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厚生労働省発表
平成15年7月31日(木)
職業安定局高齢・障害者雇用対策部企画課

「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」の報告書について

 急速な少子高齢化が進展する中、我が国の経済社会の活力を維持していくためには、意欲と能力のある高齢者が、長年培った知識や経験を活かして働くことができる社会を実現する必要がある。
 このため、厚生労働省においては、今後の高年齢者の雇用・就業機会の確保のための総合的な対策を検討することを目的として、学識経験者の参集を求めて、本年4月より6回にわたり、「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」(座長:諏訪康雄法政大学社会学部教授)を開催し、65歳までの雇用の確保策、中高年齢者の再就職の促進策、高齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策の3点について主な議論を行ってきた。
 今般、これまでの議論を基に報告書がとりまとめられたので公表する。

(参考資料)
 資料1  報告書の概要
 資料2  報告書(本文)



資料1

今後の高齢者雇用対策について
〜雇用と年金との接続を目指して〜(概要)
今後の高齢者雇用対策に関する研究会(平成15年7月)

I.背景

 ○  2015年までに生産年齢人口は約840万人、労働力人口は約90万人減少
 ○  いわゆる団塊の世代が2007年から2009年にかけて60歳に到達
 ○  年金支給開始年齢は既に引き上げられつつあり、定額部分は2013年までに、報酬比例部分は2025年までに65歳に引き上げられる予定(女性については5年遅れ)
 ○  少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業は全体の約70%であるものの、希望者全員を対象として少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業は全体の約30%超
 ○  中高年齢者を取り巻く雇用情勢は依然として厳しく、一旦離職するとその再就職は困難
 ○  我が国高齢者の就労意欲は非常に高く、60歳代前半の男性の労働力率は70%


II.基本的な考え方

 高齢者が意欲と能力に応じ可能な限り社会の支え手としての役割を果たすようにしていくことが重要であり、このため、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることのできる社会の実現を図ることが必要。当面は、雇用と年金との接続を強化し、少なくとも年金支給開始年齢までは年齢が理由となって働くことが阻害されることのないシステムの整備が急務

 【全般的な年齢差別禁止について】
 ・  我が国では年齢という要素が企業の雇用管理上重要な役割を果たしており、年齢に代わる基準が確立されていない中で直ちに全般的な年齢差別を禁止することは労働市場の混乱等を招くおそれもあり、現時点においては、我が国の実情に即した対応としては適当ではない
 【若年者雇用対策との関係について】
 ・  高齢者も若年者も、意欲と能力に応じて年齢にかかわりなく働くことができる環境を整えることが重要であり、それぞれの置かれている実態に応じた雇用対策を進めることが必要


III.今後の高齢者対策

  1.年金支給開始年齢までの雇用の確保策
 各企業において、基本としては定額部分の年金支給開始年齢の引上げに合わせ段階的に定年を引き上げるべき。それが困難な場合には希望者全員を対象とする継続雇用制度の導入によって年金支給開始年齢までの雇用を確保すべき
 その際、労使間で労働条件等について十分な協議を行い、従来の賃金・人事処遇制度の見直しを行うことが不可欠
 年金支給開始年齢まで働き続けることを可能とする制度を整備することは、意欲と能力のある限りは年齢を理由として離職させられることはないということを意味するものであって、当該年齢までの雇用を無条件に保障するものではなく、労働者は自らの体力、能力、適性の維持・向上に努めることが必要

2.中高年齢者の再就職の促進策
 まずは各企業において年金支給開始年齢まで働き続けることのできる制度設計が求められるが、経済社会の構造的な変化等が進む中にあっては、その雇用する労働者の雇用維持が困難な局面に遭遇し、年金支給開始年齢前にやむを得ず離職させざるを得ないことも十分に想定される。このため、このような場合には、労働市場を通じた雇用機会の確保が求められる。
 特に中高年齢者の場合は、一旦離職するとその再就職は困難であることから、再就職促進策の強化が必要

(1)  募集・採用時の年齢制限の是正について
 募集・採用時の年齢制限を禁止すること、又は、募集・採用時の年齢制限を行おうとしている事業主に対してその理由の説明義務を課すこと、のいずれかの方策を選択し、早急に実施に移すことが必要
 併せて、求人者が求める職業能力や職務内容の明確化等のため、年齢制限を行う企業に対するコンサルティング体制の強化等が必要
(2)  求職者及び求人者の相互理解の促進について
 求職者と求人者が互いに相手を理解し、判断できる時間的猶予を与えるため、トライアル雇用制度、紹介予定派遣制度を積極的に活用することが有効
 能力や職務内容等を企業と労働者が相互に理解可能な形で表現できるような基盤整備(共通言語化の推進)が必要
 労働者が自らの能力、適性等について客観的に認識するため、キャリア・コンサルティング体制の充実が必要
(3)  事業主都合離職の場合の事業主による再就職援助について
 中高年齢者の早期再就職のためには、労働者の能力や適性を十分に把握している事業主による在職中からの再就職援助が有効との考え方に立ち、事業主都合離職の場合に、労働者の能力や職務経歴などに関する情報を、事業主が労働者に対して作成・交付することをより強力に求めるべき
 行政も、事業主に対する必要な相談・援助体制の充実や助成措置の活用促進を図るべき
(4)  労働者の能力開発等の支援について
 離職を余儀なくされた中高年齢者が失業を経ることなく再就職するためには、早い段階から、自らのキャリア設計を含めた職業生活の設計を行い、それに沿った能力開発を進めることが必要

3.高齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策
 高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等の個人差が拡大することから、その雇用・就業ニーズも雇用・就業形態、労働時間、収入面等において多様化する。
 このような労働者の多様なニーズに対応した雇用・就業機会を確保するため、短時間正社員制度の導入促進、起業・創業の支援、シルバー人材センターにおける派遣就労に係る相談・実施やボランティアに関する相談・情報提供等の実施が必要








