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「人権教育のための国連10年」長崎県行動計画


はじめに

 「人権教育のための国連10年」は1995年(平成7年)から、2004年(平成16年)を目標年として世界的に取組まれています。
 このような国際的流れを受けてわが国では、1997年(平成9年)に、憲法に定める基本的人権の尊重の原則、世界人権宣言の趣旨等に基づき、「人権教育のための国連10年」国内行動計画を策定しました。
 長崎県におきましても、豊かな心で人権が尊重される21世紀の社会をめざし、このたび、県における人権教育の取組を示した長崎県行動計画をまとめました。
 行動計画の策定にあたりまして、長崎県人権教育推進懇話会の委員の皆様をはじめ、多数の方々の御意見をいただきましたことを厚くお礼申しあげます。
 今後は県民一人ひとりが心のなかに人権の尊さを常に思い、人権が十分に認められていない人の痛みを見過ごさない姿勢などくりかえし学ぶことができるよう、本県の特性を活かしながら、市町村、関係機関、県民の皆様と一体となって、この行動計画を推進していきたいと存じます。

平成11年5月

長崎県知事 金子原二郎


目次

I 基本的な考え方

 1 策定の背景
 (1)国際社会での人権尊重の取組
 (2)国内での人権尊重の取組
 (3)長崎県での取組
 2 目標と基本方針
 (1)目標
 (2)基本方針
 3 性格

U 人権教育の現状と課題

 1 女性に関する問題
 2 子どもに関する問題
 3 高齢者に関する問題
 4 障害者に関する問題
 5 同和問題
 6 外国人に関する問題
 7 HIV感染者等に関する問題
 8 犯罪被害者に関する問題
 9 様々な人権問題

V 人権教育の推進

 1 人権尊重社会の創造
 2 あらゆる場における人権教育の推進
 (1)学校等における人権教育
 (2)社会教育における人権教育
 (3)団体・企業等における人権教育
 (4)その他一般社会における人権教育
 3 特定職業従事者に対する人権教育
 4 人材の養成と教材の開発・整備
 (1)人材の養成
 (2)教材の開発・整備
 (3)学習プログラムの開発
 5 啓発と情報提供
 (1)人権教育・啓発ネットワークの構築整備
 (2)啓発内容の充実
 (3)研修・啓発手法の拡充
 (4)情報提供の充実・強化
 (5)マスメディア等の積極的な活用
 6 国、市町村、団体、企業との連携
 7 国際協力の推進

W 行動計画の推進


I 基本的な考え方

1 策定の背景
(1)国際社会での人権尊重の取組
 今世紀、二度にわたる悲惨な世界大戦を経験した人類は、平和と人権の尊さを学び、世界の平和を願って1945年(昭和20年)に国際連合(国連)を結成しました。
 国連は、国連憲章で、基本的人権の尊重と人間の尊厳の不可侵を前文に掲げ、1948年(昭和23年)に、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として「世界人権宣言」を採択しました。
 以後、「世界人権宣言」の理念を実効あるものとするため、※「国際人権規約」をはじめ「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」など多くの人権に関する国際条約を採択するとともに世界人権会議や世界女性会議などの人権関係会議の開催や国際児童年、国際識字年、国際先住民年など重要テーマごとに国際年を設定し、人権が尊重される社会の実現に取り組んできました。
 しかし、世界各地では、依然として人種や宗教対立などによる民族紛争や地域紛争が多発し、生命財産の侵害、難民の発生、貧困層の拡大など人権をめぐる厳しい状況が続いています。
 このような状況の中で、1989年(平成元年)に個人やNGOなど非政府組織により「人権教育の10年組織委員会」が結成され、人権尊重活動が始められました。
 1993年(平成5年)には、ユネスコが開催した「人権と民主主義のための教育に関する国際会議」において、「人権と民主主義のための教育に関する世界行動計画」が採択され、同年、世界人権宣言45周年を機に、これまでの人権活動の成果を検証し、人権実現への実質的な進歩の達成を目的に、ウィーンで「世界人権会議」が開催されました。このウィーン会議では、「人権が国際社会の指導原理であること」、「現代社会の諸問題の解決には人権意識の徹底・人権教育が不可欠であること」などが確認され、「人権教育のための国連10年」の設定や「国連人権高等弁務官」の設置が提唱されました。
 このような経緯を経て、1994年(平成6年)に国連事務総長の下に、人権問題を総合的に調整する役割を担う「国連人権高等弁務官」が創設されました。
 次いで、同年12月の第49回国連総会で、1995年〜2004年(平成7年〜平成16年)の10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議が採択されるとともに「人権教育を推進することによって、世界のあらゆる地域において、※人権という普遍的文化の創造を目指す」具体的プログラムとしての行動計画が報告され、世界各国において人権教育を積極的に推進するよう求めました。

 この行動計画では、人権教育を、「知識と技術(技能)の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修(学習)、普及及び広報努力」と定義しています。
 また、国連総会決議においては、「あらゆる発達段階の人々、あらゆる社会層の人々が、他の人々の尊厳について学びまたその尊厳をあらゆる社会で確立するための方法と手段について学ぶための生涯にわたる総合的な過程を構成すべきである」と述べられています。
 そして、人権教育により、
 @ 人権と基本的自由の尊重の強化
 A 人格及び人格の尊厳に対する感覚の十分な発達
 B すべての国家、先住民、及び人種的、民族的、種族的、宗教的及び言語的集団の間の理解、寛容、ジェンダー(社会的・文化的につくられた性別)の平等並びに友好の促進
 C すべての人が自由な社会に効果的に参加できるようにすること
 D 平和を維持するための国連の活動の促進
を目指すとされています。

※「国連人権規約」とは、以下の規約
 1.「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」略称A規約、「社会的基本権」といわれます。教育を受ける権利、社会保障を受ける権利、労働に関する権利等が規定されています。
 2.「市民的及び政治的権利に関する国際規約」略称B規約、「自由権的基本権」といわれます。生命に関する権利、思想・良心・信教の自由、言論の自由、集会・結社の自由等が規定されています。
※人権という普遍的文化(人権文化)とは、
  一人一人が人権尊重の態度を習慣として身につけ、仕事や日常生活において実践することが当たり前となっているような社会の在り方。

(2)国内での人権尊重の取組
 我が国は、憲法がすべての国民に保障する基本的人権の確立と擁護を図るため、各分野において種々の施策を推進するとともに、国際社会の一員として、1955年(昭和30年)の「婦人の参政権に関する条約」をはじめ、「国際人権規約」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」等これまで多くの人権に関する条約に加入し、その具体的な取組を進めてきました。
 特に近年は、福祉問題や女性問題などの政策において、※「リハビリテーション」や※「ノーマライゼーション」、※「バリアフリー」、※「男女共同参画社会」など人間としてお互いの尊厳を守るという人権尊重の立場に立った理念が生まれてきました。
 しかし、我が国の社会には、依然として同和問題をはじめとする様々な人権問題が存在しています。
 1996年(平成8年)の地域改善対策協議会意見具申では、「今や、人権の尊重が平和の基礎であるということが世界の共通認識になりつつある。このような意味において、21世紀は『人権の世紀』と呼ぶことができよう。」と述べています。そして、我が国が国際社会の一員として世界各国との連携、協力の下に積極的役割を果たしていくことが枢要な責務であるとの認識を示し、さらに、「国際社会における我が国の果たすべき役割からすれば、まずは足元とも言うべき国内において、同和問題等様々な人権問題を一日も早く解決するよう努力することは、国際的な責務である。」と述べています。
 国においてはこうしたことを受け、1997年(平成9年)3月、人権尊重のための教育・啓発並びに人権侵害を受けた被害者の救済に関する施策の推進を国の責務とする、「人権擁護施策推進法」を施行しました。
 現在、同法に基づいて設置された、「人権擁護推進審議会」において、「人権教育・啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」及び「人権侵害の被害者救済に関する事項」について、審議が進められており、同和問題をはじめとする人権問題の解決に向けた答申が期待されます。
 また、「人権教育のための国連10年」の推進については、1995年(平成7年)12月、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年」推進本部を設置し、1997年(平成9年)7月「国内行動計画」を策定し公表しました。
 この行動計画は、
 @ あらゆる場を通じた人権教育の推進
 A 人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進
 B 人権教育を進めるに当たって、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人等の重要課題に積極的に取り組むこと
 C 地方公共団体、民間団体等がそれぞれの分野において様々な取組を展開することを期待するとしています。
 推進本部は、この国内行動計画に掲げられた諸施策の着実な実施等を通じて、人権教育の積極的推進を図り、もって、国際的視野に立って一人一人の人権が尊重される、真に豊かでゆとりのある人権国家の実現を期するものとしています。

※「リハビリテーション」とは、
  単に医学的な機能回復訓練にとどまることなく、医学的、教育的、職業的、社会的な 幅広い分野で、ライフステージのすべてにわたって、障害者が人間としての尊厳を回復 し、生きがいをもって社会に参加できるようにすることを目的とする援助の体系。
※「ノーマライゼーション」とは、
  障害者や高齢者など社会的不利を負いやすい人々が、社会の一員として存在することが通常の社会であり、そのあるがままの姿で他の人々と同等の権利を享受できるようにするという考え方や方法。
※「バリアフリー」とは、
  人工的に作られた物理的障壁(バリア)と障害者や高齢者などハンディキャップを持つ人に対するあらゆる社会的障壁を除去(フリー)しようとする考え方。
※「男女共同参画社会」とは、
  男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会。

(3)長崎県での取組
 長崎県では、日本国憲法で定められている基本的人権を尊重し、明るく住み良い社会をつくるため諸施策を推進していますが、いまだ、我が国固有の人権問題である同和問題をはじめ、女性、子ども、高齢者、障害者等の人権にかかわる問題が発生しており、人権意識の高揚は、豊かな県民生活を実現するために重要な課題となっています。
 「人権教育のための国連10年」国連行動計画では、人権教育により人権が尊重され擁護される社会、また、人権を尊重する意識が文化にまで高められた社会を築くため、
 @ あらゆる場・あらゆる機会を通じて、「人権」についての知識の普及、技術・技能の修得等のための、訓練・研修(学習)・広報・情報提供努力等を積極的に行うことや、
 A 一人一人がその生涯にわたって、人権教育に参加すること(学習すること)ができるようにすることを各国に求めています。
 本県においても、国連行動計画や国内行動計画等で示された人権教育に関する基本的考え方の趣旨に沿って、人権教育を「県民一人一人が人権に関する正しい知識を習得し、自分で考え判断し話し合って問題を解決する技術・技能を培い、これを日常の態度として身につけるための教育、また、すべての県民がその生涯にわたって参加できるよう、あらゆる場・あらゆる機会をとらえて行われるものである。」ととらえ、国際的流れや国内的推進と協調して積極的に推進するため、「人権教育のための国連10年」長崎県推進本部を設置し、長崎県行動計画を策定することとしました。

