作成に当たっている。
□ 児童の実態、家庭・地域及び教職員の願いを実態調査等から把握している。
□ 社会の課題や要請、関連法規、教育行政施策等を踏まえている。
□ 学校教育目標を達成するための人権教育目標が設定されている。
□ 児童の発達段階に即した関係学年別目標が設定され、目指す児童の姿が具体的に示されている。
□ 目標達成のため、各教科等においては、その特性に応じて、人権教育との関わりを考慮した方針及び特色ある教育活動の計画等が示されている。
□ 人権に関する重要課題への取組が、学校や地域の実情に応じたものとして示されている。
□ 家庭・地域及び関係機関(社会教育機関、人権擁護機関等)との連携について、具体的な内容・方法等が示されている。
□ 各目標などにおいて、肯定的な表現で記されている。
□ 年度ごとに、全体計画の見直しを行っている。

【参考】「年間指導計画作成に当たって考えられること」
 身近な人権問題を扱ったり、ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動、様々な人達との交流活動を積極的に取り入れたりする。そのことで、児童生徒が自ら課題に気付き、人権問題に直面した時に「おかしい」と直感したり、相手の心の痛みを自分の痛みとして感じたりすることができるように、人権教育の視点から教育活動を工夫する。

【参考例】「年間指導計画・充実のポイント(中学校版)」
※ 次の8項目を踏まえ、自校の年間指導計画の充実に努めましょう!
1 小学校段階の学習を踏まえ、3年間で育てたい資質・能力を見据え、系統的な計画とする。その際、各人権重要課題の項目と共に人権週間などの具体的な取組も位置付ける。
2 全体計画に記述されている各教科等の指導のねらいを受け、「人権教育との関わり」から洗い出す観点(例:「確かな学力」、「基本的な生活習慣」、「自尊感情」、「自己表現力」、「コミュニケーション能力」など)を明らかにし、指導内容・方法等を明記する。
3 [自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]ができるような生徒の育成のため、次のような力や技能を総合的に培うことができるように関連のある教育活動を洗い出す。
○他の人の立場に立ってその人に必要なことやその人の考えや気持ちなどが分かるような想像力や共感的に理解する力
○考えや気持ちを適切かつ豊かに表現し、また、的確に理解することができるような、伝え合い分かり合うためのコミュニケーションの能力やそのための技能
○自分の要求を一方的に主張するのではなく建設的な手法により他の人との人間関係を調整する能力及び自他の要求を共に満たせる解決方法を見いだしてそれを実現させる能力やそのための技能
4 各教科では、学習内容や指導方法等から人権教育の目標と結びつく教育活動を洗い出す。その際、人権に関する直接的な学習内容を含む単元等、また、法の下の平等や個人の尊重、生命尊重に関する学習内容を含む単元等を設定する。
5 道徳の時間では、自己を見つめ、道徳的価値を内面的に自覚し、主体的に道徳的実践力を身に付けていくことが大切である。そのため、内容項目として、生命尊重、公正・公平等人間尊重の精神と関わりの深い項目を設定する。
6 特別活動では、望ましい集団活動を通して、よりよい生活を築いていこうとする自主的、実践的な態度を育てることが大切である。そのため、学級活動では、生活上の諸問題の解決や望ましい人間関係の育成に重点を置く。また、生徒会活動、学校行事においても、学校生活の充実と発展に寄与する体験的な活動を設定する。
7 総合的な学習の時間では、時間のねらいを踏まえ、横断的・総合的な課題、生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、人権教育との関連から学習活動を設定する。
8 年度ごとに、指導計画の見直しを行う。

(4)学校としての取組の点検・評価
ア:教職員の点検・評価
 取組の点検・評価については、学校として組織的に学期や年度ごとに行うことが求められる。また、年間指導計画に沿って、点検を行い、次年度の学習指導や年間指導計画の改善を図ることが必要である。

【参考例】「点検の視点や項目の例」
○『点検の視点』
 @学校・学年として継続性の確保
 A年度ごとの新しい(特色ある)取組
 B管理職、人権教育担当者−研究部−学年の有機的な連携
 C保護者、地域への説明責任
○『点検の項目』
 @人権教育の目標(課題)
 A各学年の取組
 ・子どもの実態
 ・学習のねらい
 ・学期ごとの取組概要(教材の活用、体験的な学習、地域の人材活用等)
 ・地域、保護者や校種間の連携・協働
 B児童生徒の主体的な評価活動
 Cコミュニケーション能力や他者への共感力を培う取組

 また、授業評価も教員相互で積極的に行うと共に、授業参観時での保護者にアンケートを求めることも説明責任という観点から大切である。さらに、一年間の取組後、教職員のアンケートを行うことも考えられる。

イ:児童生徒による評価
 児童生徒が自らの学習について評価することは、人権教育に対する意欲・関心、達成感の状況を把握する上にとっても、また、学習の在り方を検証し、今後の指導方法等の工夫改善に生かすことにも不可欠の取組である。また、学習の状況、取組の節目ごとに児童生徒の評価活動を行うと共に、その評価を学級で共有することにより、児童生徒間相互の共通認識を図ることも必要である。さらに、一年間の取組後、児童生徒のアンケートを行うことも考えられる。

ウ:保護者等による評価
 保護者等による評価を行うに当たっては、アンケート調査を実施し、その結果を保護者等に公表すると共に、学校運営協議会や学校評議員制度を活用し、保護者等の評価を基に意見交換や提言等を得ることも考えられる。また、積極的に授業参観等を行い、授業後に懇談会を開く中で学校・学年・学級の取組の報告や保護者からの感想や意見を求めることも大切である。さらに、一年間の取組後、保護者アンケートを行うことも考えられる。

3.家庭・地域との連携及び校種間の連携
 人権教育の効果を高めるためには、家庭・学校・地域が共に児童生徒を育てていくという視点に立ち、学校は「開かれた学校づくり」を進め、家庭・地域との連携を推進することが求められる。
 その際、学校からの明確なメッセージ、及び地域の多様な人々の参加とそれを可能とする日常的かつ多様な参加方法に留意し、家庭・地域の力を発揮できるようにする工夫が必要である。
 なお、連携に当たっては、家庭や地域の人々が人権尊重の理念について十分に認識していることが大切である。そのため、例えば、「児童生徒による取組が身近な大人の人権啓発にも資するような工夫を行う」、「学校の取組を保護者等に積極的に公表する」、又は「児童生徒と保護者が一緒になって活動に取り組む」などの工夫も効果的である。
 さらに、人権教育を効果的に推進するため、各学校段階ごとの取組だけでなく、保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校などの一層の連携に努めることが求められる。例えば、「児童生徒の発達段階に配慮したカリキュラムを共同で研究する」、「校種を越えて授業研究を行う」などの取組を通じて、系統的・継続的な人権教育の実践に努めることが望まれる。

(1)連携の必要性
 人権教育は、人権尊重の考え方やその根拠となる憲法をはじめとした国内法等を学び、一人一人を尊重する社会の発展に寄与することが求められる。また、人権教育で身に付けたいのは、人権侵害を受けた人の心身の痛みを受けとめ、適切に改善、解決しようとする強い意志であり、改善と解決のための具体的な方法と行動を選択し実行しようとする資質や能力である。そのためには、家庭や地域社会と適切かつ積極的に連携し、人権尊重の感覚豊かな地域社会を形成する営みと歩調を合わせながら取り組むことが適切である。

【参考】「家庭や地域社会との連携を考える際の留意点」
 今日の社会は、多様な立場や思想、生活様式を共存させ、人権と自由とを十分に保障することが期待される社会であるため、家庭や地域社会と連携を考える際にも、@各学校における人権教育推進計画の目標とするところを踏まえ、これとの整合性を損なわないように注意すること〔人権教育推進計画の適合性〕、A「命の尊さ」を大切に考える姿勢を堅持すること〔人命尊重の視点の重視〕、B政治的に中立の姿勢をとるものであること〔政治的中立性の確保〕が求められる。

(2)家庭や地域との連携
 児童生徒の生活は、学校における生活と共に家庭や地域社会において営まれている。たとえ学校で人権の重要性について学習することができたとしても、児童生徒が生活の基盤をおく家庭や地域において、学校における学習の成果を肯定的に受けとめる環境が十分に整っていなければ、人権教育の成果が、知的理解を超えて人権感覚へと結びつくことは、容易ではない。人権感覚の育成には、学校での人権学習を肯定的に受容するような家庭や地域の基盤作りが大切であり、保護者等のエンパワメントを促進することが求められる。
 また、そのためには、保護者と教職員が連携して進めるPTAにおける人権教育の推進が必要である。
 学校における人権教育を家庭で肯定的に理解してもらい、家庭や地域社会の協力や支援、連携を得るためには、以下のような意識的な取組が必要である。

【参考】「家庭や地域社会の協力等を得るための意識的な取組」
1:人権教育の指導計画、学習の過程、学習終了後等の段階で、児童生徒だけでなく、家庭に対して人権教育や人権意識に関しての意識や意向を調査し、常に家庭や地域社会の意向を踏まえ、反映させながら取り組むこと
2:学校や行政機関による適切な連携のための協議を踏まえ、授業等において、保護者や地域の人材を活用したり、保護者参加型の授業を工夫すること。
3:授業参観等の機会をとらえて人権に関する主題を取り上げたり、学年、学級懇談会等を人権教育に関わる内容で開催すること。
4:人権教育の取組の様子や成果を、学校便り等を通して普段から保護者や地域社会の住民に伝え、学校の取り組みへの理解を広めると共に、そのことを通して、人権を尊重しようとする意識を家庭や地域社会にも浸透させ、地域社会における人権感覚豊かな人間関係の形成を推進すること。
5:家庭訪問などによって、児童生徒の家庭や地域での生活実態と生活実感を把握しておくこと(なお、その際はプライバシー等に配慮することが必要である)。
6:地域の教育力と学校教育のネットワークを組んで「人権フェスタ」等の取組を行うなど、それぞれの立場で一人一人の子どもを見つめ育成する取組を推進すること。などが不可欠である。

(3)関係諸機関との連携・協力
 学校の内外を通じての多様な学習活動では、学校外の諸施設、機関等の協力を得ることが必要である。
 人権教育・啓発に関する基本計画では、既に整備されている「人権教育・啓発に関する中央省庁連絡協議会」(平成12年9月25日,関係府省庁の事務次官等申合せにより設置)及び地方における「人権啓発活動ネットワーク協議会」等の活用に加えて、新たな連携の構築として、@「幼稚園,小・中・高等学校などの学校教育機関及び公民館などの社会教育機関と,法務局・地方法務局,人権擁護委員などの人権擁護機関との間における連携の構築」や、A「教育・啓発の中立性」に配慮しつつ、「各人権課題ごとに,関係する様々な機関」との「一層緊密な連携」をすることや、B「公益法人や民間のボランティア団体,企業等」との「連携の可能性やその範囲について検討していくべきである。」ことなどが提言されている。

ア:外部講師の招聘
 児童相談所、法務局・地方法務局、警察、法曹関係者等、実際に人権侵害の個々の事例への対応に携わる公的機関の専門家、また、様々な人権課題の解決に努力する人を、授業や教員研修、講演会等に招いて講話を聞く取り組みや、障害者施設や高齢者施設などを直接訪問して交流したりボランティア体験をするなど、多様な体験的活動を取り入れた学習活動は、人権感覚の育成に効果を挙げている。
 人権を守り人権尊重の社会を支える活動をする専門家の存在を知り、直接その人と出会うことは、児童生徒にとって人権感覚を培うことの契機となる。また、そのように人権尊重の姿勢を持って誠実に職責を果たす人々の存在を知り、そのような人々と直接に触れ合うことは、将来設計やキャリア形成の側面からも、積極的な役割を果たすものと思われる。