資料2

今後の高齢者雇用対策について
〜雇用と年金との接続を目指して〜



平成15年7月

今後の高齢者雇用対策に関する研究会

目次

はじめに

I. 高齢者雇用対策の基本的な考え方
 1. 基本的な考え方
  (1)  今後の基本的な方向
  (2)  今後の取組の進め方
 2. 若年者雇用対策との関係

II. 今後の高齢者雇用対策
 1. 年金支給開始年齢(65歳)までの雇用の確保策
  (1)  基本的考え方
  (2)  具体的なルール化
 2. 中高年齢者の再就職の促進策
  (1)  再就職援助の必要性と取組の方向
  (2)  募集・採用時の年齢制限の是正
  (3)  求職者及び求人者の相互理解の促進
  (4)  事業主都合離職の場合の事業主による再就職援助
  (5)  労働者の能力開発等の支援
 3. 高齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策

おわりに


はじめに

 少子高齢化の急速な進展により、生産年齢人口は2015年までに約840万人減少し、これに伴って労働力人口も減少することが見通されている。また、今後2007から2009年にかけて、いわゆる団塊の世代が60歳に達することとなる。
 こうした状況の中、既に年金支給開始年齢は段階的に引き上げられつつあり、定額部分については2013年度までに、報酬比例部分については2025年度までに65歳に引き上げられる(女性については5年遅れで引き上げられる)予定である。
 これに対し、現行の高年齢者雇用安定法では、60歳定年は義務化されているものの、65歳までの雇用の確保については努力義務とされており、実態としても、少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業は全体の約70%となっているが、原則として希望者全員を対象として少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業は全体の約30%となっている。また、中高年齢者を取り巻く雇用情勢は依然として厳しく、一旦離職するとその再就職は困難な状況にある。
 一方で、諸外国と比較しても我が国高齢者の就労意欲は非常に高く、実態としても、60歳代前半の男性の労働力率は70%を超えている。
 このような中で、雇用と年金との接続を強化することが喫緊の課題となっており、また、高い就労意欲を有する高齢者が長年培ってきた知識と経験を活かし、生き生きと活躍し続けることができるようにするためにも、意欲と能力のある限り年齢にかかわりなく働き続けることができるように環境整備を行うことが求められている。
さらに、これらの課題の解決を図ることは、若年労働力が大幅に減少する中で、高齢者が可能な限り社会の支え手としての役割を果たすこととなり、今後の我が国経済社会の活力の維持にも資することになると考えられる。
 本研究会においては、このような問題意識の下、本年4月から6回にわたり、65歳までの雇用の確保策、中高年齢者の再就職の促進策、高齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策の3点について主に議論を行ってきたところである。今般その議論・検討の結果をとりまとめたので、ここに報告する。

平成15年7月


I.高齢者雇用対策の基本的な考え方
 1.基本的な考え方
  (1)  今後の基本的な方向
 今後少子高齢化が急速に進展する状況を踏まえると、高齢者がその意欲と能力に応じた就労を実現できるようにすることはもとより、高齢者の能力の有効活用を図り、高齢者が可能な限り社会の支え手としての役割を果たすようにしていくことが重要である。そのためには、これまでのような年齢を重視した雇用システムを見直し、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることのできる社会の実現を図っていくことが求められる。
 とりわけ、当面の課題としては、年金支給開始年齢の引上げや団塊の世代の高齢化を踏まえ、雇用と年金との接続を強化し、少なくとも年金支給開始年齢となる65歳までは年齢が理由となって働くことが阻害されることのないシステムの整備を行っていくことが急務である。