2 目標と基本方針
(1)目標【温もりと心の豊かさが実感できる社会の実現】
 人権とは、すべての人が生まれながらに持っている、人間らしく生きていくために必要な、だれからも侵されることのない基本的権利です。
 すべての人々の個人としての尊厳が守られ、基本的人権が尊重されることは、私たちの社会生活の基礎をなすものであり、個人の個性と能力が十分に発揮できる社会の基礎的条件です。そして、人権尊重社会を実現する担い手は、すべての社会を構成するあらゆる人々です。
 したがって、国、市町村、団体、企業等と連携協力し、人権教育を、学校や職場、家庭、地域社会等あらゆる場・あらゆる機会をとらえて効果的に推進する必要があります。
 また、県民一人一人がそれぞれの家庭生活や地域社会生活、学校生活、職場生活などのあらゆる生活場面において、個人として、職場や社会の一員として生涯にわたって人権教育に参加することができるよう人権教育を効果的、積極的に推進する必要があります。

 本行動計画では、県民一人一人の基本的人権が尊重され、個人の能力が十分に発揮できる社会、ゆとりや楽しさ、温もりと心の豊かさが実感できる社会の実現を基本として、県民一人一人が人権尊重の態度を習慣として身につけ、仕事や日常生活において実践することが当たり前となっているような人権尊重社会を築くことを目標とします。

(2)基本方針
 戦争は、最大の人権侵害であり、二度にわたる悲惨な世界大戦を経験した人類は、国際連合を結成し世界人権宣言を採択、人権尊重こそが平和の基礎であることを基本に人権尊重の取組がなされてきました。今や「人権のないところに平和は存在し得ない」、「平和のないところに人権は存在し得ない」というのが世界の共通認識となっています。
 世界人権宣言には、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない(第1条)」と規定しています。
 日本国憲法においても、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない(第11条)」と規定し、さらに「この憲法が国民に保障する自由及び権利は国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない(第12条)」と、自由・権利の保持責任を述べています。
 世界に類例のない被爆体験を持つ本県は、核兵器の廃絶と恒久平和の実現を目指し「自由と平和の尊厳に関する長崎県宣言」を1990年(平成2年)12月17日宣言し、以来これまで、世界に向かって核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現を訴え続けてきました。

 しかし、世界各地においては、今なお依然として、人種、民族、宗教をめぐる様々な人権問題があります。
 また、国内、県内においても、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題など様々な人権問題が生じています。
 個々の価値観の多様化や少子高齢社会の進展など、社会構造の変化や人権意識の拡張など人権問題をめぐる状況はますます複雑多様化してくることが予想されます。
 21世紀を「人権の世紀」とすることは、世界の多くの人々に共通する願いです。人種、民族、宗教をめぐる問題や環境問題など地球規模の課題への対応が一人一人に対しても求められてきており、多文化との共生や自然との共生を図るためにも、世界の中の日本、世界に生きる自分という地球規模の視点で考え自分にできることを具体的に地域社会の中で行動することが重要です。
 そこで、本県における人権教育を次により積極的に推進します。
 @ 人権が尊重され温もりと心の豊かさが実感できる社会の実現のためには、一人一人の個性を尊重し、様々な文化や多様性を認め合うことが大切であり、人権の尊重と確立は、人類普遍の原理であり、人間の自由と平等に関する基本的な課題であるとの認  識に立って人権教育を推進します。
 A 県民一人一人が自らの課題としてあらゆる機会を通じ、また、生涯にわたって自発的に人権教育に参加し、人権問題を正しく理解し、人権尊重の精神を身につけ、仕事や日常生活において実践するよう、人権尊重社会を醸成するよう推進します。
 B その際、国、市町村、民間団体等との十分な連携・協力のもとあらゆる場あらゆる機会をとらえ人権教育を推進します。
 C また、県民一人一人の人権の尊重の実現に深いかかわりをもつ公務員、教職員、警察官、医療関係者、福祉保健関係者等に対する人権教育を推進します。

3 性格
 @ この行動計画は、第49回国連総会で採択された「人権教育のための国連10年」に係る「国連行動計画」及び1997年(平成9年)7月に公表された「国内行動計画」の実現を目指し、本県が今後実施すべき人権教育についての基本方針を明らかにし、具体的施策の方向を示すものです。

 A この行動計画は、県の様々な施策における諸計画に対して、人権教育に関する基本計画としての性格を有するものとします。

 B 今後、県政の推進に当たっては、この計画の趣旨を踏まえて、諸施策の点検を行い、常に人権の視点を持って当たるよう十分に配意するものとします。

 C 市町村をはじめ県内の公的団体、マスメディア、企業、地域等で活動する民間の諸団体においても、「人権教育のための国連10年」及びこの行動計画の趣旨を踏まえた自主的な人権教育の取組を期待し、その指針になるものとします。

 D この行動計画の目標年次は、2004年(平成16年)とします。

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U 人権教育の現状と課題

 本県においては、県民一人一人の人権が尊重され、差別のない明るい社会を築くため、学校や地域社会、職場等で、女性や子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人等に関する人権問題等について様々な人権教育に取り組んできました。これにより、県民の人権問題への関心も高まり、正しい理解と認識が深められてきています。
 しかしながら、これまでに人々の意識の中に長い時間をかけて形作られてきた、性別に基づく固定的な役割分担意識など女性に対する差別によって生じる女性問題が家庭・職場・地域の中にいまだに残存しており、男女平等は確立されていないのが現状です。また、子どもにとって生きる力に大きく影響を与えるいじめは後を絶たず、子どもへの虐待の増加、子どもが巻き込まれる犯罪等深刻さを増してきています。
 高齢化の進展の中で、高齢者の尊厳が十分尊重されていない状況も見受けられます。また、いまだ、障害者への偏見や障害者が社会参加する場合の障壁は大きいものがあります。
 同和問題に対する県民意識は低く、結婚問題や、日常生活における差別意識も根深く存在しています。
 外国人に対するアパート等の入居制限、教育、雇用における制約等も見られます。また、HIV感染者等に対する偏見、犯罪被害者の人権問題等様々な人権問題が存在しその課題への対応が求められています。
 このように本県を含め日本社会には、いまだ、集団と異なる文化、習慣、立場、行動を異質なものとして容易に受け入れないという精神的風土や同質なものの中にも序列を作り出そうとする意識が根強く残っています。
 一部には非科学的な因習や慣習にとらわれるなどの側面があります。
 これらが、社会的に弱い立場の人や少数者に対する、偏見や差別を生んでいる背景であるといわれています。
 社会的に弱い立場の人や少数者の立場を尊重するとともに、さらにその人たちの※エンパワーメントを支援していくことは、活力のある共生社会の実現からもますます重要です。
 さらに、近年、価値観の多様化や個人の権利意識の高まりにより人権問題がクローズアップされるとともに、国際化や高度情報化、科学技術の進展に伴いインターネットによる人権侵害など新たな人権問題が発生しています。
 今後は、これらを十分に踏まえ、県民一人一人の人権や個性が尊重され、それぞれの能力が十分に発揮される、温もりと心の豊かさが実感できる社会の実現を基本にとらえ、それぞれの固有の問題点についての取組とともに、法の下の平等、個人の尊重という普遍的視点からの取組を積極的に推進することとします。その際、「リハビリテーション」や「ノーマライゼーション」、「バリアフリー」、「男女共同参画社会」等共生社会に向けた新たな理念について常に追求することとします。

※「エンパワーメント」とは、
  本来は「力をつける」という意味。自らの社会的立場と権利を自覚し、自己主張を始め、自らを変革するために立ち上がる力を付けていく過程と、そのための働きかけ。

1 女性に関する問題
(1)経過
 国連は、1946年(昭和21年)に婦人の地位委員会を設置し、男女平等実現に向けての活動を続けてきました。しかしながら、事実上の平等の歩みは遅く、人口の半数を占める女性の能力が十分に活用されていないとの認識を背景に女性の地位向上を目指す世界的規模の活動を行うため、1975年(昭和50年)を「国際婦人年」とすることを決定しました。以降、女性問題の解決に向けた取組が世界的規模で展開されることになりました。1976年(昭和51年)〜1985年(昭和60年)を「国連婦人の十年」と設定し、1979年(昭和54年)には「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」を採択しました。
 1995年(平成7年)北京で開催された「第4回世界女性会議」で採択された「行動綱領」において、「女性の教育と訓練」、「女性に対する暴力」、「権力及び意思決定における女性」及び「女性の人権」などの重要テーマに関して各国が積極的な行動をとるよう要請しました。
 国内では、国際婦人年に開催された世界会議で採択した「世界行動計画」を受けて、1975年(昭和50年)9月、総理府に「婦人問題企画推進本部」(本部長内閣総理大臣)を設置、1977年(昭和52年)1月には、以後10年間の課題と施策の方向性を示した「国内行動計画」を策定しました。
 1985年(昭和60年)6月、「女子差別撤廃条約」を批准しましたが、それに先立ち、父系血統主義から父母両系血統主義への「国籍法」の改正、雇用における均等な機会と待遇を確保するための「男女雇用機会均等法」が制定されるなど、国内法の整備が行われました。
 1994年(平成6年)「男女共同参画推進本部」設置、1996年(平成8年)12月「男女共同参画2000年プラン」策定、翌年3月には「男女共同参画審議会設置法」が制定され、男女共同参画社会づくりに向けての推進体制が拡充されました。
 本県においても、1978年(昭和53年)に、「婦人問題懇話会」を設置し、その提言を受けて、1980年(昭和55年)3月、「生きがいを育てる長崎県の婦人対策」を策定し、女性関係施策の指針としました。
 その後、女性を取り巻く社会環境も著しく変化しており、1990年(平成2年)3月、21世紀を展望した「2001ながさき女性プラン」を策定、1994年(平成6年)4月には、一部改定を行い、総合的、効果的な女性関係行政の推進に努めてきました。

(2)現状と課題
 近年、経済の発展や国際化、高学歴化、平均寿命の伸びなどにより、女性を取り巻く環境が大きく変化しており、女性自身の考え方、生き方、暮らし方も大きく変わりつつあります。
 男女雇用機会均等法等の制定など法律や制度面の整備が図られ、男女の平等がかなりの程度達成されたようにみえますが、しかし、現実には「家事・育児・介護」は、女性が担っている状況であり、「募集、採用、配置、昇進など、就職や職場における男女の差」はなかなか解消されず、「政策・方針決定の場への女性の参画」も少ないなど、実質的な男女平等は確立されていないのが現状です。
 さらに、高齢化、少子化の進展や経済構造の転換が進む中で、労働力人口問題、個々人の生活の質的向上、あるいは地域活動の活性化など、社会のあらゆる分野で女性と男性が社会を構成する対等な相手として、それぞれの個性と能力を十分に発揮し、協力し合いながら活躍できるよう、男女共同参画への条件整備が求められてきています。

