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国際理解、国際協力および国際平和のための教育ならびに人権および基本的自由についての教育に関する勧告(抄)
1974年11月19日 ユネスコ総会採択


国際連合教育科学文化機関の総会は、パリにおいて1974年10月16日から11月23日までその第18回会期として会合し、
国際理解、国際協力および国際平和ならびに人権および基本的自由の尊重を促進するために、国際連合憲章、ユネスコ憲章、世界人権宣言および戦争犠牲者の保護に関する1949年8月12日のジュネーブ諸条約に掲げられた諸目的を教育を通じて達成することが諸国家に課せられた責務であることに留意し、
正義、自由、人権および平和の推進のためすべての者の教育を確保することを目的としたいかなる活動も加盟国において奨励しおよび支持することがユネスコに課せられた責務であることを再確認し、
それにもかかわらず、ユネスコおよびその加盟国の活動が、たえず増加している学校に通う子ども、学生、自己の教育を続けている青年および成人ならびに教育者のうちの少数の者に対してのみ影響を与える場合がときにあり、また、国際教育の教育課程と方法がこれに参加する青年及び成人のニーズと願望に必ずしも合致していないことに注目し、
さらに、多くの場合、宣言された理想と表明された意図と現実との間にはなお広い不一致が存在することに着目し、
その第17回会期において、このような教育を加盟国に対する勧告の主題とすべきことを決定したので、
1974年11月19日に、この勧告を採択する。
総会は、各加盟国がこの勧告に掲げられている諸原則をそれぞれの領域内において実施するためその国の憲法上の手続に従って必要とされる立法措置または他の措置すべてをとることによって、次の諸規定を適用すべきであることを勧告する。
総会は、加盟国が、学校教育、高等教育および学校外教育を所管する政府機関または他の機関、青年および成人のための教育授業を実施している各種団体の注意をこの勧告に向けさせるべきであることを勧告する。

指導原則
3 教育は、国際連合憲章、ユネスコ憲章および世界人権宣言とくに同宣言第26条2に掲げられた諸目的で満たされるべきである。同宣言第26条2の規定では、「教育は、人格の全面的な発達ならびに人権および基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない。教育は、すべての国または人種的もしくは宗教的集団の相互間の理解、寛容および友好関係を促進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。」と述べている。

4 あらゆる人が3にいう諸目的の達成に積極的に貢献することができ、かつ、個人および社会の生活ならびに基本的な権利と自由の行使に影響を及ぼす世界の諸問題を解決するのに必要な国際的な連帯と協力を促進することができるようにするため、次の諸目標は、教育政策の主要な指導原則とみなされるべきである。(a) すべての段階および形態の教育に国際的側面および世界的視点をもたせること
(b) 国内の民族文化および他国民の文化を含むすべての人民ならびにその文化、文明、価値および生活様式に対する理解と尊重
(c) 諸人民および諸国民の間に増大する世界的な相互依存関係についての自覚
(d) 他の人々とコミュニケーションする能力
(e) 権利を知るだけでなく、個人・社会的集団および国家にはそれぞれ相互に負うべき義務もあることを自覚すること。
(f) 国際的な連帯および協力の必要についての理解
(g) 個人がその属する社会、国および世界全体の諸問題の解決への参加を用意すること。

5 国際教育は、学習、訓練、情報および行動を組み合わせ、個人の適切な知的および感情的発達を助長すべきである。国際教育は、社会的責任感および恵まれていない集団との間の連帯感を発達させるべきであり、かつ、日常の行動における平等の原則の遵守に導くべきである。国際教育はまた、個人が国内的および国際的諸問題についての批判的理解力を習得すること、事実、意見および考え方を理解し説明すること、集団の中で働くこと、自由な討議を受け入れこれに参加すること、いかなる討議にも適用できる基本的な手続き規則を遵守すること、ならびに関連する事実とその要因についての合理的な分析を基礎として価値判断および決定をおこなうことができる資質、適性および能力を発達させる手助けになるべきである。

