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96年版 高齢社会対策大綱
(1996年7月5日閣議決定)
目次
第1 目的及び基本的考え方
1 大綱策定の目的
2 基本的考え方
第2 分野別の基本的な施策
1 就業・所得
2 健康・福祉
3 学習・社会参加
4 生活環境
5 調査研究等の推進
第3 高齢社会対策の推進について
1 高齢社会対策の推進に当たっての留意事項
2 高齢社会対策の推進体制
3 大綱の見直し
第1 目的及び基本的考え方
1 大綱策定の目的
我が国の人口構造の高齢化は極めて急速に進んでおり,経済社会の重層的な転換と相まって国民生活に広範な影響を及ぼしている。
21世紀初頭の本格的な高齢社会を目前に控え,国民の一人一人が長生きして良かったと実感できる,心の通い合う連帯の精神に満ちた豊かで活力のある社会を早急に築き上げていくためには,経済社会のシステムがこれにふさわしいものとなるよう不断に見直し,個人の自立や家庭の役割を支援し,国民の活力を維持・増進するとともに,自助,共助及び公助の適切な組合せにより安心できる暮らしを確保するなど,経済社会の健全な発展と国民生活の安定向上を図る必要がある。
このため,高齢社会対策基本法(平成7年法律第129 号。以下「法」という。)第6条の規定に基づき,政府が推進すべき基本的かつ総合的な高齢社会対策の指針として,この大綱を定める。
2 基本的考え方
高齢社会対策は,法第2条に掲げる次のような社会が構築されることを基本理念として行う。
一、国民が生涯にわたって就業その他の多様な社会的活動に参加する機会が確保される公正で活力ある社会
二、国民が生涯にわたって社会を構成する重要な一員として尊重され,地域社会が自立と連帯の精神に立脚して形成される社会
三、国民が生涯にわたって健やかで充実した生活を営むことができる豊かな社会
これらの基本理念を実現するためには,国及び地方公共団体はもとより,企業,地域社会,家庭,個人,ボランティア等社会を構成するすべての者が相互に交流・協力し合い,それぞれの役割を積極的に果たすことにより,社会全体が支え合う体制の下で高齢社会対策を進めることが重要である。
このため,次の基本的考え方に基づいて,政府の高齢社会対策を策定し,就業・所得,健康・福祉,学習・社会参加,生活環境,調査研究等の推進の各分野にわたる施策の展開を図るものとする。
(1) 高齢者の自立,参加及び選択の重視
高齢者の多様性に配慮しつつ,高齢者が安心して自立した生活を送れるよう支援するとともに,高齢者がそれぞれの経験と能力をいかし,高齢社会を支える重要な一員として各種の社会的な活動に積極的に参加できるための条件の整備を図る。また,個々人の価値観に基づいて高齢者が様々な生き方を主体的に選択できるように,各種サービス等についても,民間事業者の活用を図るとともに,基礎的な給付については公的に保障しつつ,それを超えるものについては民間保険の積極的な活用を進めるなど,多様な選択が可能となるよう配慮する。
(2) 国民の生涯にわたる施策の体系的な展開
高齢社会対策が,国民の乳幼児期から高齢期までの生涯の各段階にわたって,個人の自立や家族の健全な役割を基礎にしつつ、それぞれのニーズに応じて効果的に実施されるよう,各施策を有機的に組み合わせる等その体系的な展開を図る。
(3) 地域の自主性の尊重
地域における高齢化の状況や,都市あるいは農山漁村等その社会的・経済的特性に応じ,既存施設の活用やまちづくりの視点等も含め,地域の自主性が発揮され,施策の効果的な推進が図られるよう必要な条件の整備を図る。
(4) 施策の効果的推進
民間部門を含む社会的資源を最適に活用しつつ,各施策の一層の重点化,効率化を図り,高齢社会対策を効果的に推進することによって,将来の国民負担の増大をできるだけ抑制するとともに,世代間の負担の公平と適正の確保を図る。
(5) 関係行政機関の連携
高齢社会対策の効果的かつ総合的な推進を図るため,現行施策の厳しい見直しを行い,施策相互間の十分な調整を図るとともに,関係行政機関の緊密な連携と協力を図る。