【事例紹介】「高齢者施設等での交流体験」
 高齢者施設や身障者施設等への訪問・交流・ボランティア体験などを通じて、児童生徒が直接に体験し、人を助ける仕事を実際に担い、人の役に立つ体験をすることで、相手の立場を理解し、思いやり、温かく受けとめようとする気持ちを体感的に受容し、ひいては、このような姿勢や行為に対する肯定的評価と意欲とを喚起し、すぐれた人権感覚を育む契機となる。
 施設を訪問する前後に、関係機関の協力を得て、車椅子体験などの体験的な学習をしたり、また、点字学習、手話の学習を行ったりして、訪問や交流による学習成果を挙げた事例もある。
 様々な人々との交流などの体験活動は、児童生徒に、相手の立場を考えて行動する気持ちを育て、人から感謝をされることによる自己肯定感を得ることから、これらが、人権尊重社会の形成に寄与しようとする実践的態度の育成につながりうる。

イ:大学や関係機関との連携・協力
 大学や行政等と連携し、スキル学習に関する指導講師を依頼し、教員研修会を実施したり、生徒の人権意識についての調査や分析を大学の協力を得ている事例がある。このような取組は人権教育にとどまらず、教員の資質向上に大きな効果を挙げるものである。
 また、参加体験型学習に取り組む際には、それぞれの内容、方法に精通する専門家の協力を得て、校内研修等においての研修の機会を設定することが望ましい。
 このため、例えば、教育系の大学・学部の関係する大学教員等、非営利法人など市民団体との連携も期待される。適切な連携協議の場にこのような機関からの参加を得て、普段からの連携・協力体制を整えておくことが期待される。また、大学教員等においても、積極的にこのような連携や協力の要請に応える体制を整えておくことが求められる。

 以上のように、人権教育における家庭や地域社会、関係諸機関等との交流や連携の推進は、学校における人権尊重の理論と方法で地域社会を啓発することのみを目的として行うものではない。
 人権教育の課題は、本来、学校、家庭、地域社会に具体的に見られ、しかも普遍性を持つ。それだけに、社会的な理解と支援のもとで学習が行われることによって、人権を尊重するために働く地域の人と直接に触れる機会を得て、その人々の期待を実感することができる。そして、そのような実感を通して児童生徒が自ら有用な存在であることを自覚し、人権感覚を育成させてゆくことへの自発的な意欲を一層促すことが期待できるのである。

【参考例】「関係機関との連携の例」 推進の活動名 形態・内容
1福祉体験
 県の社会福祉協議会やボランティア団体、地域の福祉施設の協力を得て講演会・模擬福祉体験等を行う。
2ボランティア活動
 夏季・冬季休業期間等を利用して、福祉施設でのふれあい弁当作りの手伝い、幼稚園でのお泊り保育の手伝い、駅周辺クリーンアップ作戦などの活動を行う。
3生き方に触れる会
 ふるさと先生講演会、命の大切さ、人の権利などをテーマに地域の有識者や助産師、大学教員などから話を聞く。保護者や地域にも呼びかけ、講演を聞いた感想の発表会を開く。
4地域とつながる学校
 地域の人々に参加していただく学校公開、一日校長、専門家授業(和楽器、陶芸など)を行う。教職員が地域行事に参加する(夏祭り、地域運動会など)。

(4)保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の間の協力と連携
 児童生徒は、保育所、幼稚園から、小学校、中学校、高等学校へと学習の場を移しながら成長する。したがって、そのような学習者の成長過程全体を対象とした人権教育を想定し、年齢段階、学年段階での、発達段階に適した学習活動を計画することが必要であり、そのためには、各学校種間における学習計画に関する調整や相互協力、相互研修を目的とした連携が必要となる。例えば、保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校間での定期的な連携協議会の開催や、合同の相互授業参観、教員研修等を行うことが望ましい。
 また、例えば、「児童生徒の発達段階に配慮したカリキュラムを研究する」、「校種を越えて授業研究を行う」などの取組を通じて、系統的・継続的な人権教育の実践に努めたり、校内研究会や授業研究など教員間の交流を進める体制を整えておくことが望ましい。
 義務教育である小学校、中学校における交流と連携が重要であることは言うまでもないが、人権感覚の育成が日常生活の具体的行動・行為に求められることを考えれば、児童虐待等、子育てに関わる問題など、保育所や幼稚園における段階の人権教育も重要な役割を持っており、保育所、幼稚園又は養護学校等との連携が必要である。

【参考例】「保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校間の連携の例」 校種間 具体的な活動例
保育所や幼稚園と小学校の連携
 2年生の町探検の学習で、保育所や幼稚園を訪問して一緒に遊ぶ。また、小学校の「手作りおもちゃで遊ぶ集会」に園児を招待して遊びを教える。小学校の先生が鉛筆の持ち方や勉強の仕方などについての出前授業を実施する。
小学校と中学校の連携
 近接通学の児童生徒が「通学合宿」を行う。異年齢の子どもたちが寝食を共にしながら、2泊3日の合宿を実施する。市内の高校生や社会人もサポーターとして参加する。中学入学の不安をなくし、中学への期待感を持たせるため、中学校の先生が小学校で出前授業を実施する。
幼稚園と中学校の連携
 中学校の技術・家庭科での保育実習の授業で、園児が関わりを持つ。幼児との出会い、中学生との出会いの体験、遊びの体験を実践する。
小学校と高等学校の連携
 小学生と高校生が一緒になって、地域の清掃活動を行い、互いに協力し合った感想等を発表し合う交流会を行う。

 人権教育の目的を踏まえた交流の推進が図られることによって、児童生徒の互いを思いやる感受性や社会性を伸ばし、人権尊重の精神を育てることは意義深いことである。その際、相互交流の実施に当たり、訪問と交流を計画する学校の教員が訪問・交流先となる他校種の教職員から、児童生徒の交流や体験的活動の在り方等について事前に助言や指導を得ておくことは、よりきめ細かな学習を実施するための支援となる。

(5)連携を推進する行政による支援体制の整備
 学校と家庭、地域社会、諸施設、関係諸機関と協力、連携し、校種間の連携を進め、専門的知識の習得や体験的学習、いわゆる参加体験型学習を実施し、児童生徒の人権教育を、効果的かつ適切に推進するためには、自治体や教育委員会が、「人権教育及び啓発の推進に関する法律」の趣旨に基づき、学校と教員を支援するための体制を整備することが不可欠である。
 子どもの成長過程をみると、とりわけ中学校区の範囲とするところにおいて、既に児童生徒と保護者間のつながりと連携が存在し、実際に、PTAや町内会、自治会等は、中学校区をもとに形成されていることが少なくない。比較的人口規模の大きな地域においても、複数の中学校区の間で連携調整のための協議会が機能し、年間行事の連携が行われ、生徒指導や身近な問題も、中学校区の問題として取り組まれる場合が少なくない。このように、学校と家庭、地域との連携、学校間の連携は、中学校区を基本的な単位として取り組まれることも、一つの方法として考慮することが適当である。
 さらに、各中学校区を広く管轄する市町村教育委員会は、このような中学校区を単位とする連携を支援する体制を、都道府県教育委員会においては、指導者の育成や研修などを総合的に推進する体制が整備されていくことが望まれる。

【事例紹介】「中学校区を単位とする連携の例」
 中学校区校種間や学校、家庭、地域社会が連携して人権教育を推進する体制を管轄地域全体に整備し、連携の実施方法、各学校における人権教育推進の核となる人材の育成を図る指導者養成研修、授業実践サポート講座の開催などについて、ホームページ上で広く提供し、人権学習プログラムや学習教材の作成、優れた学校の取り組みなど閲覧保存できるようにしている自治体、教育委員会がある。
 また、中学校区に教育コミュニティづくりを目的とし、地域の教育力を再興し、地域の健全な教育力の支援を得て、子どもの育成を支援することを目的として、小・中学校、高等学校、大学、幼稚園、保育所、PTA、自治会、青少年育成団体、子育てグループ、NPOなど多様な機関や団体による「地域教育協議会」を設置し、「児童生徒の荒れ」「子育て」「障害者への配慮」など人権意識の向上など、様々な活動を地域社会と連携して取り組む自治体もみられる。

第2節 人権教育の内容及び指導方法等

 人権教育の指導の改善・充実という課題に直接的・具体的に関わるのが、人権教育の内容及び指導方法等の問題である。この点に関し、〔第一次とりまとめ〕では、自主性の尊重や体験的な活動を取り入れるなどの指導方法の工夫、児童生徒の発達段階や実態に即した内容・方法、効果的な学習教材の選定・開発、教育の中立性の確保などを留意事項として指摘した。
 本節では、1.人権教育の内容構成 2.人権感覚を育成する指導方法に関わる工夫・改善について検討した。その際に、特に人権感覚の育成、児童生徒の自主性・主体性の尊重、発達段階や実態への着目、並びに体験的な学習の活用等の視点に焦点を合わせた。

1.人権教育の内容構成
(1)人権教育を通じて育てたい資質・能力
 人権教育は自他の人権の実現と擁護のために必要な資質や能力を育成し、発展させることを目指す総合的な教育である。その際に培われる資質や能力は、@知識的側面、A価値的・態度的側面、並びにB技能的側面から構成される。このうちのA価値的・態度的側面及びB技能的側面が人権感覚に深く関わるものである。

@知識的側面
 人権教育により身に付けるべき知識は、自他の人権を尊重したり人権問題を解決したりする上で具体的に役立つ知識でなければならない。例えば、発達段階を踏まえた上で、個人の尊厳や人権尊重の意義、人権の歴史や現状、国内法や国際法等々に関する知識、自他の人権を擁護し人権侵害を予防したり解決したりするために必要な実践的知識等も含まれることが望まれる。このように多面的、具体的かつ実践的であるところにその特徴がある。

A価値的・態度的側面
 人権教育が育成を目指す価値や態度には、個人の尊厳をはじめ、自他の人権を尊重することの意義や必要性に対する肯定的な評価と受容、責任感や共感性・連帯性、人権擁護の実現を目指す意欲や態度などが含まれる。人権に関する知識や人権擁護に必要な諸技能を人権実現のための実践行動に結びつけるためには、このような価値や態度の側面の育成が不可欠である。この価値・態度的側面の内容は具体的、多面的であり、それぞれの価値や態度が助長される時に、人権感覚が豊かになりうるのである。

B技能的側面
 人権の本質やその重要性を客観的な知識として知るだけでは、必ずしも人権擁護の実践に十分であるとは言えない。人権に関わる事柄を認知的に捉えるだけではなく、その内容を直感的に感受し、共感的に受けとめ、それを内面化することが求められる。そのような受容や内面化のためには、様々な技能の助けが必要である。人権教育が育成を目指す技能には、知的諸技能と社会的諸技能などが含まれる。前者の例としては、コミュニケーション技能、合理的・分析的に思考する技能、偏見や差別を見きわめる技能などが挙げられる。また後者の例としては、相違を認めて受容する技能、協力的、建設的に問題解決に取り組む技能、責任を負う技能などが含まれる。こうした諸技能が人権感覚を構成する。

(2)指導内容の構成
 人権教育が目指す諸能力を以上のように総体的かつ構造的にとらえた上で、指導内容を構成することが必要である。これらの諸側面を学校全体における系統的な指導内容として総合的に位置づけることが望ましいのは言うまでもない。しかし、学校教育の諸領域にはそれぞれ独自の目標や課題があり、人権教育をいかにして総合的に位置づけ、実践するかについては、様々な工夫や検討が求められる。したがって、全体構造を意識しつつ、総合的な指導内容の構成を目指すと共に、それぞれの側面の促進に焦点を当てた個別的、具体的な指導内容を構成し、実施することが必要かつ有効である。
 そこで、各教科、特別活動等の諸領域で実践できる幾つかの指導内容の構成事例を参考として提示しておきたい。
 なお、指導に当たっては、各教科、領域等の目標やねらいを第一義的に達成させることは言うまでもないことである。

