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あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則(国連被拘禁者人権原則)
1988年12月9日 国際連合第43回総会採択


 総会は、
 「あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則」を立案する作業を第6委員会に付託し、この目的のために幅広い作業部会を創設することを決定した1980年12月5日の決議35/177を想起し、
 総会の第43回会期中に会合を持ち、「あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則」の草案の立案を完了した作業部会の報告書に留意し、
 作業部会が、原則草案文を、検討と採択を求めるため、第6委員会に提出することを決定したことを考慮し、
 この原則草案の採択が人権の保護に重要な寄与をするものであることを確信し、
 この原則の正文が広く配付されることを確保する必要を考慮し、
1 「あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則」を承認し、本決議にその正文を添付し、
2 「あらゆる形の拘禁・受刑のための収容状態にある人を保護するための諸原則」草案についての作業部会に対し、原則の立案に重要な寄与をなしたことについての感謝の念を表し、
3 事務総長に対し、国際連合の加盟国あるいはその特別機関に対して、この原則の採択を通知するよう要請し、
4 この原則が広く知られ尊重されるようあらゆる努力がなされることを求める。

本原則の適用範囲
 以下の原則は、あらゆる形の拘禁又は受刑のための収容状態にあるすべての人の保護のために適用される。

用 語
 本原則においては、
(a) “逮捕”とは犯罪の嫌疑のため、もしくは官憲の行為により人を逮捕する行為をいう。
(b) “拘禁された者”とは、犯罪に対する判決の結果による場合を除き、人身の自由を奪われたすべての者をいう。
(c) “受刑者”とは、犯罪に対する判決の結果、人身の自由を奪われたすべての者をいう。
(d) “拘禁”とは、上記に定義された拘禁された者の状態を意味する。
(e) “受刑のための収容”とは、上記に定義された受刑者の状態を意味する。
(f) “裁判官等”とは、法に基づき、その地位及び在任資格によって、権限、公平及び独立性について最も強い保護が与えられている、裁判官等の官憲をいう。

原則1
 あらゆる形の拘禁又は受刑のための収容状態にあるすべての者は、人道的、かつ人間固有の尊厳を尊重して、処遇されなければならない。

原則2
 逮捕・拘禁・受刑のための収容は、法律の規定に厳格に従い、かつ、権限ある公務員又はその目的のために権限を与えられた者によってのみ行われなければならない。

原則3
 いずれかの国において、法律、条約、規則又は習慣によって認められ、又は存在する、あらゆる形の拘禁された者又は受刑者のための人権については、この原則がそれらの権利を認めていないこと、又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それら既存の権利を制限し又は侵害してはならない。

原則4
 あらゆる形の拘禁又は受刑のための収容、及びそのような状態にある人々の人権に影響を及ぼすすべての処置は、裁判官等により命じられるか、又はその効果的な監督のもとに置かれなければならない。

原則5
1 本原則は、国内のすべての人に対して、人種、皮膚の色、性別、言語、宗教もしくは宗教的信条、政治上もしくはその他の意見、民族もしくは社会的出身、財産、生れその他の地位など、いかなる種類の差別もなく適用されなければならない。
2 法律の規定に従い、婦人(なかんずく妊婦及び授乳中の母親)、子ども、少年、老人、病人及び障害者の権利及びその特別の地位を擁護することのみを目的とした方策は、差別とは看做されないものとする。このような方策の必要性とその実施は、たえず裁判官等によって審査されなければならない。

原則6
 拘禁された者又は受刑者は、拷問、残虐な取扱い、非人道的もしくは品位を傷つける取扱い又は処罰をうけない。拷問、残虐な取扱い、非人道的もしくは品位を傷つける取扱い又は処罰はいかなる場合にも正当化されない。

原則7
1 各国政府は、本原則に包合される権利・義務に反する行為をすべて法により禁止し、そのような行為に適切な制裁を課し、不服申立に対しては公平な調査を実施しなければならない。
2 本原則に違反する行為が行われたか、又は行われようとしていると信じるに足りる理由を有する政府職員は、これを上級機関及び、必要がある場合は、審査もしくは救済権限を与えられた他の適切な機関に報告しなければならない。
3 本原則に違反する行為が行われたか、又は行われようとしていると信じる根拠をもつ者は誰でも、その事実を当該公務員の上級機関ならびに審査、救済権限を与えられた他の適切な機関に報告する権利を有する。