(6) 医療・福祉,情報通信等に係る科学技術の活用
高齢社会において医療・福祉,情報通信等に係る科学技術の成果が,高齢者にも広くゆきわたるよう,研究開発及び活用の両面での条件整備を図る。
なお,高齢社会対策の推進の基礎的条件として,物価の安定基調を維持しつつ,独創的な科学技術の研究開発や経済構造改革の推進により持続的安定的な経済成長の達成を図るとともに,国民生活の質の向上を重視した社会資本の整備を行い,国土の均衡ある発展を図る。
第2 分野別の基本的な施策
1 就業・所得
労働力人口の構成が21世紀に向けて高齢化するのに対応し,持続的安定的な経済成長を達成し,高齢社会を活力あるものとするため,勤労者が高齢期までその能力を有効に発揮できる雇用・就業環境の整備を図る。
高齢者の高い勤労意欲を踏まえつつ,長年培った知識・経験・能力が有効にいかされるよう,希望すれば現役として65歳まで働くことができる社会を目指して,65歳までの継続雇用を推進するとともに,高齢者がその意欲と能力に応じて就業することができる多様な機会の確保を図る。
勤労者が,職業生活と家庭や地域での生活とを両立させつつ,職業生活の全期間を通じて能力を有効に発揮することができるよう,職業能力の開発,労働時間の短縮,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の一層の確保,育児・介護休業制度の普及などの施策を推進する。
職業生活からの引退後の所得については,国民の社会的連帯を基盤とする公的年金を中心とし,これに職域や個人の自助努力による企業年金,退職金,個人年金等の個人資産を適切に組み合わせて,その確保を図る。
(1) 高齢者の雇用・就業の機会の確保
ア 65歳までの継続雇用の推進
65歳までの継続雇用を柱として,高齢者の雇用・就業環境の整備を図る。
その基盤となる60歳定年については,義務化される1998年4月前のできるだけ早い時期に未達成の企業が移行するよう,強力に指導する。
65歳までの継続雇用を推進するため,定年後の継続雇用制度の導入について啓発・指導を積極的に行うとともに,適正な賃金・人事管理に係る相談・援助などを推進し,あわせて,高齢者の雇用に関する各種助成金制度の効果的な活用を図る。
60歳時点に比して賃金が相当程度低下した高齢者に対し雇用保険の高年齢雇用継続給付を活用してその勤労意欲にこたえる。
加齢に伴う心身機能の変化を考慮して,労働災害の防止,健康の保持増進及び職場環境等の改善を図る。
イ 多様な形態による雇用・就業機会の確保
高齢期においては,健康,体力面での個人差が拡大するとともに,就業ニーズが多様化することから,関係機関の連携を図りつつ,多様な形態による雇用・就業機会の確保を図る。
再就職を希望する高齢離職者については,その早期再就職が可能となるよう,職業能力開発,求人開拓,雇用情報提供,再就職援助措置等の実施による公共職業安定所の労働力需給調整機能の強化を図るとともに,事業主が行う定年退職者等に対する再就職援助を促進する。
また,高齢者が自らの選択や裁量の効く形で働けるようにするため,高年齢者に係る労働者派遣事業の特例制度を適正に運用するとともに,高年齢者職業経験活用センターが実施する労働者派遣事業等を推進する。
さらに,地域において退職後の臨時・短期的な就業機会を提供するため,シルバー人材センター事業について,実施地域の拡大等積極的な展開を図る。
その他,勤労者が高齢期及び引退後の生活設計に向けての準備を行えるよう,必要な情報を提供する等の事業主等による援助を促進する。
(2) 勤労者の生涯を通じた能力の発揮
ア 長期にわたる職業生活を通じた能力の開発
勤労者が長期にわたり職業能力を発揮できるよう,各種の情報提供,相談援助,生涯能力開発給付金等の活用などにより,企業における教育訓練の支援や個人の自発的な職業能力開発を推進するとともに,公共職業能力開発施設における職業訓練を推進する。
イ ゆとりある職業生活の実現等