(3)具体的施策の方向
 本県においては、男女の人権が等しく尊重され、社会参加意欲にあふれた女性が自らの選択によって生き生きと活躍でき、男性も家庭や地域で人間らしい生き方を楽しめる「男女共同参画社会」の実現を目指した「2001ながさき女性プラン」に基づき、女性問題の解決に取り組んでいます。
 プランは21世紀成熟社会への男女共同参画社会を目指し、
 @ 男女平等を基本とした教育・啓発の推進
 A 男女共同参画社会を目指す条件整備
 B 高齢社会への対応と福祉の向上
 C 母性の保護と健康の増進
 D 就労環境条件の整備と向上
以上の五つの基本目標を掲げ、県の関係部局が一体となって推進しています。今後、男女共同参画社会づくりをより一層推進するため、1999年度(平成11年度)末までに、現在のプランを社会経済情勢の変化に対応したプランに改定を行うこととしています。
 改定に当たっては、
 @ ※ジェンダーにこだわらない視点に立っての社会制度等の見直しや、意識の改革
 A 性犯罪、※セクシュアル・ハラスメント等女性に対するあらゆる暴力の根絶
 B メディアにおける女性の人権の尊重
 C 生涯を通じた女性の健康支援
などについて十分配慮し、温もりと心の豊かさが実感できる社会の実現を目指し、男女平等をはじめとする人権尊重の意識を深く根づかせるための教育・啓発活動を推進します。

※ジェンダーとは
  「性」には、生物学的な機能や生殖能力に基づく性であるセックスと、社会的・文化的につくりあげられてきた性であるジェンダーがあり、「男らしさ」「女らしさ」は、性 別に固有のものではなく、社会制度や文化・歴史の中でつくられたもの。
  「男は仕事、女は家事・育児」という考え方は、ジェンダーそのものであり、男女差別や女性の自立を阻害する重大な要因ともなっている。
※セクシュアル・ハラスメントとは
  相手の意に反した性的な性質の言動で、身体への不必要な接触、性的関係の強要、性的なうわさの流布、衆目にふれる場所へのわいせつな写真の掲示など、様々な態様のものが含まれる。
  特に雇用の場においては、「相手の意に反した、性的な性質の言動を行い、それに対する対応によって、仕事をする上で一定の不利益を与えたり、又はそれを繰り返すことによって就業環境を著しく悪化させること」と考えられている。

2 子どもに関する問題
(1)経過
 国連は、1989年(平成元年)に「児童の権利に関する条約」を採択しました。
 この条約は、「国は子どもの最善の利益を第一義的に考慮しながら、子どもの人権尊重と権利実現のためにあらゆる措置をとる」こととされているもので、日本は1994年(平成6年)に批准しています。
 国においては、1994年(平成6年)に文部・厚生・労働・建設各大臣の合意のもとに、「今後の子育て支援施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が策定されました。
 また、1997年(平成9年)には子育てしやすい環境の整備を図るとともに、次代を担う児童の健全な育成と自立を支援するため、児童福祉法の改正が行われました。
 教育の在り方については、中央教育審議会が1996年(平成8年)の第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方」で、「ゆとりの中で子どもたちに生きる力をはぐくんでいくことが基本である」と述べています。1998年(平成10年)には「新しい時代を拓く心を育てるために」と題して答申がなされるとともに、教育課程審議会の答申がなされ、今後の教育の具体的な展望が示されました。
 本県においても、1994年(平成6年)に設置した「長崎県子どもの環境づくり推進協議会」において、子どもが健やかに生まれ育つための環境づくりについて、「子どもの側」と「親の側」の両面から検討が進められ、1996年(平成8年)に提言がなされました。これをふまえ、1997年(平成9年)に、福祉、保健、医療、教育、雇用、生活環境等の分野で子どものための環境づくりと子育て支援を総合的・計画的に推進するため「ながさきエンゼルプラン」を策定しました。

(2)現状と課題
 近年少子化や核家族化の進行、経済の成長、交通・情報通信システムの急速な整備など、様々な分野において、大きな変化が遂げられる中で、家庭や地域社会の教育力が低下し、子どもたちの教育環境、家庭を取り巻く環境も大きく変化しています。
 高等学校、大学への進学率は上昇し、体格の向上、様々な文化を受け入れる柔軟な考え方がみられる反面、ゆとりのない生活、生活体験、自然体験や社会性の不足、過保護過干渉による自立の遅れ、倫理観の問題、薬物乱用等、憂慮すべき状況にもあります。
 また、いじめは、児童生徒の心身に大きな影響を及ぼす深刻な問題であり、人間として許されない行為です。不登校の問題も依然深刻です。
 さらに刑法犯罪の増加、家庭内における子どもへの虐待の増加等、子どもの人権にかかわる事例は、深刻さを増してきています。
 このように子どもをめぐる状況が厳しい中で、学校・家庭・地域社会は十分に連携を図りつつその役割を果たすことが求められます。
 21世紀を生きる子どもたちには、豊かな人間性、正義感や公正さを重んじる心、生命を大切にし、人権を尊重する心、他人を思いやる心を培わなければなりません。

(3)具体的施策の方向
 子どものための環境づくりと子育て支援を「ながさきエンゼルプラン」に基づき、総合的・計画的に推進していきます。
 @ 「児童の権利に関する条約」の基本精神を尊重し、子どもを「保護の対象」だけでなく「権利の主体」としても位置づけて、子どもの年齢や成長度合いに応じて子どもの意見を聞く姿勢を大切にするため「子どもの意見(人権)を尊重する社会づくり」を推進します。
 A 一人一人を大切にする教育の推進を図ります。
 B 子どもの健全な成長を願い、いじめ、虐待、暴力、買春等不当な扱いから子どもを守るための啓発活動を展開するとともに、また青少年の犯罪行為の未然防止に努めます。
 C 子どもの虐待事例の早期発見・防止・解決に努めるなど子育て家庭への支援活動を行い、「子どもへの虐待防止マニュアル」も活用し虐待事例に対しては効果的な解決を図ります。
 学校・家庭・地域社会の連携を深めながら、
 D 心の教育の充実を図ります。
 E 家庭教育子育て支援体制の整備、親子の交流体験活動の充実を図ります。
 F PTA活動の活性化などをとおして家庭・地域の教育力の向上を図ります。
 G 長崎県少年保護育成条例、長崎県テレホンクラブ等営業の規制に関する条例の周知を図るとともに適正な運用に努めます。

3 高齢者に関する問題
(1)経過
 我が国は、世界に例を見ない速さで高齢化が進行しており、今後も出生率の低下や平均寿命の伸長によって※高齢化率は更に上昇し、2000年(平成12年)に世界最高の17%台、2025年(平成37年)には、27%台になると見込まれています。
 本県は、全国平均を約5年先行した形で高齢化が進んでおり、1998年(平成10年)10月現在の高齢化率は、19.6%(300千人)で、2000年(平成12年)に、20.7%(315千人)、2025年(平成37年)には、31.2%(397千人)に達するものと推計されています。
 この人口の高齢化を高齢者だけの問題としてとらえるのではなく、保健・医療・福祉・雇用・年金・教育など、高齢社会に対応した社会経済システムを築き上げるとの観点から施策の推進を図ることが必要であり、また、県民すべてが高齢社会を自分たちの問題として、理解し認識を持つことが必要です。
 とりわけ、急増する高齢者に対する施策は重要な課題であり、これまでの保健・医療・福祉を中心とした施策から、教育・文化・経済・労働・住宅等を含めた幅広い分野での対応が求められています。また、その対応は個々人の自助努力はもとよりそれを支える家庭・地域社会・企業・行政等が相互に役割を分担し、協力し合って推進することが必要です。
 このため、本県においては、1990年(平成2年)12月、県民一人一人が「健康で長寿を喜び合える、明るく活力ある郷土づくり」を目標に、総合的かつ効果的に各種施策を推進するための指針として、「長崎県長寿社会対策大網」を策定しました。
 併せて、本大綱を踏まえ、1991年度(平成3年度)から2000年度(平成12年度)までのおおむね10か年に推進すべき施策の目標を定めた「長崎県長寿社会対策推進長期計画プラン2000」を作成し、計画的に推進しているところです。
 また、1993年度(平成5年度)には、1999年度(平成11年度)までを計画期間とする「長崎県老人保健福祉計画」を策定し、どこでも、だれでも必要な保健福祉サービスを利用できるよう、サービスの供給体制の整備を推進しているところですが、現行の「長崎県老人保健福祉計画」は、介護保険制度の事業計画との整合性を図り、2000年度(平成12年度)を初年度として見直すことにしています。

(2)現状と課題
 現在、本県では65歳以上の高齢者のいる世帯の約半数が高齢単身世帯や高齢二人世帯であり、かつ、高齢者のうち、特に75歳以上の後期高齢者の増加に比例し、寝たきりや痴呆性高齢者が増加してきていることから、今後、家族で支えきれない要介護(援護)高齢者が増加していくことが予測されます。
 特に、農山漁村においては若年層の流出とともに高齢化の進展が著しく、農林水産業の停滞や地域の活力の低下が生じています。
 このようなことから、介護を社会全体で支えること等を目的に、2000年度(平成12年度)から介護保険が導入されますが、介護保険は、従来の行政処分としての福祉の措置ではなく、介護サービスを契約によって利用する制度であり、自分で利用するための契約ができない人、例えば、痴呆性高齢者の方々の介護を受ける権利をどのようにして擁護していくのか、という問題が指摘されています。
 さらに、高齢者の財産管理や遺産相続に絡むトラブルや老人虐待などの人権侵害の問題も発生しており、高齢者の人間としての尊厳の確保、プライバシーの保護など十分な配慮を含め制度上の課題も生じています。
 現在、法務省において、痴呆性の高齢者であっても、本人の自己決定権を尊重しつつ保護の充実を図ることを目的として、成年後見制度の改正が検討されており、介護保険と同時に、2000年度(平成12年度)からの施行が予定されています。
 また、その他、1999年(平成11年)は、国連で議決された国際高齢者年であり、高齢者の「自立」、「参加」、「ケア」、「自己実現」、「尊厳」の原則を促進し、「すべての世代のための社会」を目指して、施策を推進することが求められています。

(3)具体的施策の方向
 今後の「長崎県老人保健福祉計画」の実施及び見直しに当たっては、国際高齢者年の原則をも踏まえ、次の点に留意し推進することとします。
 @ 2000年度(平成12年度)から実施される介護保険は従来の福祉の措置制度から、社会保険方式に転換するものであり、高齢者は自らの意思に基づき選択した最適のサービスを受けることが可能となります。
  ア 介護(援護)を要する高齢者については、必要なサービスをどこでも受けられるよう、サービス提供の基盤整備を更に推進します。
  イ 介護保険の給付対象とならない、ある程度元気な高齢者については、地域社会の重要な一員として今までの経験を生かした社会(貢献)活動が期待されており、高齢者が主体的に参加できるための環境の整備、高齢者自身の生きがいと寝たきり等にならないための健康づくりに資する施策を推進します。
 A 高齢者への虐待、人権侵害等の問題については、長崎県高齢者総合相談センターにおいて、弁護士による専門相談のほか、市町村・福祉事務所等でも相談に応じていますが、介護保険導入に向け、さらに関係機関との連携を図り総合相談センターの相談機能の充実を図ります。
 B 高齢者の尊厳を保障するため、高齢者自らが決定する権利を行使できる高齢者保健福祉施策を推進します。
 C 高齢者の雇用については、多様な形態による雇用・就業の促進、65歳までの継続雇用制度導入の推進に努めます。
 D 農山漁村においても重要な担い手である高齢者が、個々の体力や能力に応じて、生産やくらしの中で長年培ってきた豊かな経験、技術をいかして生涯にわたりかかわることができる条件整備を進めます。
 E 学校教育においては、福祉ボランティア活動を推進し、高齢者との交流の機会を推進していきます。
 F 共生の理念を具体化するため高齢者が住み慣れた地域社会や家庭で生活できる施策を推進していくことを、今後の施策の基本とします。