  (2)  今後の取組の進め方
 このような方向に向けた抜本的な取組としては、法律による全般的な年齢差別禁止を行うこと、すなわち年齢による雇用管理を全面的に禁止することも一つの方法である。
この点については、
(1)  我が国においては、年齢という要素が採用、処遇、退職の在り方を決定する上で依然として重要な役割を果たしており、年齢に代わる基準が確立されていない中で、直ちに年齢差別禁止という手法をとった場合には、労働市場の混乱を招くおそれがあること、
(2)  同時に定年制を禁止するということになると、定年制の有する事実上の雇用保障機能が失われ、高齢者の雇用機会の確保にかえって悪影響を及ぼすおそれがあること、
(3)  「年齢差別禁止」という概念は、誰もが高齢期を迎えるという意味で、純然たる人権規制とは異なるものであることから、その差別禁止の実現に向けては、社会や雇用のシステムへの影響について、多角的に考慮する必要があること、
等を考慮すると、現時点において、全般的な年齢差別禁止によって対処することは、我が国の実情に即した対応としては適当ではないと考えられる。
 むしろ募集・採用時の年齢制限についてその是正を図ったり、我が国の企業において一般的に採用されている定年制を活用しつつ高齢者の雇用機会の確保を図るなど、それぞれの場面をとらえ、政策目的に応じてその是正を図っていくことを通じて、意欲と能力のある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会の実現に近づけていく方が、現実的かつ効果的であると考えられる。
(参考)諸外国の状況
(1)  アメリカ:「雇用における年齢差別禁止法」によって、年齢を理由とする雇用に関する差別は一般的に禁止されている。なお、これが可能である背景には、アメリカでは労働者の採用と解雇が伝統的に自由であり(随意的雇用の原則:Employment at Will)、年齢差別を禁止したとしても企業は大きな影響を受けなかったこと、仕事のやり方が非年功的であること、一定の例外は法定されていること、労働者は早期退職を望む傾向にあり、退職年齢を定めることを禁止したとしても企業への負担は少なかったことなどが挙げられる。
(2)  EU:「雇用及び職業における均等待遇の一般的枠組を設定するEU指令」において、加盟国は2003年12月までに、宗教、信条、障害、年齢、性的指向にかかわりなくすべての者に、雇用及び職業へのアクセスに関して、均等な取扱いを保障するよう国内法の整備を行わなければならないこととなっているが、退職年齢を定めることは排除しないこと、年齢差別の目的が合法的でありその必要性もあるときは、年齢差別禁止の例外を規定することができることなども定められている。なお、年齢差別及び障害差別に関しては3年間の導入猶予(2006年12月まで)が認められている。
 2. 若年者雇用対策との関係
 若年者雇用と高齢者雇用の関係については、
 総人件費という点から考えると、年功賃金制の下では、中高年の社員が多くなると人件費がかさみ若年者を雇えなくなる、
 失業者の多い年齢層がそのまま高い年齢層に移っていくことにより、マクロレベルでの労働生産性や活力の維持など経済社会全体への影響が生じる可能性があるため、若年者雇用対策を優先すべきである、
 従来の産業構造の転換に当たっては、若年労働力が重要な役割を果たしてきたが、その若年者の能力開発の機会が奪われている、
という意見がある一方で、
 若年者の雇用情勢が厳しいのは、近年の厳しい経済情勢や即戦力となる労働者を求めるという企業の採用行動の変化などが背景にあると考えられる、
 高齢者については、募集・採用時の年齢制限などのために求人数が少なく失業率も高くなっていると考えられるのに対し、若年者については、ある程度求人はあるものの職業経験や本人の職業に対する意識が不十分なことから、就職に至らない者や早期に離職する者が多いこと等のために失業率が高いと考えられ、若年者と高齢者の雇用失業情勢には質的な相違がある、
 かつてヨーロッパにおいては若年者の失業問題に対処するために高齢者の早期引退促進政策が推進されていたが、結局若年失業の解消には効果的でなく、かえって社会的コストの増大につながったとの認識が示されていることなどから、高齢者の早期退職を促せば若年者の採用が増えるとは考えにくい、
という意見もあり、賛否両論あるところである。
 この点については、意欲と能力のある限り年齢にかかわりなく働き続けることができるように環境整備を行うという考え方に基づき高齢者雇用対策を進めることは、労働者にとっての魅力ある職場作りにもつながるとともに、将来不安の解消を通じて経済社会全体の活力を維持することにも資するという考え方もあるところである。
 いずれにしても、企業が労働者を雇用するに当たっては、若年者だから雇用する、高齢者だから雇用するということではなく、その意欲や能力、適性によって選択を行うことができる環境を、労働者にとっては、若年者であれ高齢者であれ、公正・均等な条件の下で挑戦することができる環境を整備していくことが求められている。具体的には、例えば、そもそも機会に恵まれないとの理由で若年者の職業能力の蓄積が不足しているのであれば、その是正のため、若年者が能力向上に取り組めるような環境を整えることが重要であり、また、高齢者にとっては、募集・採用時の年齢制限の是正をはじめとして、少なくとも年金支給開始年齢までは年齢が理由となって働くことが阻害されることのないシステムの整備を図ることが重要である。
 すなわち、今後の若年労働力の大幅な減少や現在の若年者及び中高年齢者の厳しい雇用失業情勢に鑑みれば、高齢者も若年者も、意欲と能力に応じて働くことができる環境を整えることが重要であり、この意味で、それぞれの置かれている実態に応じて、年齢にかかわりなく働くことのできる社会の実現に向けた雇用対策を進めることが必要であると考えられる。

II.今後の高齢者雇用対策
 1. 年金支給開始年齢(65歳)までの雇用の確保策
  (1)  基本的考え方
 意欲と能力のある者が少なくとも年金支給開始年齢までは働き続けることができるようにすることが喫緊の課題であるが、厳しい雇用失業情勢の中で中高年齢者は一旦離職すると再就職は困難であり、また、いまだ円滑な企業間労働移動が可能となるような人事労務管理制度や能力評価システムも整備されていない状況にある。したがって、高齢者のそれまでの豊富な職業経験や知識を最大限に活かす上でも、本人が希望する限り、まずはできる限り現に雇用されている企業において、労使間での話し合いや工夫を講じながら、継続して意欲と能力に応じて働き続けることを可能とする制度を整備することが求められる。
 なお一方で、高齢化等に伴い個人の職業人生は長期化するのに対し、企業間競争の激化による企業の盛衰や産業構造の変化は一段と速くなり、個々の企業のみで労働者の長期間の雇用保障を行うことは困難な状況となってきているため、必要な場合には労働者の円滑な企業間移動を可能とすることにより、労働市場を通じて少なくとも年金支給開始年齢までの雇用機会が確保される、すなわち、働き続けることのできる環境を整備することも必要である。

  (2)  具体的なルール化
 これまでも60歳定年制の義務化を基盤としつつ65歳までの安定した雇用の確保が企業に求められてきたところであるが、その実態はいまだ不十分な状況にあるため、定額部分の年金支給開始年齢の引上げを踏まえて、雇用と年金との接続を確保し、少なくとも年金支給開始年齢となる65歳まではその雇用する労働者を年齢を理由としては離職させないというルールを作り、高齢者の雇用の安定を図ることが必要である。
 このため、各企業において、基本としては定額部分の年金支給開始年齢の引上げに合わせ段階的に定年を引き上げるべきであると考えるが、企業の雇用管理の実態等から定年引上げが困難な場合には、希望者全員を対象とする再雇用制度等の継続雇用制度の導入によって年金支給開始年齢までの雇用を確保すべきである。
 すなわち、これまでの「法定定年年齢に基づく60歳定年制を基盤とし、65歳までの多様な形での雇用・就業を推進する取組」から、「各企業における定年年齢の引上げを基本とした取組による65歳までの雇用確保を基盤とし、併せて65歳までの多様な働き方を支援する取組」に転換していくことが求められる。
 なお、現下の厳しい経済情勢の中にあって、このような取組を行うに当たっては、労使間で賃金、労働時間、働き方などの労働条件等について十分な協議を行い、従来の賃金・人事処遇制度の見直しを行うことが不可欠である。
 また、このルール化による年金支給開始年齢まで働き続けることを可能とする制度を整備するということは、意欲と能力のある限りは年齢を理由として離職させられることはない、ということを意味するものであって、当該年齢までの雇用を無条件に保障するものでないことはいうまでもなく、その意味では労働者自身も絶えず自らの体力、能力、適性を見つめ直し、その維持・向上の努力をすることが求められる。