1997年4月からの全面的な週40時間労働制への円滑な移行を図るとともに,完全週休二日制の普及促進,年次有給休暇の取得促進及び所定外労働の削減により,年間総労働時間 1,800時間の達成・定着に向けて労働時間短縮を引き続き積極的に推進し,職業生活と家庭や地域での生活との調和と雇用機会の維持・拡大に資する。
また,リフレッシュ休暇等の普及を促進するとともに,事業場における健康保持増進措置など勤労者の健康管理等の実施を促進する。
ウ 雇用・就業における女性の能力発揮
雇用・就業において女性が能力を十分に発揮できるよう,男女の均等な機会及び待遇の一層の確保を図るほか,女性のニーズに対応した職業紹介や職業訓練,農林漁業経営への女性の参画の推進などの施策を推進する。
エ 職業生活と家庭生活との両立支援対策の推進
勤労者の職業生活と家庭生活との両立を支援するための対策を総合的かつ体系的に推進する。
このため,育児休業制度の定着の促進,1999年4月に導入が義務化される介護休業制度の早期普及,育児・介護休業の取得や職場復帰がしやすい環境づくり,育児や介護をしながら働き続けやすい環境づくりなどにより,仕事と育児・介護とを両立することができる雇用・就業環境の整備を図る。
オ 多様な勤務形態の環境整備
パートタイム労働や派遣労働など多様な働き方を選択できる環境を整備するとともに,情報通信を活用した遠隔型勤務形態の開発・普及に取り組む。
(3) 公的年金制度の安定的運営
公的年金制度については,雇用との連携を図りつつ適正な給付水準を確保し,今後とも高齢期における生活の所得保障の中核を担えるよう,1985年及び1997年における改革を踏まえ,引き続き給付と負担の均衡を図る等の施策を推進し,制度の長期的安定の確保に努める。その際,世代間扶養の仕組みであることを踏まえ,将来世代の負担が過重なものとならないよう配慮する。また,就業構造の変化,制度の成熟化の進展等に対応し制度の安定化と公平化を図るため,公的年金制度の再編成を推進する。
(4) 自助努力による高齢期の所得確保への支援
ア 企業年金制度の安定的運営
企業年金制度については,公的年金制度を補完するものであることから,厳しい経済状況にあってもより安定的な運営が必要であり,その中核となる厚生年金基金制度については,基金制度全体の抜本的な見直し等を行う。あわせて,基金資産の一層の効率的な運用が図られるよう,規制緩和等の措置を今後とも検討する。
また,適格退職年金制度についても,見直しの必要性について検討を加える。
イ 高齢化等に対応した退職金制度の改善
高齢化の進展に伴う退職者の増加,産業構造の変化等による労働移動の増加等に対応した企業における退職金制度の在り方について検討を行う。
また,社外積立型の制度を導入する等の改善を促進するとともに,退職金の保全措置制度に関し,支払確保を図るための措置について検討を進める。さらに,中小企業における退職金制度の普及促進及び内容の向上を図る。
ウ 高齢期に備える資産形成等の促進
ゆとりある高齢期の生活に資するため,高齢期の所得の安定を目的とする金融商品等の開発,各種金融サービス等の充実を通じて自助努力による資産形成を促進するとともに,勤労者の在職中からの計画的な財産形成及びこれに対する事業主の援助を引き続き促進する。
また,より豊かで安心できる高齢期の生活を求める国民のニーズにこたえ,国民の自助努力を支援するため,相談窓口の充実等により,個人年金,国民年金基金等の普及・活用を図る。
さらに,高齢期における資産の有効活用を図るため,自己所有の住宅等を担保として高齢者に融資を行うリバース・モーゲージの制度について検討を進める。あわせて,高齢者の財産管理の支援等に資するため,痴呆性老人の権利擁護のためのシステムを検討する。
2 健康・福祉
若年からの健康づくりによって高齢期に至っても長く健康を保つようにし,健康を害してもできるだけ回復に努め,健康を損なっても悪化を防いで日常生活の維持を図るという健康観の下,健やかで充実した生活を確保し,長寿を全うできるよう,生涯にわたる健康づくりを総合的に推進する。