ア:知識的側面に焦点を当てた指導内容の構成
 知識的側面の育成についても、各教科をはじめ、あらゆる教育活動の場において従来以上に積極的に取り組むことが求められる。
 これまで、人権教育の知識的側面は、社会科等を中心に扱われる場合が多かった。様々な人権意識に関する調査等の結果からは、人権に関する客観的・科学的知識をある程度習得している人についても、その知識が社会や個人の生活変容に資する生きた知識として内面化され、主体化されていない傾向もうかがえる。したがって、人権教育を充実させる観点から、知識的側面の育成を取り立てたかたちで、あらゆる可能な場と機会を活用して学習に組み込む努力が求められる。その際に、特に人権擁護に実際に役立つような実践的知識をも組み込むことに留意したい。なお、知識的側面を扱う際にも、その指導方法は必ずしも教材を読んだり、講話したりする方式である必要はない。むしろ、児童生徒の自己活動的、主体的関与を促すような、体験的な方法を工夫することが望ましい。

【参考例】「知的側面に焦点を当てた指導内容の構成の例」
@社会科等の授業で、人権に関わる題材を扱う際に、児童生徒が自分自身に直接関わる問題を提示し、合理的・分析的な思考を行い、人権に関わる知識の内容を知的及び共感的に理解し、内面化することを促すような幅広い内容構成と、柔軟で弾力的な指導方法との工夫が求められる。単なる知識の伝達に終わらないように、資料や情報の自主的探求や討議を取り入れた授業の展開なども有効である。
A総合的な学習の時間、特別活動(特に学級活動やホームルーム活動)及びその他のあらゆる学習の機会を活用して、法教育の観点からも世界人権宣言や児童の権利に関する条約等の人権関連の条約等を教材として使用することも有効な試みである。むろん、文書の一部分であっても差し支えない。例えば、そこに書かれている条文の中で、発達段階や児童生徒の実態に照らして適切なものがあれば、それを適宜取り上げる。まず本文の内容を学習した上で、それをテーマとして話し合ったり、必要な情報を新たに探求したりして、知識の広がりと理解の深化を目指す学習を進める。また、自分や身近な人の権利や自由が侵害された場合に、どこの誰に相談し、あるいはどこに訴えれば救済につながるのか、等々に関する実践的で具体的な事柄についても、発達段階を踏まえて学習内容に組み入れる。
B外国語の時間に、例えば世界人権宣言や児童の権利条約等の日常英語版テキスト等を教材として活用する。語学的な能力の育成と同時に、実際生活で将来必要となるような人権に関する生きた知識の修得や内的価値の促進に結びつける。

イ:人権感覚の育成に焦点を当てた指導内容の構成
 人権感覚を育成するには、「価値・態度的側面」や「技能的側面」に属する諸要素としての価値や態度、並びに諸技能を意識的に身に付けさせることが重要である。しかし、いきなり整合的な全体計画の中でこれらを一挙に育成することは容易ではない。そこで、全体構造を意識しつつも、諸要素の中から幾つかを個別的に順次取り上げて、様々な場面や機会を生かして促進を図る取組が必要となる。
 その際に、特に第章3に挙げた諸技能について取り上げて、それぞれの育成に取り組むことが重要である。

【参考例】「人権感覚の育成に焦点を当てた指導内容構成の例」
@国語、社会、外国語等の学習内容と関連づけて、それぞれの授業時間の中に人権の実現に関わる想像力、共感性、感受性、コミュニケーション技能などの育成を図る活動を可能な限り取り入れる。
Aまた、特別活動、総合的な学習の時間等、あらゆる機会をとらえて上記の諸技能を育成する。なお、この種の技能の育成には、直接体験を生かすことが重要である。その他にも、ロールプレイング、シミュレーション、ディスカッション等々のいわゆる体験的な手法を用いることが不可欠なので、そのような能動的手法についての知識や経験を深めることも大切である。

ウ:総合的な指導内容の構成
 上記のア及びイのような個別的、具体的指導内容の他に総合的な学習プログラムを構成することも大切である。


【参考】「総合的な学習のためのプログラム」
1 次の一連の学習により、児童生徒は自己の価値に関する認識から出発して、様々な人権課題の認識、社会的背景の考察、諸人権課題共通の概念習得を経て、人権実現のための具体的行動力の獲得に到達するまで、自然な流れの中で、諸要素を総合的に身 に付けることが期待される。
 @自分が生きている価値の実感(自己についての肯定的態度)
 Aお互いの間にある違いの自覚と尊重
 B人権侵害の歴史的・社会的背景と当事者の生き方の学習
 C様々な人権課題の解決に共通して必要な概念や枠組みに関する学習(自尊感情・自己開示・偏見・悪循環・平等観・特権など)
 D具体的な場面での行動力の育成
 E人権が尊重される社会づくりにつながるような行動力の育成
2 上記の要素のどれが重視されるかは、児童生徒の発達段階や実態によって異なる。
 例えば、小学校低学年では@Aなどが重視され、学年が高くなるにつれてBCなどに重点が移り、小学校高学年や中学校、高等学校ではDEなどが重要な位置を占めるようになる。
3 さらに、同一学年内における学習の進行においても、時期によって重点の置き方は異なる。
 例えば、年度当初は@Aなどが重視され、その成果を土台に継続的・恒常的学習が継続されつつ、BCなどが児童生徒の状況に応じて組み込まれる。そしてDEなどの具体的行動力の学習へと進む、というような構成が望ましい。
 以上のように順次性への着目が求められるが、場合によっては改めての側面を強調する学習が必要となる。

【参考例】「各教科等における指導内容の例」
(※「」内は幼稚園教育要領及び学習指導要領の抜粋。また、以下は例示であり、前述のとおり人権教育は学校の教育活動全体を通じて推進されるものである。)
<幼稚園教育要領>
【人間関係】…「友達と積極的に関わりながら喜びや悲しみを共感し合う。」、「自分の思ったことを相手に伝え、相手の思っていることに気付く。」、「友達のよさに気付き、一緒に活動する楽しさを味わう。」、「友達との関わりを深め、思いやりをもつ。」

<学習指導要領>
(総則)
【小学校・総則】…「日頃から学級経営の充実を図り、教師と児童の信頼関係及び児童相互の好ましい人間関係を育てると共に児童理解を深め、生徒指導の充実を図ること。」
【中学校・総則】…「教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てると共に生徒理解を深め、生徒が自主的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう、生徒指導の充実を図ること。」
【高等学校・総則】…「人権を尊重し差別のないよりよい社会を実現しようとする態度を養うための指導が適切に行われるよう配慮しなければならない。」、「教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てると共に生徒理解を深め、生徒が主体的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう生徒指導の充実を図ること。」

(社会、地理歴史、公民)
【小学校・社会】…「現在の我が国の民主政治は日本国憲法の基本的な考え方に基づいていることを考えるようにする。」
【中学校・社会(公民的分野)】…「人間の尊重についての考え方を、基本的人権を中心に深めさせる。」、「日本国憲法が基本的人権の尊重、国民主権及び平和主義を基本的原則としていることについての理解を深めさせる。」
【高等学校・公民(現代社会)】…「基本的人権の保障(中略)について理解を深めさせ、日本国憲法の基本的原則について国民生活との関わから認識を深めさせる。」、「生命の尊重、自由・権利と責任・義務、人間の尊厳と平等、法と規範などについて考えさせ、民主社会において自ら生きる倫理について自覚を深めさせる。」
【高等学校・公民(倫理)】…「人間の尊厳と生命への畏敬(中略)などについて、倫理的な見方や考え方を身に付けさせ、他者と共に生きる自己の生き方に関わる課題として考えを深めさせる。」
【高等学校・政治・経済】…「現代の日本の政治及び国際政治の動向について関心を高め,基本的人権と議会制民主主義を尊重し擁護することの意義を理解させると共に,民主政治の本質について探究させ,政治についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。」

(道徳)
【小学校】…「生命がかけがえのないものであることを知り、自他の生命を尊重する。」、「公徳心を持って法やきまりを守り、自他の権利を大切にし進んで義務を果たす。」、「誰に対しても差別をすることや偏見を持つことなく公正、公平にし、正義の実現に努める。」
【中学校】…「生命の尊さを理解し、かけがえのない自他の生命を尊重する。」、「法やきまりの意義を理解し、遵守すると共に、自他の権利を重んじ義務を確実に果たして、社会の秩序と規律を高めるように努める。」、「正義を重んじ、誰に対しても公正、公平にし、差別や偏見のない社会の実現に努める。」

(特別活動)
【小学校】…学級活動における「学級や学校における生活上の諸問題の解決」や「希望や目標を持って生きる態度の形成」、「望ましい人間関係の育成」、児童会活動における「学校生活の充実と向上のために諸問題を話し合い、協力してその解決を図る活動を行うこと。」
【中学校】…学級活動における「学級や学校における生活上の諸問題の解決」、「自己及び他者の個性の理解と尊重、社会の一員としての自覚と責任」、「望ましい人間関係の確立」
【高等学校】…ホームルーム活動における「ホームルームや学校における生活上の諸問題の解決」、「自己及び他者の個性の理解と尊重、社会生活における役割の自覚と自己責任、男女相互の理解と協力、コミュニケーション能力の育成と人間関係の確立」

(3)教育の中立性の確保
 学習プログラムや具体的な授業計画を組むに当たっては、教育の中立性の確保に十分注意を払うべきである。つまり、学校教育における教育活動と特定の立場に立つ政治運動・社会運動とを明確に区別し、学校は公教育を担うものとして主体性を持って人権教育に取り組み、特定の主義主張に偏ることなく、教育の中立性を確保することが求められる。

(4)個人情報やプライバシーに関することへの配慮
 地域社会における体験活動においては、様々な個人情報と否応なく接する機会が多い。
 個人情報保護法の精神と内容を十分に踏まえ、事前に担当者同士で、個人のプライバシーや個人情報に関する考え方を確認し、その原則を侵すことのないように配慮することが必要である。特に、このような地域社会における体験活動に児童生徒が積極的に関わろうとすればするほど、個人情報に接する度合いが増し、それだけ慎重な取り扱いが要求されるようになることを認識しておきたい。
 そのため、各関係者間の信頼関係を作る中で、本人及び保護者からの同意を得た上で、取組を進めていくことが重要である。

【参考】「プライバシー保護と個人データ流通についての原則(OECD理事会勧告(1980年9月)より)」
1.収集制限の原則
 個人データの収集には制限を設けるべきであり、いかなる個人データも、適法かつ公正な手段によって、かつ適当な場合には、データ主体に知らしめ又は同意を得た上で、収集されるべきである。
2.データ内容の原則
 個人データは、その利用目的に沿ったものであるべきであり、かつ利用目的に必要な範囲内で正確、完全であり最新なものに保たれなければならない。
3.目的明確化の原則
 個人データの収集目的は、収集時よりも遅くない時点において明確化されなければならず、その後のデータの利用は、当該収集目的の達成又は当該収集目的に矛盾しないでかつ、目的の変更ごとに明確化された他の目的の達成に限定されるべきである。
4.利用制限の原則
 個人データは、第9条により明確化された目的以外の目的のために開示利用その他の使用に供されるべきではないが、次の場合はこの限りではない。
 (a)データ主体の同意がある場合、又は、
 (b)法律の規定による場合
5.安全保護の原則
 個人データは、その紛失もしくは不当なアクセス、破壊、使用、修正、開示等の危険に対し、合理的な安全保護措置により保護されなければならない。
6.公開の原則
 個人データに関わる開発、運用及び政策については、一般的な公開の政策が取られなければならない。個人データの存在、性質及びその主要な利用目的と共にデータ管理者の識別、通常の住所をはっきりさせるための手段が容易に利用できなければならない。
7.個人参加の原則
 個人は次の権利を有する。
 (a)データ管理者が自己に関するデータを有しているか否かについて、データ管理者又はその他の者から確認を得ること
 (b)自己に関するデータを、(@)合理的な期間内に、(A)もし必要なら、過度にならない費用で(B)合理的な方法で、かつ、(C)自己に分かりやすい形で、自己に知らしめられること。
 (c)上記(a)及び(b)の要求が拒否された場合には、その理由が与えられること及びそのような拒否に対して異議を申立てることができること。
 (d)自己に関するデータに対して異議を申し立てること、及びその異議が認められた場合には、そのデータを消去、修正、完全化、補正させること。
8.責任の原則
 データ管理者は、上記の諸原則を実施するための措置に従う責任を有する。