 2.中高年齢者の再就職の促進策
  (1)  再就職援助の必要性と取組の方向
 これまで述べたように、まずは各企業において働き続けることのできる制度設計が求められるところであるが、経済社会の構造的な変化等が進む中にあっては、すべての企業が安定した経営を続けることも容易ではなく、その雇用する労働者の雇用維持が困難な局面に遭遇し、年金支給開始年齢前にやむを得ず離職させざるをえないことも十分に想定される。このため、このような場合には、雇用を守れなくなった企業から雇用を増やそうとする企業に、労働者をできる限り失業を経ることなく移動させること、すなわち、労働市場を通じた雇用機会の確保が求められることとなる。
 特に中高年齢者の場合は、一旦離職するとその再就職は困難であり、失業期間も長期化するおそれが高いこと、非自発的失業者のうち45から59歳の中高年齢者が54万人とその三分の一以上を占めていることなどを踏まえると、離職を余儀なくされる中高年齢者について、その再就職の促進策を強化する必要があると考えられる。
 また、中高年齢者の再就職の際の問題点としては、企業側は年齢を理由に中高年齢者を募集・採用の対象から外してしまう傾向にあること、労働者側は自らの能力を客観的に把握していない傾向にあることなどに、十分留意する必要がある。
 このため具体的には、
(1)  募集・採用時の年齢制限の是正
(2)  求職者及び求人者の相互理解の促進
(3)  事業主都合離職の場合の事業主による再就職援助
(4)  労働者の能力開発等の支援
という点についての取組を行うことが求められる。

  (2)  募集・採用時の年齢制限の是正
 募集・採用時の年齢制限は、年齢という個人の意思や能力によっては動かし得ない所与の事実を理由として就職の機会を奪うものであり、求職者と求人者が賃金や労働条件を巡って交渉する労働市場の調整機能を失わせ、市場の効率性を阻害するという問題を生じさせている。また、実態としても45歳以上では失業者が仕事に就けない理由として「求人の年齢と自分の年齢が合わない」が約半数を占めている。このような状況に対応すべく、雇用対策法において年齢制限是正の努力義務が定められ、政府においても3年間で年齢不問求人30%を目指す、との目標を立てて公共職業安定所での指導に取り組んでいるところであるが、年齢不問求人の割合は2003年5月時点で13%程度、年齢制限の上限は平均して45歳程度となっている。したがって、中高年齢者の再就職促進のために、募集・採用時の年齢制限是正への取組をさらに強化することが必要である。
 募集・採用時の年齢制限是正の実効性を上げるための方策の一つとしては、現在、雇用対策法において「事業主は、労働者の募集及び採用について、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努めなければならない」旨の努力義務が定められているが、これをさらに進めて事業主の義務とすることにより、募集・採用時の年齢制限を禁止することが考えられる。これについては、法律上禁止したとしても、事業主が真に納得した上でないと実質的に中高年齢者が排除されてしまう可能性があり、形骸化の可能性が大きいこと、年齢に代わる基準がない中で年齢制限を禁止すると、募集・採用の場面で労使ともに混乱を招くおそれがあること等の指摘もある。
 もう一つの方策としては、募集・採用時の年齢制限を行おうとしている事業主に対して、その年齢制限が真に必要なものか否か、ひいては、高齢者をその職務に活用できないのか、ということを改めて考えてもらうために、現在よりも踏み込んだ説明義務を課すことが考えられる。これについては、このような義務を課すだけではなく、適切な実効性確保のための措置も併せて講じることによって、不合理な理由による年齢制限や年齢制限自体が減少することが期待される。
 募集・採用時の年齢制限是正の強化に直ちに取り組むためにも、これらの方策について議論を深めた上で、早急にいずれかの方策を選択し、実施に移すことが必要である。
 なお、いずれの方策をとる場合であっても、募集・採用時の年齢制限是正の実効性を上げるためには、求人者が求める職業能力や職務内容の明確化、採用後の適正な労務管理への理解促進が必要であり、年齢制限を行う企業に対する指導・援助をはじめとするコンサルティング体制の強化などの施策を一体的に講じる必要がある。

  (3)  求職者及び求人者の相互理解の促進
 中高年齢者の再就職の際の主な問題点として、企業側としては「応募者にどのような能力や適性があるのか、雇ってみるまでわからなかった」、「本人が言うほど能力がなかった」といった点が、労働者側としては「自分が外部(他企業)でどれくらい価値があるのかわからなかった」、「年齢制限があった」といった点が挙げられている。新卒採用の場合とは違って、中途採用の場合は特定の能力を有していることを前提として採用することが一般的であるため、求人企業にとっては、如何にして求職者の的確な能力評価を行うかが重要となる。また、労働者にとっても、再就職に当たって、その企業にうまくなじむことができるかどうかを判断することは大きな問題である。
 したがって、中高年齢者の再就職促進のためには、企業が試行的に労働者を雇用して、その間に労働者の能力、適性を見極め、労働者もその企業の特質を判断するというトライアル雇用制度や、紹介予定派遣制度を積極的に活用し、求職者と求人者が互いに相手を理解し、判断できる時間的猶予を与えることが有効であると考えられる。
 また、労働者がどのような能力を有しているのかを明確にするためには、それまで経験した職種、職務内容等について、いわゆるキャリアの棚卸しを的確に行うことが有効であるが、その際、企業、労働者間において、相互に理解可能な形で表現できるように共通言語化を推進すべきである。これは、労働者自身の客観的な自己評価にも資することになると考えられる。
 さらに、再就職を望む労働者が自らの能力を客観的に認識したり、自らの適性を把握するために、キャリア・コンサルタントなどによるキャリア・コンサルティング体制の充実等が必要である。トライアル雇用制度や紹介予定派遣制度の活用に当たっても、常用雇用に結び付かなかった場合の原因分析や解決策を指南し、再挑戦を後押しするようなカウンセリングを併せて実施することが効果的であると考えられる。