6 教育は、拡張、侵略および支配を目的とした戦争および抑圧を目的とした武力や暴力の使用に対する各自の責任をあらゆる人々に理解させ負担させるようにすべきである。教育は、国際理解と世界平和の強化に貢献すべきであり、すべての形態および表示による植民地主義と新植民地主義、あらゆる形態および人種的憎悪を醸成し、かつこの勧告の目的に反する他のイデオロギーに反対する闘争における諸活動に貢献すべきである。


学習、訓練および行動の個別的側面
倫理的及び公民的側面
10 加盟国は、国民および人民の平等と必要な相互依存の認識に基礎をおいた態度および行動を学習および訓練の過程において強化しかつ発達させるための適切な措置をとるべきである。

11 加盟国は、世界人権宣言およびあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の諸原則を各レベルおよびすべての形態の教育の日常の行為に適用することによって、これらの原則が子ども、青年または成人それぞれの発達する人格を構成する不可欠な部分となり、したがって、各個人がここに示された方向に向かって教育を刷新しかつ拡大することに直接貢献することができるようにするための措置をとるべきである。

12 加盟国は、教育者が、生徒、親、関係団体および地域社会と協力して、子どもおよび青年の創造的想像力と社会活動に訴える方法を活用し、それによって他人の権利を認め尊重しつつ自己の権利および自由を行使するとともに自己の社会的義務を遂行するように子どもおよび青年を準備させるよう奨励すべきである。

13 加盟国は、教育のすべての段階で積極的な市民的訓練を促進すべきである。この訓練は、あらゆる人々が、(地方、国または国際のいずれであるかを問わず)公の機関の運営方法および事業についての知識を獲得し、基本的な諸問題を解決するための手続に精通し、かつ地域社会の文化生活および公務に参加することができるようにするものである。可能な場合にはいつでも、この参加は、地方、国および国際レベルでの諸問題を解決するため教育および行動とのつながりをしだいに増していくべきである。

14 教育は、諸国間の矛盾と緊張の基底にある経済的・政治的性質を有する歴史的および現代的諸要因についての批判的分析、ならびに、理解・真の国際協力および世界平和の発展に対する現実の障害であるこれらの矛盾を克服する方途についての研究を含むべきである。

文化的側面
17 加盟国は、種々の段階および型の教育において、異なった諸文化、その相互影響、その物の見方および生活様式についての研究をそれらの相違点の相互理解を奨励するために振興すべきである。このような研究は、とりわけ、国際理解および文化間の理解を促進する手段として外国の言語、文明および文化遺産について教えることに妥当な重要性を与えるべきである。

人類の主要問題の研究
18 教育は、人類の存続および福祉を左右する主要問題を持続させ悪化させる諸条件−不平等、不正、武力行使を基礎とした国際関係−の根絶、ならびにこれらの問題の解決に役立ちそうな国際協力の諸措置の両方に向けられるべきである。この点に関して学際的性質をもたざるをえない教育は、次のような諸問題を取り扱うべきである。
(a) 諸人民の権利の平等と人民自決権。
(b) 平和の維持。諸種の型の戦争とその原因および結果。軍備縮小。軍事目的の科学と技術の使用の禁止および平和と進歩のため科学と技術の使用。諸国間の経済的、文化的および政治的関係の性質と効果およびこれらの関係のためとくに平和維持のための国際法の重要性。
(c) 難民の人権を含む人権の行使と遵守を確保する措置。人種主義とその根絶。種々の形態の差別に対する戦い。
(d) 経済成長、社会発展およびこの両者の社会正義に対する関係。植民地主義と非植民地化。発展途上国への援助の方法と手段。文盲根絶の戦い。病気と飢餓の防止運動。生活の質の改善および健康の水準を最大限高めるための戦い。人口増加およびこれに関連する諸問題。
(e) 天然資源の利用、管理および保存。環境汚染。
(f) 人類の文化遺産の保存
(g) 前記の諸問題の解決のための努力についての国際連合システムの役割と活動方法ならびにその活動の強化及び促進の可能性。