高齢者の保健・医療・福祉サービスについては,「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を見直して1994年に策定された「新ゴールドプラン」を着実に推進することにより,支援を必要とする誰もが,自立に必要なサービスを身近に手に入れることのできる体制を構築する。
また,高齢社会にふさわしい良質かつ適切な医療を効率的に確保できるような制度を確立するとともに,介護サービスについては,広く国民の理解と協力を得て,高齢者及び現役世代が国民の共同連帯の理念に基づいて費用を支え合い,将来にわたって必要な財源を安定的に確保できる仕組みとする。その際,社会保障制度全体としての整合性の確保に留意する。
さらに,多様で弾力的なサービスを効率的に提供するため,民間事業者によるサービスを積極的に活用する。その際,利用者の選択に基づく競争を通じて良質なサービスが確保されるよう条件の整備を図る。
活力ある高齢社会の構築には少子化への対応が重要であることから,子育てを支援するための施策を総合的かつ計画的に推進する。
(1) 健康づくりの総合的推進
ア 生涯にわたる健康づくりの推進
健康に関する知識や健康休暇の普及等により国民の健康に対する認識と自覚を深め,健康の増進,疾病の予防,早期発見,早期治療を図り,栄養,運動,休養のバランスのとれた生涯にわたる健康づくりを推進する。また,健康づくりに資する食生活の実現を図る。
壮年期から高齢期における健康づくりについては,地域における身近な保健サービスを,都道府県の支援の下,市町村において一元的に提供する体制を整備するとともに,民間サービス,情報通信の活用等によりその充実・強化を図る。
イ 健康づくり施設の整備等
生涯にわたる健康づくりに資するため,地域における健康づくり施設の整備等を推進するとともに,自然とのふれあいの中で健康づくりができるよう,必要な施設等の整備等を推進する。
(2) 保健・医療・福祉サービスの充実
ア 地域における総合的なサービス提供体制の整備
高齢者の多様なニーズに的確に対応し,関連諸制度との連携を図りつつ,保健・医療・福祉を通じた総合的かつ効率的な,利用者本位のサービスを提供することとし,市町村を基本に住民に最も身近な地域において,民間事業者を積極的に活用することなどにより,このようなサービスをきめ細かく提供することができる体制づくりを行う。
イ 在宅サービスの充実
家庭の果たす生活面,精神面における機能の重要性にかんがみ,高齢者が介護を必要とする状態となってもできる限り住み慣れた家庭や地域で生活できるよう,在宅サービスの充実を図る。
このような高齢者や家庭を支援するため,ホームヘルプサービス,ショートステイ,デイサービス及び訪問看護事業の充実を図るとともに,在宅介護支援センターの整備を図る。
その際,ホームヘルプサービスについては,休日を含めた24時間対応ヘルパーの普及を図る。
さらに,かかりつけ医機能の充実・強化,在宅ターミナルケアの推進,デイケアの推進など総合的な在宅保健・医療の推進を図る。
ウ 施設サービスの充実
高齢者が,在宅での生活が困難となった場合に,そのニーズに応じて適切な専門的サービスが受けられるよう,施設サービスの充実を図る。
このため,特別養護老人ホーム,医療と生活のサービスを併せて提供する老人保健施設,過疎地等向けの高齢者生活福祉センター,車いす等を活用し自立した生活が継続できるケアハウス(軽費老人ホーム)の整備を図るとともに,充実した療養環境と介護力を整えた療養型病床群の整備を促進する。
その際,施設の本来の機能に配慮しつつ,他の公共施設との複合的整備や,医療施設の転換を含めた既存施設の有効活用を図る。
エ 要援護高齢者の自立支援施策の総合的実施
寝たきり等の要援護状態の発生を予防し,高齢者の自立を積極的に支援する観点から,地域におけるリハビリテーション実施体制の強化を図るとともに,脳卒中,骨折等の予防及び加齢による機能低下防止のための保健事業の充実などの施策の総合的な展開を図る。
オ 老人性痴呆に関する総合的施策の実施