  (4)  事業主都合離職の場合の事業主による再就職援助
 現在事業主には、定年、事業主都合解雇等を理由として離職することとなっている中高年齢者のために、求人の開拓などの再就職援助措置を講じる努力義務を課した上で、必要な場合には公共職業安定所から、個々の離職予定者の再就職援助計画を作成し、当該離職予定者に交付するよう要請することとされている。
 この制度は、中高年齢者の早期再就職のためには、労働者の能力や適性を十分に把握している事業主による在職中からの再就職援助が有効であるとの考え方に基づくものであるが、依然として厳しい中高年齢者の雇用失業情勢に鑑み、特に事業主の都合により年金支給開始年齢前に離職を余儀なくされる労働者については、その事業主の取組の実効性を高めることが必要である。このため、(3)で述べたような求職者及び求人者の相互理解の促進に資するようこの計画の内容を充実させることが考えられる。具体的には、特に労働者のキャリアの棚卸しに当たり、単にその労働者の職位や部門だけを記入させるのではなく、例えば、その労働者がこれまでどのような仕事をしてきたのか、どのような成果を上げてきたのかなどを盛り込むようにした上で、事業主による計画の作成・交付の実施をより強力に求めるべきである。
 これらの制度の充実強化により、この計画は、
(1)  労働者がこれによって自らのキャリアを整理しやすくする機能、
(2)  事業主がどのような再就職援助措置を行うかを明らかにする機能、
(3)  労働者や国が、事業主の行う再就職援助措置を踏まえた求職活動、職業紹介等を行うことを可能にする機能、
を併せ有するものと位置付けることができ、中高年齢者の早期再就職に有効なものになると考えられる。また、このような制度の充実を図った上での再就職援助の取組を事業主に求めることは、企業内の人材を再評価し、その労働者を真に離職させる必要があるか否かを改めて事業主に考えてもらうことにつながるため、事業主の雇用維持努力の促進にもなると考えられる。
 さらに、事業主が労働者に対して行う再就職援助の取組、例えば、労働者が行うキャリアの棚卸しに対する支援、能力開発、求職活動のための休暇付与、再就職支援会社の活用などについての実効性を高めるため、行政としても、事業主に対する必要な相談・援助体制の充実や助成措置の活用促進を図っていくべきである。

  (5)  労働者の能力開発等の支援
 離職を余儀なくされた中高年齢者が失業を経ることなく再就職するためには、再就職先の企業において活かすことができる能力を身に付けていることが求められるが、そのための能力開発を中高年になってから始めては遅いと考えられる。労働者がその意欲と能力に応じて年齢にかかわりなく働き続けるためには、労働者自らがその職業生活の早い段階から、その能力を客観的に認識するとともに、自らのキャリア設計を含めた職業生活の設計を行い、それに沿った能力開発を進めることが求められる。
 このため、労働者のキャリアや適性に関する理解の促進や行うべき能力開発の選別のためのキャリア・コンサルティング体制の強化、能力開発や長期リフレッシュのための休暇付与等の取組を、特に中高年齢者はこれまで企業による能力開発に依存していたことにも配慮しつつ、労働者自身の自助努力に加え、企業、国もそれぞれの立場から支援していくことが必要である。また、職業生活設計を考慮した人事配置を行い、OJTを活用した能力開発を実施することや、将来の再就職や独立自営準備に資するような当該企業における業務経験以外の幅広いキャリアを身に付けるため、他の企業における仕事を同時に行うことが許容されるようなシステムの整備を行うことも有効であろう。
 さらに、とりわけ中高年齢者の求職活動においては、その有する能力や資格をどのように採用された企業の中で活かしていくことができるかということについての提案能力や現実化能力が求められる。そのため、適切なキャリア・コンサルティングを受けられるサポート体制を整備するとともに、職業訓練後の職業紹介により就職に至らなかったケースにおいて、職業紹介機関と職業訓練機関の間でのケース会議等によりその原因を探求し、今後の就職活動に効果的な再訓練を実施する等の取組を行うことも有効であると考える。

 3. 高齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策
 高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等の個人差が拡大することから、その雇用・就業ニーズも雇用・就業形態、労働時間、収入面等において多様化する。したがって、労使の協力の下、このような労働者の多様なニーズに対応した雇用・就業機会を確保することも併せて重要である。
 具体的には、現在雇用されている労働者については、それぞれの企業における年金支給開始年齢までの多様な働き方を確保するため、例えば、できる限り正社員と同様の役割・責任を担いつつ、体力面等から柔軟な短時間勤務を行うことを希望する者に対しては、短時間正社員制度の導入等の促進を行うことにより、その役割・責任に応じた処遇を行い、意欲と能力に応じた働き方を実現できるようにすることが考えられる。また、これまでの働き方やライフスタイルを見直し、多様な働き方を実現するために、労使で十分に協議した上で、多様就業型ワークシェアリングを導入することが考えられる。
 一方で、年金支給開始年齢前に、自発的に、又は、非自発的に離職した労働者のためにも多様な雇用・就業機会の確保が重要である。このため、例えば、起業・創業を志す労働者に対しては、助成金の積極的な活用、創業サポートセンターによる相談・情報提供体制の充実などを通じて、その取組を支援することが考えられる。また、臨時・短期的な雇用により収入を得たいと希望する者に対しては、短期的雇用や派遣労働の機会を提供することが考えられる。さらに、収入の多寡や就労形態にとらわれず何らかの形で働きたいという者に対しては、生きがい就労のあっせん、ボランティアに関する相談・情報提供などを実施することによりそのニーズに応えられることになる。
 このような点で、既に地域に根付いているシルバー人材センターを積極的に活用し、その地域における就労を希望する高齢者のワンストップサービス機能を備えた総合就労支援センターとして位置付けることも一つの方策として有効であると考えられる。具体的には、シルバー人材センターにおいて、これまでの請負形態及び無料職業紹介による就労機会の提供のほか、ボランティアや起業に係る相談、派遣就労に係る相談・実施、各種の就労に関する幅広い情報提供等の業務を行い、多様な社会参加活動を総合的に支援していくことが考えられる。
 なお、労働者の多様な働き方を進めるためには、その基盤となる社会保障制度が、個人の働き方の選択や、企業の雇用形態の選択に対して中立的なものである必要がある。このため、次期年金制度改革に向けて、厚生年金のパート労働者への適用拡大、在職老齢年金制度の見直し等が検討されているところであるが、これらが高齢者の多様な働き方の選択を阻害することのないよう十分留意した上で制度設計することが求められる。