2.人権感覚を育成する指導方法の工夫・改善
 人権実現のために必要な価値・態度及び諸技能を構成要素とする人権感覚は、単に言葉で教えることができるものではない。児童生徒が主体的に関与し、参加し、体験することを通してはじめて身に付くものである。民主的な価値、尊敬及び寛容の精神などは、それらの価値自体を尊重し、その促進を図ろうとする学習環境の中で、またその学習過程を通じて、はじめて有効に学習される。このような能力や資質を育成するためには、自分で「感じ、考え、行動する」という主体的・実践的な学習が必要である。

(1)指導方法に関わる基本事項
 上記のような学習を促進する指導方法は、児童生徒の『協力』、『参加』、『体験』を要素として位置付け、それを基本とするものでなければならない。
ア 『協力的な学習』:児童生徒が自分自身と学級集団の全員にとって有益となるような結果を求めて、協力しつつ共同で進める学習であることが望ましい。こうした協力的な学習は、生産的・建設的に活動する能力を促進させ、結果として学力の向上にも影響を与える。さらに、配慮的、支持的で責任感に満ちた人間関係を助長し、精神面・心理面での成長を促し、社会的技能や自尊感情を培う。
イ 『参加的な学習』:学習の課題の発見や学習の内容の選択等も含む領域に、児童生徒が主体的に参加することを基本的要素とする。児童生徒は参加を通して、他者の意見を傾聴し、他者の痛みや苦しみを共感し、他者を尊重し、自分自身の決断と行為に対して責任を負うことなどの諸能力を発展させることができる。これは教育一般についてのみならず、人権教育の実践においても実証されてきているところである。
ウ 『体験的な学習』:人権教育や人権啓発において参加体験型学習という名で様々な手法が普及している。特に、人権感覚の育成という文脈で考える時、体験的な学習の方法化が求められる。つまり、単に何かを体験させるだけにとどまらず、体験することが効果的に実を結ぶようなプログラム化が必要である。
 上の図(省略)においては、例えば第1段階で言えば、体験は必ずしも現実的な体験だけを意味するわけではない。むしろ、明確な目的意識のもとに考案された学習活動(アクティビティー)に取り組むことによる擬似体験や間接体験をすることも含まれる。そこでは、ロールプレイング、シミュレーション、ドラマ等々、多種多様な手法が用いられる。これらは、単なる「体験」で終わるのでなく、「報告」、「反省」、「一般化」、「適用」という具体的、実践的なステップを丁寧に踏むことによって、体験を結実させようとするのである。
(出典:Council of Europe:" Compass A Manual of Human Rights Education with Young People"2002)

(2)学習指導の事例の提示
 以上のような指導方法に関わる基本事項を踏まえ、以下に、児童生徒の「自主性」、「発達段階や実態」、「体験的な活動」という3点に焦点をおいた学習指導の事例を提示する。
ア:児童生徒の自主性を尊重した指導方法の工夫
 人権教育は、児童生徒の人権課題解決を目指す主体的な態度、技能及び行動力を育てることを目的とする。その際に、児童生徒の自主性を尊重し、指導が一方的なものにならないよう留意することにより、児童生徒が課題意識を持って自ら考え主体的に判断するような力や実践的に行動するような力を育成することが目指される。
 例えば、児童生徒それぞれが異なる意見を持っていることに気付くように工夫する、学級活動・ホームルーム活動や児童会活動・生徒会活動などにおいて自分達でルールをつくる経験を積み重ねるなど、指導方法を工夫し、多面的・多角的に考える力や合理的なものの見方・考え方を育てようとするのである。

【参考】「児童生徒の自主性を尊重した指導の展開」
1:主体的な学習を支える基盤を整備する
 児童生徒が互いに異なるものを受け容れ、相互理解を図っていけるようにコミュニケーション能力を育成する。その際、異なる意見の存在に気付き、お互いの考えを交換し合うために、基礎学力の育成、考える源としての言葉の力の育成、話す力・聞く力の育成、カウンセリング的な技法を生かしたコミュニケーション能力の育成に努め、誰もが自分の考えを臆することなく発表できる温かい集団を作っておく。そのため、日頃から国語科を中心とした言語活動における指導を充実させると共に、学校を挙げて、教職員がカウンセリング的な技法を身に付け、児童生徒の声に耳を傾ける学校文化をつくること求められる。
2:指導者としての支援体制の限界と範囲を共通理解する
 教員が指導者として目的を明確に持ち事前に支援体制について共通理解を図っておく。
3:児童生徒の実態を踏まえ、児童生徒が取組み易く、解決可能な課題を設定する
 日常生活の延長線上に学習を位置付け、身近な課題設定をする。特に、解決を迫られている課題や成長が期待される課題であることが望ましい。これらの具体的な課題解決を通して、自尊感情を高め、より合理的なものの見方を培い、共に考え・生きることの自覚を深める。さらに、課題が一部の子どものためではなく全員のためであるよう考慮することが大切である。
4:意欲を高める導入のための学習活動の選択
 児童生徒が意欲を持って、学習集団として課題解決に集中できるような導入法を工夫する。学習課題の内容や性格を踏まえて、ゲーム的な学習活動、擬似体験的な学習活動、あるいはフィールドワーク的学習活動などを適宜選択する。
5:自主的な話し合い活動や小集団による活動の展開
 一方的な指導に偏ることのないように工夫し、児童生徒一人一人の声が、活動を通して反映されていると実感されるように配慮することが大切である。個々の児童生徒の顔が見える活動を継続させることは、一人一人の児童生徒の人権を保障することにもつながる。また、自主的な話し合いを通して、@学習課題について最初の共通認識が生まれる、A意見対立や疑問が浮き彫りとなり、学習集団に自覚される、B学習課題のなかの小テーマが浮かび上がり、関心に応じてグループが形成される、というような成果が期待できる。
6:人物や情報との印象的な出会い
 人物、事象、統計的データ等の提示により児童生徒を新たな問題に出会わせる。
 これにより、児童生徒はそれまでの共通認識をさらに深めたり、再検討したり、新たな疑問を抱いたりする。そして、新たな課題に意欲持って取り組むことになる。
7:考察を深めるための話し合いを実施する
 出会いを踏まえて話し合いをさせ、児童生徒の探求活動を具体的に計画させる。
 探求活動としては、「図書館などで情報を探索する」、「インターネットに発信して多くの人からの反応を探る」、「新しく人と出会う」、「フィールドワークを行う」、「インタビューを重ねる」、「質問紙調査等により幅広い意見を収集する」等が考えられる。
8:多様なものの見方や考え方を受容する
 結論を急がず、失敗を生かし、結果よりも過程を尊重する指導を心がけることが大切である。児童生徒一人一人が、自由にかつ安心して意見交換が行えるように配慮したい。
9:自主的探求活動の展開を図り、一人一人の児童生徒の活躍の場を保障する
 児童生徒の主体性や自主性は、一人一人の児童生徒が学習活動の過程においてその当事者としての自覚を持つことから可能となる。そのためには、一人一人の児童生徒が目的を共有し、自尊感情と参画意識を持って意欲的に活動できる場を保障することが求められる。その際には、児童生徒は計画に従って自主的に探求活動を進める。教師は児童生徒の探求活動に臨機応変に適切なヒントを与える。
 学年を越えた縦割り集団を活用するなどして、異年齢集団による取組を設定することも、成就感をもたせ意欲を育てることにもつながる。
10:まとめの作品作りや発表の機会と場を設定する
 最終的な結果だけでなく、取組のあらゆる過程において、学習形態に応じて「調査結果や実験結果をまとめて報告する」又は「芸術作品を完成させて発表する」等の成果を発表できる機会と場を設定する。その際、校内だけに留まらず、広く保護者や地域社会へと発信の場を広げることが効果的である。また、発表内容に関連して、実際に社会的に活動している人達、問題の当事者、解決のために活動している人等を対象に行うことが有益である。

イ:児童生徒の発達段階と実態を踏まえた指導方法の工夫
 学校において人権教育に取り組むに際しては、児童生徒が心身共に成長過程にあることを十分に留意した上で、それぞれの発達段階や児童生徒の実態に即した教育内容・方法とすることが重要である。また、児童生徒の学習は、発達段階だけではなく、その生活の実態にも大きく左右されることもある。例えば、いじめ・経済的・社会的理由等から人権侵害を受けていたり、また、そうした立場にある児童生徒などの経験や思いを、学校や教職員及び児童生徒が十分に受けとめ、これを配慮しつつ人権教育を進める必要がある。
 なお、高等学校定時制課程など青年中期以上の者を対象とした学習指導においても人権教育の推進は必要であり、そのための学習指導方法の工夫改善が求められる。

【参考】「発達段階に即した人権教育の指導方法」
1:『幼児期』
 幼児期は、自他の認識や自意識は明確ではないが、他者の存在に気付く時期であり、遊びを中心にして友達とのかかわり合いの中で、社会性の原型ともいえるものを獲得していく。また、相手との情緒的な絆によって自分の存在に安心感を持つ傾向が認められる。幼児は、特定の友人の存在を拠り所にして人との関わりを広げていく。さらに、表情から他者の情緒を理解し、生活の繰り返しの中で、物や出来事に関連させて友人を認知するため、表面的な理解に留まる傾向がある。幼児にとっては、生活の場自体が学びの場であり、人権感覚の芽生えの場でもある。
 こうした幼児期の特徴を踏まえて、遊びを中心とする生活の場で、自分を大切にする感情と共に、他の人のことも思いやれるような社会的共感能力の基礎を育むという視点が必要である。
2:『小学校1〜3学年』
 想像力、言葉による理解力、認識力が次第に育ってくる。抽象的な思考もできるようになる。また、生活の場を離れて、いわば時空を越えて、他者や歴史的な事象にも思いを馳せることができるようになってくる。但し、まだ幼児期の特性も残っている。
 このような特性を踏まえて、人権教育においても、生活体験に基づく「気付き」から想像力や認識力に訴えて深い理解に導くような配慮が必要である。また、絵本やお話の本などを活用することで、想像力を育てることも大切である。
3:『小学校4〜6学年』
 言葉の数も増え、概念を理解し、抽象的な思考が深まっていく時期である。認識力、分析力、批判力等も身に付くようになり、自意識も次第に強くなる。
 この段階の児童は、そうした諸能力の発達の結果、人権の意義や重要性を知的に理解することができるようになる。しかし、その知的理解が抽象的なものに留まらないためにも、体験的な学習を併用して、具体的人権問題を直感的に「おかしい」と認知する感性の育成を図ることが求められる。
4:『青年初期(中学校段階)』
 内省的傾向が顕著になって自意識も一層強まる。自立した主体的な個であるという自意識と、実際に置かれている状況や生徒自らの実態との乖離に悩む時期でもある。他者との関わり方、生き方についての悩みも深まる。他者との関係では、特定の仲間集団の中に安息を見出し、仲間特有の言語環境で充足感を覚え、排他的であることをよしとし、広く他者と意思疎通を図ることに意識が向かわない傾向もある。
 こうした青年初期の特色を理解した上で、生徒の自己肯定感を育てると共に、多様な生の在り方や様々な価値観を持って生きる他者の存在を、知的にも感覚的にも受容できるように導く学習が求められる。
 また、インターネットや携帯電話等を通じた人権侵害の事象等もあることから、情報教育の充実を通じ情報リテラシーの育成を図ることも重要である。
5:『青年中期(高等学校段階)』
 生活空間が飛躍的に広がり、それに伴って情報も生活体験も格段に拡充する。個人差はあるが、抽象的な概念操作もできるようになり、複雑な思考も可能になる。知的にも情緒的にも人間や社会に対する認識が深化する可能性のある時期である。
 また、社会の一員として、主体的に自立した存在として生きるための方策を真剣に模索し始める。他者の存在を寛容に受容し、多様な価値観をお互いに認め合って生きていかなければ成立しない一般社会の在り方を、知的にも体験的にも認識できるようになる。また、法教育の観点からも、社会的規範の相対性と「人権」の持つ普遍性を理解できるようにもなってくる。
 この時期には、様々な人権教育が可能である。しかも、多くの生徒にとって系統的計画的な人権学習のための最後の機会となることも考えなければならない。あらゆる場と機会をとらえて、人間としての生き方を真剣に考えさせ、就労観を育成するキャリア教育等との連動も考慮に入れて、積極的に人権教育に取り組むべきである。
 また、インターネットや携帯電話等を通じた人権侵害の事象等もあることから、情報教育の充実を通じ、情報リテラシーの育成を図ることも重要である。