※高齢化率とは、
 総人口に対する65歳以上人口の占める割合

4 障害者に関する問題
(1)経過
 障害者の人権については、1993年(平成5年)に制定された障害者基本法では、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」とともに、「社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるもの」と規定されています。
 国においては、1993年(平成5年)3月に「障害者対策に関する長期行動計画」を決定し、ライフステージのすべての段階において全人間的復権(権利の回復、獲得)を目指す「リハビリテーション」と、障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念の下、すべての人の参加によるすべての人のための平等な社会づくりを推進していくこととしており、更にその重点施策実施計画として、1995年(平成7年)に「障害者プラン」を策定し、7つの視点から総合的、横断的に取り組み、関係省庁が連携協力して施策を効果的に推進していくこととしています。
 本県では、国と歩調を合わせ、1995年(平成7年)3月に「長崎県障害者福祉に関する新長期行動計画」を策定し、更にその重点施策実施計画として1997年(平成9年)3月に「長崎県障害者プラン」を策定しました。

(2)現状と課題
 1993年(平成5年)に開催した長崎県心身障害者対策協議会専門部会では、「偏見と差別の克服には、教育と啓発、特に教育に負うところが多い」、「人権については、日本は弱い部分であり、一貫した生涯教育でなければならない」等の意見が出されています。
 障害者の「完全参加と平等」を実現するためには、一般の人々が、障害者も他の人々と同等の権利を持っていることを正しく理解することが何よりも大切なことであり、障害者に対する県民の理解を深めるための啓発・広報活動や障害者福祉に関する情報の提供に努めていく必要があります。
 また、障害者の社会参加は、職業を通じて行うことが基本です。しかし、就業に当たって障害者であることでの障壁があり、また、障害者雇用率未達成の企業等もいまだあるところから、障害者雇用の促進については、雇用の場等の拡大を図る必要があります。

(3)具体的施策の方向
 長崎県障害者プランに基づき、障害及び障害者についての偏見や無理解の解消及び物理的な障壁の除去のための施策、並びに社会的自立を促進するための施策等を実施し、障害者が温もりと心の豊かさを実感できる社会づくりに努めます。
 この外、長崎県障害者プランでは、障害のある者も障害のない者も共に生活するための具体的施策を、リハビリテーションの理念、並びにノーマライゼーションの理念を基に、福祉、保健、教育、労働、土木等関係部局において横断的に実施していくこととしています。

 具体的に次の項目について取り組んでいきます。
[障害及び障害者についての偏見や無理解の解消、及び物理的な障壁の除去のための施策]
 @ 障害者への理解を深めるため、盲・聾(ろう)・養護学校と小中高等学校、特殊学級と校内他学級との交流教育などを推進するとともに、学校における奉仕活動等ボランティア教育を推進します。
 A 障害者への生活支援を厚みのあるものにするためボランティア活動の振興、拠点施設の整備等を図ります。
 B 「障害者の日」(12月9日)、「障害者週間」(12月3日から12月9日)を通じて障害者についての理解を促進するためイベントを開催するなど障害者団体と連携して、県民に対する広報活動を展開します。
 C 精神障害者に対する誤解や偏見が、回復途上の精神障害者の地域での自立や就労の促進、社会復帰施設の整備等に当たって大きな阻害要因とならないよう、地域住民に対する正しい認識の普及や施設と地域住民との交流を推進します。
 D 障害者の活動の場をひろげ、自由な社会参加が可能となる社会にしていくため、様々な施策を組み合わせ、道路・駅・建物等、生活環境面での物理的な障壁の除去(バリアフリー)に積極的に取り組みます。
   特に、長崎県福祉のまちづくり条例の周知と実施に努めます。
[社会的自立を促進するための施策]
 @ 障害の特性に応じたきめ細かい教育体制を確保するため、障害のある子どもたちに対する教育や教育に関する相談体制の充実を図ります。
 A 障害者がその適性と能力に応じて、可能な限り雇用の場に就き、職業を通じて社会参加ができるようにするため、法定雇用率達成のための雇用対策の推進等を実施します。

5 同和問題
(1)経過
 同和問題は、日本国民の一部の人々が近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという最も深刻かつ重大な社会問題です。
 1965年(昭和40年)、同和対策審議会は、「同和問題は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である。その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題であるとの認識に立ち、あるべからざる差別の長い歴史の終止符が一日も速やかに実現されるよう万全の処置をとられること」とした答申を行いました。
 国はこの答申を受け、1969年(昭和44年)、同和対策事業特別措置法を制定し、その後二度の新規立法措置と三度の法改正を経て、今日まで生活環境改善や啓発活動等関係諸施策を推進してきました。
 本県においても、1978年(昭和53年)6月、「長崎県同和対策基本方針」を、翌1979年(昭和54年)11月、「長崎県同和対策長期計画」を策定し、全日本同和対策協議会や長崎県同和対策連絡協議会、市町村同和行政担当課長会議を設ける等国や市町村と連携し、関係諸施策の推進に努めてきました。
 啓発活動については、県民の同和問題への正しい理解と認識を深め、人権意識の普及、高揚を図るため、1993年(平成5年)、11月11日から12月10日を「長崎県同和問題啓発強調月間」と定め、集中して啓発活動を実施してきました。
 また、学校や地域における同和教育の果たす役割の重要性から、1978年(昭和53年)1月、「長崎県同和教育基本方針」を定め学校及び地域社会における同和教育を推進し、就学保障、学力格差の是正、進路保障、人権尊重の精神の徹底等を課題として施策の充実を図ってきました。

(2)現状と課題
 これらの取組により、生活環境をはじめ同和地区の生活実態は改善され、差別意識も解消へ向け進んできています。
 しかしながら、差別事象は依然としてあとを絶たず、最近全国的には急速に普及してきたパソコン通信やインターネットを通じた差別事象が発生しています。
 1993年(平成5年)に実施した「人権と同和問題の意識調査」から見ても、差別意識は結婚問題を中心に根深く存在し、※県民の同和問題についての認知率も、他県と比べて低い状況にあります。
 また、本県を含め我が国では従来から違いを違いとして認めず、同質化に従わないものを排除する風潮が強いと同時に、同質なものの中にも序列や異質を作り出す意識が根強く存在しています。
 我が国独自の人権問題である同和問題は、本来同質なものを異質なものとしてとらえる差別であり、共生社会実現に向けて早急に解決すべき重要な課題です。
 これまで同和問題の解決に向けて様々な取組がなされ成果を収めてきました。例えば、「※全国高等学校統一用紙」や「教科書無償化」の取組は、あらゆる人の自己実現を保障するものとして社会全体に拡大し、人権の実現の実質的な進歩をもたらしました。
 このようにこれまでの同和問題解決に向けた取組や課題は、人権問題全体への取組、共生社会実現に向けた重要な指標になるものと考えます。
 1996年(平成8年)5月の地域改善対策協議会意見具申では、今後、差別意識の解消を図るに当たっては、同和問題を人権問題の重要な柱としてとらえ、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・啓発活動の積極的推進と充実が提起されました。

(3)具体的施策の方向
 本県においては、今後とも、同和問題を人権問題の重要な柱としてとらえ、「長崎県同和対策基本方針」及び「長崎県同和教育基本方針」に基づき、県民や企業に対する教育啓発、学校や地域社会、職場における同和教育等積極的に推進し、県民一人一人がその生涯にわたるあらゆる機会に参加できるよう努めます。
 なお、
 @ 人権教育・啓発の推進に当たっては、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げてきた成果と手法への評価を踏まえ
 A 同和問題の解決があらゆる人権問題の解決につながることを基本にとらえ
  ア 国、市町村、関係機関との連携・協力を強化します。
  イ 研修内容を充実し、研修機会の拡充を図ります。
  ウ 人権教育の指導者等を養成し、指導体制の充実を図ります。
  工 情報提供の充実を図ります。
  オ 同和問題啓発強調月間を中心とした行事の充実を図ります。
  カ 同和教育の充実を図ります。
以上のとおり、より一層の教育・啓発の充実強化に努めていきます。

※同和問題の認知率とは
  日本の社会に、「同和地区」「未解放部落」「被差別部落」などとよばれ、差別を受けている地区があること、あるいは、「同和問題」「部落問題」「部落差別」とかいわれている問題があることを知っていると答えた人の割合。
  1993年(平成5年)の県民意識調査 長崎県55.3%、九州79.1%、全国74.8%
※全国高等学校統一用紙とは
  新規高卒者の採用選考の際の応募用紙を、就職差別につながるような本籍地、両親の有無、財産等の項目を除いたものとし、同和地区出身をはじめ、被差別状況下にある生徒たちが不合理な差別選考を受けることがないようにという取組の中から生まれ、1973 年(昭和48年)に制定された。
  1996年(平成8年)に大幅に改定された。

6 外国人に関する問題
(1)経過
 本県は、アジア大陸に近い地理的特性から、我が国と諸外国の接点として、古くから中国大陸、朝鮮半島との交流があり、特に、近世においては、我が国の外国へ開かれた窓口として、「対馬を窓口とした朝鮮半島」、「長崎(出島)を窓口としたオランダ、中国」との交流が行われました。
 このように、長崎は、外国文化を受入れ吸収し全国へその情報を発信し、また、人が集まり交流することによって栄えてきましたが、現在においてもその遺産と文化に大きく依存しています。
 このような長い歴史を通じて、県民の外国人に対する意識は極めて寛容性が高く異文化を容易に受け入れるという「開かれた県民性」となっており、外国人と生活することについても一定の伝統を持っています。
 現在、本県には、韓国・朝鮮人、中国人を中心に5,094人(1998年12月末現在)の外国人が在住しています。

(2)現状と課題
 しかしながら、一方では、外国人に対するアパート等の入居制限をはじめ医療、教育、雇用に関する制約等も見られ種々の人権問題が発生しています。
 経済をはじめとする今日の著しい国際化の進展は、今後とも仕事や観光、留学、研修等で多くの外国人、とりわけアジア諸国の人々が本県を訪れ、また、生活するなど、交流の増加が予想され、県民一人一人にとって外国人とのかかわりがますます増大する時代になってきています。
 一人一人が相手の国の文化、価値観を尊重するとともに、我が国の文化等についても正しく伝える知識と能力と態度を持つことが求められています。そのためには、これまで以上に開かれた県民性を高めていく必要があります。

