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佐世保市における同和問題啓発の推進方策について

1 今後の啓発活動のあり方
(1) 啓発活動の意義と目的
 同和問題を解決するためには、すべての人が差別のある現実に正しく目を向け、人権尊重の精神を身につけ差別を許さない心を培うとともに、同和問題の解決を自らの課題として積極的に取り組むことが大切です。このため、広く市民の理解と協力のもとに、積極的に推進することが必要です。
 先に実施した人権意識調査の結果からも、佐世保市では同和問題の歴史や実態などの基礎的知識が薄く学習が必要ですが、知識の習得だけにとどまらないように注意しなければなりません。
 啓発活動の目的は、同和問題の「ものしり」になるために行うものではなく、すべての人がいまなお差別意識が存在する中で、差別を見ぬき自分自身の課題として受け止め、一切の差別をなくすために努力する主体的態度を形成することです。
 学習会や研修会に多く参加した人ほど、差別をなくすための確かな認識や態度が培われている傾向にあります。この意味からも、さらに啓発活動をいっそう充実させる必要があります。

(2) 啓発活動の内容
 啓発活動の展開にあたっては、佐世保市民の意識の現状を踏まえ、次の諸点を一人ひとりが十分理解するよう努めなければなりません。

@ 同和問題とのかかわり
 同和問題への関心や自分とのかかわりを自覚していないのに、いくら働きかけても成果は期待できません。次のような差別がないか身の回りを見つめなおす必要があります。
(イ)  同和問題に無関心で、差別の存在を許してはいないでしょうか。
(ロ)  障害者、在日外国人、女性などへの差別はないでしょうか。
 このような差別のある社会では、真の幸せは実現できません。
A 同和問題の現実
(イ)  同和地区の生活環境の改善は進み、生活水準もある程度は向上しましたが、しかし全国的な視野でみると、まだ遅れているところがあります。心理的差別だけではなく実態的差別があることを理解しなければなりません。
(ロ)  同和地区の実態を見て、生活環境の悪条件下にある現象を表面的にとらえることなく、差別の現実の奥にひそむ背景や原因を掘り下げなければなりません。
(ハ)  先の人権調査結果によると、自分の周囲の人は差別意識をもっていると、40.2%の人が答えています。43.6%の人は判断を保留し、「いない」と答えた人は11.6%にすぎません。差別の不当性は理解しながら、心のどこかに差別意識をもっている人が多い現実を重視した取り組みが期待されます。
(ニ)  差別意識が残存している社会では、周囲に同調して差別する恐れがあります。因習にとらわれず、科学的に思考・判断する主体的態度の重要性を自覚させるべきです。
B 同和問題の歴史
(イ)  同和問題の歴史については正しい知識をもった人が少なく、先の人権意識調査でも「政治起源説」を知っていた人は19.5%、明治4年(1871)の「解放令」を知っていた人は19.1%、大正11年(1922)の「全国水平社」の結成を知っていた人は10.5%です。この点に留意して取り組みを進める必要があります。
(ロ)  昭和40年(1965)の同和対策審議会答申で国の責任が明示され、これを受けて昭和44年(1969)に同和対策事業特別措置法が制定されたことなど知っている人はごくわずかです(14.9%)。法の目的や内容についての正しい理解が望まれます。
(ニ)  歴史学習の目的は、差別の不当性を認識し、自分はどうするべきか自覚することです。個々の史実から何を学ぶか、視点の明らかな学習を展開すべきです。
C 同和問題解決の方向
 同和問題を解決するためには、「実態的差別」と「心理的差別」をなくすことが必要です。
 「実態的差別」をなくすため、行政・教育・企業などでどのような取り組みが行われているかを理解するとともに、「心理的差別」解消のため払われてきた各方面の努力を知ることが重要です。そして、同和問題解決のための責任と役割の自覚を深めることが最も大切です。

(3) 啓発活動の方法
 啓発活動は市民の意識を高め、問題解決への積極的態度の形成を目指すものでなければなりません。そのためには、次の諸点に注意する必要があります。