ウ:体験的な活動を取り入れる等の指導方法の工夫
 豊かな人間性・社会性を育むため、多様な体験的な活動を取り入れるなどの指導方法の工夫を行う必要がある。しかし、体験的な活動を取り入れ、実施するだけで、人権教育の目標が達成されるわけではない。児童生徒が自らの行動を変容させる要因や、児童生徒の内面における人権課題への自覚の深まりを意識した指導過程が不可欠である。
 例えば、様々な人々との交流活動や擬似体験活動などにより、人間関係を築く能力やコミュニケーションの技能、他の人の立場に立って考えられるような想像力を培うなど、児童生徒の実態等に応じて、創意工夫を凝らして取り組むことが望ましい。なお、体験的な活動などの取組を系統的に展開する、事前指導・事後指導を工夫することなどにより、その取組が単発的なものに終わることなく、人権教育における意義を明確にし、その成果を効果的に生かしていくことが肝要である。また、児童生徒一人一人が活躍できるように配慮し、達成感を味わわせ、自立心を養うような工夫に努めることが求められる。

【参考例】「体験的な活動を取り入れた指導上の留意点」
1:人権教育の目的に照らして体験的な活動を位置付けること
 体験的な活動には、高齢者や障害のある人との交流活動や奉仕活動、擬似障害体験活動、地域清掃などの公共性の高い奉仕活動等々の様々な形態がある。これを、各教科等との関連を踏まえ、人権教育の目的を明確に意識して計画・実施する。
2:事前・事後の指導を工夫して本来の目的に合致させること
 体験的な活動においては、その内容の精査と指導過程の工夫が求められる。まず、事前・事後の指導を整え、体験的な活動が効果的にねらいに迫るものとなるように工夫すること、次いで、交流活動や奉仕活動において、児童生徒が何をどのように体験するのかについて、訪問先の機関と事前に協議・整理しておくことが大切である。過度の体験的な活動の設定は、児童生徒に負担を負わせるだけでなく、交流する相手に大きな損失を与えることにもなる。
3:児童生徒が主体的に関わることのできる体験的な活動にすること
 奉仕的な活動は、自発的な形で行われることが望ましいが、体験がない場合は自発性を期待することは難しい。児童生徒にまず体験させて、学習の中から、自発性を育てていく指導過程が求められてくる。その際、発達段階を踏まえ、指導として一方的に押し付けるのでなく、児童生徒一人一人が自らの生活体験や教科等における学習を通して、主体的に参加していけるような指導計画や工夫が必要である。そのためにも、児童生徒に目的意識を持って考えさせる場を保障すること、体験的な活動の種類や内容を事前に学習する機会を設定し、自ら選択し活動していくような場面を設定していく。
4:児童生徒一人一人が、体験を通して人権課題への自覚を深め、自分の考えを深め広げていくことのできる体験的な活動にすること
 体験的な活動は、座学と異なり、児童生徒にとって新鮮であり興味や関心の高まるものと言える。例えば、児童生徒同士の話し合いや発表の場を数多く設定することで体験的な活動の成果と課題が自覚できるようにする。その際、学校内に留まらず、広く、家庭や地域社会の協力も得て、児童生徒の成長を支援する体制をとることも効果的である。
 また、指導の過程で、児童生徒一人一人の成長を見逃さないためにも、個々の発言を尊重すること、さらには、感想や学びの記録を通して、一人一人の心に寄り添う指導を継続させることが望ましい。
5:児童生徒の実態、学校や学級の実態、家庭や地域社会の実態を踏まえること
 人権教育の実施においては、児童生徒や学級、学校、地域社会などの実態を踏まえて体験的な活動の内容を精査することが必要である。例えば、学校が地域の中でどのような役割を果たしてきたのか、また、どのような役割を家庭や地域社会から期待されているのかを事前に把握した上で、体験的な活動を実施することが重要であり、実施に際しては、このような家庭や地域社会からの理解と共感を得ることが必要である。
6:地域社会の人達から学ぶ機会を充実させること
 子どもの成長は、学校だけで図られるものではない。特に人権教育のように、長く生涯にわたって、社会における更なる実践が求められる時、家庭や地域社会との連携は不可欠である。そのため、学校だけでなく、保護者や地域住民が、体験的な活動における指導的な役割を担っていくことが、体験的な活動の成果を高め、社会参画を目指す行動力を育てることにもつながる。
7:人権感覚の高揚と定着を図るために道徳の時間における指導を生かすこと
 体験的な活動は、総合的な学習の時間や特別活動の時間に実施されることが多いが、心の問題として人権感覚を育てていくためには、人間としての在り方や生き方という視点から道徳の時間を工夫し、体験的な活動と連携を図ることが効果的である。
 道徳の時間の主たるねらいは道徳性の育成とその道徳的な実践力の向上であり、その内容項目は、人権教育の学習内容と密接に繋がるものが多数含まれている。このような道徳の時間本来の計画的・継続的な指導を通して、発展的な課題として人権課題への動機付けや価値への自覚の深まりを図ることは、体験的な活動を主体的なものとしていくためにも必須の指導である。

3.効果的な学習教材の選定・開発
 学習教材を選定・開発するに当たっては、学習教材の活用により児童生徒が自ら考えることができるようにするなどの教育効果を高めるため、身近な事柄を取り上げたり、児童生徒の興味・関心等を生かすなどの創意工夫を行う。なお、このことは、身近ではない課題を取り上げないということではなく、そのような課題を取り上げることによって逆に身近な課題についての認識が深まり、人権問題と自らとのつながりが見えてくることも考えられる。生命の大切さに気付くことができる教材、様々な人権問題に気付くことができる教材、それぞれの人権問題を深く考えるための教材、自分自身を深く見つめることを意図した教材、技能を学ぶ教材など学習の目的に応じて多様に選定・開発する。
 この点で、保護者をはじめ地域の人々の生き方・考え方や歴史等豊かな地域教材を開発・活用することが重要である。
 また、学習教材の選定・開発に際しては、児童生徒の発達段階を十分考慮すると共に、その内容を公正な観点から吟味する。さらに、例えば身近な事柄を取り上げる場合など教材の内容によっては、プライバシーの保護等にも十分配慮することが重要である。

【参考】「効果的な教材の例」
1:地域の教材化
 地域におけるフィールドワークなどとの関連を図りながら、地域の歴史や産業などを採り上げて教材化する。区市町村においては、これに関連する資料等が図書館などに保管されていることも多いので、それらの活用は可能であり、容易であろう。但し、活用に当たっては、児童生徒の実態や発達段階を踏まえ、また、学校がねらいとしている人権課題との関連等の点から検討する。
2:視聴覚教材など児童生徒の感性に訴える教材の活用
 人権劇や映画、ビデオなど、学校がねらいとしている人権課題を採り上げたものが活用できる。読み物資料も視聴覚教材として再編集することにより、児童生徒の関心を高め、学習効果を向上させることが可能となる。パソコンの活用なども考えられる。例えば、児童生徒が自ら演じる「人権劇」などは、当事者としての意識を高めるだけでなく、観劇する児童生徒達にとっては、効果的な教材となる可能性を持っている。
3:外部講師の講話やふれあいの教材化
 福祉作業所や老人ホームなどにおいて人権課題と直接関わって働く人、また、高齢者や障害のある人などの講話や談話は、児童生徒に自分の生き方を振り返らせ、人権課題と真摯に向かい合わさせる契機となる。また、地域の人や人権課題に直接関わる人から直接出されるメッセージは、生活課題と結び付いて、児童生徒に深く考え自らを見つめ直させる教材として効果的である。なお、高齢者や障害のある人と直接触れ合い学ぶ場合には、人権上の配慮に基づいた十分な事前指導を行う必要がある。
4:生命の大切さに関する教材
 自殺・いじめ・不登校などの問題や、それとの関連で生じることもある生命に関する指導に当たっては、できるだけ共に生きる喜びや大切さに気付けるよう、発達段階に応じて、建設的で肯定的な教材を選定することが望ましい。発達段階を踏まえて、生きることを肯定し、生きることを志向するような教材を選定したい。
 具体的には、
○医療機関や消防署等で救命活動に直接関わる人々からの講話や体験談の教材化
○保護者や産院等の協力を得る誕生の記録の教材化
○保育所や幼稚園で働く人の講話の教材化
○妊婦をゲストティーチャーとした講話の教材化などの工夫が考えられる
5:小説・詩・歌などの作品の教材化
 学習教材は、一人一人の児童生徒が自らの体験を十分に追体験できるものであることが望ましい。児童生徒の実態を踏まえ、採り上げようとしている人権課題のねらいを明確にして活用したい。また、採り上げ方によっては、ねらいから外れてしまう危険性も考慮し、指導過程上どこでどのように活用していくのか事前に想定して開発していく。
6:同世代の児童生徒の書いた作品の教材化
 人権作文・人権標語・人権ポスター、また、総合的な学習の時間等の作品など、同世代の児童生徒たちが取り組んだ作品は、児童生徒にとって身近な学習教材である。広く社会にその成果が認められた作品はもちろんであるが、当該校の児童生徒による人権作文などは、特に興味や関心を高めるために効果的な学習教材であり、十分に児童生徒の心に迫るものである。但し、活用に当たっては、誤解や偏見を生じさせないよう、事前に人権上の配慮しておくことが重要である。
7:保護者や地域関係者と共に作る教材
 児童生徒と関わる大勢の人達との協働による教材の開発は、学校における人権教育への理解を深めると共に、共に児童生徒を育てるという人権教育の基盤づくりにもつながるものであり、意図的に設定していきたい。学校だけが主導権を握るのでなく、地域の人権擁護委員会など、公の組織や団体の支援を積極的に採り入れていくことが、成功につながる。
8:情報交換できるシステムの活用
 ホームページやメールなどの活用を通して、情報の共有化を図り、教材開発や選定における開かれた体制づくりを心がけることが求められる。相互の交流や情報交換を通して、広い視野で収集されたメッセージは、児童生徒の実態に迫る資料開発、より望ましい教材の選定に向けて十分な成果が期待される。
9:教材を通して、よりよい出会いをつくるための教材
 教材開発と選定は、人として共に生きていく上での、よりよい出会いをつくるためのものであるが、考えるための基礎・基本として、「権利に関する知識」「憲法、世界人権宣言、子どもの権利条約等、条文化された法の理解」「知識を通して行動や態度の変容を促し実践へとつなぐ学習」などを教材とする、知識としての学習が必要である。また、技能を学ぶ教材としては、エンカウンターを始めとするものが必要となってくることを心に留めておきたい。
10:歴史的事象の教材化
 児童生徒の発達段階を踏まえ、歴史上、人権課題に直面した人物の生き方にふれさせたり、人権侵害の出来事について考えさせるような教材を選定することも重要である。