原則8
 拘禁された者は、有罪判決を受けていない者としての地位にふさわしい処遇を受ける。従って、拘禁された者は、可能な場合は何時でも、受刑者とは分離されなければならない。

原則9
 人を逮捕、拘禁し、又は事件を捜査する機関は、法律によって与えられた権限のみを行使するものとし、その権限の行使については裁判官等の審査、救済の対象とされなければならない。

原則10
 逮捕された者は、逮捕の時に、逮捕の理由を告知され、又、自己に対するあらゆる被疑事実をすみやかに告知されなければならない。

原則11
1 何人も、裁判官等によりすみやかに自己の言分を聞いてもらう実効的な機会を与えられることなしに拘禁状態に置かれてはならない。拘禁された者は、自分で防禦し、又は法の定めにより弁護人(counsel)の援助を受ける権利を有する。
2 拘禁された者、及びもし弁護人がついている場合、その弁護人は、拘禁命令及びその理由につき、すみやかにそのすべての通知をうけなければならない。
3 裁判官等は、拘禁の継続が適切であるかどうかを審査する権限を与えられなければならない。


原則12
1 以下の事項は、正確に記録されなければならない。
(a) 逮捕の理由
(b) 逮捕の時間、並びに逮捕された者を身柄収容場所に連行した時間、及び最初に裁判官等の前に連行した時間
(c) 関係した法執行官の氏名
(d) 身柄収容場所に関する正確な情報
2 上記の記録は、拘禁された者、又は弁護人がついている場合はその弁護人に、法に規定された形式により通知されなければならない。

原則13
 何人も、逮捕された時及び拘禁・受刑のための収容の開始時、もしくはその後すみやかに、逮捕・拘禁・受刑のための収容を行う当局から、身柄を拘束される者の権利及び権利を具体的に行使する方法を、告知され、説明されなければならない。

原則14
 逮捕・拘禁・受刑のための収容を行う当局によって用いられる言語を十分に理解し、又は話すことができない者は、その者の理解する言語により、原則10、原則11の2項、原則12の1項、及び原則13に関する情報をすみやかに告知される権利を有し、逮捕に引き続く法律上の手続に関して、必要ならば無料で、通訳をうける権利を有する。

原則15
 原則16の4項及び原則18の3項に規定された例外の場合であっても、拘禁された者又は受刑者と外部、特に家族や弁護人との間のコミュニケーションは、数日間以上拒否されてはならない。

原則16
1 逮捕後すみやかに、そして拘禁・受刑のための収容の場所から移送があるたびごとに、拘禁された者又は受刑者は、家族もしくはその者の選択するその他の適切な者に、逮捕・拘禁・受刑のための収容の事実・移送の事実及び現在拘束されている場所を通知し、又は関係当局に対して通知するよう要求する権利を有する。
2 拘禁された者又は受刑者が外国人である場合は、その者が属する国又は国際法により通知を受ける権限を有する国の領事館又は大使館と、拘禁された者又は受刑者が難民又は国際機関の保護の下にある場合は、権限を有する国際機関の代表と、適切な方法で通信をする権利をも、すみやかに告知されなければならない。
3 拘禁された者又は受刑者が、少年又は自己の権利を理解する能力がない者である場合は、関係機関は、職権で、この原則の定める通知を行うものとする。両親又は後見人に通知することに、特別な注意が払われなければならない。
4 この原則の定める通知は、遅滞なく実施され、もしくは許可されなければならない。但し、関係機関は、捜査のために例外的な必要性がある場合には、合理的な期間、通知を遅らせることができる。

原則17
1 拘禁された者は、弁護人(legal counsel)の援助をうける権利を有する。拘禁された者は、関係当局により逮捕後、すみやかにその権利を告知され、権利行使のための適切な便宜を与えられなければならない。
2 拘禁された者が、自己の選任する弁護人をもたない場合には、司法的正義のために必要なすべての事件において、資力をない場合は無料で、裁判官等によって、弁護人を選任してもらう権利を有する。