(3)具体的施策の方向
 このため本県では、1996年(平成8年)2月、長崎県国際化推進計画「ながさきグローバルプラン21」を策定し、アジアをはじめとする世界との共生を目標に、「世界に生きる人づくり」「世界が集うまちづくり」「長崎県らしい国際交流」「長崎県らしい世界平和と繁栄への貢献」を基本方向に、
 @ 国際化に対応する人材の育成や異文化の理解、
 A 世界恒久平和実現への取組、
 B 国籍を問わずすべての人々が訪れやすく住みやすい町づくりを目指して、
  ア 小中高校生を対象とする国際理解講座
  イ 一般県民を対象とする国際理解のための文化講演会
  ウ 核兵器廃絶、世界平和のためのシンポジウム
  エ 海外へのボランティア派遣
  オ ホームステイの受入れ
  カ 外国人への情報提供、生活苦情相談
  キ 各種標識への外国語の併記
等を推進することとします。
 C 県、市町村による外国都市との交流により、相互理解をより一層深めるよう推進していきます。

7 HIV感染者等に関する問題
(1)経過、現状と課題
 世界には、様々な疾病が存在し、中には、人に感染し、その生命に危機を及ぼすがために患者やその家族等が社会から偏見の目で見られるものも少なくありません。

 特に、WHO(世界保健機構)により、世界に約200万人以上いると報告されるエイズ患者と同じく世界に3,000万人以上存在すると発表されているHIV感染者の中には、自らの生命の危機に対する恐怖に加え、社会からの阻害という二重の苦しみにさらされている方も多数います。
 こうした中、WHOは、1988年(昭和63年)にエイズのまん延防止と患者・感染者への偏見と差別の解消を図るため、毎年12月1日を「世界エイズデー」と定め、エイズに関する啓発活動の実施を提唱しました。
 我が国においても、エイズの予防に必要な措置を定めるため1989年(平成元年)2月に施行された「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)」において、国、地方公共団体及び国民の責務として「エイズ患者等の人権保護」について規定されたのに続き、具体的なエイズ対策の在り方等について検討を行う場である公衆衛生審議会伝染病予防部会エイズ対策委員会が、1992年(平成4年)10月に「エイズに対する誤った理解に基づく差別と偏見が依然として存在していることから、あらゆる方法を駆使して国民全体を対象とした幅広い啓発普及を行っていくことが必要である」との緊急アピールを行いました。
 本県においては、1993年度(平成5年度)から「エイズストップ作戦長崎」を展開し、エイズに関する正しい知識の普及啓発を図るため、パンフレットを作成し、市町村、保健所、学校等に配布するとともに、全戸配布の市町村広報紙にも記事を掲載しました。さらに、企業・団体・事業所等の従業員に対する教育研修を推進するなど、あらゆる機会をとらえた県民の意識改革に努めているところです。
 また、患者・感染者の受入れについては、3か所の「エイズ診療拠点病院」と31か所の「エイズ診療地域協力病院」を選定し、感染していない人と同様に地域で医療が受けられる体制づくりを進めています。
 ハンセン病は、かつては「らい病」と呼ばれ、「不治の病」として、また「人に伝染しやすい疾病」として誤解され、我が国においては、1907年(明治40年)に制定された「らい予防法」により、り患した患者は強制的に療養所への隔離入所措置がとられ、患者と家族は長い間いわれなき差別と偏見に苦しめられてきました。
 この「らい予防法」は、1996年(平成8年)に廃止され、患者の隔離等はなされないこととなりましたが、強制隔離の期間が長期間に及んだことによる患者の高齢化や、今なお多く存在する社会の差別と偏見等により、療養者の社会復帰を困難にしています。
 本県では、人所者に対する見舞いと里帰り事業を実施するとともに、市町村や保健所あて啓発文書を配布するなど、ハンセン病に対する正しい理解を得るための広報活動を実施しています。

 赤痢等の伝染病については、1897年(明治30年)に制定された「伝染病予防法」により、患者の隔離に重点を置いた予防措置がとられているところですが、制定後100年が経過し、医療技術や公衆衛生環境の向上等により、時代にそぐわなくなってきた面がでてきたため、「エイズ予防法」等も加えた形で見直しが行われ、1999年(平成11年)4月から新たに「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されることとなりました。
 この法律では、前文に、「ハンセン病、エイズなどの患者に対するいわれのない差別や偏見が存在した事実を重く受けとめ、これを教訓として今後に生かすことが必要である」とうたい、従前の「隔離」という考え方を改め、患者の入院手続に細かな配慮がなされるなど、患者の人権により重きを置いた内容になっています。
 本県においても、この法律の制定趣旨に沿うような適切な施策を今後検討し、展開していきます。

(2)具体的施策の方向
 HIV感染者やエイズ等の患者及びその家族に対する社会の偏見を軽減するには、疾病や患者に関する正しい知識を県民すべてに理解いただくことが必要不可欠であり、次のように、あらゆる機会を通じた普及啓発を進めていくこととしています。
 @ 県の広報媒体をはじめ、保健所、市町村等あらゆるルートを通じた普及啓発活動を進めます。
 A 特に、若い世代に対する普及啓発を推進するため、学校教育の場を活用し、教職員に対する研修を充実させるなど、エイズ教育等の推進に努めます。
 B 企業等にも積極的に働きかけ、あらゆる勤労層に対する普及啓発を進めていきます。

※HIV感染者等とは
  HIV(ヒト免疫不全ウイルス、Human I mmunodeficiency Virus)感染者は、HIVの感染が抗体検査等により確認されてはいるが、エイズ(後天性免疫不全症候群)に特徴的な指標疾患であるカリニ肺炎等を発症していない状態の人を言い、
  エイズ患者は、既に免疫機能が低下しエイズに特徴的な指標疾患が明らかに認められる人のことを言います。

8 犯罪被害者に関する問題
(1)経過
 犯罪の被害者は、事件の直接的な被害だけでなく、精神面、経済面等で大きな被害を受けています。中でも、精神的被害の問題は、極めて深刻であり、犯罪による著しいストレス傷害を抱え、精神的な援助を必要としている被害者が多数見られます。これに加え、日本の社会的・文化的風潮として、被害者にも落ち度があるのではないかという根強い考えがあり、それがますます被害者の孤立感・自責感を深めています。
 先進諸外国では、25年ほど前から被害者を支援する社会的制度が確立されてきているのに対し、日本においては、これまで支援を行う団体もほとんどなく、被害者は社会の中で忘れ去られた存在となってきました。
 国は、1980年(昭和55年)に、故意による犯罪行為で死亡した人の遺族又は一定以上の障害を持った人に給付金を支給する「犯罪被害者等給付金支給法」を制定しました。また、同法が施行された1981年(昭和56年)には、「財団法人犯罪被害救援基金」が設立され、犯罪被害遺児への奨学金の支給等が行われることとなりました。
 国際的には、1985年(昭和60年)の第7回国連犯罪防止会議(犯罪の防止及び犯罪の処遇に関する国際連合会議)において、「犯罪の被害者と権力乱用の被害者に関する司法の基本原則宣言」が採択されました。この中では、犯罪の被害者がその尊厳に対し同情と敬意の念をもって扱われるべきこと、被害者に対して情報を提供する必要があること、必要な物質的、医療的、心理学的、社会的援助を受けられるようにし、その情報を被害者に提供すべきこと、各国政府が警察等の機関の職員に十分な教育訓練を行い、適切なガイドラインを作るべきことなどが明らかにされています。
 このような国際的な動向を踏まえ、1996年(平成8年)、警察庁において被害者対策における基本方針として「被害者対策要綱」を策定するとともに、「犯罪被害者対策室」を設置しました。
 本県においても、1996年(平成8年)、警察本部内に「被害者対策推進委員会」を設置し、被害者のニーズにこたえるための各施策を推進する中で、被害者の人権を尊重した活動を行うよう、職員に対する教育を徹底してきました。
 また、女性の被害者に対しては、専門の女性警察官が対応するなど、被害者の心情に配意した活動を行ってきました。

(2)現状と課題
 被害者の抱える問題は多岐にわたっていることから、各行政機関において各種の施策が行われているほか、司法制度における被害者の地位、民間ボランティアの活動、マスコミの在り方等、広い範囲の検討が行われているところです。
 本県においては、1998年(平成10年)に警察本部長を会長とする「長崎県被害者支援連絡協議会」を設立し、関係行政機関・民間団体等が連携して被害者支援に当たっているところでありますが、被害者は、依然として世間の心ない中傷やうわさ話の対象となっている現状にあります。しかし、すべての県民は、同じ立場となり得る潜在的な被害者でありますから、被害者支援を県民全体で取り組むべき問題として位置づけ、その周知と啓発を図っていく必要があります。

(3)具体的施策の方向
 被害者の立場を理解し、人権を擁護していくためには、関係機関相互の連携と県民の理解と協力が不可欠です。そこで、「地域全体で被害者を支援する」という理念に基づき、次の項目について重点的に取り組んでいくこととしています。
 @ 被害者支援のネットワークを各地域に設立し、地域住民全体で被害者を支えていく社会づくりを推進します。
 A 被害者に対する誤解や偏見を解消するため、被害者が置かれた悲惨な現状、各機関が取り組んでいる施策等について広く県民に広報します。
 B あらゆる機会を通じて、被害者の人権に関する教育・啓発に努めます。

9 様々な人権問題
(1)現状と課題
 これまで、説明したことのほかに、アイヌの人々に対する民族としての歴史、文化、伝統に関する知識や理解の不足等から生じる偏見や差別の問題、刑を終えて出所してきた人への偏見や差別の問題、職業等に対する理由のない偏見や差別の問題等により人権を侵害される問題があります。
 また、プライバシーの侵害に関する問題は、最近の情報・通信技術の発達により本人の知らないまに個人情報が収集、利用され、また誤った情報を流される恐れもあります。
 さらに、伝統的な風習や慣習の中には、合理的・科学的な根拠の乏しいものが少なからずあり、思いこみや先入観が無意識のうちに差別意識を植え付けてしまうことがあります。

(2)具体的施策の方向
 人権が尊重され擁護される社会を築くためには、県民一人一人が、個々の人権問題について正しい知識をもち理解を深めることが大切です。
 したがって、自分自身の人権、他の人の人権、さらに県民一人一人の人権が守られるよう人権について基本的な自覚を促し、行動を起こすために、国、市町村、団体、企業等と協力しあらゆる場・あらゆる機会をとらえ人権教育を推進し、県民がその生涯にわたって参加できるよう努めます。

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V 人権教育の推進

1 人権尊重社会の創造
 すべての人々の人権が尊重される平和で豊かな社会の創造は、人類共通の願いです。そして、人権尊重の精神を広め人権意識を確立し、人々の生活の中に人権意識が根付いた、「人権という普遍的文化」にあふれた社会の実現が求められています。
 本行動計画は、人権教育を生涯学習の観点からさらに効果的、積極的に推進し、県民一人一人が生涯のあらゆる場・あらゆる機会において、人権教育に参加することにより人権尊重社会を構築することを目標としています。
 そのためには、学校、家庭、職場、地域等あらゆる場や機会において、子どもから大人まで、あらゆる段階、階層の県民一人一人が主体的に人権教育へ参加することや、自主的な活動を行うことを通じて、人権教育・啓発をより一層浸透させることとします。
 現在、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題等様々な分野において人権に関する諸問題が存在していますが、人権が尊重される社会の実現のため、すべての人々がそれぞれの人権問題の本質を正しく理解し、具体的に実践する態度を身につけるよう、人権教育の推進を図る必要があります。
 これまで長年にわたって蓄積された同和教育・啓発における成果等を踏まえ、人権教育・啓発の内容、方法等のより一層の充実、強化を図ります。
 また、公務員、教職員、警察官、消防職員、医療関係者、福祉保健関係者等は、一人一人が人権が尊重される社会の実現に深くかかわっている職業の担い手であり、それぞれの担当職務の遂行に当たっては、常に人権意識をもって臨むことが重要です。
 さらに、今日、人々の意識形成の上で大きな役割を果たしているものにマスメディアがあります。「人権教育のための国連10年」国連行動計画においては、「人権教育の推進に当たって、マスメディアの役割と能力を強化すること」が実施プログラムの一つの構成要素として取り上げられています。
 本県における人権教育を進める上でも、マスメディアの活用をさらに進めるとともに、マスメディアにおいても、その社会的使命の重要性にかんがみ、自主的、積極的な人権教育の取組がなされるよう要請します。