おわりに

 今後の高齢化の進展、特に団塊の世代の高齢化を間近に控えた危機感を持ちながら、今後の高齢者雇用対策の在り方について、既にその支給開始年齢の引上げが制度として決まっている年金と雇用との接続という観点を基本として検討を行った。
 これまで述べてきたように、高齢者雇用を進めるには、年齢にかかわりなく意欲と能力のある限り働き続けることを可能とする環境の整備が必要であり、本研究会における議論も、企業の採用行動の改革、社会的な能力評価システムの整備、賃金・人事処遇制度の見直し、さらには、再就職支援体制の整備や多様な雇用・就業機会の確保等に至るまで幅広いものとなった。このことは、我が国の貴重な人材である高齢者の意欲と能力が十分に発揮される条件整備を行うことは、計り知れない潜在能力を有する若年者も含め、すべての労働者にとって魅力ある職場を作り出し、意欲と能力に応じて人々が生き生きと働くことができる、いわば全員参加型の経済社会システムを構築することを意味している。
 今後、この提言を基に、早急に関係審議会等において、その取組の当事者となる労使を交えた議論が深められ、少なくとも年金支給開始年齢までは意欲と能力のある限り年齢にかかわりなく働き続けることのできる社会の実現に向けたルールが合意され、政労使一体となった環境整備が進められることを期待する。


【 用語解説 】
 年功賃金
 我が国においては、単に年功的な要素で基本給を決定する方式は高度成長期においても少なく、職務内容や職務遂行能力などを総合的に勘案して決定する方式がとられていたが、実際の運用は年功的になされることも多く、結果として賃金プロファイルが年齢や勤続年数とともに上昇する形状となった。このような結果として右肩上がりとなっている賃金プロファイルを年功賃金という。

 紹介予定派遣
 紹介予定派遣とは、派遣就業終了後に派遣先に職業紹介することを予定してする労働者派遣をいう。

 キャリアの棚卸し
 キャリアの棚卸しとは、労働者自らがどのような職業経歴を有しており、それぞれの経歴においてどのような成果を上げてきたのか、また、どのような自己啓発等を行ってきたのか等を明確にすることをいう。

 キャリア・コンサルティング、キャリア・コンサルタント
 キャリア・コンサルティングとは、労働者が、その適性、職業能力、職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択やキャリア形成を図るために必要となる職業訓練の受講等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて行う相談をいう。キャリア・コンサルタントとは、以上のような相談を行う者をいう。

 OJT
 OJTとは、On the Job Trainingの略で、従業員を職務につかせたままで行う訓練の形態をいう。

 短時間正社員
 短時間正社員とは、パートタイム労働研究会最終報告によれば、常用フルタイム社員より一週間の所定労働時間は短いが、常用フルタイム社員と同様の役割・責任を担い、同様の能力評価や賃金決定方式の適用を受ける社員のことをいう。

 多様就業型ワークシェアリング
 ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出を図ることを目的として労働時間の短縮を行うことをいい、ワークシェアリングを活用して多様な働き方を適切に選択できるようにすることを多様就業型ワークシェアリングという。

 創業サポートセンター
 創業サポートセンターとは、新事業による起業を希望する者をはじめ、新分野への事業進出を考えている事業主などに対して、能力開発や人材養成を中心とした支援を実施し、起業や新分野展開による良好な雇用創出の実現を図ることを目的として設立されたものをいう。「起業・新分野展開支援センター」の愛称。


今後の高齢者雇用対策に関する研究会参集者

荒木 尚志   東京大学教授

北浦 正行   社会経済生産性本部社会労働部長

黒澤 昌子   政策研究大学院大学助教授

(座長) 諏訪 康雄   法政大学教授

清家 篤   慶應義塾大学教授

山崎 泰彦   神奈川県立保健福祉大学教授

(敬称略・五十音順)


今後の高齢者雇用対策に関する研究会開催要綱

1. 目的

 急速な少子高齢化が進展する中、我が国の経済社会の活力を維持していくためには、意欲と能力のある高年齢者が、長年培った知識や経験を活かして働くことができる社会を実現する必要がある。
 このため、今後の高年齢者の雇用・就業機会の確保のための総合的な対策を検討することを目的として、学識経験者の参集を求めて、「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」を開催する。

2. 検討事項

 研究会においては次に掲げる事項を中心として調査・検討を行う。

 (1) 65歳までの雇用の確保策
 (2) 中高年齢者の再就職の促進策
 (3) 高年齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策

3.研究会の運営

 (1) 研究会は、厚生労働省職業安定局長が学識経験者の参集を求めて開催する。
 (2) 研究会の議事については、別に研究会において申し合わせた場合を除き、公開とする。
 (3) 研究会の庶務は、厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部企画課において行う。