@  啓発活動の主体は市民であり、一人ひとりの市民が自分の意志で学習に参加し、意識を高めていくことが基本です。
A  同和問題は、市民が自由に発言し意見を交換しない限り国民的課題とはなりません。自分の考えや体験を、平易に自由に話し合い、語り合う姿勢が大切です。
B  正しい理解は、継続的、体系的に学習することが必要です。学習会もパンフレット類も基礎的な知識は絶えず反復し、繰り返すことが大切です。
C  画一的な硬直した取り組みでは、啓発の効果は期待できません。清新で魅力的な啓発活動の創造が必要です。「新鮮さと繰り返し」をどう調和させるかが、今後の大きな課題です。
 このためにも、啓発活動を長期的視野に立って対象者に応じた効果的な活動の展開が期待されます。
D  印刷物は、目的、対象者別の要求に応えられるように多様な資料を整備することが必要です。イラスト写真などを取り入れ、親しまれる内容のものを作る必要があります。
E  従来の啓発活動は、理性的な働きかけが多かったのですが、これからの啓発活動は視聴覚教材(映画・ビデオ・スライド等)を用いるなどして、感性に訴えることが大切です。

2 啓発活動推進の条件
 啓発活動の主体は市民ですが、行政をはじめ企業団体等はそれぞれの役割を自覚し、一体となって問題解決に取り組む必要があります。
(1) 行政の課題

@  行政の基本的な姿勢が啓発活動の推進を左右します。この意味からも同和問題啓発協議会(仮称)という形で、全市的な組織化を研究する必要があります。
A  人権尊重の精神が浸透するためには、学校教育の果たす役割は大です。教職員の認識を深め、実践力を強化するためにも、研修の充実が期待されます。
B  啓発活動の展開には、指導者の果たす役割は大です。指導者の養成を図るとともに不断の研修が必要です。
C  啓発活動の成果を常時反省し、効果的な取り組みに努めることが大切です。
D  企業その他の相談に応じ、講師や助言者の斡旋など、その活動促進に努めることが肝要です。
E  国・県の機関との連携の強化に努め、人権週間などでの取り組みの充実を図る必要があります。
F  各種組織等との連携を強め、特に世論の形成に大きな影響力を持つマスコミなどに働きかける必要があります。

(2) 地域社会や企業等の課題

@  家庭での親の言動は、子どもの性格やものの考え方に大きな影響を及ぼします。人権尊重の精神を身につけさせるためには、親の理解が何よりも必要であり、PTAとしての取り組みが期待されます。
A  企業はその社会的責任を自覚して、職場内の研修に努めることが重要で、行政側との連携を強化して活動の促進を図ることが望まれます。
B  各種の組織もそれぞれの立場で、問題解決のための取り組みを展開することが望まれます。
C  基本的な人権を守ることは、住みよい地域社会を築き豊かな人間関係を育むうえで大切なことです。
 身近な地域社会の中で同和問題を取り上げ、あらゆる機会を通して学習を積み重ねることが望まれます。

(3) 市民の自己啓発
 同和問題の解決を自分自身の課題とするため、市民一人ひとりが講演会や学習会などに積極的に参加するなど自己啓発に努め、同和問題の正しい理解と認識を積み重ねる取り組みが望まれます。

3 各分野での具体的啓発の推進
(1) 市政の市民啓発促進
(推進の方向)
 同和問題の解決は行政の責務であることを認識し、市政の重要な柱として位置づけ、同和理解を進めるため各種の施策を研究し実施します。

@  啓発講演会
 市民の認識と理解を深めるため、同和問題啓発講演会を今後も継続して開催し、啓発や学習の効果的な場となるように努力します。
A  学習資料の配付
 市民の学習資料として全世帯に配布する「広報させぼ」に人権シリーズを連載するとともに、分かり易く内容を充実した啓発小冊子を今後も引き続き発行します。
B  人権高揚の事業
 人権週間の事業として広報車による広報、啓発懸垂幕掲示、広報看板設置、人権尊重ポスター掲示、児童・生徒の作品募集等の事業を引き続き実施します。
C  推進体制の確立
 佐世保市同和対策基本方針に基づき、全庁一体となって各所属の分野への啓発の推進を図ります。

(2) 市職員研修の充実
(推進の方向)
 地域社会における差別意識の根絶、同和問題の解決に向けて市職員の果たす役割の重要性に鑑み、同和問題に対し認識と実践力を持った人権感覚豊かな職員を養成するため、積極的に研修を実施します。

@  集合研修の実施
 新入職員研修や各職階への昇任時研修、管理監督者研修時に研修科目の中に同和問題を組み入れ継続的に実施します。
A  職場研修の実施
 所管業務と同和問題との関わりについて正しい理解と認識を深めるため、各職場での実務を中心とした職場研修の中で機会をとらえて実施します。
B  各種講演会への参加
 同和問題講演会や人権問題講演会など、啓発のための各種講演会等へ積極的に参加させます。
C  研修内容の充実検討
 職員一人ひとりが自らの問題として受け止め、意識を高め自己変革を行うような研修内容となるよう研究していきます。