2 あらゆる場における人権教育の推進
(1)学校等における人権教育
[経過]
 学校(園・所)においては、幼児児童生徒個人の尊厳を絶対的なものとして、個々の個性を尊重し、一人一人を大切にする教育が進められなければなりません。子ども一人一人は権利の主体であります。学校においては教育活動全体をとおして、自他の人権についての理解を深め、人権尊重の精神をかん養し、具体的生活の中で実践できる力を育てていくことが大切です。
 これまで、就学前教育においては、人権を大切にする心の育成が図られ、小中高等学校においては、同和問題等について基本的な理解と解決のための主体的な実践力の育成が図られてきました。大学等においても、同和問題をはじめとする人権問題の講座が設けられたり、講演会等が開催されるなど、人権に関する学習が進められてきました。
 県教育委員会としては、同和教育の推進、充実等について、1982年(昭和57年)7月、1983年(昭和58年)8月、1990年(平成2年)5月、1997年(平成9年)9月に県立学校長及び市町村教育委員会教育長に通知し、推進を図っています。また、同和教育啓発指導資料「同和教育をすすめるために」を全教職員及び関係機関に配布するとともに、地区別同和教育研修会をはじめとする各種研修会を実施し、人権教育・同和教育が適切に行われるよう指導・助言に努めているところです。

[現状と課題]
 人権教育・同和教育を各学校の実態や幼児児童生徒の発達段階に応じて推進しているにもかかわらず、いじめや不登校、差別事象の発生等、子どもの人権にかかわる課題が存在しています。また、子ども一人一人が人権や差別についての正しい理解とそれに基づく行動力を十分身につけているとは言い難い状況にあります。
 こうした状況から、学校においては、あらゆる教育活動を通じて行う同和教育を推進しながら、幼児児童生徒自らが人権について考え、生活の中から問題を見つけ、それを解決しようとする力を育成することが大切です。また、国際化の進む現代にあって、多様な国籍、民族の人々の人権を大切にする意識を培うこと、障害者への理解を深めるための教育、エイズ等感染症に関する正しい知識の普及に努めることが必要です。
 こうした取組を進めるため、教職員は人権教育の推進に果たす役割の重要性を自覚し、自ら研修に努めるとともに、学校及び県・市町村教育委員会においても、研修を計画的に実施する必要があります。

[具体的施策の方向]
 @ 同和教育の成果を生かした人権教育の内容の充実
   これまで取り組まれてきた同和教育の成果や啓発活動等を、人権に関するあらゆる問題の解決に生かす観点に立ち人権教育の充実を図る必要があります。
   同和教育基本方針を踏まえ、同和問題の解決があらゆる人権問題の解決につながることを基本に、人権教育の充実、推進に努めます。
 A 学校のあらゆる教育活動における人権教育の推進
   学校の教育活動全体をとおして、幼児児童生徒の人権意識の高揚に努めます。人権学習の指導に当たっては、具体的生活の場をテーマとした体験的参加型学習を取り入れるなど、指導内容とその方法の改善・充実に努めます。
   また、一人一人の個性を認め、意欲を高める教育評価の改善に努めます。
 B 各校種、幼児児童生徒の発達段階に応じた人権教育の推進
   ※人権教育の4つの側面から、中核的・関連的・日常的指導の在り方について体系的・系統的な人権教育の推進に努めます。
  ア 就学前段階
    この段階は、社会性が芽生える時期であり、また人間形成の基礎が培われる大切な時期です。したがって、この時期には人権感覚の芽生えをはぐくむことが重要です。
    そのためには、
    ・ 好奇心、探求心、思考力の芽を育てるとともに自分で問題を解決し自信を獲得していくような自発的な遊びを重視します。
    ・ 友達とかかわる中で、自己主張によるきしみ、思い通りにいかないもどかしさ、自分の行為を認められた喜びなどの体験を積むことで、人とかかわる力を培います。
  イ 小中学校段階
    この段階は、知的能力、社会的活動能力、共感能力等が大きく発達するとともに、様々な行動の仕方を身に付け、人間としての生き方への関心が高まってくる時期です。
    したがって、この時期には、児童生徒の興味・関心を喚起し、日常の身近な生活の中において動作の遅い子、障害のある子などに対する偏見や差別的言動及びいじめの行為をとらえ、人権感覚を育成するとともに人権課題に気づかせ、自らを振り返り、相手の人権を尊重した行動ができるような指導の工夫を図ります。
    各教科等の独自のねらいを達成することは、十分な学力を保障し、将来生きて働く力となる学力をつけることになります。このことは、豊かな人間性と正しい判断力を育成する基礎であり、人権教育を推進する上で基本であります。そのため、各教科、道徳、特別活動等の特質にも十分配慮するとともに、児童生徒の発達段階に応じた適切な指導を行います。
  ウ 高等学校段階
    この段階は人間としての在り方、生き方への関心が深まるとともに、自らの個性、資質を発揮できる生き方を追究する傾向が強まってきますが、人間の尊厳や人権の大切さを自分の生き方、在り方と深くかかわらせて認識するまでには至っていません。そこで、小中学校段階で培われた、人権に対する基本的な知識・技能・感性をより実践的に発展させる指導の在り方を工夫します。
    日常生活の中で、科学的・合理的なものの見方、考え方ができる「確かな学力」を生徒一人一人に身につけさせるよう、より一層の工夫を加えた学習指導を行います。また、生徒理解に努め、生徒指導・進路指導の一層の充実に努めます。
    本県の歴史的背景、地理的状況等を考慮に入れ、諸外国の人々の生活や文化を理解し尊重するとともに日本人としての自覚と責任をかん養することに配慮しつつ国際的視野に立つ調和のとれた豊かな人間を育成するために、国際理解教育の推進を図ります。
  エ 大学段階(含専修学校等)
    幼小中高段階で培われた人権教育の成果をさらに確実なものとし、豊かな感性に基づいた実践力をもって社会に巣立っていけるよう、人権意識の高揚のための特別の配慮が必要です。
    そのため、同和問題や人権教育に関する講座、効果的な人権教育の手法の研究等の充実を図ります。
 C 実践的研究を進めるための研究指定校と啓発資料の作成
   実践的研究を行う研究校等を指定するとともに、同和教育をめぐる状況を踏まえ、県内教育関係者の同和教育・啓発にかかる資料を作成し、学習と実践を推進します。
 D 教職員研修の計画的な推進
   指導者としての資質の向上及び校内研修の充実を図るため、本県の実状と様々な教育課題に応じた実践的内容の研修を計画的に実施します。
 E 学校・家庭・地域社会の連携
   幼児児童生徒が、主体的・意欲的に人権について学習し、行動する力を培うため学校・家庭・地域社会が一体となった人権教育を推進します。
   学校・家庭・地域社会が相互に連携をとりながら、人権教育に関する学習活動を進めていきます。

※人権教育の4つの側面
 ○人権のための教育(教育目的の観点)
   差別をなくし、人権を守り育てる社会や個人を育成することを目指した教育のこと。
 ○人権としての教育(教育保障の観点)
   出身や性別などの理由で教育機会を奪われることがなく、教育を受けることが保障されること自体が人権であること。
 ○人権を通じての教育(状況や方法の観点)
   いじめや体罰等が存在する環境の中での人権教育は無意味であることなど人権が守られた状態での教育のこと。
 ○人権についての教育(知識の観点)
   人権問題など人権について教える狭義の人権教育のこと。

(2)社会教育における人権教育
[経過]
 すべての人に人権があり、それが尊重される社会を私たちは築いていかなければなりません。人権を社会の中に根付かせるためには、社会教育の場において、人権の学習をとおして一人一人が人権を考え尊重し、大切にされ、豊かで生きがいのある生活を送るようになることが重要です。
 これまで、社会教育における人権に関する学習活動は、市町村の公民館の講座や県が行う社会教育関係団体を対象とした講座や研修会で展開されてきました。
 また、家庭教育を充実するために、保護者等を対象としてPTA研修などが実施されてきました。
 さらに、人権教育に関する啓発資料の作成や視聴覚ライブラリーの整備・充実を図ってきました。

[現状と課題]
 家庭教育は、個人の人権を尊重し、生命の尊さを認識させ、基本的な生活習慣、豊かな情操や倫理観、他人に対する思いやりの気持ちなどを育てていくなど子どもの人格形成に大きな役割を果たします。
 しかし、今日の家庭の状況をみると、核家族化・少子化の進行の中にあって、親の教育に対する自覚の不足、外部教育機関への依存、無責任な放任や過保護・過干渉などから家庭の教育力は低下し、子育て不安や悩みを抱える親や家族が増加しています。
 このような家庭の状況をふまえ、親が子に対して豊かな人間性、正義感や公正さを重んじる心、他人を思いやる心、人権を尊重する心をはぐくみながら一人一人の人権を大切にする家庭教育ができるよう支援する必要があります。
 社会教育においては、同和問題や女性問題、高齢者問題、障害者問題、いじめに関する問題等について、取り組んできました。県においては、研修会や講座の開催、リーフレットや啓発資料の作成、視聴覚ライブラリーの整備・充実等を図ってきました。市町村においても、研修会や公民館の講座を開くなどして人権に関する学習が進められてきました。
 しかし、このような学習・啓発の機会はありますが、人権や差別についての正しい理解・認識が育っていない現状にあります。真の人権意識の広がりと深まりが課題であります。

[具体的施策の方向]
 家庭教育は、すべての教育の出発点で子どもの成長にとって重要であるという認識のもとに、
 @ 家庭教育力の充実のために子育て支援事業を推進します。
 A 家庭教育相談体制の整備・充実を図っていきます。
 B 学校・家庭・地域社会を結ぶ重要な架け橋であるPTAや健全育成会など関係団体の学習活動の支援を行います。
 社会教育では、地域住民が身近に人権教育に参加できるように、市町村や社会教育関係団体と連携し、
 @ 公民館をはじめとする社会教育施設等において、人権教育に関する学習機会をつくり、学習活動の充実を図ります。
 A 男女が対等のパートナーとして共に生きていく社会づくりのための啓発活動等を推進します。