「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」検討経過
開催日 検討内容
第1回 4月8日
高齢者雇用の現状認識と課題
第2回 4月30日
65歳までの雇用の確保策について
第3回 5月30日
中高年齢者の再就職の促進策について
第4回 6月5日
日本経団連からのヒアリング
連合からのヒアリング
高年齢者の多様な働き方に応じた就業機会の確保策について
第5回 6月27日
とりまとめに向けた検討
第6回 7月18日
報告書(案)について


(参考)高齢者雇用を取り巻く現状

1.少子高齢化の進展と今後の労働力需給の展望
 (1)  生産年齢人口の見通し(図1−1
 我が国の生産年齢人口は、2002年には約8570万人であったが、2015年には約7730万人、2025年には7233万人と、急激に減少していくと見通されている。

図1−1 我が国の生産年齢人口の推移

図1−1 我が国の生産年齢人口の推移

(出典) 2002年は総務省統計局「人口推計(2002年10月1日人口推計)」
2015年及び2025年は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2002年1月推計)」

 (2)  労働力人口の見通し(図1−2
 我が国の労働力人口は、2002年には約6689万人であったが、2015年には6600万人、2025年には6300万人になると見通されている。
 特に2015年までに高齢労働力人口は340万人増加する一方で、若年労働力人口は340万人減少すると見通されている。

図1−2 労働力人口の推移

図1−2 労働力人口の推移

(資料出所) 2002年は総務省統計局「労働力調査」
2015年及び2025年は、厚生労働省職業安定局推計(2002年7月)
(注) 推計値については、概数で表示しているため、各年齢区分の合計と年齢計とは必ずしも一致しない。

 (3)  団塊の世代の高齢化(図1−3
 1947から1949年生まれをいわゆる団塊の世代とすれば、2007から2009年にかけて団塊の世代が60歳に到達する。

図1−3 団塊の世代の高齢化

図1−3 団塊の世代の高齢化

(出典) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2002年1月推計)」


2. 年金支給開始年齢の引上げ(図2−1
 年金支給開始年齢の65歳への段階的な引上げが始まっており、男性については定額部分は2013年にかけて、報酬比例部分は2013年から2025年にかけて引き上げられることとなっている(女性については5年遅れ)。
 ただし、繰上げ支給制度を利用することにより、60歳から減額年金を受給することは可能である。

図2−1

図2−1


3.高齢者雇用の現状
 (1)  60歳以上の高齢者の状況(図3−1
 2002年の完全失業率をみると、年齢計が5.4%であるのに対し、60〜64歳層では7.7%となっており、15〜24歳層の9.9%に次いで高い水準となっている。
 また、2002年の有効求人倍率をみると、年齢計が0.51倍であるのに対し、60〜64歳層では0.14倍と極めて低い水準となっている。なお、15〜24歳層では0.87倍となっている。
 このように、高齢者の雇用失業情勢は依然として厳しい状況にある。

 (2)  60歳未満の中高年齢者の状況(図3−1図3−2
 中高年齢者についてみると、2002年の有効求人倍率は、35〜44歳層では0.79倍であるのに対し、45〜54歳層では0.34倍、55〜59歳層では0.19倍となっており、45歳を超えると急激に求人が減少している。

図3−1 中高年齢者の雇用失業情勢

1 完全失業率の状況
(%)
  年齢計 15〜24歳 25〜34歳 35〜44歳 45〜54歳 55〜59歳 60歳以上  
60〜64歳
2001年平均 5.0 9.4 6.0 3.6 3.5 4.1 5.1 8.1
2002年平均 5.4 9.9 6.4 4.1 4.0 4.5 4.8 7.7
2003年6月 5.3 10.5 6.4 4.0 3.8 4.3 4.9 8.0
  (5.3)              
( )は季節調整値
(資料出所) 総務省「労働力調査」

2 有効求人倍率の状況
(倍)
  年齢計 15〜24歳 25〜34歳 35〜44歳 45〜54歳 55〜59歳 60歳以上  
60〜64歳
2001年平均 0.57 0.95 0.72 0.97 0.40 0.20 0.12 0.09
2002年平均 0.51 0.87 0.59 0.79 0.34 0.19 0.20 0.14
2003年6月 0.54 0.87 0.62 0.78 0.36 0.18 0.19 0.14
  (0.61)              
( )は季節調整値
(資料出所) 厚生労働省「職業安定業務統計」

 こうした状況を受け、失業期間も年齢が高くなるほど長期化する傾向にある。
 さらに、非自発的失業者の数は、45〜59歳の中高年齢者層が約54万人と、他の年齢層と比較して最も多くなっている。

図3−2 年齢階級別非自発的失業者数

2002年平均 (万人)
  15〜29歳 30〜44歳 45〜59歳 60歳以上
非自発的
失業者
151
( 100.0%)
28
( 18.5%)
37
( 24.5%)
54
( 35.8%)
33
( 21.9%)
(資料出所)労働力調査
(注)カッコ内は構成比

失業期間別失業者数(構成比)

2002年平均 (%)
  3か月未満 3か月〜
6か月未満
6か月〜
1年未満
1年以上
総数 34.1 17.6 17.9 30.3
15〜24歳 43.1 18.5 16.9 21.5
25〜34歳 37.9 17.9 15.8 28.4
35〜44歳 34.0 15.1 18.9 32.1
45〜54歳 30.6 17.7 19.4 32.3
55〜64歳 26.2 19.7 19.7 34.4
65歳以上 16.7 16.7 16.7 50.0
(資料出所)労働力調査

 (3)  求人年齢制限の実態(図3−3図3−4
 年齢不問求人の割合は13%程度、年齢制限の上限は平均して45歳程度となっている。
 また、年齢制限を設けている理由としては、体力、視力など加齢により一般的に低下する機能が、募集しようとする業務の遂行に不可欠であるとするものが53%程度で最も多く、次いで、特定の年齢層の労働者が少なく従業員の年齢構成の維持・回復を図るためとするものが25%程度となっている。