老人性痴呆に関しては,老人性痴呆疾患センターの整備の推進などにより相談・情報提供体制の充実を図るとともに,担当職員を対象とする痴呆に関する研修の実施により発症予防,早期発見・早期対応の体制を整備する。
また,治療・ケア体制の充実を図るため,痴呆性老人向け毎日通所型デイサービスセンターの整備及び痴呆性老人向けグループホームの制度化を図るとともに,老人性痴呆疾患治療・療養病棟,老人保健施設痴呆専門棟等の整備を促進する。
(3) 介護基盤整備のための支援施策の総合的実施
ア 高齢者介護マンパワーの養成・確保対策の推進
高齢者介護サービスを担う社会福祉施設職員,看護職員,ホームヘルパー等の人材を養成・確保するため,養成施設,資質向上のための研修体制,職場環境の整備など総合的な人材確保施策を講ずる。
あわせて,介護労働者について,雇用管理の改善,公共職業安定所及び民間による労働力需給調整機能の強化などを図る。
また,高齢者福祉に係るボランティア活動の推進を図る。
イ 福祉用具の普及の促進
福祉用具の適切な利用を進めるため,介護実習・普及センター等を整備し,展示・相談機会を確保するとともに,福祉用具の給付又は貸与等により普及の促進を図る。あわせて,福祉用具関連事業者に関し,供給円滑化のための環境整備を行う。
ウ 国民に利用しやすいサービス提供体制の総合的整備
住民が身近なところで介護に関する相談ができ,必要な情報を手に入れることができるよう,在宅介護支援センター等を中心としてその具体的展開を図るとともに,介護に係るニーズを的確に把握し,必要なサービスに結びつけるケアマネジメント機能の充実を図る。
(4) サービスに係る費用
ア 医療に係る費用
高齢社会にふさわしい良質かつ適切な医療を効率的に確保するため,医療保険制度の抜本的改革に加え,医療提供体制の効率化を含めた総合的な対策を中長期的な観点から実施することにより,老人医療費を始めとする医療費の適正化を総合的に推進するとともに,世代間の負担の公平,各保険制度内,保険制度間の給付と負担の公平等の実現を図る。
イ 社会連帯による介護費用の確保
広く国民の理解と協力を得て,高齢者及び現役世代が国民の共同連帯の理念に基づいて介護費用を支え合い,将来にわたって必要な財源を安定的に確保できる仕組みを構築するため,適切な公費負担を組み入れた社会保険方式による新たな高齢者介護制度の創設に向け,積極的に取り組む。
(5) 民間事業者等によるサービスの活用
健康・福祉に係るサービスに対する需要の高度化及び多様化に的確にこたえるとともに,サービスの効率化を図るため,民間事業者によるサービスを積極的に活用することとし,介護サービスの供給主体に関する規制の緩和を進めて,その参入を促進するとともに,融資制度の活用等により民間事業者の健全な育成を図り,介護関係の市場や雇用の拡大を目指す。
また,質の確保の観点から,適切なサービス評価体制の確立を図る。
(6) 子育て支援施策の総合的推進
安心して子供を生み育てることができ,子供自身が健やかに成長できる環境づくりを推進するため,多様な保育サービスの充実や母子保健医療体制の充実など子育て支援のための施策を総合的かつ計画的に推進する。その際,緊急保育対策等5か年事業を推進するとともに,市場を通じて提供される民間保育サービスの健全な発展のための環境整備を図る。
3 学習・社会参加
高齢社会においては,価値観が多様化する中で,学習を通じての心の豊かさや生きがいの充足の機会が求められ,経済社会の変化に対応して絶えず新たな知識や技術を習得する機会が必要とされることから,生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ,その成果が適切に評価される生涯学習社会の形成を目指す。
また,高齢者が社会の重要な一員として生きがいを持って活躍できるよう,ボランティア活動を始めとする高齢者の社会参加活動を促進するとともに,高齢者が自由時間を有効に活用し,充実して過ごせる条件の整備を図る。