原則18
1 拘禁された者又は受刑者は、自己の弁護人と通信し、相談する権利を有する。
2 拘禁された者又は受刑者は、自己の弁護人と相談するため、十分な時間と便宜を与えられる。
3 拘禁された者又は受刑者が、遅滞なく、また検閲されることなく完全に秘密を保障されて、自己の弁護人の訪問を受け、弁護人と相談又は通信する権利は、停止されたり制限されたりしてはならない。但し、法律又は法に従った規則に定められ、かつ裁判官等により安全と秩序を維持するために必要不可欠であると判断された例外的な場合を除く。
4 拘禁された者又は受刑者とその弁護人との接見は、法執行官が監視することはできるが、聴取することはできない。
5 本原則による、拘禁された者又は受刑者とその弁護人との間の通信は、拘禁された者又は受刑者に対する証拠としては許容されない。但し、それが継続的もしくは意図的犯罪と関係する場合を除く。

原則19
 拘禁された者又は受刑者は、外部の者特にその家族と面会、通信する権利を有し、外部社会とコミュニケートする十分な機会を与えられる。但し、法又は法に従った規則により定められた合理的な条件及び制限に従う。

原則20
 拘禁された者又は受刑者が要求した場合、可能なら、通常の住居に合理的に近い拘禁、受刑のための収容施設に収容される。


原則21
1 自白させ、その他自己に罪を帰せ、又は他人に不利な証言をさせることを強制するため、拘禁された者又は受刑者の状態を不当に利用することは、禁止される。
2 拘禁されている者は、取調べの間に、暴力、脅迫、又は決定能力や判断能力をそこなう方法での取調べを受けてはならない。

原則22
 拘禁された者又は受刑者は、その同意がある場合でも、健康を害する恐れのある医学的又は科学的実験を受けてはならない。

原則23
1 拘禁された者又は受刑者の取調べの時間及び取調べの間隔、取調べ担当官その他立会者の氏名は、法に規定された方式により記録され、証明されなければならない。
2 拘禁された者又は受刑者又は法により付された弁護人は、上記情報を入手(アクセス)することができる。

原則24
 拘禁された者又は受刑者に対しては、その者が拘束施設に収容された後できるだけ早期に、適切な医学的検査がなされなければならず、その後、必要な場合何時でも、医学的治療とケアが提供されなければならない。この治療とケアは、無料で提供される。

原則25
 拘禁された者又は受刑者又はその弁護人は、第三者の再度の、医学的検査を受け、意見を求めることを裁判官等に要求し、申立てる権利を有する。但し、収容施設の安全と秩序を維持するための、合理的な条件のみには従う。

原則26
 拘禁された者又は受刑者が医学的検査をうけた事実、医師の氏名及び検査の結果は、正しく記録されなければならない。これらの記録へのアクセスは、保障される。そのための手続は、各国法の関連法規に従う。

原則27
 証拠を得る上で本原則の各条項に違反した場合、そのことは、拘禁された者又は受刑者に対する当該証拠の証拠能力の決定において、考慮されなければならない。


原則28
 拘禁された者又は受刑者は、公的な資金による場合は、可能な財源の範囲内で、合理的な量の教育的、文化的又は情報を伝える資料を得る権利を有する。但し、収容施設の安全と規律を確保するための合理的な条件に従う。

原則29
1 関係法令の厳格な遵守を監督するため、収容施設は、定期的に、拘禁施設又は受刑のための収容施設の運営に直接責任を有する機関とは区別された権限を有する機関により任命され、その機関に責任を負う、資格と経験を有する者によって訪問されなければならない。
2 拘禁された者又は受刑者は、1項に従って収容施設を訪問する者と、自由に、かつ完全に秘密を保障された状態で対話する権利を有する。但し、施設の安全と規律を保持するための、合理的条件に従う。

原則30
1 拘禁又は受刑のための収容中に規律違反を構成する、行為の形態、科されうる懲罰の種類と期間、懲罰を科しうる機関は、法又は法に従った規則に明記され、正しく公表されなければならない。
2 拘禁された者又は受刑者は、懲罰が執行される前に弁解を聞いてもらう権利を有する。懲罰をうける者は、上級機関に対して、審査のための申立をする権利を有する。