図3−3 求人年齢制限の実態

(1)年齢制限不問求人の割合
年齢制限不問求人の割合の図

(2)求人における平均制限年齢
求人における平均制限年齢の図

図3−4 年齢制限理由別割合

2003年5月 新規求人
指針理由番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
割合 3.35% 25.39% 7.89% 2.26% 4.54% 0.04% 1.09% 52.96% 2.07% 0.40% 100%

[参考]

 新規学卒者等を募集及び採用する場合
 技能・ノウハウ等の継承の観点から、労働者の年齢構成を維持・回復させる場合
 定年年齢との関係から雇用期間が短期に限定される場合
 既に働いている他の労働者の賃金額に変更を生じさせることになる就業規則の変更を要する場合
 商品やサービスの特性により顧客等との関係から業務を円滑に遂行する要請がある場合
 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請がある場合
 労働災害の防止等の観点から特に考慮する必要がある場合
 体力、視力等加齢に伴い機能が低下するものが採用後の勤務期間を通じ一定水準以上であることが不可欠な業務の場合
 行政の施策を踏まえて中高年齢者の募集及び採用を行う場合
10  労働基準法等法令の規定により年齢制限が設けられている場合

 (4)  高齢者の働く意欲(図3−5図3−6
 我が国の高齢者の就労意欲は非常に高く、労働力率をみると、男性について55〜59歳では93.8%、60〜64歳では71.2%であるなど、諸外国と比較しても高い水準にある。

図3−5 高齢者の就業意欲の状況

望ましい退職年齢(何歳くらいまで働くのがよいか)
図3−5 高齢者の就業意欲の状況

(資料出所) 総務庁「中高年齢層の高齢化問題に関する意識調査」(1998年)

図3−6 各国の労働力率

  50〜54歳 55〜59歳 60〜64歳 65歳以上
日本 2002 96.3 93.8 71.2 31.1
67.7 58.1 39.2 13.2
アメリカ 2001 86.5 77.3 56.5 17.7
74.0 61.6 42.4 9.7
イギリス 2001 44.9
29.5
フランス 1999 85.2 70.5 16.7 1.6
65.6 52.1 15.5 1.1
ドイツ 2001 90.0 76.8 32.0 4.5
72.4 57.2 14.6 1.7
スウェーデン 2001 89.0 83.2 58.9
85.0 79.5 49.8

(資料出所) ILO.Year Book of Labour Statistics.
日本は総務省「労働力調査」(2002年)

労働力人口
日本: 就業者と完全失業者の合計
アメリカ: 労働力から軍人を除く
イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン:就業者と失業者の合計


4.高齢者の雇用管理の現状
 (1)  定年制(図4−1
 企業における定年制の状況をみると、定年制を有する企業の割合は92.2%(常用労働者数30人以上の企業が対象)となっており、そのうち一律定年制を定めている企業の割合は97.5%となっている。
 定年年齢については、1998年4月に60歳未満定年が禁止されており、ほぼすべての企業において定年年齢は60歳以上となっている。しかしながら、一律定年制を定めている企業のうち定年年齢が65歳以上となっている企業はいまだ6.9%に過ぎず、ほとんどの企業の定年年齢は60歳となっている。

 (2)  定年後の継続雇用制度(図4−1
 定年後の継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度)については、60〜64歳定年制を定めている企業のうち少なくとも65歳までの継続雇用制度を有する企業は64.3%となっている。
 これにより、少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業は71.8%、そのうち原則として希望者全員を対象とする企業は28.8%となっている。

図4−1 65歳までの雇用を確保する企業割合

図4−1 65歳までの雇用を確保する企業割合

〔注1〕  職種別その他の定年制を採用している企業についても、65歳までの雇用を確保する企業が若干存在する。
〔注2〕  65歳を超える定年企業も若干存在する。
(資料出所) 厚生労働省「雇用管理調査」(2003年)より算出

 (3)  賃金・人事処遇制度の動向(図4−24−3
 我が国の賃金・人事処遇制度については、いまだいわゆる年功的要素は根強いものの、徐々に賃金の年齢間格差は縮小傾向にあり、また、今後の人事管理の方針は、終身雇用慣行にこだわらないという企業が約半数、処遇については主として能力主義を重視という企業が半数以上に上っているなど、変化の兆しがうかがえる。

図4−2−1 標準労働者の賃金プロファイルの推移(大卒男性)

図4−2−2 標準労働者の賃金プロファイルの推移(高卒男性)(大卒男性)

(出典) 2002年版厚生労働白書
(注1) 賃金は、所定内給与額×12+前年の年間賞与その他特別給与額
(注2) 企業規模、産業計

図4−3 今後の人事管理の方針

(雇用慣行) (%)
  終身雇用慣行を重視 終身雇用慣行にこだわらない どちらともいえない 無回答
総数 8.5 48.6 39.9 3.0
  5000人以上 14.2 43.8 38.8 3.2
1000〜4999人 10.5 47.4 41.4 0.7
300〜999人 11.0 48.1 39.6 1.3
100〜299人 9.4 48.5 40.2 1.9
30〜99人 7.9 48.7 39.8 3.6

(処遇) (%)
  主として年功序列主義を重視 主として能力主義を重視 両者の折衷 どちらともいえない 無回答
総数 0.8 55.9 28.3 12.5 2.6
  5000人以上 - 79.1 11.0 6.7 3.2
1000〜4999人 - 77.2 18.5 3.9 0.4
300〜999人 0.5 69.0 23.6 6.0 0.9
100〜299人 0.8 61.8 26.6 9.6 1.1
30〜99人 0.8 52.2 29.6 14.2 3.2

(出典)厚生労働省「雇用管理調査」(2002年)













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