(3)団体・企業等における人権教育
[経過]
 団体、企業等は、経済活動等を通じ従業員や消費者への責任とともに、地域社会における社会的責任も強く求められています。
 雇用における、男女雇用機会均等や高齢者、障害者等の雇用への取組、採用選考における公正採用など基本的人権に配慮した対応を進める必要があります。また、同和問題をはじめとする人権問題への取組を推進することによって差別のない明るい職場づくりが求められます。

[現状と課題]
 現在、県においては、経営トップクラスや※公正採用選考人権啓発推進員に対し、同和問題をはじめとする人権問題の正しい理解と認識のもとでの公正な採用選考を行うための研修を実施するとともに、企業においては、公正採用選考人権啓発推進員を選任し、推進員が中心となり人権問題を含む公正な採用選考システムの確立について社内研修・啓発の取組が進められています。
 一方、雇用の分野において、女性が女子学生の就職問題に見られるように、男性と均等な取扱いを受けていない事例が依然として見受けられます。
 また、障害者雇用率の未達成問題、新規学卒者の採用選考にかかわる面接選考時等における不適切な質問など課題はいまだ多く、団体、企業等における一層の人権教育の取組が必要と考えます。

[具体的施策の方向]
 @ 経営トップに対する人権教育の重要性の理解と認識をさらに深めるよう努めます。
 A 公正採用選考人権啓発推進員を選任する企業の増加や同推進員の社内的地位の確立、その資質の向上などを図り、研修が効果的に取り組める体制の整備を支援してい  きます。
 B 社内研修について、研修内容や方法、講師の紹介、研修教材等に適切な助言や情報提供を行うなど必要に応じ支援に努めます。
 C 1999年(平成11年)4月1日施行の男女雇用機会均等法は、募集・採用、配置・昇進に係る禁止規定や、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止といった新しい課題への対応も盛り込まれており、雇用における男女の均等な取扱いの一層の進展のため、法の周知・啓発をしてまいります。
 D 企業等からの依頼による、同和問題を中心にした人権問題への研修講師派遣を、今後も引き続き積極的に行います。
 E 団体に対しては、その構成員に対する研修・啓発を積極的に推進するよう要請します。

※公正採用選考人権啓発推進員とは、
 ・職業選択の自由、就職の機会均等の確保、雇用の促進を図る見地から同和問題をはじめとする人権問題について、正しく理解、認識し本人の適性と能力に応じた公正な採用選考を行うため、公正な採用選考システムの確立と同和問題研修の実施について企業内で中心的な役割を担う者で企業が選任します。
 ・本県では、常時雇用する従業員の数が50人以上の事業所等で選任することとなっています。

(4)その他一般社会における人権教育
 以上のとおり人権教育に関する学習の機会としては、就学前教育や学校教育、家庭教育、社会教育、職場内教育・研修が重要な位置を占めています。
 今後は、これらを含め、県民一人一人が身近な地域において人権教育に自ら参加し、理解を深め、さらに具体的な実践をとおして、人権尊重の地域づくりに役立つよう支援します。
 そのためには、
 @ 国、市町村、民間団体などとの連携を進め、地域における様々な学習機会を充実するよう努めます。
 A 人権教育を実施する際は、段階的・体系的実施、身近な場所での実施、情報提供、自主的活動等に対する支援に十分留意します。
 B また、学習内容については、基本的なものから専門的なものまで幅広いものとなるよう支援します。

3 特定職業従事者に対する人権教育
 人権が尊重される社会を築くためには、あらゆる人々に人権教育を進める必要がありますが、特に、県民の生活に影響をもつ行政施策の推進をする人や公権力の行使をする人、教育に携わる人、社会的に弱い立場の人に接する人など、次のような職業の従事者は、県民の一人一人の人権擁護に大きな影響をもつ立場にあります。
 このことから、その職務に応じた豊かな人権感覚を身につけていることが特に求められています。
 人権問題を正しく認識し人権尊重の視点に立って適切な対応を行うよう、人権教育を積極的に行う必要があります。
 その際、研修内容には体験的参加型の手法を取り入れるなど、工夫しながら人権教育の充実を図ります。

@ 公務員に対する人権教育
  公務員は住民の基本的人権を保障する立場にあり、人権に配慮した行政の推進には職員が豊かな人権感覚をもつことが求められます。
  公務員に必要な人権意識をそれぞれの職員が身に付けるよう人権教育に努め、また公権力を行使する人や社会的に弱い立場にある人に接する人などに対しては、職務に応じた人権教育を推進する必要があります。
  県職員については、職員研修や職場研修等人権教育の充実に努めます。

A 教職員に対する人権教育
  教育の場における子どもの人権を保障し、また、子どもの人権意識を育てるために、教職員に対して、人権意識を高めることや、より効果的な人権教育を実施するための研修を行います。

B 警察官に対する人権教育
  基本的人権を最大に尊重した警察活動を一層徹底するため、被害者対策、適正捜査、社会的弱者の保護等について、職務に応じた人権教育を警察学校や職場において計画的に実施します。

C 消防職員に対する人権教育
  地域住民の生命、身体、財産の安全を守る消防職員は、県民生活と密接にかかわり十分な人権擁護の姿勢を求められることから、消防学校における人権教育をより一層充実するとともに市町村等にも人権教育の充実を要請します。

D 医療関係者に対する人権教育
  様々な患者と日々接する機会が多い医療関係者が、患者の人権を尊重することの重要性を認識し、※インフォームドコンセントの理念の理解や患者の立場に立った処遇など、人権意識を一層向上させるよう、医療機関に対し人権教育の展開と充実を要請します。
  また、学校や養成所における人権教育の充実について働きかけます。
  県の医療関係者については、各種研修の充実を図ります。
  なお、精神病院については、患者の人格を尊重した正しい処遇が施されるよう、従事者に対する人権教育の徹底を要請します。

E 福祉保健関係者に対する人権教育
  高齢者、子ども、障害者等に接する機会の多い社会福祉関係者等に対し、対象者の人格の尊重、個人の秘密保持、公平な処遇の確保等、人権尊重の教育を充実するよう関係機関に要請します。
  また、学校や養成所における人権教育の充実について働きかけます。
  県の福祉保健関係者については、各種研修の充実を図ります。

F マスメディア関係者
  新聞、テレビをはじめとした多様な情報源は、人権問題に対し大変大きな影響力を持っています。人権を尊重する社会を形成するためには、マスメディア関係者へ自主的な人権教育の取組を要請します。

※インフォームドコンセントとは、
  「十分な説明を受けた上での同意」
  患者が医者から自己の状態や治療について十分な説明を受け、理解した上で同意し、示された治療を選択するということ。
  丁寧な説明を受け状況を理解したいと望む患者と、十分な説明を行い、患者の同意を得ることが医療提供の重要な要素であるとの認識をもった医療従事者が協力し合う、信頼関係に基づくより良い医療環境が目標とされる。

4 人材の養成と教材の開発・整備
(1)人材の養成
 県民が、日常生活の身近な学習の場などあらゆる機会を通じて、人権教育に幅広く参加するためには、
 ・ 各分野にわたる人権問題の研修・啓発などについて県民に身近な指導者
 ・ 効果的な人権教育、研修、啓発を進められるようその内容を企画する能力を備えたプランナー
 ・ これらを養成する指導者
などの養成が必要です。
 現在、教育委員会においては人権教育指導者やPTA指導者、女性リーダーなどの養成をしています。
 また、同和教育について、教員を中心に自主的な研究組織による取組も行われています。
 今後は、関係機関のネットワーク化を推進し「指導者養成機能」の強化を図る必要があります。

 @ 身近な指導者の養成
   人権教育を推進するに当たっては、県民の日常生活における身近な指導者の担う役割は重要であり、「人権教育指導者セミナー」などの充実に努めるとともに、関係機関、団体の指導者や地域リーダーなど、幅広い人材の養成を図る必要があります。
   また、地域住民と接する行政関係者や社会教育関係者に対する研修を充実し、身近  な指導者として活動できるよう養成に努めます。
   本県職員の人権教育を推進するため、内部講師の養成に努めます。

 A 専門的な指導者の養成
   今後の人権教育は、多様で多面的な手法や内容が有用なことから、県民に対する体系的な教育、研修、啓発の企画立案者や体験・参加型学習の指導者、人権問題に関する研究者や実践者など専門的な指導者の発掘と養成が必要です。
   専門的な指導者の養成については、(財)人権教育啓発推進センターが実施する研修や各種研究機関などが実施する講座・研修会等各種の研修を活用しながら養成に努めます。
   また、民間の人材の活用についても推進します。

(2)教材の開発・整備
 教材については、従来のものを人権尊重の視点で見直すとともに、具体的な学習対象やニーズを把握しながら県民学習のテキストとなる教材の開発、整備の充実について、民間などのノウハウを活用しながら進めます。
 また、「人権教育のための国連10年」の理念である「技能を伝え、態度をはぐくむこと」に結びつく、※ワークショップなどの学習形態に使用する多様な教材の開発に努めます。

 その際、以下の事項に留意し進めることとします。
 @ 様々な人権問題に対する基礎的認識、実態に関する認識、法、条例に関する認識を高めるよう考慮します。
 A 対象者の年齢や意識、知識、習熟度や興味などに合わせ、基礎的なものから専門的なものまで体系的、段階的な開発、整備に努めます。
 B 地域住民の生活と結びつき家庭、地域、職場など身近な人権問題に気づかせるように学習者の実態や地域に根ざした教材を開発します。
 C 教材は、様々な人権問題に対する科学的認識を高めることや、生命の尊重、自己理解、国際理解を目指すものとして開発されることが必要です。
 D 教材の開発、整備に当たっては、高齢者や障害のある人々への対応など、教材を使用する立場に立って十分な配慮を行うとともに、国際社会において開発され、蓄積されている人権教育教材の効果的な活用を図ります。

 学校などにおける教材の開発、整備は、以下の事項に留意し進めます。
 @ 幼児については、発達段階に応じて、絵や写真を使った教材、がん具などの具体物を生かした教材の開発、整備に努めます。
 A 小中学校段階においては、児童・生徒の興味を引き出せるよう身近なことを題材とした教材、基本的な知識・技能をより実践的に発展させることに重点を置いた教材など成長発達過程に応じた教材の開発、整備に努めます。
 B 高等学校の段階においては、それまでに培われた人権に関する知識や技能の上に立った教材の開発、整備に努めます。
 今後の学習方法については、従来の講義形式も活用しながら、それに工夫を加えるなど、学習者、受講者の関心や興味も重視し、対象者、教育、研修レベル、内容に応じ、体験的な参加型学習など、手法の充実を図ります。

(3)学習プログラムの開発
 人権教育の推進は、家庭や民間企業などを含めた生涯学習体系の中で進める必要があります。
 そして、人権問題の学習を促進するためには、知識を学ぶことにとどまらず、日常生活の中で人権感覚をもって行動できるようにすることが重要です。
 そのため、同和問題をはじめとする人権問題を総合的に取り上げるとともに、学校、家庭、職場、地域社会など日常生活における人権問題に視点をあて、自分とのつながりが自覚できるよう促す必要があります。
 また、学習の参加者が、主体的に参加することが大切であり、学習者相互の交流、意見の交換など様々な体験をとおして学び合うことができるよう学習プログラムの開発に努めます。
 開発に当たっては、民間のノウハウの活用を図ります。