(3) 社会同和教育の推進
(推進の方向)
 社会教育においては、同和教育の充実を図るために教育集会所、市立公民館等の社会教育施設を中心に啓発活動を行っていますが、今後とも生涯学習の一環として認識を深め市民の意識の高揚に向けてさらに努力していきます。

@  人権講演会
 人権週間の意義を高めるため保育園(所)・幼稚園・小中学校・高校・大学・企業・社会教育団体など、あらゆる分野へ参加を呼びかけ人権講演会を開催し、人権尊重精神の定着を推進します。
A  公民館における同和問題啓発
 市立の各公民館が実施する研修会・学校・講座の中に同和問題を取り上げることで、町内公民館・自治会・町内会へ社会同和問題の輪を広げ、地域住民の意識の高揚を図ります。
B  教育集会所における同和問題啓発
 人権講演会や主催講座に同和問題を取り上げるとともに、「教育集会所だより」による同和問題啓発の広報活動を行います。
C  地域における各学校PTA等に対する啓発
 機会をとらえ同和問題の正しい理解の普及に努めます。

(4) 学校における同和教育の推進
(推進の方向)
 保育園・幼稚園の幼児は、生涯にわたる人間形成の基礎を培う時期です。
 また、小中学校、高等学校、大学時代は知的好奇心が旺盛で、心身ともに大きな発達をする人格形成の上で極めて重要な時期です。
 このようなことから、同和問題の基本的なことについて正しく認識をし、人間の尊厳についての理解を図るために、それぞれの教育機関等で意図的、継続的に同和教育を実践しなければなりません。

@  同和教育の充実
 幼児等に対する同和教育は、保護者等との連携を十分にとって発達段階に応じた指導が必要です。
 また、小中学校、高等学校、大学等においては、それぞれの教育課程や地域の実態等に配慮しながら、計画的に実施する必要があります。
A  教職員の研修の充実
 教職員の同和教育に対する正しい認識を深め、指導者として必要な資質の向上を図るとともに、指導法の工夫・改善のため研修等を充実させることが大切です。
B  家庭や地域との連携
 同和教育に対する理解と認識を深めるために、家庭や地域と密接な連携をとりながら同和教育の充実を図る必要があります。

(5) 企業内啓発の推進
(推進の方向)
 同和問題の認識を社会的に広めるには、地域・家庭・教育面のほか、企業の理解が必要です。採用時の差別の排除、職場内での人権尊重意識の高揚は、企業の社会的責務として強く求められています。

@  研修実施計画
 企業は、関係行政機関と密接な連携を図り、同和問題の解決のための研修を効果的に進めるよう計画実施する必要があります。
A  研修の推進体制の整備
 企業は、同和問題研修の充実を図るために、推進体制を整備することが大切です。
B  研修指導者の養成
 職場での研修を推進するためには、企業内に同和問題研修指導者を育成し、指導者を中心とした学習の機会を積極的に設けることが必要です。

(6) 各種組織での推進
(推進の方向)
 各種組織は、組織構成員の主体的な学習意欲を高めるため、行政機関と密接な連携を図りながら、研修の充実に努めることが大切です。

(7) 地域社会での推進
(推進の方向)
 豊かな隣人社会を築くため、各種の機会に同和問題の学習を行うことが望まれます。
 また、一人ひとりが講演会・学習会等へ積極的に参加する行動を要請することが必要です。

結び‐「差別のない、明るく、住みよい佐世保」‐
 同和問題を解決するためには、市民一人ひとりの努力の積み重ねが大切です。一人ひとりが主役としての意識に目覚め、差別をなくすための学習や行動の積み重ねこそ啓発の効果が生まれ、問題が解決していくものと信じます。
 私たちは社会の現実に正しく目を向け、差別を許さない心を養成しなければなりません。学習や研修は、単に知識を積み重ねるだけではなく、意識改革へ意欲を高め、差別をなくし人権確立のための具体的な努力につながるものでなければなりません。
 先の人権意識調査の結果からも、学習や研修の機会を多く経験したほど正しい認識や態度が培われてきている傾向があることを考えますと、今後、啓発活動をいっそう充実させる必要があります。
 平成4年(1992)4月「地対財特法」が5ヵ年延長され、新たな視点から同和問題解決のため、創意工夫を凝らした啓発の推進が求められています。
 同和問題を正しく学び地域社会から差別をなくすことが、国民の権利保障に深く関係することを考えて、人権尊重の立場から啓発活動を進めていかなければなりません。
 この啓発指針を理解していただき、それぞれの分野で啓発活動が推進され、一日も早く「差別のない、明るく、住みよい佐世保」が実現することを、心から念願してやみません。

(平成5年9月17日 制定)



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