さらに,ボランティア活動は,自己実現への欲求及び地域社会への参加意欲を充足させるとともに,福祉に厚みを加えるなど地域社会に貢献し,人々の交流を深めて社会連帯や相互扶助の意識を醸成するものであることから,誰もが,いつでも,どこでも,気軽にボランティア活動に参加できるよう,自発性を尊重しつつ,基盤の整備を図る。
(1) 生涯学習社会の形成
ア 生涯学習の推進体制と基盤の整備
生涯学習社会の形成を目指し,学習機会の体系的整備を図るため,社会教育施設,高等教育機関等の関係機関及び民間団体等との連携を図りつつ,生涯学習を総合的に推進する体制を整備することとし,地域における連携を図るための会議の開催,総合的推進に必要な基本計画等の策定などを推進する。
また,生涯学習の機会の提供に係る基盤の整備として,生涯学習に関する普及・啓発,情報提供・相談体制の充実,指導者の確保及び資質の向上を図るとともに,学習成果の適切な評価の促進を図る。
イ 学校における多様な学習機会の確保
大学等の高等教育機関においては,社会人に対する高度で実践的な学習機会の提供を図るため,社会人特別選抜の実施,夜間大学院の設置,昼夜開講制の実施などの取組を促進するとともに,放送大学の全国化の準備を進める。
また,地域住民を対象とする開放講座の開催,余裕教室を活用した社会教育の実施など学校の教育機能や施設の開放を促進する。
ウ 多様な学習機会の提供
国民の多様化し,高度化する学習ニーズに対応するため,民間事業者の健全な発展の促進を図りながら,公民館,図書館,博物館等における社会教育の充実,美術館等における文化活動の推進,スポーツの振興などにより,情報通信も活用しつつ,生涯にわたる多様な学習機会の提供を図る。
エ 勤労者の学習活動の支援
勤労者が一定期間職場を離れて学習活動を行うことのできる体制を整備するため,有給教育訓練休暇制度の普及促進などを図るとともに,自発的に職業能力を高める勤労者個人を直接支援する方策を検討する。
(2) 社会参加活動の促進
ア 高齢者の社会参加活動の促進
活力ある地域社会の形成を図るとともに,生きがいを持って活躍できるよう,高齢者の社会参加活動を促進する。
このため,高齢者と若年世代との交流の機会を確保し,ボランティア活動を始めとする高齢者の自主的な活動を支援するとともに,高齢者の社会参加活動に関する啓発,情報提供・相談体制の整備,指導者養成などを図る。
また,国際交流の進展に伴い,高齢者等の能力を広く海外において活用するため,高齢者,退職者等の専門的知識・技術を海外技術協力等に活用できる体制の整備を図る。
さらに,高齢者の利用に配慮した余暇関連施設の整備,既存施設の有効活用,利用情報の提供,字幕放送等の充実などにより,高齢者がレクリエーション,観光,趣味等で充実した時間を過ごせる条件を整備する。
イ ボランティア活動の基盤の整備
地域における関係機関相互の効果的な連携を図りつつ,ボランティア活動の基盤を整備する。
このため,活動の拠点の確保,ボランティア活動に関する広報・啓発,情報提供・相談・登録あっせんの体制の整備,入門講座や体験事業の実施を図るとともに,ボランティアのリーダー養成,コーディネーター確保などを促進する。また,幅広くボランティアや福祉に関する教育の機会を提供する。
さらに,ボランティア活動に関する適切な社会的評価を促進するとともに,ボランティア休暇制度の導入や企業等のフィランソロピー活動の支援の推進などの施策を講じる。
4 生活環境
住宅は生活の基盤となるものであることから,生涯生活設計に基づいて住宅を選択することが可能となる条件を整備し,生涯を通じ安定したゆとりある住生活の確保を図る。そのため,居住水準の向上を図り,住宅の生産の合理化等を促進するとともに,親との同居,隣居等の多様な居住形態への対応を図る。また,高齢期における身体機能の低下に対応し自立や介護に配慮した住宅の普及促進を図るとともに,福祉施策との連携により生活支援機能を備えた住宅の供給を推進する。
高齢者が安全かつ円滑に行動ができるよう,公共交通機関,歩行環境,公共的建築物等のバリアフリー化を図ることなどにより,高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進する。