 その際、発達段階及び知識や技能の習得段階に応じて整備・充実を図ります。
 @ 幼児期は、人格形成の重要な時期であり、自他の生命の尊重、基本的な人間関係など、人権意識の醸成の基盤となる時期です。家庭や保育所、幼稚園における保育内容の充実に努めます。
 A 学校における人権教育については、人権問題の本質を正しく理解し、人権の尊重が日常生活において実践できるよう小中学校から高等学校段階を通じた体系的な人権教育プログラムの開発に努めます。
 B また、大学における人権に関する講座等の実施と充実を促します。
 C 職場内の人権教育・研修については、基礎的なものから専門的なものまで、職務、職階などに応じ体系的な人権教育プログラムを整備、充実し、企業等の人権教育、研修を支援します。
 D 地域社会における人権教育の推進は、地域住民の人権意識や生活課題、学習ニーズなど地域の実態に配慮した多面的な人権教育プログラムを作成することが必要です。
 E 市町村等が人権教育プログラムを作成する場合には、情報提供などの支援を行います。

※ワークショップとは、
  参加者自身の知識や体験を持って、積極的・主体的にかかわっていくスタイルの学習法(研究集会や学習会)

5 啓発と情報提供
(1)人権教育・啓発ネットワークの構築整備
 @ 人権教育・啓発をより効果的に推進するためには、国、県、市町村、関係団体が連携、協力し推進することが重要であり、その体制の速やかな整備・充実が望まれます。
 A また、各団体等の同和問題をはじめとする人権教育・啓発・研修に対応するため、関係機関が保有する指導者等を「講師団」としてネットワーク化するなど、支援体制の整備に努めます。

(2)啓発内容の充実
 @ 人権啓発は、人権とは何か、様々な人権問題がどういう内容や状況であり、なぜ存在しているのか、また、どうすれば解決できるのかという観点に配慮して行うことが重要です。
 A また、人権問題は他人事ではなく、それぞれが時には無意識のうちに他人の人権を侵害し、逆に侵害される立場に立たされる可能性があることについて認識を促し、他人の人格や人権を尊重することは自分の人格や人権が尊重されることにほかならない  という意識や考え方を定着させることにあります。
 B 情報提供の内容については、
  ア 「人権教育のための国連10年」の取組の意義
  イ 世界人権宣言や国際人権規約等国際社会の人権を取り巻く状況及び人権教育の基本となる内容
  ウ 研修や講座
  エ イベント等の情報
  オ 家庭や地域での日常性からの題材をとらえたもの
  とします。
 C 身近な課題を取り上げるなど、自分の問題として受け止め、実際の行動に結びつくものとし、また理解しやすいものとなるよう、感性に働きかける具体的な事例の紹介、イラストの活用等の工夫に努めます。
 D 啓発、情報提供に際しては、障害のある人々、高齢者、子ども、外国人等に十分な配慮を行うなど、受け手の立場に立った啓発、情報提供を行うことが必要です。
 E 差別の現実から学び、差別されることの痛みや悲しみ、憤りなどを理解するため、差別を受けてきた人の生き方や体験等を啓発内容に位置づけ、科学的認識を高め、感性に訴える啓発を充実します。

(3)研修・啓発手法の拡充
 @ 研修、啓発の手法については、学校、職場、地域社会においてこれまでの取組、蓄積してきた同和問題解決のための手法を活用します。
 A また、目的、内容、対象に応じて、講演会、研修会、県、市町村の広報誌や冊子等の印刷媒体、テレビ、ラジオ等の映像媒体による多様な学習手法の効果的活用を図ります。
 B 研修、講座等においては、講義だけでなく、参加、体験、共同作業、コミュニケーション等の要素を取り入れた学習形態の工夫、改善を図ります。
 C 関係する冊子やリーフレットの配布にとどまらず、県が発行する刊行物等に、人権に関する標語やロゴマーク、イベント開催の紹介等を記載するなど効果的な啓発と情報の提供を進めます。
 D 県提供番組や広報スポット放送等を積極的に活用し、内容や表現に工夫を行い、県民の関心を高めるような方法で啓発や情報提供を行います。
 E 啓発冊子、リーフレットの内容の充実とともに啓発映画やビデオ等の視聴覚教材の整備・充実を図り、映画やビデオを使った学習方法について研修を進めます。
 F 人権啓発に関する県民の自主的参加意識を促すため、県民から人権に関する標語やポスター、写真、ビデオ、絵画、音楽、その他の資料を公募し、その積極的活用を図ります。

(4)情報提供の充実・強化
 高度情報化社会といわれる今日、県民の生活においては、人権尊重の機運が高まりつつあるものの明確に人権を尊重した行動や生き方に結びついていない現状もあり、また、県民の入手できる人権にかかわる情報もいまだ十分ではありません。
 人権問題の解決に向けた県民の自主学習と実践行動につながる人権問題に関する情報の集積、提供は欠かせない要素を占めており、県民のニーズにこたえる情報提供の充実、強化に取り組むことが重要です。
 @ 国や県、市町村、民間団体、人権関係諸施設等と連携し、研修講師、啓発リーダー、学習相談機関、教材など様々な人権情報を収集、整備し、人権教育に関する情報提供の充実を図ります。
 A 集積した人権に関する情報については、県民が容易にアクセスできる方法等を整備し、県民への周知と活用に努めます。
 B また、近年普及が著しいインターネットについて、県のホームページを活用し人権問題の情報提供等の取組を進めます。

(5)マスメディア等の積極的な活用
 人権教育・啓発を効果的に推進するためには、人権や人権教育・啓発に関する情報を多くの県民に対して提供する必要があります。特に、新聞、テレビ、ラジオ等のマスメディアの担う役割は極めて大きいことから、これらに対し、
 @ 県や市町村、関係団体における様々な人権施策、人権教育・啓発に関する講座やイベント情報等について積極的に情報提供を行い、様々な形で人権に関する事項が取りあげられるよう働きかけます。
 A また、これらの情報が様々な学習機会で取り上げられるよう働きかけを行います。

6 国、市町村、団体、企業との連携
 様々な差別意識の解消を図り県民一人一人の人権尊重の意識を高めていくためには、県民一人一人を対象にあらゆる場で人権教育・啓発を実施することが求められます。
 人権教育・啓発を進めるに当たっては、市町村、公的団体、民間団体・企業等の果たす役割は大きく、それぞれの役割を踏まえた積極的な取組に期待するとともに、国をはじめこれら関係機関との連携・協力体制の強化を図る必要があります。
 @ 現在、地方法務局が中心となって1998年度(平成10年度)設置した「人権啓発活動ネットワーク協議会」は、国、県、市町村、関係団体等で構成し、各種人権啓発活動を効率的かつ総合的に推進することを目的に、構成員それぞれが保有する人権関連情報や教材、指導者等の人権情報の共有化を図ることにしています。
   今後、さらにその組織の充実を図るとともに、人権教育教材の開発や人材の育成等の機能も加えるなど充実強化が必要と考えます。
 A 国が実施する様々な人権施策と呼応しながら、県としての取組を進めます。
 B 市町村は、地域住民と身近に接し、住民との間に様々な形でかかわりを有しているため、地域の実情を踏まえたきめ細かな人権教育・啓発を行うことが可能であり、その取組に期待するとともに、必要な情報提供や講師の派遣・あっ旋等積極的に支援し  ます。
   また、個別施策ごとに、それぞれの市町村と連携・協力体制を強化し、県、市町村一体となった人権施策を推進します。
 C 人権教育は、公的部門のみならず民間部門における自主的な取組も重要です。
   特に、各種人権問題に取り組む民間団体の活動の活発化は、人権意識の高まりとしてうかがえますが、今後は、これら人権問題の解決を目指す民間団体や自主的に人権教育に取り組む団体・企業とも連携・協力し、必要な人権情報の提供、講師派遣等支援を行い、人権教育の取組の充実と実効ある人権教育の推進に努めます。

7 国際協力の推進
 21世紀は、経済、文化、学術等様々な分野において、国を越えた人々の交流が拡大し相互依存関係がますます深まるとともに、国際社会の動きが直接地域や県民に影響を及ぼす時代を迎えるものと予想されます。
 また、世界には、民族紛争や飢餓、貧困、環境問題など一国では解決できない地球規模の課題を抱えています。
 自由で平和な社会を築くことは、我が国をはじめすべての国々に課せられた重要な役割であります。このためには地域においても、個人レベルにおいても、互いに人権を尊重し合う平和な世界の実現を目指した積極的な活動が必要です。
 県民一人一人が豊かな人権感覚を身につけ、多文化への理解と共生の意識を持つことが重要です。

 @ そのため、本県ではアジアをはじめとする世界との共生を目標に、「ながさきグローバルプラン21」を策定し、世界各地との地域交流を展開する中で人権意識の向上に役立つ国際協力を推進します。
 A また、(財)長崎県国際交流協会や民間交流団体等NGOによる多文化理解のための活動や発展途上国支援活動を積極的に推進します。
 B さらに、本県は、世界に類例のない被爆県として、世界恒久平和の実現を目指して積極的な情報発信に努めてまいります。
 冷戦構造の終結により、超大国による核戦争の可能性は少なくなったものの、繰り返される地下核実験や臨界前核実験は、県民の願いである核兵器の廃絶への道を遠いものにしています。また、民族紛争の多発など世界平和を脅かす問題は今なお発生しています。
 1990年(平成2年)制定した「自由と平和の尊厳に関する長崎県宣言」のもと、被爆県長崎として世界恒久平和の実現に向け積極的役割を果たすため、平和・人権に係る国際会議の開催やイベントの実施、国際会議への出席などを通じて、積極的に核兵器の廃絶と恒久平和実現を世界に訴えていきます。

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W 行動計画の推進

@ 人権教育は、県民一人一人があらゆる機会において、参加できるよう推進する必要があり、県の行政機関はもとより、国、市町村、団体、企業等との密接な連携のもと、この行動計画の具体化を図るものとします。

A 「人権教育のための国連10年」の積極的な展開を図るため、「人権教育のための国連10年」長崎県推進本部のもと、緊密な連携・協力の上、全庁をあげて人権教育を総合的に推進するものとします。

B 「人権教育のための国連10年」に係る積極的な施策の展開を通じて、人権教育・啓発の推進及び県全体としての人権施策の取組に係る総合調整を図るため、推進体制を整備する必要があります。

C この行動計画に基づく人権教育・啓発の進捗(しんちょく)状況について、定期的にフォローアップします。

D この行動計画は、進捗(しんちょく)状況及び社会状況の変化など必要に応じ、見直しを行うものとします。

E 2004年(平成16年)は、「人権教育のための国連10年」の最終年であり、この行動計画の目標年次です。
  目標年次には、「人権教育のための国連10年」の推進状況の成果を検証するとともに、それまで整備又は体系化された、人権教育のための推進体制やネットワーク等については、引き続きその役割を果たすよう努めます。
  また、開発された教材等については、必要に応じて改定等行い広く活用されるよう努めます。

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