原則31
 関係機関は、各国の法制に従い、拘禁された者又は受刑者の扶養家族、特に未成年者には、援助を保障するよう努め、保護なしに残された児童の適切な監護のためには特別な手段を尽さなければならない。

原則32
1 拘禁された者又はその弁護人は、何時でも、国内法に従い、裁判官等に、拘禁の合法性を争い、合法でない場合は直ちに釈放されるための申立をする権利を有する。
2 1項の申立手続は、簡易かつ迅速でなければならず、拘禁された者が無資力の場合は、無料でなければならない。拘禁当局は、拘禁されている者を、不当な遅延なしに、審査当局に出頭させなければならない。

原則33
1 拘禁された者又は受刑者又はその弁護人は、収容施設を管理する責任のある当局及びその上級機関に対して、必要がある場合は、審査並びに救済権限を有する適切な機関に対して、処遇、特に拷問その他の残虐な又は非人道的もしくは品位を害する処遇に関する要求又は不服の申立をする権利を有する。
2 拘禁された者又は受刑者又はその弁護人が、1項の権利を行使する可能性を有しない場合、その者の家族、又は事件に関し知識を有する者は誰でも、1項の権利を行使できる。
3 申立人が求めた場合、要求又は不服申立に関する秘密は、守られなければならない。
4 すべての要求又は不服申立は迅速に処理され、不当な遅延なしに返答されなければならない。要求又は不服申立が拒否され、又は不当に遅延した場合、不服申立者は、裁判官等に申立をすることができる。1項による要求又は不服申立をした者又は拘禁された者又は受刑者は、要求や不服申立を行ったために不利益を受けてはならない。

原則34
 拘禁された者又は受刑者が、拘束期間中に死亡したり、行方不明になった場合、その死亡または行方不明の原因の調査が裁判官等によって、職権により又は、家族もしくは事情を知った者の申立により、行われなければならない。死亡や行方不明が拘禁や受刑のための収容終了直後に発生した場合にも、状況によっては、同様の調査が同様の手続にもとづき行われる。このような調査の結果及びそれに関する報告は、進行中の犯罪捜査をあやうくする場合を除き、請求により提供されなければならない。

原則35
1 この原則に含まれた権利に反する公務員の作為又は不作為によって生じた損害は、各国法で規定された賠償責任に関する法令に従い、賠償されなければならない。
2 この原則により記録を要求されている情報は、国内法に定められた手続に従い、この原則の下に賠償を要求するために、提供されなければならない。

原則36
1 犯罪の嫌疑をうけて拘禁又は訴追されている者は、無罪と推定され、防禦に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判で、法に従い有罪と証明されるまでは、無罪として処遇されなければならない。
2 上記の者の逮捕又は捜査、公判終了までの拘禁は、法の定めた根拠、条件及び手続の下に、司法の執行の必要性のためにのみ行われる。
  上記の者に対する制限の強制は、厳格に拘禁の目的か、捜査過程への妨害の阻止か、司法の執行のために必要であるか、もしくは収容施設の安全と秩序を維持するため必要がある場合以外、禁止される。

原則37
 犯罪の嫌疑によって拘禁された者は、逮捕後すみやかに、裁判官等の前へ引致されなければならない。裁判官等は、遅滞なく、拘禁の合法性及び必要性につき判断しなければならない。何人も、裁判官等の書面による命令なくしては、捜査、公判終了まで拘禁されない。拘禁された者は、裁判官等の面前に引致された場合、拘束中にうけた処遇に関して意見を述べる権利を有する。

原則38
 犯罪の嫌疑によって拘禁された者は、合理的期間内に裁判を受けるか、又は公判終了までの間釈放される権利を有する。

原則39
 法に規定された特別の場合を除き、犯罪の嫌疑によって拘禁された者は、裁判官等が司法の執行のため別の決定をしないかぎり、公判終了までの間釈放される権利を有する。但し、法に従って付しうる条件に従う。裁判官等は、拘禁の必要性につき審査を続ける。

一般条項
 本原則は、市民的及び政治的権利に関する国際規約上の権利を制限又は侵害するように解釈されてはならない。


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