第3節 学校及び教育委員会における研修等の取組
 学校における人権教育を推進・充実させていくに当たっては、これまで述べてきたように、学校としての組織的な取組、人権教育の内容及び指導方法等が必要になるが、それと共に、教職員研修等の在り方も重要である。研修が効果的になされることによって、教職員一人一人の実践や各学校の組織的な取組も、より力強いものになる。
 教職員・学校・教育委員会はいずれも、研修等の実践が、ひとえに児童生徒のためにあることを強く意識していることが肝要である。このため、教職員においては教育委員会が実施する研修を積極的な態度で受講すると共に、教育委員会においても、教育の実情を常に考慮した施策を講じるよう努める必要がある。

1.教職員における人権尊重の理念の理解・体得
 まず、教職員が人権尊重の理念について十分に認識し、児童生徒が自らの大切さが認められていることを実感できるような環境づくりに努めることが大切である。教職員は、児童生徒に直接接し指導することで、その心身の成長発達を促進し支援するという役割を担っている。
 したがって、児童生徒一人一人の大切さを強く自覚し、一人の人間として接するという態度で指導する教職員の姿勢そのものが、人権教育の重要な部分であると言える。だからこそ、教職員は、自らの言動が児童生徒の人権を侵害することのないよう常に意識をしておかなければならないのである。
 次に、教職員同士の間においても互いを尊重する態度を大切にする。例えば、指導上の課題について互いによく話し合うことができるような環境づくりに努めることが大切である。
 教職員の人権尊重の態度は、児童生徒に安心感や自信を生む。また、「教師が変われば子どもも変わる」と言われるように、常に教育活動や日常の生活場面において、言動に潜む決めつけや偏見に気付き、一人一人を大切にしているかを見抜き、点検することが重要である。このように、教職員と児童生徒との人間関係が愛情に満ち、信頼関係の上に成り立つことが必要である。
 そこで、互いの人権が尊重されているかを判断すると共に、児童生徒の心の痛みに気付くなど、児童生徒理解とそれに基づく働きかけや支援・援助を行うのに有効なカウンセリングの技法の習得等、常に研修等を通して自己研鑽を積み、自らの人権意識を見つめ直し、確かな人権感覚を身に付けることが期待される。

【参考】「指導上のポイント」
1:一人一人の児童生徒を深く理解する
 児童生徒が充実した学校生活を送るためには、まず、「自分のことが好き」と思う気持ち(自尊感情)を育み、学級の一員であるという所属感をもたせ、誰からも認められているという充実感を味わわせるようにすることが必要である。そのためには、教師が一人一人の児童生徒についての理解を深めることが大切である。
 児童生徒理解に当たっては、行動などの現象や結果だけで判断したり決めつけたりするのではなく、その背景や原因を正しくとらえ、児童生徒の立場になって、その内面や課題を十分に把握するように努める。その手だてとして、児童生徒と話し合うことを大切にしたり、日記や生活ノートの交換をしたりすることも考えられる。
2:尊重し合う人間関係を育てる
 児童生徒が相互によさを認め合い、励まし合い、支え合う人間関係は、学級の基盤である。教師は、学級の人間関係の実態を的確に把握し、望ましい人間関係を育てる学級経営に努める。
 そのため、他の人の立場に立って、その人に必要なことやその人の考えや気持ちなどが分かるような想像力や共感的に理解する力を育て、誰もが尊重される学級をつくることが大切である。その手だてとして、教師や同級生と交流する機会を設けたり、児童生徒が生活の中で経験したことや感じたこと、将来目指していることなどを書く日記、生活ノートなどの指導を位置付けたりすることも考えられる。
3:教室・言語環境を整える
 教室は児童生徒の生活の場である。教室環境には、目に見える物的なものと人的なものの他に、言語や雰囲気などがある。特に、言語環境は、あらゆる人間関係の基盤である。児童生徒や教師の何気ない言葉が、時には相手の心を傷つけ、生活への意欲を失わせてしまうことがある。また、教師の言動が児童生徒に無意識のうちに偏見や差別の芽を植え付けてしまうこともある。
 そのため、教師自らが望ましい言語活動に心がけ、学級全体の言語環境を整えることを忘れてはならない。

2.効果的な教職員の研修等の取組
 人権教育の推進のためには学校や教育委員会における効果的な研修等の実施が不可欠である。但し、教職員の研鑽は、単に既成の研修を受けることに留まるものではない。
 特に、教育公務員は「その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」(教育公務員特例法第21条1項)とされていることからも、日常的に自己研鑽を積む態度が必要になる。教職員の日々の実践としては、例えば、普段の自らの言動を反省的に捉え返す営みや、児童生徒の状況について定期的に報告し合う実践などが考えられる。
 また、教育委員会においては、各種研修会を設定するのはもちろんのこと、緻密な学校訪問等を行うなど日常的な取組も効果的であると考えられる。

(1)学校における研修の取組
 人権教育は、全ての教育の基本であり、各学校において、教育活動全体を通じて児童生徒の発達段階に応じ、創意工夫してこれに取り組まなければならない。
 各学校において人権教育を進めるに当たっては、まず、教職員が人権尊重の理念を十分認識することが肝要である。そして、指導に当たっては、人権教育の目標である「人権の意義・内容や重要性について理解すると共に、自分の大切さと共に他の人の大切さを認めることができるようになり、それが様々な場面や状況下での具体的な態度や行動に現れるようにする」ために、児童生徒が人権についての知的理解を深めると共に、人権感覚を身に付けるための指導を組織的・計画的に進めることが重要である。したがって、各学校において、人権教育についての研修を位置付け、取り組むことは大変重要である。

ア:研修にかかわる諸計画
 各学校の人権教育の目標を達成するための方策を総合的・体系的に示した教育計画、年間を見通した学年ごとの指導計画を児童生徒の発達段階に即して、各教科等との関連を考慮しながら作成する必要がある。また、各学校の課題に即した研修を推進するためのプログラムを作成する必要もある。
 なお、諸計画を作成するに当たっては、校長が指導力を発揮し教職員の協力の下に作成することが肝要である。また、諸計画を作成することで、全教育活動を通じて人権教育に取り組む観点から、各教科、領域等との関連性が明確になると同時に、保護者等に対し、自校の人権教育の具体的取組を体系的に説明する上でも有効なものとなる。
@全体計画及び年間指導計画
 人権教育の全体計画は、各学校における教育活動全体を通じて、人権教育目標を達成するための方策を総合的・体系的に示した教育計画である。作成に当たっては、特色ある教育活動や体験・交流活動との関連、各人権課題への取組目標と関係した教育方法、家庭、地域社会、関係機関との連携などを計画に位置付けることが望ましい。
 人権教育の年間指導計画は、全体計画に基づき、各学年にわたる指導が、児童生徒の発達段階に即して、各教科等の関連を考慮しながら、計画的・発展的に行われるように示した指導計画である。作成に当たっては、各学年の基本方針及び目標の設定、各人権課題の位置付け、体験活動の位置付けなどを計画の中に適切に示すことが望ましい。
A研修プログラム
 各学校においては、年間指導計画に基づき、目標、内容、方法等についての研修プログラムを作成し、それに沿った取組が重要である。作成に当たっては、教育委員会の指針や指導の重点などを踏まえると共に、児童生徒の実態や取組の進捗状況を的確に把握することが重要である。なお、年度途中や年度末など、適宜、実施内容等について評価し、改善・充実のための方策を明らかにし、次年度への計画につなげることが大切である。

【参考例】「研修プログラムの例」(省略)

イ:研修内容
 研修内容としては、研修プログラムに沿った取組について実施する。その際、教育を取り巻く状況や教育活動を人権教育の視点で捉え直し、次の4点について、各学校の実態に応じて取り組むことが重要である。
@推進体制に関すること
 前年度の評価をもとに、組織の確立と進め方の確認など自校の推進体制の点検に取り組む。その際、評価項目表を活用するなど、本年度の研修プログラムを作成し実施することが大切である。また、協力体制づくりや広報活動(保護者用の資料配付、講演会、啓発便り等)、保護者や地域の人々の参加や協力等の具体的な連携を図ることも大切である。その際、社会教育機関(公民館、福祉施設等)、人権擁護機関(児童相談所、人権擁護委員、民生児童委員等)やボランティア団体、NPO等との柔軟かつ幅広いネットワークの構築を考慮する必要がある。
A児童生徒に関すること
 児童生徒の指導・支援に当たっては、学級をはじめ、学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が感じ取れるような人権感覚を身に付けると共に、他の人と共によりよく生きようとする態度や集団生活における規範等を尊重し、義務や責任を果たす態度、身近な人権問題を解決しようとする実践的な行動力などを身に付ける必要がある。そのため、人権に関する意識調査や日常の教育活動等の実態調査から児童生徒の実態を的確に把握し指導に生かすことが大切である。
 また、人権教育に視点を当てた授業研究を実施し、各教科等で年間指導計画に沿った取組を授業実践する。
【参考例】 「人権教育に視点を当てた授業研究の例」
 学校の実情に応じ、総合的な学習の時間で「人権」をテーマに挙げるなど、福祉・ボランティア教育、交流体験、国際理解教育、キャリア教育などとも関連を図った取組が考えられる。また、「人権デー」(12月10日)を最終日とする「人権週間」の期間に、人権問題についての作文、「人権の花運動」の取組を通した発表会、人権標語づくり、人権擁護委員をゲストティーチャーとしての授業など、人権について集中的な学習に取り組むことも考えられる。
B教職員に関すること
 人権教育を推進・充実させていくためには、教職員自身が人権尊重の理念を正しく理解・認識し、自らの人権感覚を磨くことを最重要課題とすべきである。そのため、研修内容として、人権の意義や重要性及び人権問題についての理解、人権意識の高揚を図ることなどについて研修を積むことが肝要である。
【参考例】「研修内容の例」
 人権に関わる諸条約・法令を理解するための輪読会、個人情報保護・各個別の人権課題等に関する学習会、各種研修会での研修成果を共有するための報告会、財団法人人権教育啓発推進センターや人権に関わる資料館などへのフィールドワーク等が挙げられる。
C保護者に関すること
 人権教育は、家庭や地域社会との連携・協力が不可欠であり、相互の共通理解のもとに指導に当たることが大切である。保護者のものの見方・考え方は、直接、児童生徒に影響を与えることから、保護者自身が人権意識や人間性を高め、日常生活を通じて自らの姿勢を通して、児童生徒に示していくことが望まれる。
 そこで、身近な人権問題や教育上の諸問題について、学校・学年便りによる情報提供をはじめ、開かれた学校の観点から、教育活動についての授業公開、参観後の評価、人権をテーマとした講演会、参加体験型のワークショップの実施など、家庭と学校が連携した啓発活動の工夫を図ることが大切である。