また,交通事故,犯罪,災害等から高齢者を守り,高齢者が安心して生活を送れる環境の形成を図る。
さらに,快適な都市環境の形成のために水と緑の創出等を図るとともに,活力ある農山漁村の形成のため,高齢化の状況や社会的・経済的特性に配慮しつつ,生活環境の整備等を推進する。
(1) 安定したゆとりある住生活の確保
ア 良質な住宅の供給促進
安定したゆとりある住生活の基盤となる良質な住宅ストックの形成に向け,2000年度を目途に全国で半数の世帯が,さらに,その後できるだけ早期に,すべての都市圏においても半数の世帯が誘導居住水準を確保できるよう,また,特に,大都市地域の借家居住世帯に重点を置いて,最低居住水準未満の世帯の解消に努める。
このため,持家については,若年期からの計画的な取得・改善努力への援助等を推進する。借家については,良質な民間賃貸住宅の供給を促進するための支援制度の活用等を図るとともに,公共賃貸住宅の適切な供給に努める。
その他,住宅の生産の合理化,流通基盤の整備,消費者相談の充実等を促進する。
イ 多様な居住形態への対応
持家における親との同居等のニーズに対応するため,融資制度の活用等により同居等に適した住宅の建設及び増改築を促進する。
また,高齢者世帯を優先入居の対象とする公共賃貸住宅の供給を図るとともに,公共賃貸住宅の供給に当たり親との同居,隣居,血縁に基づかない共同居住等のニーズへの対応を図る。
ウ 自立や介護に配慮した住宅の整備
長寿社会対応住宅設計指針の普及,融資制度の活用等により,高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進を図る。特に,新設される公共賃貸住宅については,すべて一定の身体機能の低下に配慮した仕様とする。
また,住宅と福祉の施策の連携強化を図り,日常生活上の援助又は介護の機能等を備えた高齢者向け住宅の供給,生活支援施設を併設あるいは合築した公共住宅団地の整備などを推進する。
(2) 高齢者に配慮したまちづくり
生活空間における物理的な障壁を除去するバリアフリー化を推進して高齢者の移動しやすさの確保を図ることなどにより,高齢者に配慮したまちづくりを総合的に推進する。
その際,駅,空港等の交通ターミナルにおけるエレベーターの設置等高齢者の利用に配慮した施設・車両の整備の促進などにより公共交通機関のバリアフリー化を図るとともに,幅の広い歩道の整備等を通じて連続的な歩行空間の形成を図る。さらに,高齢者が安心して自動車を運転し,外出できるよう道路交通環境の整備を進める。
また,病院,劇場等不特定多数の者が利用する公共性の高い建築物のバリアフリー化の促進を図るとともに,窓口業務を持つ官庁施設等を高齢者の利用に配慮した仕様とすることを推進する。
さらに,福祉施策との連携により,福祉・医療施設の市街地における適正な立地の計画的誘導,公園との一体的整備を進めるとともに,施設周辺の基盤の整備を図る。また,農山漁村において,ほ場整備等による福祉・医療施設の用地の創出,農園等との一体的整備を図る。
(3) 交通事故,犯罪,災害等からの高齢者の保護
関係機関の効果的な連携の下に,地域住民の協力を得て,高齢者,特にひとり暮らしや障害を持つ高齢者が安心して生活できる環境の形成を図る。
このため,高齢者に対する交通安全教育等の実施,高齢者に配慮した交通安全施設の整備などを通じて高齢者の交通事故の防止を図るとともに,犯罪,痴呆症等によるはいかいに伴う危険,人権侵犯,悪質商法等から高齢者を保護する体制の整備を図る。また,災害については,高齢者が大きな被害を受けやすいことを踏まえ,高齢者の保護に係る防災施策の推進を図る。
(4) 快適で活力に満ちた生活環境の形成
快適な都市環境を形成するために都市公園の整備,道路の緑化,親しみやすい水辺空間の整備等を行う。
また,活力ある農山漁村の形成を図るため,高齢者が生産活動等で能力を十分に発揮できる条件を整備するとともに,農山漁村の新たな担い手の定着及び育成確保を推進するほか,高齢者が安心して快適に暮らせるよう,地域特性を踏まえた生活環境の整備を推進する。