19 国際関係にかかわるますます多種多様となる義務および責任の履行に直接関係のある科学および学術部門の研究を発展させるための措置がとられるべきである。

教育の種々の部門における活動
22 国際的な広がりおよび異文化間のもつ広がりを発展させ浸透させる努力は、すべての段階および形態の教育において増大されるべきである。

24 就学前教育が発展するに従って、加盟国は、たとえば人種に対する態度のような基本的態度が就学前の時期にしばしば形成されるので、この勧告の目的に適合する活動を就学前教育で行うよう奨励すべきである。この点に関し、親の態度は、子どもの教育のためのきわめて重要な要因とみなされるべきであり、また、第30項で言及されている成人教育は、親が就学前教育においてその役割を果たすための準備ができるように特別の注意を払うべきである。最初の学校は、独自の性格と価値をもつ社会的環境として計画され組織されるべきである。この環境において、遊戯を含む種種の状況は、子どもが自己の権利を自覚し、自己の責任を受け入れる一方で自由に自己を主張し、直接の経験を通じて家族、学校、地方、国および世界としだいに大きな社会に属するという意識を改善しかつ拡大させることができるようにするものとする。

26 高等教育は、すべての学生に対し、学生が解決に助力すべき主要問題についての知識を鮮明にし、これらの問題の解決を目的とした直接的かつ継続的な行動の可能性を学生に提供し、さらに国際協力についての意識を改善することとなるような市民的な訓練および学習の活動を含むべきである。

27 中等教育段階後の教育施設、とくに大学は、その対象となる人々の数の増加に応えるため、生涯教育の中で拡大されたその機能の一部として国際教育のプログラムを実施すべきであり、かつすべての授業に世界的視野をもった教育方法を採用すべきである。これらの施設は、利用しうるあらゆる伝達手段を用いて、人々の現実の関心、問題および豊富に適合した学習と活動の機会および抱負に適合した学習と活動の機会および便宜を供与すべきである。

28 中等教育段階後の教育施設は、国際協力の研究と実践を発展させるため、外国の教授および学生の来訪ならびに諸国の教授および研究調査団間の専門的協力のような本来その役割に含まれる国際活動の諸形態を組織的に活用すべきである。とくに、研究と実験は、外国の学生と受け入れ施設の両方に影響を与える言語、社会、感情および文化上の障害、緊張関係、態度および行動について行われるべきである。

29 すべての段階の専門的職業訓練は、学生が自己の属する社会の発展、国際協力の促進ならびに平和の維持・助長における自己の役割およびその職業の役割を理解することができ、かつ、できる限り早期にこの役割を積極的に引き受けることができるようにする訓練を含むべきである。

30 成人教育を含む学校外教育は、その目的および形態のいかんを問わず、次の事項を考慮の基礎とすべきである。(a) 世界的視野をもった教育方法が国際教育の適切な道徳的、市民的、文化的、科学的および技術的要素を含むすべての学校外教育にできる限り適用されるべきであること。
(b) すべての関係者が、関係ある知識を個人に伝達し、好ましい態度および積極的な行動を進んでとる心構えを個人に育成し、さらにこの勧告の諸目標に従って計画された教育上の運動とプログラムについての知識と理解を普及するため、マスメディア、自己教育、相互学習ならびに博物館および公共図書館のような施設を相互に協力して活用するよう努力すべきであること。
(c) 公私を問わず関係者が、青少年センター、青少年クラブ、文化センター、コミュニティセンターまたは労働組合の社会的・文化的な活動または青少年の集会、青少年の祝祭、スポーツ行事、外国からの来訪者や学生または移民との接触ならびに人物交流一般のような好適な状況および機会を活用するよう努力すべきであること。

32 加盟国は、学校教育及び学校外教育の各段階において、この勧告の諸目標に向けられた諸活動が調整され、かつ、種々のレベルと型の教育、学習及び訓練のためのカリキュラムの中で統一のとれた全体となることを確保するよう努力すべきである。この勧告に内在する協力と協同の原則は、すべての教育活動において適用されるべきである。

出典:「教育条約集」(永井憲一監修・国際教育法研究会編)三省堂




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