ウ:研修方法
 研修方法としては、全体研修、グループ別課題研修、個別課題研修などが考えられる。方法については、研修目的に応じ適切に選択すると共に、場合によっては、相互に補完しながら研修を進めることが望ましい。
 全体研修は、全教職員の参加によって行う研修方法であり、研修全体の共通理解を図る際に有効である。グループ別課題研修は、学年、分掌、教科などの少人数のグループを編成することで、全体研修との関連を踏まえ計画的に行う研修であり、組織内の横や縦の連携を図る際に有効である。個別課題研修は、教職員一人一人が、学級や教科などで課題を設定することにより、全体研修及びグループ別課題研修との関連を踏まえ計画的に行う研修であり、個々の実態に応じた取組を図る際に有効である。
 また、座学による研修方法だけでなく、参加体験型の手法など多様な手法(討論会、ロールプレイング、フィールドワークなど)を組み合わせるなどの工夫が望まれる。

(2)教育委員会における研修等の取組
 各教育委員会は、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」5条(地方公共団体の責務)を受け、学校における人権教育の一層の充実に重要な役割を担う。
 そのため、各教育委員会においては、施策推進の基本的考え方に基づき、推進方針及び推進計画等を地域の実態に応じ作成することが肝要である。
 推進に関する諸施策については、効果的な研修の実施、地域の実態に応じた優れた実践事例や人権教育の充実により学校全体の改善につながった事例などの情報提供、カリキュラムの作成等に関する実践的な研究の実施及びその成果の普及、家庭・地域との連携や校種間の連携を推進する体制づくりを行うことなどに取り組むことが大切である。

ア:推進方針及び推進体制等
 各教育委員会では、学校教育において、全ての教育活動が、人権尊重の立場から着実に推進され、一人一人が自分自身の課題として、人権教育の理念について理解を深め、行動できることを目的とした推進方針を定める必要がある。

【参考】「推進方針の視点」
1:「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に則り、「世界人権宣言」をはじめ、諸条約等を踏まえた推進の基本理念を示す。
2:一人一人が、人権尊重の理念について理解を深め、これを体得し、実践していくことができるよう、積極的かつ継続的な施策の方向性を示す。
3:「法の下の平等」、「個人の尊重」といった人権一般の普遍的な視点と各個別の人権課題の視点から内容等を示す。
4:域内の進捗状況を的確に把握し、実態に応じた推進施策の策定にあたる。
5:家庭、地域社会、関係機関等との連携を視野に入れる。
6:教育の中立性に配慮する。

 推進体制においては、人権教育の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育委員会内の関係各課及び知事(市町村)部局関係各課との緊密な連携の下に、年度ごとの施策の重点を定め、推進体制の確立を図ることが大切である。

【参考】「推進体制の視点」
1:「地域等との連携」:学校教育機関及び公民館等の社会教育機関、法務局、人権擁護委員等の人権擁護機関と連携を図り、地域社会の実態を踏まえた取組を推進する。
2:「校種間の連携」:幼保小学校合同による研究協議会等の実施により、取組等の共通理解のもと、各学校(園)域内の人権教育を推進する。
3:「各個別の人権課題への対応」:各個別の人権課題に関係する知事(市町村)部局内の関係各課と連携を密にし、各人権課題の解決に向け、関係各課が具体的施策の推進を図るとともに、諸課題について研究・協議する。

イ:推進状況調査等の実施
 各教育委員会の施策等に反映させるためには、地域の実情に応じ、例えば、各学校における人権教育の進捗状況を把握する推進状況調査等を実施することも望ましい。
 なお、実施時期については、次年度の計画の立案に生きるよう、年度途中や年度末など適宜行い、調査結果については各学校に速やかに周知し、人権教育の推進・充実に役立てるべきである。

【参考例】「推進状況調査項目の例」
1:推進体制に関すること
○児童生徒や地域の実態に応じた人権教育全体計画及び年間指導計画の改善・充実に努めている。
○人権教育推進のための企画・運営や、人権侵害に対して組織的に対応できる校内体制が整備されている。
2:児童生徒に関すること
○児童生徒の人権に関する実態把握のためのアンケート調査を実施している。
○人権に関連した体験活動や人権に関わる重要課題について、授業等を通して取り組んでいる。
3:教職員に関すること
○人権尊重の理念の理解や教職員の人権意識の高揚など人権教育に関する校内研修を研修プログラムに位置付けて取り組んでいる。
○授業に活用できる教材・資料を収集したり、人権に関する書籍を備えたりし、環境整備に取り組んでいる。
4:保護者に関すること
○人権に関する教育上の諸問題や身近な人権問題について、情報提供している。
○PTA活動等で、人権に関わるテーマを取り上げ、講演会・ワークショップ等を実施している。

(3)効果的な研修
 教職員の言動は、日々の教育活動の中で児童生徒の心身の発達や人間形成に大きな影響を及ぼし、豊かな人間性を育成する上でもきわめて重要である。
 また、教職員には、人権尊重の精神を基盤に、人間関係能力、コミュニケーション能力、さらには時代の変化に対応するために必要とされるIT関連に関わる能力などを兼ね備えることも求められている。
 現在、各地区で管理職研修、人権教育の担当者及び指導者の養成研修会など、人権教育に関わる各種の研修会が実施されている状況にある。
 そこで、都道府県県教育委員会においては、管轄する全域で、人権教育の一層の充実・改善を図るため、教職員自身が人権尊重の理念を正しく理解し、自らの人権意識の高揚を図ることができるような研修を企画・立案・運営することが大切である
 また、市町村教育委員会においては、都道府県教育委員会が主催する研修等を踏まえ、市町村単位で、人権教育担当者等を参集し、人権教育に視点を当てた授業研究を行うなど、地域の実態や特色に応じた研修会を企画・立案・運営することが大切である
 このように、各教育委員会においては、教職員の自己研修はもちろん、教職経験に応じた研修会をはじめ、各種講座に人権教育の視点を明確に位置付けると共に、人権教育の基本的な考え方、人権感覚を高めるためのワークショップなど教職員の多様なニーズに応えられるよう、ライフステージに応じた研修の計画・実践を行うことが有効である。
 また、人権教育にたずさわる教職員による自主的な研修・研究が行われている場合には、その趣旨や内容等に配慮しつつ、人権教育の推進のために有意義であると判断できる場合には、これらの活動への支援を検討することも有効である。

ア:内容に視点を当てた研修
@人権尊重の理念の基礎・基本の理解を図る研修
 初任者研修、10年経験者研修を中心として、5年次研修、20年次研修などが、各自治体で行われている。人格の完成を目指す教育の目的を考える時、人権教育に関わる基礎・基本となる内容の研修を教職経験の各々の節目に位置付けていくことが必要である。
 子ども達の最も近くに存在する大人の「教師」として、人権教育の視点から原点に立ち返り、指導者として最低限必要とされる知識と基本的な姿勢を理解し、確認を繰り返し行うことが重要である。
 具体的には、基本計画(平成14年3月15日閣議決定)や各自治体が発行する人権教育に関わる出版物を資料とし、研修の機会を設けることが考えられる。基本的な知識や情報の確認等が中心となる本研修については、2〜3時間をひとまとまりの講座ととらえることが考えられるが、1回の内容を15分程度にまとめ、複数回にわたって行う連続講座として設定することも、受講者の研修意欲を高め知識の定着を図る上で有効である。
A人権尊重の理念について認識を深める研修
 知識として得た人権教育に関わる基礎的・基本的な内容を、実際の教育活動において機能させるためには、講演を聴く・受けるという「受動的」な研修から、自分で調べる、聴き取る、まとめるという「能動的」な研修へと変えていくことが大切である。
 そのため、受講者に具体的な人権課題の中から興味のあるものを選択させ、自分の担当する人権課題について研究を進めさせるという方法も考えられる。

【参考例】「『子ども』の人権課題の担当になった場合の研究経過の例」
◇「子ども」の人権課題に関わる資料や書物を収集し、その中から基本的な知識を得る。
◇「子ども」の人権に関わる関係機関を訪問し、関係者から聞き取り調査、具体的な人権課題について意見交換等を行い、現状と課題を明らかにする。
◇調査活動及びデータを踏まえ、「子ども」に関わる現状を分析し、解決のための方策を例示としてあげ、「子ども」の人権課題についての資料を作成する。
◇作成した資料を用いて研究授業を実施し、人権教育に関する指導力を高める。

B人権尊重の理念を確実に身に付ける研修
 人権尊重の理念を確実に身に付けるためには、いわゆる「参加体験実技研修会」などが有効である。[自分の大切さと共に他の人の大切さを認めること]を踏まえ、人権尊重の理念を単に理解するだけにとどまることなく、態度や行動に現れるようになる研修を指導者自らが体験することが重要である。一例として、ファシリテーター(学習促進者)による実技研修が挙げられる。具体的な手順としては、体験的な学習の指導者としての指導力・実践力の向上を図ることを目的とする講義「人権教育と参加体験型学習について」を実施した後、学校生活の場で実際に活用できる指導力・実践力の向上を図るためのグループ研修を設定することが考えられる。

【参考例】「グループ研修内容の例」
○話し合い・学び合いの場づくり
・自己紹介・アイスブレーキング・アクティビティー体験
○ファシリテーション実技の準備
・グループごとにアクティビティーを選択・グループ別準備・検討(ねらいの理解、役割分担、道具や資料の準備)
○ファシリテーション実技
各グループでの実演、振り返り、評価
○振り返り、まとめ
・ファシリテーターのスキルや役割・一般化や応用を引き出すための手法や問い
・対象に応じたアクティビティーのアレンジの視点

イ:対象者に視点を当てた研修
@ライフステージに応じた研修
 初任者や2・3年次の経験の浅い教員に対しては、具体的で身近な実践事例をもとに研修を進めることが大切である。例えば、「人権感覚を高めるワークショップ」のアクティビティー等、参加体験型の研修を企画し、活動そのものの楽しさを体感させる。その際、具体的な経験の中から、人権尊重の理念の重要性を体感し、人権教育に対する意欲を高めることができるような研修を実施する。
A人権教育担当者(指導者)研修
 人権教育担当者は、各学校の人権教育を牽引し、研究の推進体制の確立を図る役割を担う重要な存在である。担当者の研修内容としては、例えば、「教育行政の重点事項の説明」、「学年・学級経営の視点に立った人権教育の充実」、「個別の人権課題に関する理解と対応」などのテーマが考えられる。また、教育センター等が主催する「人権教育を推進するための指導者養成を目的とした研修」などに参加するよう促し、得られた成果については、各学校で「地域や学校における人権教育の実践及び推進上の課題」と題した伝達研修会を開催し、当該校区における人権教育の質的な向上に能力を発揮するよう働きかけることも重要である。
B学校と地域等が一体となった研修
 人権教育は、家庭、学校、地域社会の連携があってこそ、大きな成果を挙げることができる。そのため、具体的で継続的な取り組みにより、研修内容が深められるよう、保護者や地域を含む研修体制の工夫を行うことが効果的である。

【参考例】「学校と地域等が一体となった研修の例」
 3年間の見通して研修を積み重ねることが大切である。その際、年次計画として、1年次は、児童生徒の生活の場である家庭教育の担い手であるPTAを対象とした研修会を実施する。2年次は、1年次の成果をもとに、研修会の対象を青少年対策協議会や民生児童委員へと広げる。さらに、3年次は、学校が主体となった研修会・発表会を行い、積極的に情報を発信するなどが考えられる。

3.普及方法等の取組
 各学校及び教育委員会において、人権教育の取組等の情報を発信することは、人権教育の推進・充実並びに普及に大いに寄与するものである。その際、一方向に情報を発信するのではなく、双方向の情報交換が重要であり、意見等をフィードバックし、情報や内容等について評価することが肝要である。なお、情報提供の際、個人情報やプライバシーの取り扱いには細心の注意が必要である。