5 調査研究等の推進
科学技術の研究開発とその活用は,高齢化に伴う課題の解決に大きく寄与するものであることから,高齢者に特有の疾病に関する調査研究,福祉用具の研究開発など高齢社会を豊かで活力あるものとする調査研究等を推進するとともに,そのために必要な基盤の整備を図る。
(1) 各種の調査研究等の推進
ア 高齢者に特有の疾病に関する調査研究等
痴呆疾患,骨粗しょう症等の高齢者に特有の疾病に関する調査研究,脳卒中等の成人病に関する研究を推進するとともに,高齢者に適した予防,治療,介護等の方法に関する研究,老化に関する基礎研究などを推進する。
イ 福祉用具等の研究開発
高齢者の自立及び社会参加を支援するとともに介護負担を軽減するという観点に立ち,高齢者の特性等を踏まえつつ,福祉用具及び医療機器の研究開発を推進する。
ウ 高齢者の安全で使いやすい生活用品等の研究開発
高齢者の安全で使いやすい生活用品,生活基盤,システム等の研究開発を推進する。
エ 情報通信の活用等に関する研究開発
情報通信等の新たな技術を高齢者の就業,保健・医療・福祉,学習・社会参加,生活環境等に活用することに関し,ハード及びソフトの両面において研究開発を推進する。
(2) 調査研究等の基盤の整備
ア 研究推進体制等の整備
長寿医療科学研究の拠点を始めとする関連試験研究機関,各種研究開発制度等の研究推進体制の充実強化を図る。
また,研究開発等を効率的に推進するため,高齢者の身体特性等に関するデータベースの整備,福祉用具等の評価手法の確立等を行い,高齢化に対応した標準化の推進を図る。さらに,研究情報ネットワークの整備等の研究支援体制の充実強化を図る。
イ 人材の養成等
専門的研究者の養成を図るとともに,研究交流を活発化し,人材の流動化を促進する。
また,国際共同研究の推進,研究情報の交換,研究者の交流の促進等国際的な研究協力を推進する。
第3 高齢社会対策の推進について
1 高齢社会対策の推進に当たっての留意事項
高齢社会対策の推進に当たっては,以下の点に特に留意するものとする。
(1) 個人の自助努力,生活保持や心のやすらぎの場としての家庭及び地域社会の役割を重視するとともに,特に高齢者を支援するボランティア活動の重要性に配慮すること。また,行政と民間との適切な役割分担を図るとともに,競争原理を活用することにより,民間事業者の創意工夫,柔軟性,機動性等を最大限いかし,効率的な施策の推進を図ること。その他,身近な行政機関の活用を図ること。
(2) 高齢社会対策の推進について国民の理解と協力を得るため,広く国民の意見の反映に努めるとともに,効果的な広報,啓発及び教育を実施すること。
(3) 高齢化に伴う経済社会の変化についての情報の収集・分析を常に行うとともに,これらの情報及び高齢社会対策の利用に関する情報を,高齢者を始め,地域住民が容易に入手できるよう必要な体制の整備を図ること。
(4) 可能な限り目標を明確にした計画に基づき,施策に必要な人材及びマンパワーの養成確保等にも配慮しつつ,施策の着実な推進を図ること。
(5) 規制緩和,地方分権,行政情報の公開等行政改革の推進により,効率的かつ国民に信頼される施策を推進すること。
(6) 男女共同参画社会,障害者のノーマライゼーション等高齢社会対策と密接な関連を有する政府の諸課題の実現に配慮すること。
2 高齢社会対策の推進体制
高齢社会対策を重点的かつ効率的に推進するため,高齢社会対策会議において,本大綱のフォローアップを行うとともに,国会への年次報告の案の作成等重要事項の審議等を行うものとし,内閣府と関係行政機関の間に十分な連携協力が図られるものとする。
3 大綱の見直し
本大綱は,政府の高齢社会対策の中長期的な指針であることにかんがみ,5年後を目途に見直しを行うものとする。ただし,経済社会情勢に著しい変化が生じた場合には,速やかに必要な見直しを行うものとする。
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