(1)学校における取組
 各学校においては、教職員相互の情報の共有及び家庭・地域への情報発信・受信が人権教育の普及には大切なことである。

【参考例】「学校における人権教育の普及の例」
 学校内では、児童生徒の人権に関わる諸問題を共有し、協議することは、学校教育の最も重要な柱である。また、教育委員会主催の研修会の内容や先進的な学校への視察状況の情報は教職員相互で共有する。さらに、家庭・地域との連携の視点から、学校での取組内容を各種の通信を活用した情報発信、学年・学級懇談会、人権をテーマにした公開授業の実施、児童生徒の人権に関わる作品紹介など、多様な方法を工夫し普及を図る。

(2)教育委員会における取組
 各教育委員会においては、人権教育の指針や推進計画など、教育委員会としての理念や方向性を定めた計画などを作成したり、優れた取組を収集した実践事例集や指導マニュアルなどを作成したり、各学校や地域に作成物等を積極的に提供し、人権教育の普及に努めることが大切である。提供手段としては、紙媒体やWebページの利用が有効である。
 また、人権教育研究指定校及び人権教育総合推進地域(文科省指定事業)の取組をはじめ、教育委員会の教育センター事業等で、研究領域として人権をテーマに取り上げるなど、教育課程の開発や実践研究など取組内容を各学校に普及することも大切である。
 学校と地域との連携の視点からは、保護者を対象に啓発資料を作成・配付することも大切である。幼児教育段階では、子育ての中で、命の大切さ、豊かな心情、道徳性の芽生え等、人権尊重の精神の芽生えを大切に育んでいくことをねらいとした資料、義務教育段階の資料では、親子で共に人権について学ぶ内容などが適していると考えられる。
 なお、現在、人権教育・啓発のナショナルセンターと位置づいている財団法人人権教育啓発推進センターにおいては、各教育委員会で作成した各種人権教育資料などを集積し、全国の情報の核として、教育関係者のフィールドワークや教育委員会の人権教育資料作成の際に有効活用できるよう整備を進めている。
 以上、教育関係者のフィールドワークや教育委員会の人権資料作成の際などに有効に活用することが望まれる。

おわりに
(1) 本調査研究会議においては、第一次とりまとめを受けて、各学校の実践事例等を踏まえながら具体的かつ詳細な検討を行ってきた。第二次とりまとめは、第一次とりまとめにおける人権教育に関する各視点及び指導のポイントについて議論を深めたものである。
 各学校においては、本調査研究会議の調査研究の成果を十分参考にして、人権教育の指導方法等の改善・充実に努力していただきたい。
(2) また、学校における人権教育の一層の充実に当たっては、各教育委員会の役割が重要である。具体的には、効果的な研修の実施、地域の実態に応じた優れた実践事例や人権教育の充実により学校全体の改善につながった事例などの情報提供、カリキュラムの作成等に関する実践的な研究の実施及びその成果の普及、家庭・地域との連携や校種間の連携を推進する体制づくりを行うことなど、各教育委員会においては、各学校への指導・助言や支援のさらなる充実及び条件整備に取り組むことを望むものである。
(3) さらに、国においては、人権教育に関する研修の実施及び情報の収集・提供など教育委員会や学校に対する支援の一層の充実及び条件整備を図ることが望まれる。
(4) これらの各関係者の努力を通じてわが国における人権教育が進展し、子ども達が自分の大切さと共に他者の大切さを認めることができるような人権感覚を身に付けるようになり、ひいては人権が尊重される社会の実現に貢献できることを願うものである。



参考資料

目次

1. 人権をめぐる国際的な動向について
(1) 世界人権宣言
(2) 児童の権利に関する条約
(3) 「人権教育のための世界計画」決議(仮訳)
2. 我が国の人権に関する施策等の最近の動向について
(1) 人権擁護施策推進法(平成8年法律第120号)
(2) 「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画(平成9年7月4日人権教育のための国連10年推進本部)
(3) 「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」(平成11年7月29日人権擁護推進審議会答申)
(4) 人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)
(5) 人権教育・啓発に関する基本計画(平成14年3月15日閣議決定)

 人権が尊重される社会の実現に向けては、これまで、国内外において様々な取組がなされてきたところであり、人権教育の推進に当たっては、そのような人権に関わる動向を十分に踏まえて取り組むことが重要である。人権に関連する関係法令等を参考資料として掲載したので、学校や教育委員会等における取組の参考とされたい。

1.人権をめぐる国際的な動向について
1948年(昭和23年)
 国連において「世界人権宣言」を採択(参考資料1(1)参照)
1959年(昭和34年)
 国連において「児童の権利に関する宣言」を採択
1965年(昭和40年)
 国連において「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」を採択→日本は1995年(平成7年)に締結
1966年(昭和41年)
 国連において「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」を採択→日本は1979年(昭和54年)に締結
1979年(昭和54年)
 国連において「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」を採択→日本は1985年(昭和60年)に締結
1989年(平成元年)
 国連において「児童の権利に関する条約」を採択→日本は1994年(平成6年)に締結(参考資料1(2)参照)
1994年(平成6年)
 国連において1995年からの10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議を採択→日本は1997年(平成9年)に国内行動計画を策定(参考資料2(2)参照)
2004年(平成16年)
 国連において「人権教育のための世界計画」決議を採択(参考資料1(3)参照)

(1)世界人権宣言(仮訳文)(1948年12月10日国連総会採択)

前文
 人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、
 人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権保護することが肝要であるので、
 諸国間の友好関係の発展を促進することが、肝要であるので、
 国際連合の諸国民は、国際連合憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、
 加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び尊守の促進を達成することを誓約したので、
 これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもっとも重要であるので、
 よって、ここに、国際連合総会は、
 社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と尊守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。

第一条
 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第二条
1  すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
2  さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。
第三条
 すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。
第四条
 何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。
第五条
 何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。
第六条
 すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。
第七条
 すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。
第八条
 すべて人は、憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。
第九条
 何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。
第十条
 すべて人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当っては、独立の公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。
第十一条
1  犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。
2  何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為のために有罪 とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰を課せられない。
第十二条
 何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。
第十三条
1  すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。
2  すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。

(2)児童の権利に関する条約(平成6年5月16日条約第2号)

前文
 この条約の締約国は、
 国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、
 国際連合加盟国の国民が、国際連合憲章において、基本的人権並びに人間の尊厳及び価値に関する信念を改めて確認し、かつ、一層大きな自由の中で社会的進歩及び生活水準の向上を促進することを決意したことに留意し、
 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人は人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、
 国際連合が、世界人権宣言において、児童は特別な保護及び援助についての権利を享有することができることを宣明したことを想起し、
 家族が、社会の基礎的な集団として、並びに家族のすべての構成員、特に、児童の成長及び福祉のための自然な環境として、社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助を与えられるべきであることを確信し、
 児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、
 児童が、社会において個人として生活するため十分な準備が整えられるべきであり、かつ、国際連合憲章において宣明された理想の精神並びに特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべきであることを考慮し、
 児童に対して特別な保護を与えることの必要性が、1924年の児童の権利に関するジュネーヴ宣言及び1959年11月20日に国際連合総会で採択された児童の権利に関する宣言において述べられており、また、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(特に第23条及び第24条)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(特に第10条)並びに児童の福祉に関係する専門機関及び国際機関の規程及び関係文書において認められていることに留意し、
 児童の権利に関する宣言において示されているとおり「児童は、身体的及び精神的に未熟であるため、その出生の前後において、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とする。」ことに留意し、
 国内の又は国際的な里親委託及び養子縁組を特に考慮した児童の保護及び福祉についての社会的及び法的な原則に関する宣言、少年司法の運用のための国際連合最低基準規則(北京規則)及び緊急事態及び武力紛争における女子及び児童の保護に関する宣言の規定を想起し、
 極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、このような児童が特別の配慮を必要としていることを認め、
 児童の保護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性を十分に考慮し、
 あらゆる国特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要であることを認めて、
 次のとおり協定した。(以下、省略)

(3)「人権教育のための世界計画」決議(仮訳)
(2004年12月10日無投票採択)
※我が国は共同提案国

国連総会は、
「人権教育のための国連10年」(1995年〜2004年)に関して、国連総会及び人権委員会によって採択された関連する決議を想起し、
第59回国連総会中の人権デー(2004年12月10日)に本会議をあてて、「人権教育のための国連10年」の成果を検討し、また、人権教育を強化するためのあり得べき将来の活動を討論することを決定した、2003年12月22日の国連総会決議58/181を想起し、
第59回国連総会が2005年1月1日から開始される人権教育のための世界計画を宣言するよう勧告した2004年4月21日の人権委員会決議2004/71に留意し、
特に初等教育への普遍的なアクセスを始めとして、国連ミレニアム宣言に含まれるものを含む、国際的に合意された開発目標を2015年までに達成するための国内的な努力を支援する国際的なレベルでの継続した行動の必要性を再確認し、
人権教育は、すべての者が他者の尊厳に対する寛容及び尊重並びに、すべての社会においてその尊重を確保する手段及び方法を学ぶ、長期的かつ生涯にわたるプロセスであることを確信し、
人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別又は区別もなしに、すべての者が評価され及び尊重される社会を発展させるとの観点から、人権教育は、人権及び基本的自由の実現のために重要であり、また、平等の促進、紛争及び人権侵害の予防並びに参加及び民主主義的なプロセスの強化に著しく貢献するものであることを確信し、
1.国際的なアジェンダの中で人権教育に優先的に焦点を当てることを確保するため、「10年」を超えて世界的な枠組みを継続する必要性に関して、国連人権高等弁務官による報告において、「人権教育のための国連10年」の成果及び不十分な点並びに人権教育の分野における将来の国連の活動について表明された見解に留意する。
2.すべてのセクターにおける人権教育プログラムの実施を促進するため、連続したフェーズからなり、2005年1月1日から開始される「人権教育のための世界計画」を宣言する。
3.事務総長報告に含まれているとおり、国連人権高等弁務官事務所及び国連教育科学文化機関が共同で準備した、「人権教育のための世界計画」の第1フェーズ(2005年〜2007年)行動計画草案に評価をもって留意するとともに、草案の早期採択のために、同草案に対するコメントを国連人権高等弁務官事務所に提出するよう各国に招請する。

2.我が国の人権に関する施策等の最近の動向について

平成7年(1995年)
 人権教育のための国連10年推進本部を設置
平成8年(1996年)
 「人権擁護施策推進法」が成立(5ヵ年の限時法)(参考資料2(1)参照)
平成9年(1997年)
・人権擁護推進審議会を設置
・人権教育のための国連10年推進本部の決定により「『人権教育のための国連10年』に関する国内行動計画」を策定(参考資料2(2)参照)
平成11年(1999年)
 「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」(人権擁護推進審議会答申)を公表(参考資料2(3)参照)
平成12年(2002年)
 「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が成立 (参考資料2(4)参照)
平成13年(2001年)
・「人権救済制度の在り方について」(人権擁護推進審議会答申)を公表
・「人権擁護委員制度の改革について」(人権擁護推進審議会諮問第2号に対する追加答申)を公表
平成14年(2002年)
 「人権教育・啓発に関する基本計画」を閣議決定により策定(参考資料2(5)参照)

(1)人権擁護施策推進法(平成8年法律第120号)(失効:平成14年3月25日)
(2)「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画(平成9年7月4日人権教育のための国連10年推進本部
(3)「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」(平成11年7月29日人権擁護推進審議会答申)
(4)人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)
(5)人権教育・啓発に関する基本計画(平成14年3月15日閣議決定)


資料(省略)

目次
1 平成16年度人権教育の指導方法等に関する調査研究実施要項
2 人権教育の指導方法等に関する調査研究会議委員名簿
3 人権教育の指導方法等に関する調査研究会議における審議の経過





HOME > 人権に関する資料 > 宣言・条約・法律